なんだかんだあって、紆余曲折を経て、高見兵吾(柴田恭兵)は実の娘である根岸みゆき(前田 愛)と「親友」の絆を結びました。
みゆきがまだ物心つかない内に妻=玲子(風吹ジュン)と別れ、言わば娘を捨てた身である兵吾は、上司と部下という関係で十数年ぶりに再会した玲子から「父親であることを絶対みゆきに言わないで」と釘を刺されたせいもあり、半年経っても本当のことが言えない、親しくなればなるほど言えないでいるのでした。
ところが、やっぱり色々あって玲子の気持ちが変わって来た。前回(第21話)のラストシーンで、玲子から「みゆきに本当のことを言ってあげて」と告げられた兵吾は、大いに動揺し……
☆第22話『最終回スペシャル/広域殺人!記憶喪失の女』
(1997.3.26.OA/脚本=今井詔二/監督=一倉治雄)
「や、やめた……やっぱ今日は勘弁してくれ」
玲子に呼び出されてやって来た、みゆきの屈託ない笑顔を見て、覚悟を決めてた筈の兵吾が怖じ気づきます。
「逃げるの?」
「気持ちの整理がつかないんだよ!」
背を向け、逃げるように去っていく兵吾に、失望した玲子が言い放ちます。
「卑怯者!」
女性に、しかもかつて妻だった人に真顔で言われるにはあまりにキツイ言葉です。
なぜ兵吾は、卑怯者呼ばわりされても本当のことが言えないのか? 最大の理由は番組の視聴率が好調でシリーズ化が決まったからだけどw、それじゃ視聴者は納得しません。なのでPART1最終回は、兵吾が父親を名乗れない本当の理由がメインテーマとなりました。
それはさておき、殺人事件が発生します。被害者は、兵吾と大学の同期生で親友だった、鹿児島北署の横山警部補(深水三章)。その現場で血まみれのコートを着た錯乱状態の女(牧瀬里穂)も発見され、自ら「私が殺したんです!」なんて言うもんだから、広域捜査隊は即座に彼女を保護し、まずは入院させます。
その女はどうやら記憶喪失症で自分の名前すら憶えてない。小柄な彼女が屈強な横山警部補を殺せるとは思えず、おそらく事件に巻き込まれたショックで記憶が封印されたと見た兵吾たちは、まず彼女の身元から捜査を開始します。
現場近くに放置された車に彼女の免許証が残っており、まずは相馬未知子という名前が判明。そして彼女は3年前に亡くなった父親の納骨で鹿児島へ行き、そこで横山警部補と知り合ったらしいことも判って来ます。
兵吾は、東京で横山と再会した時に「鹿児島北署は腐ってる」という彼の言葉を聞いており、もしかすると署内の不祥事を告発しようとして彼は殺された、つまり真犯人は警察内部にいるのでは?と睨みます。
そんな折りに鹿児島北署の刑事二人(山西道広、金田明夫)が、未知子の身柄を引き取りに上京して来ます。もし、本当に犯人が署内の人間だとすれば、唯一の目撃者である未知子は消されてしまうかも知れない!
