2020年に公開され、コロナ禍にも関わらずスマッシュヒットを飛ばした、城定秀夫 監督・奥村徹也 脚本による日本映画。
タベリスト仲間のgonbeさんがブログで推奨されてたのに加え、もしかしたら私が大林宣彦監督の次に敬愛してるかも知れない、ピンク映画界の巨匠=城定監督が手掛けられた一般向け青春映画ということで観たくなりました。
さらに、元々は登場人物4人だけの高校演劇で、それを映画会社のスポッテッドプロダクションズが一般公演用にグレードアップ、その舞台のキャストをまんま使って制作会社レオーネが映画化したという、ユニークな成り立ちにも興味を引かれました。
ついでにもう1つ言えば、城定監督と何度もタッグを組まれてるプロデューサー(レオーネ社長)の久保和明さんは俳優でもあり、かつて私が演出したテレビの連続ミニドラマでレギュラー出演されてた方です。その時だけのお付き合いだけど、言わば知り合いが映画で1発当てたと聞けば観ないワケにいきません。
しかしなぜ、エロ要素は皆無の本作で城定監督が起用されたのか? 久保プロデューサーと旧知の仲だからってことも勿論あるでしょうが、それ以上に城定監督がピンク映画、すなわちチョー低予算の映画で傑作をいくつも生み出された名手であることが大きいかと思われます。
なにせこの作品、夏の高校野球大会で母校の応援に来た高校生4人プラスアルファ(小野莉奈、平井亜門、西本まりん、中村守里、黒木ひかり)が、タイトル通り球場のアルプススタンドのはしっこで会話する、ただそれだけの内容なんです。まさに演劇のために生まれたストーリーで、それを映像作品として成立させるのは簡単そうに見えてメチャメチャ難しい!
ふだん潤沢な予算で映画を撮ってる監督には、おそらくムリな仕事だろうと思います。低予算の現場に慣れてるだけでなく、低予算をむしろ逆手に取って面白くする術を知り尽くした人、つまり城定監督みたいな人にしかこういう映画は創れない。「映画なんだからプレーしてる高校球児たちも撮らなきゃ!」とか言い出す人じゃダメなんです。
それともう1つ。有名スターでも演技派でもない若手女優さんたちを輝かせるには、幾多のセクシー女優さんを映画女優として輝かせて来た、城定監督のマジックが必要不可欠だと判断されたんでしょう。
こだわりの照明で女優さんをキレイに撮るだとか、良い演技を引き出すまで何十回もテイクを重ねるだとか、低予算の現場でそんな悠長なことはしてられません。にも関わらず、城定監督が手掛けられたピンク映画のヒロイン(つまり普段はAVで活躍されてる人)たちはみんな魅力的で、濡れ場以外の演技も上手に見えてしまう! まさにマジックとしか言いようありません。
今回はオリジナル(舞台)の良さを損なわず再現することに徹しておられる印象だけど、マジックのお陰でキャスト全員がより輝いて見える効果はあったに違いありません。
話の内容に関しては、主役が甲子園や演劇の舞台で輝くヒーローたちじゃなく、輝きたかったのに輝けなかった子らである点に共感したし、夢を諦めるという若者の選択を否定しないスタンスも良かったと思います。
若い子らに夢だの目標だのを強要する時代はもう、とっくに終わってる。だからと言ってがむしゃらに頑張ることも否定はしない。どっちの道も「あり」なんだから、自分が歩みたい道を正直に選べばいい。そんなメッセージがこめられてるように私は感じました。
その解釈が当たってるとすれば大いに賛成だけど、ただ、エンタメ作品として観ると、私にはちょっと真っ当すぎるというか、爽やかすぎて物足りなく感じたのもまた事実。
あくまで個人的な好みを言えば、前回レビューした『スイートプールサイド』みたいに屈折してる方が、私のハートには強く響いて来ます。私の青春も屈折しまくりでしたから。(さすがに毛を食べたりはしないけどw)
しかしそれにしても、間違いなくチョー低予算の作品です。撮影にはたぶん5日もかけてません。それがヒットを飛ばしたんだから効率が良いにも程があり、久保プロデューサーはきっとウハウハですw
私はふだん日本映画の貧乏臭さを嘆いてますけど、こうして多くの観客に感動を与える映画を、ほんの数日で仕上げちゃうノウハウを(過酷な現場で鍛えられたお陰で)持ってるクリエイターって、もしかしたら海外にはあまりいないかも?
是非ともNHKさんに『プロフェッショナル』で城定監督を取り上げて頂き、エロ映画の製作現場に密着して欲しいですw いやマジメな話、大作映画の現場なんか見たって、これから映画創りを始めようとしてる人たちには何の参考にもなりませんよ。
予算が無くたって面白い映画は創れる。城定監督の背中を見れば、それがよ~く分かるはずです。
セクシーショットは共に優等生を演じられた、中村守里さんと黒木ひかりさんです。
さて、おっしゃるとおり城定監督はスゴイと思います。「キネマ旬報」には、この映画を撮影するにあたっての監督のコメントが紹介されていました。元となる舞台劇の素晴らしさがあればこそとのことでしたが、ハリソン君が仰る通り、城定監督でなければこの映画は成立してなかったことでしょう。そこは絶対間違いありません。
ムフフな作品はもちろん大好きですが、こういう方面の城定監督の作品もまた見てみたい、そう思います。