ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『空に住む/Living in your sky』

2020-11-05 00:00:08 | 多部未華子







 
『EUREKA/ユリイカ』の青山真治監督が7年ぶりに長編映画のメガホンを執られた、多部未華子さん主演による日本映画、2020年11月現在公開中!を観て来ました。

両親を事故で亡くしたばかりの、小さな出版社に勤める若き編集者=直実(多部ちゃん)が、リッチな叔父夫婦(鶴見辰吾&美村里江)の計らいによりタワーマンションの高層階で、愛猫のハルと一緒に暮らすことになります。

自分の稼ぎとは釣り合わないゴージャスな部屋で、まるで空に住んでるような違和感に戸惑いながら、同じマンションに住む人気俳優=時戸(岩田剛典)にロックオンされた直実は、互いに心の隙間を埋めたいだけの恋愛に溺れていくのですが……

これは面白い!っていう類いの映画じゃなくて、じっくりと味わいながら自分自身の生き方と照らし合わせ、深く深く考えさせられちゃう、そんな映画です。

ストーリーを描いた作品じゃなく、あくまで「人間」を描いた作品。共感する部分もあれば、サッパリ解らん部分もある。だからこそ人間なんだって、私は納得しました。

かくも人間とは不可解な生きものだし、人生とは不条理なもの。それでも我々は生きてゆく。そんなお話。

いや、もっと端的に、具体的にこの作品を表現できるフレーズは無いものか?っていろいろ考えてみて、それで思いついたのが、これ。


"大人になった多部ちゃん版『ルート225』" w

タベリストか、よっぽどの映画マニアの方じゃないと「何それ?」状態でしょうけど、自分的にはとても腑に落ちました。

理由は以下に書きますが、ネタバレ注意です。映画の結末にも触れます。ストーリーを描いた映画じゃないから読んでも大丈夫とは思いますが、先入観ゼロで観たい方は鑑賞後にお読み下さい。




2006年の映画『ルート225』は、多部ちゃん演じる高校生のヒロインが、天然キャラの弟と一緒にある日突然、両親がいないパラレルワールドに迷い込んで、二度と帰って来られなくなっちゃう不条理SF。

『空に住む』にSF要素は皆無だけど、ヒロインが唐突に両親を亡くし、それまでと全く違った環境に放り込まれるシチュエーションが似てなくないですか?

で、元の世界に戻れなくなった『ルート225』の多部ちゃんは、叔父さんの家に引き取られることになり、唯一の相棒だった弟とも離ればなれになっちゃう。

かたや『空に住む』の多部ちゃんも叔父さんが住むマンションに引っ越して、唯一の相棒だった猫のハルを病気で亡くしてしまう!

展開がたまたま似てるだけじゃないの?って言われそうだけど、そんな事はありません。どっちの多部ちゃんも、ありのままの自分を見せられる相手がいなくなって、否応なしに自立するしか生きていくすべが無くなるワケです。

そりゃあ寂しいし悲しいし苦しいけど、人間には「順応する」という逞しい能力がある。猫のハルは順応できずに死んじゃったけど、直実はなんとか自力で立ち直る。『ルート225』のヒロインも最後は笑顔でした。

パラレルワールドの正体が何も判らないまま終わっちゃう『ルート225』も、ストーリーじゃなくて人間を描く映画でした。そして、いきなり全てを失って、それでも生きていくしかない人たちへの応援歌である点でも、この2本の映画はとてもよく似てると私は思います。

そう考えると『ルート225』っていう不思議な作品の持つ意味も、より鮮明になった気がします。この世の不条理は全て、人を成長させる為の試験みたいなもんで、パラレルワールドはそれを全部ひっくるめたシンボルに過ぎないから、SF的な解答なんか必要なかった。

『ルート225』の主人公たちはまだ子供だからパラレルワールドがシンボルになったけど、今回の主人公は大人の女性だから、リッチなマンションとかイケメン俳優がシンボルとして登場した。つまり全ては主人公が見た夢か幻覚で……とか考えだすとややこしくなるんで、これくらいにしときますw

『空に住む』では直実の叔母にあたる明日子(美村里江)、出版社の同僚である愛子(岸井ゆきの)にもそれぞれスポットが当てられ、それぞれの不条理と成長が描かれてます。

ほか、愛子の不倫相手である小説家役で大森南朋さん、マンションのコンシェルジュ役で柄本明さん、ペット専門の葬儀屋役で永瀬正敏さんも登場するという贅沢さ。多部ちゃんの代表作がまた1本増えましたね。