兵吾は徳丸本部長(愛川欽也)の命令に逆らって未知子の身柄引き渡しを拒否。自分が彼女を鹿児島へ連れて行き、記憶を取り戻させると宣言し、警察手帳を玲子に返上します。
「無理やり連れて行けば拉致誘拐よ! その時はあなたを逮捕します!」
もちろん、親友の仇討ちに燃える兵吾にそんな脅しは通じません。いや、兵吾だけでなく、広域捜査隊メンバー全員がクビを覚悟で兵吾を援護し、玲子を困らせるのでした。
なぜみんな、自分の命令を聞いてくれないの?と嘆く玲子に、ベテランの杉浦警部(平泉 成)が言います。
「寂しいんです……みんな寂しいんですよ。課長の口から、高見を逮捕していいと出た。今まで半年間築き上げて来たものが、全部崩れていく!……みんな、寂しいんです」
昨今の刑事ドラマは「天才の主人公とその他の凡人たち」みたいな構図ばかりで、こういう対等なチームの絆が描かれなくなりました。人と人との繋がりが希薄になりがちな時代だからこそ、せめてドラマ世界ぐらいはこうあって欲しいもんです。
さて、いくら兵吾たちが躍起になっても、肝心の未知子が前向きになってくれなきゃどうしょうもありません。
「どうせ犯人を見つけて手柄を立てたいだけなんでしょ?」
恐ろしい記憶をわざわざ掘り起こす気になれない未知子に、兵吾は正直な気持ちをぶつけます。
「ああ、そうだ。その通りだ! 俺は犯人を見つけたいさ! 殺された横山は、俺の親友だったんだ」
「 !! 」
「あいつ、いつも言ってた。刑事という仕事に誇りを持ってるって。一生懸命やれば、どっかで何かが良くなるって。そんな毎日が嬉しいって。俺は、あいつのそういう気持ちを踏みにじったヤツが許せないんだ!」
髭を剃って爽やかになった西崎刑事(風間トオル)も助け船を出します。
「キミはどうしても忘れたい記憶があるんじゃないのか。それを忘れるのは簡単だけど、忘れてはいけない記憶なんだ。キミのお父さんだってそう思ってると思う」
「…………」
未知子には多恵子という年配女性が付き添っており、彼女は「そんな危険な目には遭わせられない」と強く反対するんだけど、兵吾たちの熱意にほだされた未知子は鹿児島行きに同意します。そしてそれを心配する多恵子も、一緒に鹿児島までついて行くのでした。
亡くなった未知子の父親と親しかったという多恵子を演じるのは、木の実ナナさん。鹿児島の如何にも怪しい刑事が山西道広さんで、さらに横山警部補の妹が長谷部香苗さん。明らかに『あぶない刑事』メンバーを意図的に集めた、最終回スペシャルならではのゲスト陣です。
しかし単なる付き添いのオバサン役で木の実さんが出演するワケないし、兵吾たちの捜査に反対したり、わざわざ鹿児島までついて来る言動からして「もしかして敵の回し者?」なんて思うんだけど、実はそうじゃない別の秘密が彼女にはあるのでした。
なぜ多恵子は、友人の娘とは言え未知子のことをそこまで心配するのか?
杉浦警部の調べにより、多恵子は22年前に離婚しており、その時2歳だった娘を夫のところに残して行ったことが判って、兵吾は全てを察します。そして同時に未知子も、多恵子の荷物の中に、独身である筈の彼女の家族写真を見つけて……
事件の真相も徐々に明らかになって行きます。鹿児島における自らの経路を辿る内、未知子は父親が死んで天涯孤独になった時に自殺未遂をやらかしたこと、それを偶然見かけ、親身になって励ましてくれたのが横山警部補だったこと、そして彼の捜査に協力しようとして事件に巻き込まれたこと等を思い出すのでした。
だけど肝心の犯人の顔だけが思い出せず、苦しむ未知子を見かねて、多恵子が兵吾たちに抗議します。
「もういいじゃないですか、犯人のことは。この子は今つらい思いをしてるんです。この子のことだけを考えて、犯人のことは後で考えれば……」
そんな多恵子の言葉を遮ったのは誰あろう、当の未知子でした。
「あなたに、この子だとか、未知子だとか、呼ばれたくないわ」
「え……なに言ってるの? 私は心配だったから……」
「あなたになんか心配して欲しくないって言ってるの。父と私を捨てたあなたなんかに!」
「!! ……そう、知ってたの」
「許せない……あなたの顔なんて、二度と見たくない!」
「……ごめんね……ごめんなさい」
