スコッチ刑事=滝 隆一(沖 雅也)、第1期におけるラスト・エピソードです。
『太陽にほえろ!』史上初となる、新米じゃない「中堅刑事」としての登場、そして熱血『太陽』イズムを真っ向から否定し、七曲署のチームワークを乱しまくる、言わばマンネリ打破のカンフル剤となる使命を背負ったキャラクター。スコッチ=沖雅也さんは、半年間でその役目を見事に果たされました。
☆第244話『さらば、スコッチ!』
(1977.3.25.OA/脚本=桃井 章/監督=小澤啓一)
冒頭で拳銃を持ったチンピラを殿下(小野寺 昭)と一緒に追い詰めたスコッチは、敵が撃つ前に拳銃を発砲し、無事に逮捕はしたものの、署長の西山警視(平田昭彦)にこっぴどく叱られます。
着任時に比べれば大人しくなったスコッチだけど、すぐに発砲しちゃう手癖は相変わらず。そんなの西部署や港署じゃ日常茶飯事なんだけどw、品行方正がモットーの七曲署は許してくれません。
堪忍袋の緒が切れそうな署長は、いよいよスコッチに転勤話を持ち掛けて来ます。七曲署みたいに毎週事件が起こらない、へんぴな所轄として知られる山田署の捜査課が、折しも欠員補充を要請中なのでした。
「ま、山田署あたりでノンビリやるのも、1つの生き方だと思うがな」
山田署の人たちに対して失礼かつ嫌味な言い草だけど、まぁ七曲署の署長は歴代こんなキャラなんですw
それにしてもスコッチは、藤堂チームにすっかり馴染んだように見えたのに、この発砲癖だけは克服出来ないもんなのか?
「傷痕だよ」
山さん(露口 茂)が、しばらく言及されなくて視聴者が忘れかけてた、スコッチの「トラウマ」をあらためて解説してくれました。
3年前、城北署にいたスコッチは先輩刑事と一緒に拳銃を持った犯人を追い詰めたんだけど、自分が発砲をためらったせいで先輩が撃たれ、殉職してしまった。(登場時は1年前って言ってたけどw、今回のストーリーに合わせて設定を変更したんでしょう)
そのトラウマから、スコッチは敵に拳銃を向けられると反射的に撃ってしまう。その癖がもう身体に染みついちゃってる。今回は特に、先輩の殿下と一緒にいるシチュエーションが、余計にそうさせたんでしょう。
「傷痕か……一生治らんのかね、奴の傷は」
殉職した先輩刑事の汚職疑惑を晴らした一件で、スコッチのトラウマは解消されたものと思ってたけど、そんな簡単なもんじゃなかったワケです。
その根っこにあるのは、人間不信。特に「追い詰められた犯罪者」に対する不信と警戒心は、長さん(下川辰平)が呟いたようにスコッチを一生苦しめるのかも知れません。
そんな折り、拳銃による殺人事件が発生します。被害者は暴力団・戸川組の幹部=関本で、撃ったのは戸川組が経営するスナックのバーテン=則夫(池田秀一)。どうやらその店のホステス=恵子(桂木梨恵)を巡るトラブルが原因らしい。
指名手配された則夫は19歳の未成年で、かつて彼を補導したことのある原町署の少年課刑事=北島敏子(夏 純子)が、応援として七曲署に派遣されて来ます。
則夫とは恋仲である恵子のアパートを張り込み中に、長さんから敏子を紹介されたスコッチは、愕然とします。それは別に、彼女がめっぽう美人だからじゃありません。
スコッチは、城北署の前には原町署に勤めており、敏子とは同僚だったのです。この若さで少なくとも3つの署を渡り歩いてるスコッチは、ジプシー刑事(三田村邦彦)も顔負けのジプシーぶりですw
とにかく一緒に恵子を張り込む事になったスコッチ&敏子ですが、元同僚の仲なのに2人はほとんど口を聞きません。珍しくスコッチの方が先に口を開き、則夫について尋ねます。
敏子は、則夫が関本を撃ったのは「事故」だと断言します。則夫は気の優しい少年で、自分の意志で人殺しをすることは有り得ない。そう信じる敏子は、彼を説得して自首させる為にやって来たのでした。
「甘いな。人は追い詰められたら何をするか分からない。たとえ事件前は気の優しい青年だったとしても、今の彼は一匹のケダモノだ」
「……変わったのね、隆一さん」
敏子は、スコッチのことをファーストネームで呼びました。そう、敏子はスコッチの、かつての恋人。いや、それどころか、将来を誓い合った婚約者だったのです。ボス(石原裕次郎)たちはその事実を知りません。
やがて恵子が外出し、二人が尾行すると、則夫が姿を現します。尾行に気づいた則夫がすぐに拳銃を取り出し、スコッチも反射的に銃を抜くのですが……
「やめて!」
敏子にしがみつかれた弾みで、スコッチは拳銃を暴発させてしまい、その弾丸は通行中のトラックに命中! フロントガラスを粉々にしちゃいます。
「やめて、お願い! 殺さないで!」
「いい加減にしろっ!!」
敏子を振り払って則夫を追うスコッチですが、逃げられてしまいます。
