ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『シェイプ・オブ・ウォーター』

2021-03-13 00:30:57 | 外国映画










 
「自分以外の人が好きな映画も観てみよう」シリーズ、今回はギレルモ・デル・トロさんの監督・脚本・製作による2017年公開のアメリカ映画。例の「POPEYE」誌は'17年に組まれた特集の再編集版なので、当時まだ公開されてなかった本作は載ってません。

だけどタベリストのyamarine師匠がブログでお薦めされてたし、デル・トロ監督と言えばオタク系クリエイターの代表格で『パシフィック・リム』も面白かったしで、ずっと気にはなってたんですよね。

なのに今まで観て来なかったのは、本作が第90回アカデミー賞で作品賞、監督賞、作曲賞、美術賞を受賞という、モンスター映画としては異例の快挙を成し遂げ、世間でも「これぞ生涯の1本!」と絶賛されまくってたから。

そんな多数派の流れに乗っかりたくない気持ちもあるし、みんながこぞって誉める作品をここで同じように誉めてもつまんないし、そもそも私は「面白い映画」が観たいのであって「いい映画」には興味が無いんです。

それでも今回「観てみよう」と思い立ったのは、町山智浩さんの著書「映画には『動機』がある」を読んで、デル・トロ監督が『シェイプ・オブ・ウォーター』を創った「動機」を初めて知ったから。

監督は、少年時代にモンスター映画の古典『大アマゾンの半魚人』('54) を観て、何も悪いことしてない半魚人が探検隊に射殺されちゃう結末に憤慨し、自分が納得できる結末(つまりハッピーエンド)に描き直したくて、わざわざこの映画を創ったんだそうです。これほど単純明快で説得力ある「動機」が他にあるでしょうか?w

ところが! 『シェイプ・オブ・ウォーター』を絶賛するどの記事を見ても、この映画が『大アマゾンの半魚人』のリメイクであることに誰も触れてない! なんで?! おいちょ待てよ!

それどころか、同じオタク系クリエイターのピーター・ジャクソン監督がやはりアカデミー賞を獲られた『ロード・オブ・ザ・リング』にはチョー有名な原作があるのに『シェイプ・オブ・ウォーター』は100%デル・トロ監督のオリジナルなのが凄い!って書いてる人までいて、それは確信犯的に嘘をついてるのか、あるいは『大アマゾンの半魚人』を知らないのか、いずれにせよプロの映画ライターとしてそれはマズイやろ!って言いたくなる記事が、堂々とメディアで紹介されてるのには唖然とします。

デル・トロ監督はあらゆるインタビューでその製作動機を語られてるでしょうから、日本のメディアが勝手に「それじゃ女性客が寄りつかない」と判断して、意図的に原典の存在を無かったことにしたんでしょう。半魚人を害あるモンスターだと勝手に決めつけ、問答無用で射殺した探検隊と同じように!

そんな事実を知っちゃったもんで、私はこの記事を書く決意をしたワケです。捕らわれ、虐待され、やがて殺されようとしてる半魚人を、軍の施設から逃がす決意をしたヒロイン=イライザ(サリー・ホーキンス)と同じように!w

正確に言うと、本作は『大アマゾンの半魚人』以上に、その続編『半魚人の逆襲』('55) の影響を受けてるみたいです。その映画では半魚人をさんざん虐待した挙げ句に殺しちゃう科学者が、なんとヒーローとして描かれてる! それが当時のアメリカにおける多数派の価値観だった。

明らかにそのキャラをモデルにした軍人(マイケル・シャノン)が、この『シェイプ・オブ・ウォーター』では完全に悪役として扱われ、悲惨な末路を辿ることになります。時代が進み、アメリカ人の価値観も変わったワケです。

いや、ドナルド・トランプみたいな差別主義者が大統領に選ばれちゃう現実を見れば、根本的には何も変わってないのかも? だからこそ、口が聞けないヒロインや、その同僚の黒人女性、隣室に住むゲイのおじさんといったマイノリティたちが、マジョリティに「逆襲」する展開に我々は拍手喝采せずにいられない。時代劇でありながら「今」の現実を反映した世界観なんですよね。

そんな風に社会派の側面もあり、人間ドラマとしてもラブロマンスとしても優れてるし、'60年代の街並みを緻密に再現した美術、ロマンチックな音楽もまた素晴らしいんだけど、この映画が「生涯の1本!」と言わしめるほど我々の心を揺さぶったのは、やっぱりデル・トロ監督のモンスター愛、言い換えればマイノリティへの愛が詰まってるからこそ。

ハイ・クオリティーな映画なら五万とある中で本作がひときわ輝いたのは、まさにそれこそ、作品に「魂がこもってる」から。前回の『クリード/チャンプを継ぐ男』と同じです。だからレビューする気になりました。


 


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2 コメント

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Unknown (over-the-magic)
2021-03-13 05:55:21
「大アマゾンの半魚人」、初めて知りました。
貴重な情報ありがとうございました。

有名になってもおかしくない製作エピソードなのに、あんま出回ってないのは変な話ですね。
まあ、アカデミー賞取ったから、そこへ話題が集中して詳細な話が霞んでしまったというのもあるんでしょうかね?
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Unknown (harrison2018)
2021-03-13 09:34:14
う~ん、それもあるでしょうけど、私は日本の配給会社が意図的に「隠蔽した」と睨んでます。

女性はモンスター映画をあまり好まないし、『大アマゾンの半魚人』っていうタイトルがまた(今の感覚で言えば)ダサいので、女性客を呼ばなきゃ商売にならない興行界としては隠したくなる、だろうと。

それが半魚人を差別して虐待する劇中の悪役たちとタブって見えるのが面白いですw
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