個人的に1つ残念だったのは、エンディングの主題歌がえらく軽薄に感じたこと。クレジットを見たら歌ってるのはEXILE系のグループで、こんな深い映画の主題歌をなんでそんなヤツらに?!って思いながらパンフレットを読んだら、なんとこの映画はその主題歌をモチーフにして創られたんだとか!w ついでに書くと、なかなかいい演技してるやんって思ってた時戸役の俳優も実はEXILEのヤツだった!w

だからこそ逆に、青山真治監督は本当に凄い!って、私は思いましたw
 

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『私の家政夫ナギサさん』最終回

2020-09-07 00:00:11 | 多部未華子









 
結論から書くと、やはりこれは良く出来たドラマで面白かったです。最終回ではしっかり泣かされました。

ただ、中盤、私は迷ってました。率直に言えば「つまんないかも?」ってw、正直ちょっと諦めかけてました。多部未華子さんが出てなければ確実に視聴を中止してたと思います。

そのキッカケとなったのは、第4話の序盤。こんな人いたっけ?と誰もが思ったであろう、ヒロイン=メイ(多部ちゃん)の同僚でチョー地味な「おじさん」=馬場さんが若い女性と結婚することになり、そのなれそめを同僚たちが根掘り歯掘り聞き出そうとするシーンでした。

心底どーでも良かったしw、そんな心底どーでもいいキャラの心底どーでもいいエピソードに、なんでそんなに長い時間を割くの!?って、ただでさえ恋話には興味がない私にとって地獄のような数分間でしたw

ところが! 最終回まで観ると、その地獄みたいなシーンにもちゃんと意味があったことに気づかされるんですよね。これには参りましたm(__)m

(以下、結末に触れないと話が進まないのでネタバレになります。もし、私みたいに途中で興味を失いかけて録画を貯めておられる方がいたら、是非とも最後まで完走して頂きたいのでこの先は読まないことをオススメします)



私の迷いが吹っ切れたのは、ずっと「ヒロインの相手役」ポジションにいた田所くん(瀬戸康史)の部屋が、家政夫ナギサさん(大森南朋)を雇う前のメイに負けない位とっ散らかってることが判明した瞬間でした。

その理由は2つあって、まず1つは、田所くんがそれをずっと隠して来た理由を「人に弱味を見せたくなかったから」と説明したこと。

私はずっと、メイがナギサさんの存在を隠したり父親だと嘘をついたりして、家政夫を雇ってる事実をひた隠しにする気持ちがよく解らなかったもんで、視聴者を無理やり笑わせようとするこの脚本は稚拙なんじゃないか?と思ってたんです。

思い返せばメイ自身も同じような台詞を何度か言ってたんだけど、ここで田所くんが重ねて言うことによって「なるほど、競争社会に生きてる人達はそういうもんなのかも」って、なんとなく理解出来たんですよね。

そしてもう1つの理由は、田所くんの内面があまりにもメイと似すぎてる=結婚はあり得ないって気づいたこと。そこで私はようやく、このドラマが実は「メイとナギサさんのラブストーリー」だったことを悟るワケです。

そうなると、まったく無意味だと思ってた馬場さん、つまり「おじさん」と若い女性の結婚話も重要な伏線として意味を帯びて来る。稚拙どころかメチャクチャ緻密やん!って、一時は諦めかけたからこそ私は感動しちゃった次第です。

初回からもう一度観直していけば、たぶん同様の伏線があちこちに張り巡らされてるんだろうと思います。とは言え、強引な展開が多いドラマである事実には変わりないんだけどw

何であれ、多部ちゃんがおじさんと結婚する話となれば、我々おじさんの見方は大きく違って来ちゃいますw そりゃそうですよ!

その相手としてナギサさんは申し分ないし、好感度もバツグンで心から祝福したくなります。しかしこの結末は容易に予想出来そうで、意外と選択肢から外してしまう。それだけ創り手のミスリードが巧かったんだろうと思います。

このドラマ、初回から2ケタの視聴率をキープして最終回は20%間近のスマッシュヒット。多部ちゃんがメインを張った連ドラじゃ現在のところベスト1となる成績を上げました。これも私は全く予想出来ませんでした。てへっ!

