ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『太陽にほえろ!』#713

2022-03-03 23:32:19 | 刑事ドラマ'80年代

 
’80年代アイドル特集の第6弾は「お湯をかける少女」こと、工藤夕貴さん!

女優としてデビューしながらアイドルとして売り出す手法は角川三人娘(薬師丸ひろ子、原田知世、渡辺典子)からの流れで、武田久美子さんもその1人だったと思うけど、中でもひときわ高い演技力で一目置かれ、富田靖子さんと双璧を成す存在となったのが工藤夕貴さん。

今回あらためて観直しても、工藤さんの演技力はもはや「別格」で、その相乗効果なのかレギュラー陣の芝居も通常より数段レベルアップしてるように感じます。

そんな当時(1986年秋)の七曲署捜査一係のメンバーは、助っ人係長の橘警部(渡 哲也)を筆頭に、ドック(神田正輝)、マミー(長谷直美)、デューク(金田賢一)、ブルース(又野誠治)、マイコン(石原良純w)、トシさん(地井武男)、そして橘警部と同時に着任したばかりの新米刑事=DJ(西山浩司)!



本作は『太陽にほえろ!』最後の2時間スペシャルであり、また『太陽~』の長い歴史において超常現象をネタにした唯一のエピソード。後期『太陽〜』=つまらないと決めてかかってる連中は嘲笑してたみたいだけど、私は傑作だと思うし、今でも大好きな作品です。

当時アイドルだった宮田恭男、井丸ゆかり、田中浩二、そして大和田署長=草薙幸二郎、本庁の大沢管理官=神山繁etc…と、期首スペシャルだけあって脇を固めるゲスト陣も豪華です。

(なお、レビュー自体は過去に掲載した記事に画像を追加したリバイバル版です)



☆第713話『太陽にほえろ!スペシャル/エスパー少女・愛』

(1986.10.10.OA/脚本=古内一成&小川 英/監督=木下 亮)

ある夜、パトロール中のドック&ブルースが、建築中のビル屋上に佇む1人の少女を発見します。

自殺だと直感した2人が駆けつけると、なぜか少女はその場に倒れ、高熱にうなされてる。とりあえずドックらに病院へ搬送される途中、彼女はうわ言を呟きます。

「眩しい……光……」

「ネオン……21世紀の、ネオン……」



時を同じくして、小学生の男児が車にはねられ、運転してた若いカップル(宮田恭男&井丸ゆかり)に連れ去られたとの通報が七曲署に入ります。

少女を病院に送り届けたドック&ブルースも捜索に参加し、負傷した男児を座席に残したまま乗り捨てられた、轢き逃げの車を発見します。

その現場でブルースは「21世紀」という大きな文字が光る、ネオンサインがあることに気づくのでした。

「テレパシー!?」



ブルースは、自殺未遂の少女=西谷 愛(工藤夕貴)が、事故に遭った男児の見た光景(眩しい光=車のヘッドライトと、21世紀のネオン)をテレパシーで受信したんじゃないか?と考えます。

そう、西谷愛は超能力少女だった! ……なんてことを真顔で言い出すブルースを、マイコンやDJは「ダサい」と言って笑います。



ところが! 愛が熱でうなされた時、他に何が見えたか尋ねてみると、赤いエビみたいな物が揺れていたと言う。そして捕まった轢き逃げカップルの女の耳には、赤いサソリのイヤリングが揺れていた!



そのイヤリングをエビだと主張するブルースは、またもやマイコンに「ダサい」と笑われますが、いよいよ愛=エスパー少女であることを確信します。

その真偽はともかく、愛がなぜ自殺しようとしたのか、その原因がハッキリしません。優等生でスポーツ万能、性格も明るくてクラスの人気者なのに……

両親が2年前に離婚しており、現在は母親(田村奈巳)と二人暮らしなんだけど、父親とは現在も交流があり、離婚が原因とは思えないと母親は言う。



そんな折り、銀行強盗事件が発生します。逃走した三人組の犯人はそれぞれパーティーグッズの覆面をしており、まるで正体が掴めません。

愛=エスパー説に半信半疑だったドックは、実験を試みます。それは、犯人たちが捨てて行った3種類のマスクを、愛に見せて透視してもらうというもの。



愛は気乗りしないものの、ドック&ブルースの熱心さにほだされ、透視を試みます。結果、水の中を泳ぐ2匹の大きな金魚、丘の上に生えた5本のツクシ、そして歌舞伎の舞いみたいな和装の人物が、イメージとして浮かんだと言う。



それを手掛かりに捜査することを橘警部は許可しますが、どこから情報が漏れたのか「七曲署が捜査に超能力少女を起用!」という新聞記事が出てしまい、ちょっとした騒ぎになっちゃいます。

「この記事は、全くの事実無根であります」

記者会見でそう断言した橘警部を見て、ブルースは失望します。

「なんで……なんで事実を言わないんだ? やっぱり警部も超能力を信じてないのか」

こうなったら、意地でも愛の超能力で事件を解決してやる! 決意を新たにしたブルースに、朗報が舞い込みます。地下鉄の半蔵門駅と、つくし野駅、そして船堀駅にあるモザイク壁画が、愛の透視したイメージとそっくりであることを、さんざん超能力をバカにしてたDJが突き止めてくれたのでした。



一気にテンションの上がったブルースはがぜん張り切りますが、それらの壁画が強盗犯グループとどう繋がるのか、いくら考えても答えが出ません。

一方、防犯カメラに映った犯人のタトゥーを手掛かりに捜査を進めてたトシさん&マミーが、ついにその正体を突き止め、逮捕します。

結局、犯人グループと3つの駅との繋がりは、何もありませんでした。ブルースはまたもや凹みます。



その頃、愛はマスコミの心無い取材でプライバシーを侵害され、更に嫌がらせやイタズラ電話にも悩まされ、ストレスがピークに達しようとしてました。

橘警部がなぜ、記者会見で愛の超能力を全面否定したのか? その真意をようやく理解したブルースは、捜査よりも愛のメンタル面をフォローすべしと思い直し、再び自殺未遂の原因を探ります。

結果、3つの駅の壁画は、離婚前の親子3人が過ごした、楽しい想い出に繋がってることが判明。やっぱり、彼女は寂しかったのか?

