生涯いちエンジニアを目指して、ついに半老人になってしまいました。

その場考学研究所:ボーイング777のエンジンの国際開発のチーフエンジニアの眼をとおして技術のあり方の疑問を解きます

その場考学のすすめ(13) リエンジニアリングとの出会い

2017年05月16日 07時00分19秒 | その場考学のすすめ
その場考学のすすめ(13)    H29.5.16投稿     
TITLE: リエンジニアリングとの出会い

1989年から、私は10年前からChief Designerとして担当をしていたV2500プロジェクト(英・米・独・伊・日の5か国共同でAirbus A320機に搭載する全く新しいエンジンを開発する)に加えて、General Electricが開発中のGE90プロジェクト(当時Boeingで開発中のBoeing777機に独占的に搭載されることが決まっていた)にChief Engineerとして参画することになった。年間数回繰り返されていたアメリカへの出張は、Pratt & Whitney社のあるEast HartfordとGE社のあるCincinnatiと数社の材料・加工メーカーを渡り歩く羽目になった。
 
当時のGEは、あのジャック・ウエルチの全盛期だったが、彼とのニアミスはたった1回だった。彼が航空機用エンジンのビジネスに本腰を入れたのは1995年からのオーバーホウル・ビジネスからで、当時はフランスのスネクマ社との合弁事業であるCFM56エンジン(Boeing737機に搭載)が好調で、ただ一つ興味は「世界最大の、しかも跳びぬけて大きい革新的なエンジン」を開発することだったと思う。

蛇足だが、1回のニアミスは、私が開発プロジェクトのオフィスからGEの社有滑走路へ行くために乗ったGEの社有車の運転手が、「たった今、ジャックを空港からホテルに送ったところだ、彼がCincinnatiに来るのは、本当に珍しい」と云って、道々エピソードをいくつか話してくれた、たったそれだけだった。
 
しかし、当時ビジネスプロセス全体の改革に取り組んでいたウエルチの具体策を国際共同事業に最初に適用したのが、このGE90プロジェクトだったと思う。それは、この開発のオフィスのあり方や、後に始まった初号機からの製造工場のあり方に明確に表れていた。具体的なウエルチの思想は、彼自身の言葉で書かれた「ジャック・ウエルチ わが経営(上)、(下)」[2001](別途、KMB4084)に譲るとして、ここではその元になった有名な著作から引用する。

書籍名「リエンジニアリング」[1994] 
著者;ダニエル・モーリス、ジョエル・ブランドン  発行日;1994.1.10
発行所;日本能率協会マネジメントセンター



 この書は、1993年にMcGraw-Hill社から発行された「RE-ENGINEERING YOUR BUSINESS」の訳本なのだが、文中にあるように、その思想と方法論は、その10年前から米国内には広がっていた。
 
『原理原則の方法論は、最近のリエンジニアリングの実践にはリンクしなくなってきている。ここで述べられる、ダイナミック・リエンジニアリングの実践導入の方法は、10年前から我々によって開発されてきたRSD(Relational Systems Development)を基礎としてみられたものであり、事業の統合やコンピュータのよる業務の統合にこの方法を導入してきた。』(pp.15)
 
この書の内容の多くは、具体例の説明に終始しているので、そのことは省略して、その本質のみを引用する。そのことは、「著者のまえがき」に凝縮されている。つまり、従来行われてきた各種の社内改革がバラバラで効果が小さかったが、一つの最終目的のためにそれらを統合して、大きな改革を行う、と云うものだった。

『マネジメント革新の考え方もさまざまなものがある。インダストリアルエンジニアリングは事業をいわば一つの機械としてとらえ、事業を新たな機構モデルを設計するような方法で革新にアプローチする。組織開発では業務の心理的側面を強調し、業務の第一線の士気を上げ、事業目標に向かい前進する方法により革新を展開する。品質管理論では、業務というものは処理された業務の結果を再検討し、それをプロセスにフィードバックし続け、常に革新するべきであると考える。一般的な経営アプローチでは、事業を小さな業務に分け、それらのプロセスをガントチャートに書き出し、“それを行え”といった具合に革新を展開する。

これら四つのアプローチはすべて過去に実績があり、その価値が証明されているものである。しかしながら。それらはこれまで効果的に組み合わされることはなかった。インダストリアルエンジニアリングと組織開発は、まったく相反するものと考えられてきた。一流の経営者は、いま、過去のムダにおこなわれてきたさまざまなプロジェクトを超えた、何かしらの新たなアプローチ方法が必要であると感じている。』(pp.1)

『ビジネスプロセスのリエンジニアリングはベテランの管理者にとっては、小規模なものはすでに経験済みのものである。それはこれまでの経営や経営科学の有効的な面や非有効的な面について検討し、全面的な管理を行うことにより、複雑な環境下においても導入可能なものになり得るのである。また、新しい情報技術により効果的かつ管理された方法で、新しいビジネスプロセスの設計が可能になりつつある。我々の目的は経営者に対し価値ある革新とは何かを知るための経営手法を明らかにし、強調することである。』(pp.2)

これではいかにも抽象的なのだが、「価値ある革新とは何か」が、単なる改革活動とは異なるように思う。本論の目次には以下のようなものがあるが、中身は割愛する。
第1章 ダイナミック・ビジネス・リエンジニアリング
第3章 パラダイムの転換
第6章 ポジショニングの実践
第7章 ビジネスプロセスのリエンジニアリング (9つのプロセスの具体的な手順の内容)
第9章 人的資源のリエンジニアリング
第10章 新たな事業環境の創出

 「訳者あとがき」には、次の言葉がある。
 『アメリカが半歩先行している「知的生産性と革新力」が向上することにより、新しい優位性が用意できる。工業化社会での競争優位は機械設備で決まったが、知識社会では、組織の知識・情報・行動で決まる。しかも、その速さが鍵であり、これが日本企業の次のターゲットである。』(pp.306)

 「その速さが鍵」は、まさにその場考学なのだが、日本はまだ「その速さ」が足りないように思うことがしばしばある。GEで経験した具体例は、その場考学のすすめ(14)「ジャック・ウエルチとの出会い」で示す。