視聴率はともかくとして、トリッキーな設定が多かった過去の多部ちゃん主演作の数々と比較すると、この『私の家政夫ナギサさん』はあまりにノーマルなラブコメディーで、そんなドラマで看板を張る多部ちゃんはもう、綾瀬はるかさんや新垣結衣さん等と肩を並べる大女優なんだなとつくづく思いました。

もはや押しも押されもしない、たとえ『ドS刑事』みたいにコケたとしてもw、もう主演のオファーは来ないかも?なんて心配する必要が無くなったワケです。それって、長年のファンとしては嬉しい反面、ちょっと寂しいような感情も湧いて来そうです。

来たる2021年は『デカワンコ』放映から丸10年、私やgonbeさんがタベリストになって10周年を迎えることになります。なんだか感無量です。
 

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『私の家政夫ナギサさん』#02~#03

2020-07-24 12:15:24 | 多部未華子










 
『これは経費で落ちません!』ほどのハマり方は今のところしてないけど、毎回楽しく観させて頂いてます。

母親(草刈民代)による「あなたはやれば出来る子」っていう呪いの言葉に囚われ、振り回されてるメイ(多部未華子)の姿を見るにつけ、多部ちゃんの役柄の幅がますます広がったよなあって、まだ10年にも満たないファン歴ながらしみじみ実感してます。

かつての多部ちゃんは、その凛とした佇まいと強い眼力のお陰で、他者の言葉なんかに惑わされない「我、我が道をいく」キャラクターばかり演じさせられてたように思うし、だから私も惚れてしまったワケだけど、映画『ピース オブ ケイク』で優柔不断な女を見事に演じて見せたあたりから、状況が変わって来たような気がします。(監督の田口トモロヲさんは俳優仲間としてそれを狙っておられたのかも?)

とはいえ、無理をしまくり疲弊しまくってるメイを見てても、そんなに痛々しく感じないのは「やっぱ多部ちゃんだから」かも知れませんw どこか安心して観てられるんですよね。

これがもっとシリアスな作品なら、もうちょい弱々しい女優さんの方が良かったかも知れないけど、基本はコメディーだから多部ちゃんで大正解。草刈さんがそれほどの「毒親」に見えないのも、相手が多部ちゃんだからかも知れません。(まだ10代の時に秋野暢子さんと真っ向対決しても全然負けそうに見えなかった人ですからw)

とにかく役柄の幅がぐんと広がり、また綺麗にもなられました。ここ1~2年で多部ちゃんのファンになった人が、後追いで『デカワンコ』を観たらさぞかし驚かれるんじゃないでしょうか。えっ、これって同一人物なの!?って。(そこでどっぷりハマって脱け出せなくなるシステムになってますw)

大森南朋さんも草刈民代さんも普段とは違ったイメージの役に挑戦しておられ、それぞれさすがの仕上がりになってるけど、表情の豊かさにおいては多部ちゃんの右に出る人は見当たりません。

顔だけじゃなく声の表情の豊かさもハンパじゃない。ドラマの内容にはやや強引さを感じるし、コメディーとして危うくスベりそうな場面も多々あるんだけど、多部ちゃんの多彩な演技で相当救われてるんじゃないかと思います。

どうやら母親の精神的支配をことさら大きな問題として扱うワケでもなく、基本はお仕事ドラマ&ラブコメディー、その両方に家政夫ナギサさんのサポートやアドバイスが効いていく、という作品になりそうです。

あんまり恋愛の方には傾いて欲しくない(今や全ての連ドラが女性向けゆえ、そこは避けられない)んだけど、意外な展開や深いドラマ性はあまり求めず、一流キャストたちの多彩な表情やアンサンブルを無邪気に楽しめば良いのかなと思ってます。(そういうドラマに小賢しい捻りは無用。このまま直球勝負でお願いします)

ポートレートは居酒屋「万薬の長」の店員=かりん役でレギュラー出演されてる、ファッションモデルで女優の夏子さんです。

 

PS. うっかり自分で「役立った」ボタンを押しちゃいました。消す方法は多分あるんだろうけど、面白いから放置しておきますw

 
 