「何だねコレは藤堂くぅーんっ!!!」
ついに堪忍袋の緒を切らせた西山署長が、新聞を振り回しながら雄叫びを上げますw その新聞には「街中で刑事が発砲」「あやうくドライバーが巻き添えに」「無謀な逮捕劇」などと書かれており、そりゃ署長がハイパー激怒するのも無理ありませんw
署長はすぐさまスコッチを山田署に飛ばそうとしますが、ボスが何とか食い止めます。ここ半年、スコッチのフォローでボスは大忙し。内心では「頼むから山田署に行ってくれ」って、実は思ってるかも知れませんw
とりあえず、ボスのお陰でスコッチは捜査を続行。敏子が恵子に付き添い、スコッチはアパートを表で張り込みます。
部屋で恵子と二人きりになった敏子は、彼女が麻薬中毒者であることに気づきます。問い詰めると、恵子は戸川組の関本に騙されて麻薬を使うようになり、それを知った則夫が警察に相談しようとした為、関本に拳銃で消されそうになった。則夫はその時に抵抗し、揉み合ってる内に撃ってしまったらしい。
やはり、則夫の犯行は事故だった。敏子はそう確信し、スコッチには知らせずに、恵子と一緒に則夫と密会します。そして彼の口から、七曲署のマルボー担当刑事=高沢が事件に関与していた事実を聞き出します。
則夫は、恵子にクスリをやめさせようとして、高沢刑事に相談を持ち掛けたんだけど、その高沢が実は戸川組と内通してて、関本に知られてしまい、あの事件を招いてしまった。
そんな則夫の主張を、敏子は全面的に信じた上で、彼に銃口を向けられながら必死に自首を勧めます。
「関本を撃ったのは事故だったのよ。キミに人は殺せないわ。そうでしょ?」
心をこめた恵子の説得に、則夫は葛藤するんだけど、近づいて来たパトカーのサイレン音に逆上し、拳銃の引金を引いてしまう。発射された弾丸は敏子の腹部を貫くのでした。
「トコ! トコ! しっかりしろ!」
駆けつけたスコッチは、思わず婚約していた頃のあだ名で敏子を呼び、一緒にいたゴリさん(竜 雷太)を驚かせます。
虫の息で敏子は、高沢刑事の関与をスコッチに知らせるのでした。
「隆一さん……あの子はいい子よ……お願い、信じてあげて……あの子、騙されてたのよ」
ただちに敏子は病院に搬送され、スコッチが付き添います。
「どうして結婚しなかったんだ。3年前の事件か?」
原町署の署長から事情を聞いたボスが駆けつけ、問いかけますが、スコッチは言葉が出ません。ボスの言う通り、先輩刑事を死なせてしまった自分を許せなかったスコッチは、敏子を愛しながら一方的に別れを告げたのでした。
「ツラかったろうな、彼女」
「…………」
そこに、恵子を連れて逃走した則夫が廃ビルに立て籠ったという知らせが入り、スコッチは行こうとしますが、ボスに引き止められます。
「彼女のそばにいてやれ。これは命令だ!」
しかし手術の甲斐なく、敏子の延命は「絶望的」と診断され、スコッチはかつて愛した……いや、今でも深く愛してる彼女の、最期の言葉を聞くことになります。
「……本当に悪い人間はいないって……私……今でもそう信じてる……お願い……あの子を信じて……許してあげて」
そう言い残して、敏子は息を引き取るのでした。
「トコ! トコ! ……起きてくれ……起きてくれ……」
あのスコッチが、涙を流します。七曲署に着任した当初は、血も涙も無いように見えた男の、熱い涙。
一方、廃ビルに立て籠った則夫は、恵子を人質にしてすっかり逆上。まさに「追い詰められたケダモノ」状態で、いつ引金を引いちゃうやら分かりません。
ボスはやむなく、ライフル狙撃の準備をゴリさんに命じますが、そこにスコッチが駆けつけます。
「待って下さい! 撃つのはちょっと待って下さい。私が話をします」
「話すって、ヤツを説得しようってのか?」
「はい。お願いします!」
「敏子さんはどうした?」
「命令は守りました。最後まで……」
「最後まで?」
スコッチは、かつて「俺の味方はコイツだけだ」と言ってた筈の愛銃=コルト・ローマンをボスに託し、ビルの中へと飛び込んで行きます。
先の場面で自分を撃とうとした刑事の乱入に、則夫はますます逆上しますが、スコッチは丸腰のまま、彼と向き合います。
「話を聞け! 彼女は死んだ」
「!?」
「彼女は死ぬ直前まで、お前を信じていた」
「信じてた?」
「そうだ。お前は悪いヤツじゃない、信じてあげてくれ……それが彼女の最期の言葉だ」
「嘘だ! いい加減なこと言うなっ!!」
スコッチは、ゆっくりと則夫に歩み寄ります。
「俺もお前を信じる。お前が本当は人を殺せるような人間じゃないと。そう信じる!」
「来るな! 来ると殺すぞっ!」
いくら脅しても歩みを止めないスコッチに、則夫は夢中で引金を引き、弾丸はスコッチの片腕に命中します。物陰に潜む刑事たちが咄嗟に拳銃を構えますが、スコッチがすぐさま牽制します。
