’80年代アイドル特集、第7弾は甲斐智枝美さん! 松田聖子さんや柏原芳恵さん、河合奈保子さん、田原俊彦などと同期デビューでアイドル全盛期の一翼を担ったけど、歌手としてより女優業でのご活躍の方が強く印象に残ってます。
本作と同じ’86年に『誇りの報酬』#16 に出られたほか、刑事ドラマは『特捜最前線』#396 と『はぐれ刑事純情派(第1シリーズ)』#16 にゲスト出演。日テレ系の朝ドラ『見上げればいつも青空』(’87) では主演を務められました。
が、’90年の結婚を機に芸能界を引退され、2006年に自殺という形で他界。それは残念なことだけど、智枝美さんの素晴らしい演技はこうして作品として残ってるし、素晴らしいヌードグラビアもまたしかり。至宝です!
☆第2話『探偵物語』(1986.12.5.OA/脚本=柏原寛司/監督=手銭弘喜)
『太陽にほえろ!PART2』は1986年11月から翌年2月まで、石原裕次郎さんの体調悪化→降板により急きょ終了を余儀なくされた前作から新番組『ジャングル』までの「つなぎ」として、最初から1クール(全12話)限定で制作された刑事ドラマ。
連ドラとしてはたぶん初の「女性ボス」を登場させた先見性と、何より「刑事役の集大成」として取り組まれた新レギュラー・寺尾聰さんの魅力がひときわ光るシリーズで、もっともっと評価されて然るべき作品だと私は思ってます。
藤堂ボスが栄転で七曲署を去り、篁朝子(奈良岡朋子)を新係長に迎えた捜査一係のメンバーは、ドック(神田正輝)、マミー(長谷直美)、ブルース(又野誠治)、マイコン(石原良純w)、DJ(西山浩司)、トシさん(地井武男)。
そして警察学校の教官職から現場復帰した長さん(下川辰平)に、番組史上初めてニックネームがついてない新任刑事=喜多 収(寺尾 聰)も加わって、総勢9名!
今回は喜多刑事=寺尾聰さんの『太陽〜』初主演エピソード。友人の私立探偵=飯山の事務所を借りて、歩美(甲斐智枝美)という女子大生のアパートを喜多さんとブルースが張り込みます。
歩美は宝石店強盗の容疑者=平田(森川正太)の恋人であり、現在のところ唯一の手掛かりなのでした。
ところがなんと、その歩美が自ら飯山の事務所を訪ねて来たから驚いた!
「警察より先にカレを見つけて、逃して欲しいの」
喜多さんとブルースを探偵だと思い込んだ歩美は、今まさに2人が追ってる容疑者=平田の逃亡補助を依頼して来たのでした。
「引き受けましょう」
ノリの軽い喜多さんは、とっさに飯山探偵に成りすました上、その依頼を二つ返事で請け合い、ブルースを呆れさせます。七曲署史上、最もふざけた刑事がこの男なんですw
時は1986年の暮れ。すでに同じ日テレ系で『あぶない刑事』がスタートしており、今回はそのメインライターである柏原寛司さんの脚本。
しかもネタが「探偵」なもんだから、本来チョー生真面目番組の『太陽にほえろ!』に『あぶデカ』流の軽いノリと「ハードボイルド」を持ち込んだ、かなりの異色作となってます。
きっと寺尾聰さんならそれがサマになる、と踏んでの事なんでしょう。ふだんの『太陽〜』じゃ聞かれないキザな台詞も満載! 例えば、喫茶店で待ち合わせた歩美と喜多さんのやり取り。
「早いじゃない」
「オンナ待たせるのは嫌いなんだ」
「私、好きよ。オトコ待たせるの」
そしてカフェバーに現れた平田を追跡するも、何者かに背後から拳銃で殴られ、倒れてるところに駆けつけた歩美と、こんなやり取り。