たまらずその場から立ち去った多恵子は、荷物をまとめ、未知子の父親……つまりかつての夫の墓に別れを告げに行くんだけど、それを予想した兵吾が待ち構えてました。
「どうして、母親だと名乗らなかったんだ?」
「……名乗れるワケないわよ」
多恵子は以前、自分の死期を悟った夫から「未知子に母親だと名乗ってやってくれ」と頼まれたのに、やはり名乗れなかったと告白します。
「名乗れないんじゃなくて、名乗る資格が無いの。子供を捨てて、いろんな可能性を試してみたいって、そんなこと言って家を飛び出した女には……」
そんな多恵子の気持ちが、兵吾には痛いほどよく解ります。多恵子が去った後も彼女を罵り続ける未知子に、兵吾は口を挟まずにはいられません。
「そんな言い方するもんじゃない。仮にもキミの……」
「仮にも親? 冗談じゃない、親っていうのは産んだからなれるもんじゃないでしょ? 親らしいこと何ひとつして来ないで……」
兵吾は、多恵子が元夫から「名乗ってくれ」と頼まれた事実を未知子に伝えます。
「嬉しかったと思うな。あの人、名乗っていいって言われて、凄く嬉しかったと思うな。……でも、ふと考えるんだ。何して来たんだろうって。何もして来なかったのに、親なんて呼ばれていいのかなって……」
「…………」
「だから俺は決めたんだ。名乗らないって。名乗っちゃいけないんだって」
「?」
いつの間にか「俺」の話になってて未知子は戸惑うんだけど、構わず兵吾は続けます。
「今更さ、どのツラ下げてさ……でも不思議なんだ。やっぱり、お父さんって、呼ばれたいって思うんだ。いっぱい甘えて欲しいって思うんだ。お父さんって呼ばれて、思いっきり抱きついて欲しいって思うんだ」
「…………」
後ろで広域捜査隊の同僚たちも聞いてることを忘れて、兵吾は涙を流しながら語り続けます。
「メシ一緒に食うだろ? 食べ終わったら、言うんだ。ご馳走になりましたって……そう言うんだ、他人だからさ……帰る時は、さよならって言うんだぞ? 他人だからさ。俺はもう、そういう生活……もう……」
「…………」
「はっきり言うよ。俺はそういう生活を、後悔してる。娘と別れてから、11年間だ。俺は毎日毎日後悔して来た。あの人もおんなじだ。あの人、俺の倍の22年間も、毎日毎日後悔して来たんだ!」
以前にも書きましたけど、この『はみだし刑事情熱系』で一番泣かされるのは、兵吾が娘を想う気持ちと、事件の内容とがシンクロした瞬間なんですよね。
その回かぎりのゲストにまつわる人情話だけじゃ、少なくとも私は泣きません。ずっと親しんで来た主人公の気持ちに共感して初めて泣いちゃうワケです。
『太陽にほえろ!』が画期的で素晴らしかったのも、刑事を単なる事件の傍観者にせず、強引を承知の上で刑事と犯人、あるいは事件関係者との「シンクロ」を描くことに徹してたから。平成の時代になってもはや「古い」「ダサい」と云われてたその作劇を、忠実に継承してくれたのが『はみデカ』であり、今回のPART1最終話はその最たるものと言えましょう。
だけど、兵吾の11年間の苦悩や、この半年間の葛藤を、未知子は知りません。たとえ知っててもそれどころじゃない。
「ウソよ……そんなの絶対ウソよ! あの人は後悔なんかしていない。自分の好き勝手な事して幸せだったのよ! あの人が後悔なんか、してるワケがない!」
もはや母娘の和解は絶望的かと思われたけど、それを救ったのは皮肉にも事件の真犯人でした。未知子には兵吾たちが張り付いて近寄れないと悟った犯人は、帰路につこうとした多恵子を拉致し、助けたければ1人で来いと未知子を脅迫して来ます。
もちろん兵吾たちの活躍によって二人とも救われるんだけど、多恵子が殺されそうになった時、思わず未知子が叫ぶんですよね。「お母さん!」って。
そして母娘が抱き合う感動のクライマックスになるワケだけど、そのテの人情劇は古典中の古典で見飽きてますから、前述のとおり普通なら泣きません。木の実ナナさんのソウルフルな演技には貰い泣きするんだけど、号泣まではいかない。
だけど『はみデカ』の場合、抱き合う二人を見つめる主人公=高見兵吾の心情に共鳴して、私は号泣しちゃう。ありがちな人情劇でも、兵吾の眼を通して見ると感じ方が違うワケです。