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『私の家政夫ナギサさん』#01

2020-07-09 00:00:47 | 多部未華子










 
待ってました! 待ちくたびれましたw 新型ウィルス問題で2020年4月スタート予定が延びに延びて7月7日、春ドラマの筈が夏ドラマとなってようやくスタートしてくれました。TBS系列の火曜夜10時「新火曜ドラマ」枠です。

原作は電子書籍サイト「コミックシーモア」で連載配信中の、四ツ原フリコさんによるWEBコミック『家政夫のナギサさん』。そして主演は結婚してから初の連ドラ登板となる我らが多部未華子さん! だから待ってました。

今回、多部ちゃんが演じるのは「天保山製薬」の横浜支店に勤める優秀なMR=相原メイ、独身で一人暮らし。MRっていうのは医薬情報担当者のことで、要は会社が売り出したい薬の効能を取引先の病院に出向いて説明する、言わば営業回りみたいな役職。

で、仕事に邁進するあまり家事は放ったらかし、部屋は散らかり放題、食事もファーストフードばかりで「そのうち死んじゃう」と心配した妹の唯(趣里)が、メイ28歳のバースデープレゼントとして一流家政夫のナギサさん(大森南朋)を送り込む。

そうとは知らずにメイが帰宅すると、見知らぬオジサンがブラジャー片手に突っ立ってるもんだから驚いた!……っていうのが序盤の大まかな流れです。

その辺りまでは事前情報で知ってましたから、私はてっきりドタバタコメディー調のドラマだと思い込んでたんだけど、初回を観るとそんな単純にジャンル分け出来るような作品じゃなさそうです。それが吉と出るか凶と出るか?

まず、家事代行業のみならず、これまであまり掘り下げられて来なかったMRという仕事の内容も詳細に見せる職業ドラマとしての側面。そしてメイの隣室に引っ越して来た住人で他社の有能なMR、すなわちライバル関係にある田所(瀬戸康史)と展開していくであろうラブコメとしての側面。

そして恐らくメインになりそうなのが、幼い頃から母親(草刈民代)に「仕事がデキる女にならなきゃダメ」と言われ続け、半ば洗脳されて「仕事がデキなきゃ自分は生きる価値がない」と思い込んでるメイが、ナギサさんとのふれあいによって呪縛から解き放たれていくセラピードラマとしての側面。

母親に完全否定されてしまった「お母さんになりたい」という幼き日の夢を、男性でありながら率直に実践してるナギサさんの存在は、メイの人生に大きな影響を与えること必至。もしかすると彼を通してジェンダーの問題についても考えさせられるかも知れません。

だからこれは予想してたよりずっと深いドラマであり、それがコメディーとしては(やや重くなって)足枷になるかも知れないし、盛り沢山すぎて焦点がボヤけてしまう可能性もある。

だけど同じように深くて盛り沢山だった『トクサツガガガ』なんかはコメディーとしても一級品だし、『凪のお暇』みたいにベタな恋愛ドラマに傾きさえしなければ、きっと期待を裏切らない作品になると私は思います。

(そういえば『トクサツガガガ』も『凪のお暇』も母親の精神的支配から娘が脱出していく話でした。それで苦しんでる人がいかに多いかですよね)

……とまぁ、理屈っぽいことを色々書きましたけど、どう転んでも多部ちゃんが中心にいる限り駄作には絶対ならないし、やり手のキャリアウーマンを演じる多部ちゃんが新鮮だし、初共演となる大森南朋さんや趣里さん、高橋メアリージュンさん、舞台で共演したばかりの瀬戸康史くん、そして映画『君に届け』でお母さん役だった富田靖子さん(今回は上司役)等との掛け合いを見てるだけで、タベリストとしては充分に楽しめます。

いや、タベリストでなくたって、これだけ一流の俳優さんが揃えばその演技を見てるだけで退屈はしない筈。言っちゃ悪いけど学芸会みたいな『未満警察/ミッドナイトランナー』等とはレベルがまるで違いますから。

☆今週のツボ
「同じリモコン5個」に「リップクリーム10本」(実際にそういう人いるんでしょうね) と、あと「おじさんの靴!」w

☆今週の気づき
私はドラマや映画にお笑い(ネタ番組)のノリを持ち込む役者さんを快く思わないんだけど、多部ちゃんはお笑い好きにも関わらず絶対に持ち込まない。お笑いとコメディーは全く違うってことを本能的に解ってらっしゃる。そういうところが本当に好き!