「撃たないでくれっ!」
立ち上がり、なおも近づいて来るスコッチに、則夫は再び発砲! 今度は足を撃たれ、満身創痍になりながら、スコッチはまた立ち上がり、血を流しながら歩を進めます。
「則夫……俺は彼女の代わりに此処にいる。お前を信じて死んだ、彼女の代わりに此処にいるんだ」
「…………」
その鬼気迫る姿に、則夫はもはや硬直状態。外でライフルを構えるゴリさんも指が動きません。
「本当に悪い人間はいない……彼女にそう教えたのは俺だ。彼女はそれを、最後の最後まで信じて……死んでいった」
「…………」
「だから俺は、お前を信じる。さあ、拳銃をよこせ……よこせ」
「……許してくれ……許してくれ!」
ついに則夫は、その場で崩れるように膝をつきます。彼を本気で信じきった、スコッチの気持ち、敏子の魂が、彼を救ったのでした。
本当に悪い人間はいないと、かつて敏子に教えたのは、ほかならぬスコッチだったという事実。そんな底抜けに優しい男だからこそ、彼は先輩を死なせた自分がどうしても許せなかった。自分だけが幸せになるワケにいかなかった。だから敏子との婚約を破棄したんですね。
こうして事件は解決しましたが、スコッチが七曲署で引き起こした数々の問題は消しようもなく、山田署への転勤が正式に決まっちゃいました。署長にしてみれば都合のいい厄介払いであり、ゴリさんやボン(宮内 淳)は納得出来ません。
「ヤツはもう立ち直りました。七曲署の立派な一員ですよ!」
「そうですよ! 信じられないなぁ、ボスがこんな人事をあっさり受け入れたなんて」
「逆だよ、ボン」
「は?」
いつものようにタップリ間を取りながら、山さんが渋く言います。
「ボスは、スコッチが立ち直ったからこそ、この人事を受け入れたんだ。スコッチは、どこへ行っても刑事としてやって行ける。そう判断したんだよ」
実際、ボスは「イヤなら行かなくてもいいんだぞ」と、署長のメンツを無視して言ってたんだけどw、スコッチは「どこの署にいようと、刑事であることに変わりはありません」と、あえて転勤を受け入れたのでした。
そして別れの挨拶もせずに七曲署を去って行くスコッチの表情は、実に晴れやか。敏子の遺志を受け継ぎ、最後まで則夫を信じきったことで、彼は今度こそ本当にトラウマを克服したワケです。
「スコッチ……さよなら」
署の屋上にいるボスがそう呟いた後、とても明るいというか、軽やかなファンファーレが鳴り響いちゃうラストシーンには脱力しましたけどw、これは決して悲しい別れじゃないんだっていう、創り手の想いを反映させた選曲なんでしょう。
もうちょっとカッコいい曲は無かったの?とか、余韻が台無しやん!とか当時は思ったけれど、この垢抜けなさもまた『太陽にほえろ!』の魅力じゃないかと、今は思えます。根っこは青春ドラマですからね。
それにしても本当に素晴らしいエピソードです。殉職じゃなく転勤編なもんであまり注目されないけど、人間・滝隆一を描いたドラマとしては殉職編より遥かに良く出来たストーリーで、『太陽』屈指の名作じゃないかと私は思います。何回観ても感動しますから。
ただしその感動は、初期スコッチのあまりに冷徹な姿が脳裏に焼き付いてるからこそで、2クールかけて描かれて来たドラマの到達点としての素晴らしさ。計算されたシリーズ構成の賜物ですよね。
中盤、スコッチのイメージアップを急ぎ過ぎたきらいはあるけど、それはテレビ番組としての責務だったでしょうし、後のジプシー刑事キャラ変の性急さとは比較にならないレベルです。
このレビューで第1期スコッチ編の素晴らしさが、皆さんにも伝わってくれていれば幸いです。
ところで、本作の3年後となる1980年に、スコッチは七曲署に帰って来ます。転勤先の山田署でも単独行動、命令無視を繰り返し、あわやクビになりそうなところを再びボスに拾われるワケです。
つまり、実はスコッチの問題行動に、過去のトラウマは全然関係なかった。単に困った人だったんですねw
北島敏子に扮した夏純子さんは、当時27歳。若松孝二監督によるデビュー作『犯された白衣』で早速ヌードを披露された後、日活の専属女優となり、同じ日活仲間の沖雅也さんとは'72年の映画『高校生無頼控』でもカップルを演じておられます。
刑事ドラマへのゲスト出演も『キイハンター』『東京バイパス指令』『非情のライセンス』『俺たちの勲章』『新宿警察』『夜明けの刑事』『明日の刑事』『華麗なる刑事』『新・二人の事件簿』『大空港』など多数。
純情派じゃない方の『はぐれ刑事』では沖雅也さん扮する影山刑事の相棒=風間刑事(平 幹二朗)の恋人役でレギュラー出演。道理で沖さんとは息ぴったりなワケです。
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