ゲストの辻沢杏子さんは1981年に放映された連ドラ『翔んだライバル』のヒロイン=リンゴちゃん役で注目され、アイドル歌手としても活躍された女優さん。
刑事ドラマは同じ『さすらい刑事旅情編』の第7シリーズほか、『裏刑事』『科捜研の女』『刑事110キロ』『刑事7人』等にゲスト出演。本数は少なめながら息長く活躍されてます。
☆第14話『疑惑!? アリバイ工作をした女』(1991.1.16.OA/脚本=日暮一裕/監督=息 邦夫)
特急「踊り子101号」で犯人を護送中だったリーゼント(三浦洋一)が、車内で「遺書を拾った」と言うリンゴちゃん(辻沢杏子)と一緒に落とし主を探すことになり、護送をバディの西園寺刑事(高木美保)に押しつけ、伊東駅で下車します。
自殺志願者の行先と言えば景色のいい崖と相場は決まっており、案の定、リーゼント&リンゴちゃんはあっという間にその女性(恋人に浮気され、捨てられたらしい)を見つけます。
が、しょせん恋愛に疎いリーゼントゆえ、どう言って彼女を励ませばよいやら分かりません。
と、そのとき!
「死にたければ死になさいよ!」
リーゼントを差し置いて彼女を叱咤激励したのは、一見おとなしそうなリンゴちゃんでした。
「当てつけに死んで見せるつもり? そんな事したって笑われるだけよ!」
おとなしいどころか、初対面の女性にビンタまで食らわせ、リンゴちゃんは言います。
「どうして見返してやらないのよ! 自分1人で決着つければそれでいいの?」
その通り! そもそも、たかが恋愛ごときに人生を左右されるなんてバカげてる。男なんぞ無数に余ってるのに贅沢ぬかすな!っちゅう話です。なにが恋愛だ、セックスセックス!
というワケでリーゼントは出る幕ないまま騒動は解決。どうやらリンゴちゃんも下らない恋愛の悩みを抱えてたようで、だけど死のうとした女を叱咤することで吹っ切れたみたいです。
ところで、途中下車させてしまったリンゴちゃんを(本来の目的地だった)下田へ送らなきゃいけないのに、彼女が「もう用は済みましたから」と東京へ戻ることを希望したもんだから、リーゼントは眼をギョロギョロさせて歓びます。
しかも、午後から非番になってる今度の土曜日に、上野の美術館でデートする約束まで取りつけ、有頂天になるリーゼント。
しかし刑事ドラマでこういう展開になれば、結末はソフトな順に「事件に追われてデートをすっぽかし、フラれる」か「惚れた相手が実は殺人犯だった!」か「幸せの絶頂で殉職!!」の三択しか無く、成就はまずあり得ません。
そうとも知らず、土曜の午前勤務を終えたリーゼントが、ウキウキしながらタイムカードを打とうとしたその時、分駐所宛てに差出人不明の小包郵便が届いちゃうのでした。
その中身は思わせぶりな鉄のボルトと、新聞の切抜き文字による「今日の午後2時、東京駅で何かが起こる」という予告状。
もし駅のどこかに危険物が仕込まれてるとしたら、そりゃデートに行ってる場合じゃありません。早期解決を祈りながら、リーゼントは仲間たちと駅構内を駆け回ります。
で、結局2時になっても異変は起きず、悪質なイタズラだったと結論が出たところで、リンゴちゃんから分駐所に「リーゼントはまだか」と電話がかかって来る。
それを聞いてリーゼントは美術館に慌てて駆けつけるも、間に合わず。果たして、これでフラれるだけなら良いのですが……
残念ながら、神奈川県警の刑事(粟津 號)が鉄道警察隊を訪れ、横浜で起きた殺人事件の最有力容疑者が、リーゼントの名前を出してアリバイを主張してると告げるのでした。そう、リンゴちゃんです。
