ジェットエンジン技術(20)
第23章 第6世代(2010年代)の民間航空機用エンジン
この世代のエンジンの特徴は、ファンとLPタービンを直結せずに間に減速歯車を介して、それぞれの要素の効率を高め、かつ燃費向上に最も有効なバイパス比を高めたことであった。この技術は、1980年代のV2500の初期の設計時代にも、派生型としてSuper Fanの名称で図面が描かれていた。このような将来の派生型の図面まで作成することは、新型エンジンの売込みには必須のことで、どのエアラインでも一旦エンジンを決めてしまえば、諸経費の節約のために、その派生型も採用することが通常であるために、売込み中の新型が、将来どのような発展の余地が考えられているかということが、選定の際の主要な判断材料になっていたためである。
従って、この形態は古くから考えられており、何度か試作まで行われていたが、歯車の耐久性を含む信頼性に疑問が残るために、実用機には採用されなかった。しかし、オイル価格の高騰に伴う燃費向上での競争力を一層高めるために、中型エンジンへの採用が図られることになった。その代表例がPW1100エンジンであった。
2010年12月、エアバスA320neoのエンジンとしてPW1100G-JMが選定された。P&Wは共同開発したV2500の後継エンジンという位置付けもあり、JAECとMTUエアロ・エンジンズに開発事業への参画を要請し、参画が決定し、2011年9月に共同事業調書が調印された。シェアーは米国が59%、日本が23%、ドイツが18%である。2014年12月にFAAの型式証明を取得した。このエンジンには、ファンケースをはじめとする主要部品に複合材が用いられ、大口径エンジンの軽量化設計を可能にした。しかし、シェアー59%はP&Wがすべての決定を単独で行えることを意味している。
新型エンジンを搭載した単通路の近・中距離向け商業旅客機としては、エアバスA320neoが登場した。このシリーズは基本型のA320neo、短胴型のA319neo、長胴型のA321neoがあり、A321neoには航続距離を増やしたLR(Long Range)型もあり、従来型と比べて、燃費面で15%の低減、騒音面で50%の低減が達成された。
2011年にはインド最大の格安航空会社(LCC)IndiGoより150機、2011年のパリ航空ショーでは、エアアジアグループから航空機生産業として史上最大規模の大型取引合意である合計200機の発注を受け、LCC熱が一気に高まった。また、MHIが開発を始めたドリームジェットにも採用が決まった。
図23.1 PW1100G-JM とV2500の主要諸元比較(13)
図23.2 PW1100G-JMの日本の担当部位(19)
23.1 競争の激化による問題の発生
この時期、開発競争が激化したことにより、製造に起因するような不適合事案も頻発するようになってしまった。2018年2月には、A320neo飛行中のエンジン停止と離陸中止の事案が報告され,その後およそ3分の1のエンジンに欠陥が見つかり、EASAは緊急耐
空性改善通報(2018-0041-E)を出し、洋上ETOPS運航の中止を指示した。
同様なことが、2019年にBoeingにも発生した。2度の墜落事故を起こしたBoeing737MAXは、飛行停止の期間が予想以上に延びて、ついに2020年当初からは生産中止に追い込まれてしまった。機体の生産ラインが停止する影響は、エンジンをはじめとして、数百万点の部品の数千社のサプライチエーンに莫大な影響を与える。特に、エンジンを始めとする安全飛行に係わる重要部品については、有資格者が規定に従った手順で製造しなければならない。このことをはじめとして、生産の一時停止は他の産業と比べて膨大な影響が多方面に及ぶことになる。
一方で、広胴型の大型機にも大きな問題が発生した。Boeing787の火災事故である。2000年代に開発された機体は、ようやく2011年9月に、ローンチ・カスタマーの全日本空輸が引渡しを受けた。開発用初号機がロールアウトしてから4年越しであった。
新型のエンジンにより、新たな発電機により充電された大容量のリチウムイオン電池が採用された機体は、順調な滑り出しだったが、たった2年間の飛行で重大な危機を迎えてしまった。原因不明の電池の発火である。
アメリカ連邦航空局 (FAA) は、ANA機のインシデントを受けて耐空性改善命令を発行してアメリカ国籍の同型機に対し、運航の一時停止を命じ、世界各国の航空当局に対し同様の措置をとるように求めた。このため、世界各国で使用中の機体すべてが運航停止となった。
このように、電子化が進むことにより、機体とエンジンの関係は従来よりもかなり複雑になり、開発期間と運行後の一定期間に、従来にはなかった不具合が多数発覚する事態が世界的に続くことになってしまった。このことの底流には、グローバル化の浸透による技術力の低下があると筆者は考えている。そのために1980年代に始まったETOPS制度が崩壊してはならず、エンジンの設計と製造プロセスには一層の信頼性が求められることは明白で、その信頼性の確保のための有力な手段として採用した「EQAD」(Early Quality Assured Design)については後報(私の博士論文)で説明する。
第23章 第6世代(2010年代)の民間航空機用エンジン