「探偵さん、どうしたの!?」
「ちょっと休憩してたんだ」
「これからオレの出番だ。オンナの時間はもう終わりだ」
とにかくいちいちカッコつけるw けど、それをチャーミングに感じさせちゃう。同じクール系でもスコッチ(沖 雅也)やデューク(金田賢一)だと違和感あるし、同じ軽妙キャラでもドックやDJには似合わない。クールさと軽妙さ、ハードさとソフトさを兼ね備えた寺尾聰さんだからこそ成立する、唯一無二のキャラクター。
ところで、そんな喜多さんを背後から拳銃で殴った卑劣な凶悪犯は、もちろんコイツらですw ↓
ほら出た! 髪を短くしようがヒゲを生やそうがどうせ血も涙もない片桐竜次と、内田勝正! この顔ぶれに人情や説得が通じる筈もなく、最後は銃撃戦しか有り得ませんw
当然、ヤツらの狙いは平田が隠し持ってると思われる宝石。どうやら宝石店を襲ったのはこの2人で、その計画を盗み聞きした平田が後からネコババした。だから2人は平田を探し出して拉致し、彼を追って来た喜多さんを殴り倒したワケです。
さて、平田がカフェバーに現れた時に一緒にいた悦子(岩城徳栄)という女を探し出した喜多さんは、宝石をネコババした平田がまず(歩美ではなく)悦子のアパートに転がり込んだこと、そして宝石を隠したであろうパイロットケースを彼女に預けた事実を聞き出します。
つまり平田は浮気していた。それに気づいてる筈なのに、相変わらず平田を逃がそうと頑張る歩美に、ハードボイルド喜多さんもさすがに情が入って来ちゃった様子。
「好きなのか、本気で? ヤツを助けたことがバレたら、自分だって警察に追われるんだぞ?」
「その時は助けてくれるんでしょ? 探、偵、さん」
「…………」
「どうしたの、元気ないわよ?」
「借金も悩みも多い年頃なのよ」
「好きな人いるんじゃない? そうでしょ」
「バカ言ってんじゃありませんよ」
「ふふ。可愛いのね」
こんな会話に我々が赤面したり失笑したりしないで済むのも、演じてるのがこのお二人だから。もしマイコンだったら何もかも台無しですw
甲斐智枝美さんがまた良いんですよね! 松本伊代さんや早見優さんの演技には正直「アイドル歌手の副業」感が拭えなかったけど、智枝美さんからは女優業に賭ける「本気」がヒシヒシ伝わって来ます。そういう人しかキャスティングしない姿勢を『太陽にほえろ!』は貫いてましたよね。
しかし! そんな良いムードも束の間、やっぱりあの男が乱入して来ちゃいます。
「取引なんて面倒なことは、中止だ。受け取りに来た」
「懐かしい顔だな。会いたかったぜ」
とっさに愛銃COLTパイソン2.5インチを抜く喜多さんだけど、片桐竜次が歩美を人質に取らないワケがありません。
「日本の探偵ってのは拳銃持ってるのか? お前、デカなんだろ?」
「えっ、そうなの!?」
喜多さんを飯山探偵だと信じきってた歩美は、当然ハイパー激怒します。
「悪かった。騙す気は無かったんだ」
「結果的には騙したんじゃない! バカッ!!」
「なんとでも言ってくれ」
「俺たちの宝石を持って来てもらおうか。逆らえば女と平田が死ぬぞ」
宝石を隠したパイロットケースは、平田に頼まれた悦子によって「拾得物」として七曲署に届けられてました。ほとぼりが冷めるまで保管するには警察署が一番安全ってワケです。
しかし、いくら同じ署の刑事でも、重要な証拠品を無断で、それも億の値がつく宝石の束をすんなり持ち出せる筈がありません。さて、喜多さんはどうするのか?
