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『さすらい刑事旅情編III』#20

2023-08-04 20:50:11 | 刑事ドラマ'90年代

『さすらい刑事旅情編III』レビュー3連発となりました。

同じ番組でも各エピソードの内容がバラエティー豊かで、『太陽にほえろ!』に例えれば本格ミステリーの#12は山さん編、ちょっとハードな失恋話の#14はマカロニ編、そして今回の#20はスペシャル仕様のボス編ってことで、いよいよ折り目正しい宇津井健さんが実質の主役を務め、いつもより豪華なゲスト陣が脇を固めてます。

脚本がこのシリーズ初登板となる塙五郎さん(『夜明けの刑事』『特捜最前線』等)で、それまで在りそうで無かった「ローカル線の廃止」をテーマにした物語。

ふだんは駅や車内で事件が起こるだけで、鉄道そのものにドラマを持たせたエピソードがほとんど無く、塙五郎さんはそこに眼をつけられたんでしょう。

これぞまさに旅情編!ってことで、スタッフ&キャストの皆さんが相当な気合を入れて臨まれたのか、ふだん感じない熱量が今回は伝わってきますw




☆第20話『幻の汽笛! 誘拐された大臣の娘』(1991.2.27.OA/脚本=塙 五郎/監督=天野利彦)

福島県の、今は廃線になってる鉄道=弥富線の長沢駅付近に「死体を埋めた」という、匿名の中年らしき男から通報を受け、鉄道警察隊の山さん(蟹江敬三)、リーゼント(三浦洋一)、少年隊(植草克秀)が発掘に出向きます。



そして発見されたのが、長沢→東一条行きの切符を手にした若い女性の遺体。

彼女はいったい誰なのか、再び電話してきた中年男に高杉警部(宇津井 健)が折り目正しく尋ねたら、現政府の運輸大臣=広上(内藤武敏)の娘だと言うから驚いた!

けれど広上大臣に聞いてみたら、ひとり娘の恵(中村由真)は心臓病で入院してはいるけど、ちゃんと生きていると言う。一体どういうことなのか?



検死の結果、あの遺体が心臓発作による病死、つまり恵と同じ心臓病だったと判明したところで、中年男がまた見計らったように電話してきます。

「広上に言っておけ。今度はお前の娘が埋められる番だってな」

まさか!?ってことでリーゼントたちが恵の入院先に駆けつけるも、時すでに遅し。彼女は何者かに連れ出されて行方不明。

死体遺棄に誘拐という重罪まで加えた犯人が、運輸大臣を相手に人生の全てを賭け、突きつけて来た恐るべき要求とは!?

「弥富線6244列車をもう一度走らせろ」

「なにっ!?」



犯人は、数年前に広上大臣が廃線を決めたローカル線の名物列車「6244」を、乗務員も含め全て昔どおりに運行させろと言うのでした。

しかし撤去した線路を元に戻すだけで莫大な費用がかかるし、引退した乗務員たちを揃えるのも容易なことじゃない。

政府は「NO」の返事を突きつけ、広上大臣はそれに従おうとするんだけど、高杉警部が折り目正しく頭を下げて必死に説得。結果、1度きりの再運行が奇跡的に決定!



ひとり、長沢に残って捜査してた少年隊が線路の補修を手伝い……



鉄道警察隊は手分けして「6244」の元乗務員たちを捜しだし、再運行イベントへの全員参加を実現させるのでした。それはやっぱり、名物列車をもう一度走らせたい気持ちが皆にあったからでしょう。

ところが政治家には、そんな市井の人々の気持ちが解らない。

「無くなった列車を、今さら走らせてどうなると言うんだ?」

てめえの娘を救うために皆が奔走してるのに、すっとぼけたことをぬかす広上大臣に、今回は見せ場が少ないリーゼントがここぞとばかり、美味しいセリフを独占します。

「列車はただの輸送の手段じゃない。走る列車に勇気づけられ、夢を託す人もいる。世の中にはそういう人間もいるって事ですよ」



「私には解らん、キミたちが何を言ってるのか」

「列車が人の生き甲斐になることもあると言ってるんです! その人から見れば、あなたはその夢や希望を取り上げた事になりますね」

「…………」

「私の生まれたところも鉄道が無くなりました。今は住む人もいなくなったそうです」

そう、こんな事態になったのはそもそも、広上大臣が弥富線を不要と断じ、鶴の一声で廃線にしちゃったから。

政府側にも経済的な事情があったにせよ、鉄道を愛する人々の気持ちを「私には解らん」の一言で片付けるような人間が、運輸大臣の座に就いてるという理不尽。ゴルフを愛する皆さんへの冒涜も甚だしい!💨(時事ネタ)



かくして6244列車の復活が目前に迫る一方、事件の背景も見えてきます。

かつて長沢の療養所に入所してた犯人の娘が、病室の窓から6244列車を眺めるのを毎日楽しみにしてたのに、それが廃線になって生き甲斐を奪われ、心も病むようになって東京の病院に移された。