この世代のエンジンの特徴は、ファンとLPタービンを直結せずに間に減速歯車を介して、それぞれの要素の効率を高め、かつ燃費向上に最も有効なバイパス比を高めたことであった。この技術は、1980年代のV2500の初期の設計時代にも、派生型としてSuper Fanの名称で図面が描かれていた。このような将来の派生型の図面まで作成することは、新型エンジンの売込みには必須のことで、どのエアラインでも一旦エンジンを決めてしまえば、諸経費の節約のために、その派生型も採用することが通常であるために、売込み中の新型が、将来どのような発展の余地が考えられているかということが、選定の際の主要な判断材料になっていたためである。
従って、この形態は古くから考えられており、何度か試作まで行われていたが、歯車の耐久性を含む信頼性に疑問が残るために、実用機には採用されなかった。しかし、オイル価格の高騰に伴う燃費向上での競争力を一層高めるために、中型エンジンへの採用が図られることになった。その代表例がPW1100エンジンであった。
2010年12月、エアバスA320neoのエンジンとしてPW1100G-JMが選定された。P&Wは共同開発したV2500の後継エンジンという位置付けもあり、JAECとMTUエアロ・エンジンズに開発事業への参画を要請し、参画が決定し、2011年9月に共同事業調書が調印された。シェアーは米国が59%、日本が23%、ドイツが18%である。2014年12月にFAAの型式証明を取得した。このエンジンには、ファンケースをはじめとする主要部品に複合材が用いられ、大口径エンジンの軽量化設計を可能にした。しかし、シェアー59%はP&Wがすべての決定を単独で行えることを意味している。
新型エンジンを搭載した単通路の近・中距離向け商業旅客機としては、エアバスA320neoが登場した。このシリーズは基本型のA320neo、短胴型のA319neo、長胴型のA321neoがあり、A321neoには航続距離を増やしたLR(Long Range)型もあり、従来型と比べて、燃費面で15%の低減、騒音面で50%の低減が達成された。
2011年にはインド最大の格安航空会社(LCC)IndiGoより150機、2011年のパリ航空ショーでは、エアアジアグループから航空機生産業として史上最大規模の大型取引合意である合計200機の発注を受け、LCC熱が一気に高まった。また、MHIが開発を始めたドリームジェットにも採用が決まった。
図23.1 PW1100G-JM とV2500の主要諸元比較(13)
図23.2 PW1100G-JMの日本の担当部位(19)
23.1 競争の激化による問題の発生
この時期、開発競争が激化したことにより、製造に起因するような不適合事案も頻発するようになってしまった。2018年2月には、A320neo飛行中のエンジン停止と離陸中止の事案が報告され,その後およそ3分の1のエンジンに欠陥が見つかり、EASAは緊急耐
空性改善通報(2018-0041-E)を出し、洋上ETOPS運航の中止を指示した。
同様なことが、2019年にBoeingにも発生した。2度の墜落事故を起こしたBoeing737MAXは、飛行停止の期間が予想以上に延びて、ついに2020年当初からは生産中止に追い込まれてしまった。機体の生産ラインが停止する影響は、エンジンをはじめとして、数百万点の部品の数千社のサプライチエーンに莫大な影響を与える。特に、エンジンを始めとする安全飛行に係わる重要部品については、有資格者が規定に従った手順で製造しなければならない。このことをはじめとして、生産の一時停止は他の産業と比べて膨大な影響が多方面に及ぶことになる。
一方で、広胴型の大型機にも大きな問題が発生した。Boeing787の火災事故である。2000年代に開発された機体は、ようやく2011年9月に、ローンチ・カスタマーの全日本空輸が引渡しを受けた。開発用初号機がロールアウトしてから4年越しであった。
新型のエンジンにより、新たな発電機により充電された大容量のリチウムイオン電池が採用された機体は、順調な滑り出しだったが、たった2年間の飛行で重大な危機を迎えてしまった。原因不明の電池の発火である。
アメリカ連邦航空局 (FAA) は、ANA機のインシデントを受けて耐空性改善命令を発行してアメリカ国籍の同型機に対し、運航の一時停止を命じ、世界各国の航空当局に対し同様の措置をとるように求めた。このため、世界各国で使用中の機体すべてが運航停止となった。
このように、電子化が進むことにより、機体とエンジンの関係は従来よりもかなり複雑になり、開発期間と運行後の一定期間に、従来にはなかった不具合が多数発覚する事態が世界的に続くことになってしまった。このことの底流には、グローバル化の浸透による技術力の低下があると筆者は考えている。そのために1980年代に始まったETOPS制度が崩壊してはならず、エンジンの設計と製造プロセスには一層の信頼性が求められることは明白で、その信頼性の確保のための有力な手段として採用した「EQAD」(Early Quality Assured Design)については後報(私の博士論文)で説明する。
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