彼女と恋愛関係にあった男が毒殺され、それが明らかに顔見知りの犯行であること、彼の浮気により別れ話がこじれてたこと、その浮気相手には確かなアリバイがあることから、県警はリンゴちゃんを疑ってるのでした。
が、下心は置いといても、眼の前で自殺志願者を救ったリンゴちゃんが殺人を犯すなんて、リーゼントにはとても思えません。
「命の大切さを知ってる人間が、人の命を奪う筈がない」
「それは甘いんじゃないか? こんな仕事をしていれば、人間の信じがたい部分も知らないワケじゃないだろう」
「信じることの大切さも知ってるつもりです!」
自分が約束通りの時間に上野へ行ってさえいれば、リンゴちゃんのアリバイをはっきり証明することが出来たのに……
眼をギョロギョロさせながら後悔するリーゼントは、県警の取調室で再会したリンゴちゃんに約束するのでした。
「あなたの無実は、必ず立証してみせます!」
予想犯行時刻(IN横浜)は、あの土曜日の午後1時から1時半の間。2時過ぎにリンゴちゃんが分駐所にかけて来た電話が、本当に待ち合わせ場所の上野からだったことを証明すれば、立派なアリバイになる!
寝食も忘れて捜査し、仲間たちの協力も得てみごとアリバイを立証させたリーゼントのお陰で、リンゴちゃんは晴れて釈放となるのでした。
で、2人はあらためて美術館デートを約束し、今度こそ事件に邪魔されることなく、チョメチョメする筈だったのですが……
待ち合わせ場所に近づいたところで、ひょんな事からリーゼントは知ってしまいます。リンゴちゃんのアリバイを決定づけた、上野駅近くの電話ボックスがあの日、故障して使えなかったことを……
「あのとき、僕に電話をくれたのは、このボックスからですよね?」
「ええ、そうですけど」
特急列車で初めて出逢ったあの日、リンゴちゃんは生まれ故郷の下田で自殺するつもりだった。
けど、同じ理由で自殺しようとする女を客観的に見て、恋愛ごときの為に死ぬバカバカしさに気づいた。それで全部忘れりゃ良かったのに、復讐という修羅の道を選んじゃった。
「香取さん(リーゼント)なら、きっと私の無実を証明してくれると思ったんです」
結局、リーゼントはアリバイ工作に利用されただけ。彼にもっと男としての魅力があれば、リンゴちゃんも気持ちを切り替えたかも知れないのに、まったく何もかもギョロ眼リーゼントのせいです。
そんなウルトラ傷心状態のリーゼントに、上司の高杉警部(宇津井 健)が折り目正しくポーズを決めながら、こう言って励ますのでした。
「ま、いいじゃないか」
そう、リーゼント野郎の失恋なんか全くもってどーでもいい。
それより今回は、内心ヤキモチを焼きながらもリーゼントの捜査に力を貸す、西園寺刑事の女心にこそグッと来ましたよ!
ラストシーン、使わずじまいになった美術館のペアチケットを取り上げて、彼女が言うワケです。
「おー、勿体ない。私がつき合ってあげる」
あんなギョロ眼リーゼントがなぜモテるっ!?
ま、リンゴちゃんには見事にフラれましたから、今回は大目に見るとしましょう。なかなか良いエピソードでした。
リンゴちゃん=辻沢杏子さんだからこそ良い、っていう側面も絶対あると思います。そりゃ惚れちゃうよね、っていう説得力が無きゃ主人公に感情移入できませんから。
そういう役を、華も実力も兼ね備えた女優さんが演じるのって、現在なら当たり前だけど昭和の時代は違いましたから。美人だけど演技力がなかったり、演技は上手いけどルックスが地味だったりがほとんどでした。
それが許されなくなって来たのが平成の時代で、まさにこの『さすらい刑事旅情編』あたりから変わって来たんじゃないでしょうか?
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