メタエンジニアの眼(187)
KMB4187
このシリーズは企業の進化のプロセスを考える際に参考にした著作の紹介です。
『』内は,著書からの引用部分です。
TITLE: コ・クリエーション
書籍名;生き残る企業のコ・クリエーション戦略[2011]
著者;ベンカト・ラワスワミ他
発行所;徳間書店 発行日;2011.4.30
初回作成日;R3.8.24 最終改定日;
長寿企業の研究やアンケート調査結果に関する著書は沢山あるが、メタエンジニアリング視点からの解析を主とするものは、なかなか見当たらない。一般に、企業活動を長期間継続するためには、多くの波を乗り越えなければならない。その波については、3に分類することができる。
時代の変化を乗り越える
世代の変化を乗り越える
事業の変化を乗り越える
その中にあって、現代の最大の問題は「時代の変化を乗り越える」になっている。すなわち、グローバル化の波と、SNSの普及である。そこから「生き残る企業のコ・クリエーション戦略」が必要になってきた。
社会の広範な情報化が進むにつれて、身近にある製品について、人々は製造元に関する情報を、より多く求めるようになった。さらに、製品を提供する企業との関りを望む動きも出てきた。つまり、使用者参加形の新製品の開発である。その動きは、大は次世代の大型民間旅客機の開発から、小はアパレルまで、様々な業界で起こっている。
コ・クリエーションというのは、『顧客、経営者、従業員など、会社のさまざまな関係者が協力し合い、システムや製品・サービスを開発すること』(p.11)と云われている。
この著書では、数年前にこのことを先取りした企業名が冒頭に紹介されている。ワイン製造業のクラッシュパッドとミシンのブラザーである。(p.12)ブラザーがこの手法でミシンを復活させたのは、日本でも有名だが、前者の例はあまり紹介されていない。
私が注目したのは、このワイン製造業者のモデルが、日本酒の蔵元にも応用できるということだった。近年、顧客に日本酒の製造工程の一部に、体験の形で参加を募る蔵元はいくつかある。しかし、クラッシュパッドのモデルは、それを遙かに超えている。
ワインの話の前に、既知の実例として詳しく書かれている、ナイキ+の概略を説明する(pp.17-21)
2006年にナイキは、ナイキ+を立ち上げた。アップルと共同で、ジョギング・シューズに高性能センサーとそこからのデータを走者が走りながら音楽を聴くために身につけているiPhoneなどに伝送する仕組みだ。そのデータをナイキ+のウエブサイトにアップロードすれば、世界中のジョギング仲間とルートや記録を共有できる仕組みになっている。すると、出張先の知らない土地でも、自分に合ったジョギング・ルートを検索で探して、その場で楽しむことができる。また、結果の書き込みもできる。
この種ステムについては、「コ・クリエーションが持つ四つの力」が示されている。
・企業の収益や戦略的資本を増大させる。
・企業のリスクやコストを削減する。
・関係者に今までにない有益な体験を提供する。
・関係者のリスクやコストを削減する。
である。(p.27)
クラッシュパッドの場合は、これとは異なる。同社は、2004年に「個々の顧客の要望に沿ったワインを製造する」会社として設立された。顧客としては、ワイン好きな個人、ワイン製造業者、ワイン小売業者、ワインバー、レストランが参加する。顧客は、サイトと工房(つまり、バーチャルとリアルの両方)に任意で参加できる。製造工程は、五段階に分けられている。「計画の立案、ぶどうの育成と監視、収穫と加工、ワインの熟成、ラベルつくり」の五つで、それぞれは30以上の項目に区分されている。(p.136)
従って、最小の発注量は一バレルになるが、継続することにより、品質を自分の好み通りに向上させることができる。
これを、日本酒の醸造に適用するとどうなるかは、容易に想像がつく。しかも、日本酒の場合には、選択肢がより複雑になるが、かなり明確に好みを指定することができる。すなわち、醸造米の選択、吟醸割合、使用酵母の選択、目標の日本酒度などは、選択肢が明確にできる。また、杜氏を指名することも可能かもしれない。私は、単なる日本酒好きなのだが、いくつかの蔵元が集まれば、選択肢と区分は容易に決められるように思う。