そして数年後、そこに同じ病で入院してきた広上大臣の娘=恵と出逢い、友情を育んだ。



そう、今回の事件は「お父さんが彼女から取り上げた6244列車を、私が走らせる!」という、恵の想いが発端なのでした。

「私は間違っていたんだろうか? 私は常に、大勢の人たちの幸せを考えて来たつもりだったが」



ようやく自分の過ちに気づき始めた広上大臣を、高杉警部が折り目正しく諭します。

「たった1人の幸せを守ることが、何より大切な時もあるかも知れません」

「…………」

「広上さん、私は部下によく言うんです。人間はたくさん間違いをするけども、やり直すことが出来るのも人間じゃないかって」



そして長沢の療養所で恵が発見され、彼女をそこに連れてきたのは6244列車の元操縦士=原島(山田吾一)の妻であることが判明します。そう、この夫婦こそが線路脇に埋葬された女性の両親、すなわち広上大臣を脅迫してる犯人なのでした。

そして今、原島が再び操縦士として6244列車に乗り込もうとしてる。

「何をしてるんだ高杉くん! 運行は中止だ!」



ひとりの人間としては、このまま列車を走らせたい。けど、真犯人が判った以上、警察官として放っておくワケにはいかない。高杉警部は折り目正しく決断します。

「ただちに原島操縦士を逮捕するんだ」

現場にいる山さんが逮捕に向かうも、セレモニーの準備をずっと手伝ってきた少年隊が立ちはだかります。



「山さん、走らせてやって下さい。みんな喜んでるじゃないスか! みんな待ってるじゃないスか!」

「どけ!」



「オレだってレール運んだんですよ! オレ見たいんですよ、6244が走るの見たいんですよ!」

なおも食い下がる少年隊を柔道技で投げ飛ばし、山さんは言います。



「馬鹿野郎っ! オレだってな、オレだって走らせたいんだよ!」

これです。この葛藤こそが刑事ドラマなんです。トリックだの裏切者だのどんでん返しだの、昨今の刑事ドラマ(と呼ばれてる番組)は推理ゲームであってドラマじゃない。だからレビューしようもない。



「原島くん。キミがこんなやり方で走らせようとした列車は、亡くなった娘さんが見たかった6244列車じゃない」

逮捕され、駅舎内に連行されてきた原島に、今回も折り目正しい説教をかます高杉警部だけど、そんなことは百も承知だったであろう原島は、にっくき運輸大臣につかみかかります。



「娘は、あの線路脇に埋めてくれと言って死んだんだ! いつかきっとまた、あの列車が走るからって! それを見たいからって!」



「……高杉くん、騒ぎはこれでおしまいだ」

宇津井健、山田吾一、内藤武敏という名優3人の演技バトルはさすがに見応えあります。

さらに、普段はリーゼント刑事の引き立て役に甘んじてる、蟹江さんや植草くんの演技も光ってます。そりゃみんな燃えますよね、リーゼント以外は。

さて、その後すぐ療養所に駆けつけた広上大臣だけど、6244列車が走るのをドキドキしながら待ってた我が娘から、まるで汚物を見るような視線を浴びる羽目になります。



「お父さんが止めたの? ひどいわ、みんな待ってるのに! 私だって……」

そうして彼女はスケバン化し、やがて風間三姉妹の次女となるのでした。時系列はでたらめです。



でたらめと言えば、折り目正しく長沢駅のホームを歩く、この男も実はタローマン並みにでたらめな男だった!

「とりあえず、長沢署まで連行しなきゃいかんな」



「警部、自分が護送します」

待ってました!とばかりに山さんが、原島の両腕から手錠を外します。



「ほら、何してる? お前以外に誰が6244を動かすんだ?」

人情ドラマを蔑視するようなことをよく書くけど、私が忌み嫌うのは「単なるお涙頂戴」を目的にしたドラマであって、今回のエピソードは該当しません。

なぜなら、作者のメッセージが明確に伝わって来るから。



たとえ人情ドラマであろうと謎解きゲームであろうと、作者が何かを主張してきたなら、私は喜んで耳を傾けます。

昨今の(日本の)TVドラマやメジャー映画がつまんないと感じる、最大の理由がそこにある。何も主張せず、誰にも文句を言われないよう無難に、とにかく当たり障りなく作られた作品が面白くなろう筈がない。

今回レビューしたエピソードでは、政府側の言い分がほとんど無視されてたりするけど、それでいいと私は思う。これは鉄道を愛する人たちのドラマなんだから。



運輸大臣の娘=恵を演じた中村由真さんは、グラビアアイドルから芸能活動をスタートし、女優としては1986〜’87年に放映された連ドラ『スケバン刑事III/少女忍法帖伝奇』における風間三姉妹の次女役で一気にブレイク。

刑事ドラマへのゲスト出演は(単発モノを除けば)同じ『さすらい刑事旅情編』の第5シリーズ第19話しかウィキペディアに記載がなく、そういう意味でも今回はスペシャルな作品と言えそうです。


 


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