そんなワケで、これからしばらく毎週火曜日を楽しみにしたいと思います。セクシーショットはメイのMR仲間=陶山さん役の高橋メアリージュンさんと、天馬さん役の若月佑美さんです。
 
 

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『ドクター・ホフマンのサナトリウム/カフカ第4の長編』

2020-04-13 01:45:49 | 多部未華子










 
2019年秋に上演された、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)作・演出、そして我らが多部未華子さん主演による舞台『ドクター・ホフマンのサナトリウム/カフカ第4の長編』が先日、NHKのBSプレミアムにてテレビ放映されました。

『失踪者』『審判』『城』に続く、フランツ・カフカ4作目の長編小説の遺稿が発見された!? そして、誰も知らない「カフカ未発表長編」が舞台化されたら? KERAが書き下ろす最新作に、多部未華子、瀬戸康史、音尾琢真、大倉孝二、村川絵梨、犬山イヌコ、緒川たまき、渡辺いっけい、麻実れいetc…といった豪華キャストが集結!

3時間に及ぶ長尺で、しかもカフカという小難しいイメージの大作家をネタにした舞台ってことで、私はちょっと尻込みしてたんだけど、観たらこれがめっぽう面白い!

描かれるのは、カフカが晩年に公園で知り合った少女に託した(という設定の)未発表小説の物語世界と、その時代の現実世界と、2019年の現実世界。

その小説が現代で借金をこじらせてる渡辺いっけいさんの手に渡り、彼はそれを出版社に売ろうとするんだけど、なぜか横取りしようとした大倉孝二さんもろともカフカの時代にタイムスリップしちゃう。

で、アホな2人がカフカ本人や周りの人たちと関わったことで小説の内容が変わり、現実の未来にも影響を与えてしまうという、カフカの不条理劇にタイムトラベル物の面白さをミックスさせた、シュールでありながら誰が観ても楽しめる娯楽大作に仕上がってます。

多部ちゃんが演じるのは、現実には存在しないカフカ小説『ドクター・ホフマンのサナトリウム』の主人公=カーヤで、その婚約者=ラバンが瀬戸康史くん。

全てはサナトリウム(結核など長期的な療養を必要とする人のための療養所)に長期入院してるカーヤの妄想だった?みたいなラストシーンはやっぱよく解んないけどw、そこは「カフカっぽく」見せる為の雰囲気作りみたいなもんでしょうから、深く考える必要は無いんだろうと私は思います。

これはKERAさんによるカフカ小説の二次創作、あるいはパロディみたいなもの。映画でもけっこう名のある監督さんがヒッチコック監督や小津安二郎監督に憧れすぎて、彼らの作風を完コピして新作を撮ったりしてますからねw

だからカフカの小説をよく知ってる人ならもっと楽しめるだろうし、誰よりもKERAさんご自身が楽しんで創られてるに違いありません。観ててそれが伝わって来るんですよね。

舞台演劇でありながら見せ方がすこぶる映画的で、KERAさんは在りもしないカフカ小説をでっち上げるだけじゃ飽き足らず、それを映画化したらこんな感じだろうってw、そこまで妄想してこの舞台を創られたんじゃないでしょうか?

そんな遊び心が随所に感じられ、シュールでありつつ決して難解じゃないし、もしかするとこれまで私が観て来た多部ちゃんの舞台の中で、面白さで言えば本作が一番になるかも知れません。3時間がちっとも長く感じませんでした。

多部ちゃん(結婚後の初仕事?)の安定感は言わずもがな、何役も巧みに演じ分ける瀬戸康史くんの演技力にも感嘆したし、いっけいさんと大倉さんが組めば面白いに決まってるしw、『サロメ』でも多部ちゃんとガッツリ組まれた麻実れいさんの存在感、村川絵梨さん、犬山イヌコさん、緒川たまきさん、皆さん素晴らしかったです。

う~む、これを劇場でナマで観られなかったのは至極残念。演劇で途中眠くならなかったのは、もしかすると今回が初めて? KERAさんの舞台にはハマるかも知れません。

セクシーショットは、今回なかなかの悪女っぷりを見せてくれた村川絵梨さんです。
 

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