「ど、どうしたんですか? 喜多さん」
「へへ、貰っていくんですよ。恋人にプレゼントね」
喜多さんが選んだのは、正面から堂々と鑑識室に入り、満面の笑顔で当たり前みたいに宝石を持ち出すというw、考え得るかぎり最も手っ取り早い方法。当然、鑑識課員たちに追われるけどパトカーで逃げ切りますw
『あぶない刑事』なら珍しくもない場面だけど『太陽にほえろ!』では前代未聞。もうついて行けない!って憤るファンもいたかも知れないけど、私は拍手喝采でしたw この柔軟さがあればこそ15年近くも番組が続いたんだと思います。
だけど当然、卑劣な片桐竜次と内田勝正は宝石が欲しかっただけ。それさえ受け取ればみんな用済みです。
「間抜けなデカだぜ」
「人のことおちょくりやがって……ただで済むと思うな」
「それが済むんだよ」
「上等だ、その代わり1発で仕留めろよ。撃ち損じたら2人とも終わりだ。そこらのデカとは出来が違うんだ!」
言葉通り、スキを見てパイソンを奪い返した喜多さんは2人を追い詰め、まず片桐竜次を射殺しますw
あまりにアッサリ殺しちゃったもんで驚きました。殺さなきゃ人質が助からないとか、他に選択肢が無い状況でなければ射殺を許さないのが『太陽〜』という番組で、藤堂ボスだけが唯一の例外でしたから。
しかしこれは『太陽にほえろ!』が変わっちゃったと言うよりも、今回はハードボイルド編だから最後もクールにキメちゃうぜ!って事でしょう、きっと。言わば番外編です。今まで各番組でさんざん悪さして来た片桐竜次が死んでも誰も文句言わないしw
しかし2人とも殺したら自白が取れないから、内田勝正は片足を撃ち抜くだけで済ませた喜多さん。
「だから言ったろ? 1発で仕留めろって」
こめかみを撃つと見せかけて、拳銃で頭を殴って気絶させる喜多さん。いつぞやのお返しです。カッコいい!
こういうハードボイルドが似合うのって、やっぱり寺尾さんか『あぶデカ』のお二人、あとは藤竜也さんぐらい? 今の若い俳優には1人も見当たりません。
それはさておき……
残念ながら、あれほど歩美に愛されてた平田なのに、バチが当たったのか銃撃戦の流れ弾に倒れちゃいました。どうやら、とっさに歩美を守ろうとして撃たれたみたいです。
「宝石、金に換えたら……一緒に暮らそうと思ってたんだよ、お前と……」
「分かってる……言わなくても分かってるわよ、そんなこと!」
それが2人の、最後に交わす会話になっちゃいました。たぶん平田は嘘をついてるし、歩美もそれを分かった上で話を合わせてる。
恋人を失った歩美を覆面パトカーに導きながら、喜多さんが言います。
「アイツには別にオンナがいたんだぞ?」
「いいの。撃ち合いの時、私を庇ってくれたわ。すべて許そうと思ったの、その時」
「いいオトコ探せよ。いるぜ、たくさん」
「じゃあ、その時は依頼に行くわね。探、偵、さん」
「ああ」
’80年代らしい荒唐無稽なストーリーだし、決して『太陽にほえろ!』らしくはないんだけど、良かった! やっぱり、演じる人次第なんですよね。しつこいようだけどマイコンなら何もかもが台無しですw
これも繰り返しになるけど寺尾聰さんだからサマになるし、甲斐智枝美さんだからこそ感情移入できる。文字と静止画だけじゃ伝え切れないのが残念です。
この次の第3話『老犬ムク』もチョー名作だし、太陽にほえろ!PART2、あなどれません!
智枝美さんの演技にはすごい熱量を感じます。女優として、もっと評価されても良かったと思います。が、必ずしも実力ある人が売れるとは限らないのが芸能界なんですねぇ……
アイドル時代から甲斐智枝美さんの顔も体も大好きだったのですが、ドラマを見て改めて声も魅力的なんだと気づかされました。
このドラマでも本当に可愛いなぁと見とれてしまいました。
寺尾聰さんはアクションスターでPOPシンガーでしたから、お父上とはまた違った道を歩むのかと思いきや、黒澤映画に出てから名優カテゴリーに仲間入りされましたね。確かにルックスも似て来ました。
けっこう頻繁にテレビに出ておられたのに、最近お見かけしないのがちょっと気がかり。出たいと思える番組が無くなって来ただけ、なら良いのですが。
寺尾聰は全然お父さん(宇野重吉)に似てないと思っていましたが、歳を取るごとに似て来ました。やはり親子なんだなァと思います。