KMB4187
このシリーズは企業の進化のプロセスを考える際に参考にした著作の紹介です。
『』内は,著書からの引用部分です。
TITLE: コ・クリエーション
書籍名;生き残る企業のコ・クリエーション戦略[2011]
著者;ベンカト・ラワスワミ他
発行所;徳間書店 発行日;2011.4.30
初回作成日;R3.8.24 最終改定日;
長寿企業の研究やアンケート調査結果に関する著書は沢山あるが、メタエンジニアリング視点からの解析を主とするものは、なかなか見当たらない。一般に、企業活動を長期間継続するためには、多くの波を乗り越えなければならない。その波については、3に分類することができる。
時代の変化を乗り越える
世代の変化を乗り越える
事業の変化を乗り越える
その中にあって、現代の最大の問題は「時代の変化を乗り越える」になっている。すなわち、グローバル化の波と、SNSの普及である。そこから「生き残る企業のコ・クリエーション戦略」が必要になってきた。
社会の広範な情報化が進むにつれて、身近にある製品について、人々は製造元に関する情報を、より多く求めるようになった。さらに、製品を提供する企業との関りを望む動きも出てきた。つまり、使用者参加形の新製品の開発である。その動きは、大は次世代の大型民間旅客機の開発から、小はアパレルまで、様々な業界で起こっている。
コ・クリエーションというのは、『顧客、経営者、従業員など、会社のさまざまな関係者が協力し合い、システムや製品・サービスを開発すること』(p.11)と云われている。
この著書では、数年前にこのことを先取りした企業名が冒頭に紹介されている。ワイン製造業のクラッシュパッドとミシンのブラザーである。(p.12)ブラザーがこの手法でミシンを復活させたのは、日本でも有名だが、前者の例はあまり紹介されていない。
私が注目したのは、このワイン製造業者のモデルが、日本酒の蔵元にも応用できるということだった。近年、顧客に日本酒の製造工程の一部に、体験の形で参加を募る蔵元はいくつかある。しかし、クラッシュパッドのモデルは、それを遙かに超えている。
ワインの話の前に、既知の実例として詳しく書かれている、ナイキ+の概略を説明する(pp.17-21)
2006年にナイキは、ナイキ+を立ち上げた。アップルと共同で、ジョギング・シューズに高性能センサーとそこからのデータを走者が走りながら音楽を聴くために身につけているiPhoneなどに伝送する仕組みだ。そのデータをナイキ+のウエブサイトにアップロードすれば、世界中のジョギング仲間とルートや記録を共有できる仕組みになっている。すると、出張先の知らない土地でも、自分に合ったジョギング・ルートを検索で探して、その場で楽しむことができる。また、結果の書き込みもできる。
この種ステムについては、「コ・クリエーションが持つ四つの力」が示されている。
・企業の収益や戦略的資本を増大させる。
・企業のリスクやコストを削減する。
・関係者に今までにない有益な体験を提供する。
・関係者のリスクやコストを削減する。
である。(p.27)
クラッシュパッドの場合は、これとは異なる。同社は、2004年に「個々の顧客の要望に沿ったワインを製造する」会社として設立された。顧客としては、ワイン好きな個人、ワイン製造業者、ワイン小売業者、ワインバー、レストランが参加する。顧客は、サイトと工房(つまり、バーチャルとリアルの両方)に任意で参加できる。製造工程は、五段階に分けられている。「計画の立案、ぶどうの育成と監視、収穫と加工、ワインの熟成、ラベルつくり」の五つで、それぞれは30以上の項目に区分されている。(p.136)
従って、最小の発注量は一バレルになるが、継続することにより、品質を自分の好み通りに向上させることができる。
これを、日本酒の醸造に適用するとどうなるかは、容易に想像がつく。しかも、日本酒の場合には、選択肢がより複雑になるが、かなり明確に好みを指定することができる。すなわち、醸造米の選択、吟醸割合、使用酵母の選択、目標の日本酒度などは、選択肢が明確にできる。また、杜氏を指名することも可能かもしれない。私は、単なる日本酒好きなのだが、いくつかの蔵元が集まれば、選択肢と区分は容易に決められるように思う。