ささやかな幸せ

SUPER EIGHT、本、美術鑑賞、俳句、お茶が好き!
毎日小さな幸せを見つけて暮らしたい。

『ラブカは静かに弓を持つ』『切り裂きジャックに殺されたのは誰か』

2023-08-12 21:42:02 | 
『ラブカは静かに弓を持つ』 安壇美緒 集英社
 少年時代、チェロ教室の帰りにある事件に遭遇し、以来、深海の悪夢に苛まれながら生きてきた橘。ある日、上司の塩坪から呼び出され、音楽教室への潜入調査を命じられる。目的は著作権法の演奏権を侵害している証拠をつかむこと。橘は身分を偽り、チェロ講師・浅葉のもとに通い始める。師と仲間との出会いが、奏でる歓びが、橘の凍っていた心を溶かしだすが、法廷に立つ時間が迫り……
 高校の課題図書らしい。読み終えて、「課題図書かぁ~」と思った。私は、ちょっと違和感があった。
 橘が音楽を通して人と交流し、心のしこりを溶かしていくのがよかった。しかし、人間関係ができてくると、潜入調査は、心がしんどいな。


『切り裂きジャックに殺されたのは誰か 5人の女性たちの語られざる人生』 ハリー・ルーベンホールド 篠儀直子 青土社
 1888年ロンドン。5人の女性たちが2か月のあいだに殺された。この「切り裂きジャック」と呼ばれる殺人鬼がいまなお人びとの関心をひく一方で、被害者の5人の女性たちにはこれまで130年以上ものあいだ一筋の光もあてられてこなかった。家庭内における暴力、社会的な差別、そして貧困や病から助かることのできない構造。5人の女性たちのこれまで誰もひもとこうともしなかった人生を1頁ずつ丁寧にめくるとき、不合理に満ちた過酷な社会状況のなかで生きた彼女たちの姿が浮かび上がる。連続殺人事件の被害者の人生をよみがえらせ、社会の暴力をつまびらかにする
 「売春婦」とされた被害者たちの人生をさまざまな資料から描き出す。社会や男たちから おもしろおかしく描かれた彼女たちがどういう人生を歩んだのか。彼女たちは、社会的弱者ではあったが、「売春婦」ということも疑われるのだ。彼女たち一人一人が大切な人間なのだと思った。彼女たちは、殺されて当然の存在ではない。
 夫や父など男の庇護をなくした女たちは、使い捨てのように扱われる低賃金の仕事しかない。あっという間に家賃が払えなくなる。実際、路上生活をしている人が多くいたことに驚いた。しかし、昔のこととは思えない。子供を死なせた母親に対する非難を見ると、誰にも相談できず孤立している姿が切り裂きジャックの被害者とだぶる。性暴力の被害者への誹謗中傷を見ると、女性を下に見ている当時の男性や社会と現代の日本がだぶる。
 この本によって被害者の人権が少しは回復できただろうか。
 
コメント
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