だからこのドラマは、事件が兵吾の心情とどれくらいシンクロするかで感動指数が違って来る。今回はさすがの最終回スペシャルで涙を搾り取られました。
ところで真犯人の正体ですが、兵吾を目の敵にする鹿児島北署の刑事たちの中で、ただ1人だけ協力的な刑事を演じたのが、金田明夫さん。彼が真犯人に決まってますw
謎解きメインの番組ならば致命傷になりかねない分かり易さだけど、『はみデカ』にとって真犯人の正体など二の次、三の次だから何の問題もありません。これは犯人のドラマじゃない、あくまで刑事のドラマなんだから。
もちろん、正体がバレた金田さんには、兵吾たちが3人がかりでフルボッコの刑を食らわせますw 何度でも言います。日本よ、これが刑事ドラマだ。
「泣いたんだって? 鹿児島で。男泣きだって?」
東京に戻った部下たちから事細かにいきさつを聞いた玲子は、兵吾を食事に誘って冷やかします。
「あのバカども……」
「それで、私も考えたんだ。あなたが名乗りたくないんなら、名乗らなくていいって」
「…………」
「そりゃあ、親として、私達みゆきにズルい事してるのかも知れない。いけない事をしてるのかも知れない。でも、世の中には仕方のない事ってあると思うの」
「…………」
「正直言って、私嬉しかったの。名乗ってって言われてワアって飛び上がって喜ぶ人よりも、名乗れない、名乗る資格は俺には無いっていう人間の方がずっとステキだと思うの」
「…………」
「言ってやりたい。言えないけど、心の中でみゆきに言ってやりたい。あんたの父さんは、なかなかだぞって」
「……すまない」
そこに、みゆきがやって来ます。食事は食事でも、親子3人揃っての外食は今回が初めて。もちろん、みゆきは兵吾が父親であることを知りませんから、あっけらかんとしたもんです。
兵吾にディナーを奢ってもらえると聞いてはしゃぐみゆきに、玲子はこう言います。
「ただしね、条件があるの。食べた後で、ご馳走になりましたって言わないでくれって。それに、別れ際にさよならって言うのも勘弁だって」
玲子はそんな細かい事まで報告を受けてたんですねw でも、それも兵吾の人徳でしょう。そして玲子もまた優しい!
「そっか、家族の気分を味わいたいのね、兵吾くん。いいでしょういいでしょう、味わわせてあげようじゃないの」
みゆきは兵吾の腕に抱きついて、無邪気に言います。
「行こ。お父さん」
「 !! 」
「どうしたの? 早く行こうよ、お父さん」
ここでまた、私は号泣しちゃいました。ハッピーなんだけど、同時に切なくもあるんですよね。そこが『はみだし刑事情熱系』の素晴らしさ。第3話で兵吾に父親を名乗らせなくて本当に良かったと思いますw
『たとえ嘘 それでも今日は オヤジ記念日』
ラストシーン恒例の川柳は、俵万智さんの『サラダ記念日』をもじったもの。俵さんのは口語短歌であって川柳とはまた違うんだけどw
いやあ~しかし、やっぱり『はみデカ』は良いです。放映当時はそこまでハマってなかった筈なのに、自分が高見兵吾の年齢を越えてしまった事や、再三書いてるように本当の意味での「刑事ドラマ」が絶滅してしまった現状が、この作品をより輝かしく、愛しいものに感じさせるんでしょう。
メインゲストの牧瀬里穂さんは当時25歳。1989年、自らスカートを捲って純白パンツを丸出しにする武田薬品「ハイシー」ドリンクのCM(あれにはホント度肝を抜かれました)、そしてJR東海「クリスマス・エクスプレス」のCM等で一躍脚光を浴び、翌'90年には相米慎二監督『東京上空いらっしゃいませ』と市川準監督『つぐみ』という二大若手巨匠による映画への主演で各映画賞を総なめ。まさに平成時代の幕開けに彗星のごとく現れた女優さんで、私も大いに注目してました。
パンツを丸出しにしようがセミヌードを披露しようが全くエロを感じさせないw、そしてデビューから30年経っても年齢を感じさせない、まさに永遠の美少女ですよね。
しかし出演本数は意外と少なく、加藤雅也さんと漫才コンビみたいな夫婦を演じた朝ドラ『まんぷく』は実に10年ぶりの連ドラ出演。刑事ドラマへのゲスト出演はおそらくこの『はみだし刑事情熱系PART1』最終回が唯一かと思われます。
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