「違うわ。そんなんで死にたくなったんじゃない! 違うのに! 違うのに!」

どうやらブルースのフォローは見当外れ&逆効果だったようで、愛はますます自分の殻に閉じ籠っていきます。

そしてまた、新たな事件が勃発! 老夫婦をある場所に監禁した、そこで翌朝9時に時限爆弾が爆発する、との脅迫電話が七曲署に入ったのです。

「あんたとこの超能力少女に居場所を突き止めてもらうんだな」



若い男っぽい犯人は、どうやら愛がマスコミに注目されるようになってから、嫌がらせやイタズラ電話を仕掛けてた輩と同一人物らしい。

なぜ犯人は、そこまで西谷愛にこだわるのか? そして愛の眠ったままの超能力は、果たして老夫婦を救うことが出来るのか? そもそも、彼女は本当にエスパーなのか?

緊急捜査の結果、実際に老夫婦が行方不明で、ダイナマイトの盗難届けも出ており、脅迫電話はただのイタズラじゃないことが決定的になります。そして拉致に使われた車の目撃証言から、磯部(田中浩二)という青年に容疑が絞られます。

彼はスプーン曲げの特技を持っており、かつての超能力ブームでマスコミに取り上げられ、ちょっとした有名人になった経験が忘れられず、今、時の人となった西谷愛への強い嫉妬心から、どうやら犯行に及んだらしい。

そこまで判明しても、老夫婦が監禁されてる場所だけは全く見当がつかず、時限爆弾が爆発する翌朝9時までに救出するには、犯人の言う通り愛の超能力に頼るしか無いのかも知れません。



ところが! またしても愛が自殺未遂をやらかします。マンションの屋上から飛び降りようとしたんだけど、今度は心臓に痛みを覚えて倒れちゃう。

駆けつけたドックは、やがて嘘みたいに痛みが治まった愛の様子を見て、ようやく超能力の正体に気づきます。

「薬を飲んだんだ……」

薬を飲んだのは愛じゃなくて、拉致された老夫婦の奥さん。心臓病を患っており、恐らく発作が出てすぐに薬を飲んで、痛みが治まった。

たぶん愛の超能力は、ある特殊な状況の時だけ発揮される。その特殊な状況とは、彼女が自殺しようとした時。車に跳ねられた少年のテレパシーを受信した時もそうでした。

愛は恐らく、死のうとした時にSOSを無意識に発信し、それが他の誰かのSOSと呼応し、その人の見た光景や痛みを共有する。今回は拉致された老人のSOSを図らずもキャッチしたワケです。

「違うわ……違う! 違う! みんな違う! 私はそんな超能力少女なんかじゃない! 優等生でもない! スポーツ万能選手でもない! みんな違うのよ!」

愛はようやく、ずっと奥底に秘めてきた本音を、ドックとブルースに吐露します。



「だから死にたくなるのか。キミはそんなのになりたくない。だけどいつの間にか、そういうレッテルだらけになっちゃって……それがイヤなんだ。そうだろ?」

ただの平凡な高校生のくせに、無理をして優等生でいようとする自分自身がイヤでイヤで仕方がない、と言って泣きじゃくる愛に、ドックが優しく語りかけます。

「要するに、頑張り屋なんじゃないか。それは決して悪いことじゃない。恥ずかしいことでも何でもないよ」

両親が離婚して、周りから同情されるのがツラくて、愛は勉強やスポーツを人一倍頑張って来た。その結果、優等生でスポーツ万能な子と見られるようになったけど、それは決して本当の自分じゃないと彼女は思ってる。

そのギャップに苦しんでた時に、今度は「超能力少女」なんていうレッテルまで貼られ、世間の注目を浴びてしまい、いよいよアイデンティティーが崩壊しちゃった。何もかもブルースのせいですw

「普通の女の子がそうであっちゃ、どうしていけないの? エスパーや優等生は特殊な人間だから、つまらない普通の女の子であっちゃならないって、そんな決まりがどこにあるの? 誰が決めたの? そう思ってるのは、キミだけだ」

ドックは捜査のことも忘れて、ただ彼女に生きてて欲しい一心で、懸命に語りかけます。

「思いきって、自分さらけ出して生きてみろよ。その立派なレッテルと、キミ自身とのギャップってのは、キミが思ってるほど大きくない筈だ」

ドックの説得を理解したのか、ようやく愛は落ち着きます。駆けつけた母親に彼女を託し、再び捜査に戻ろうとするドック&ブルースに、愛が重要な手掛かりを伝えます。

「刑事さん! 菊の花が、見えたんです」

愛が心臓に痛みを覚えた時、つまり拉致された老人のSOSをキャッチした時に、菊の花を上から見下ろしたような光景が頭に浮かんだ。恐らく、そういう場所に夫婦が監禁されてる。爆破予告の9時まで、もうあと数時間しかありません。

「警部! 俺たち、これに賭けてみようと思います!」

「よし、やってみろ!」



橘警部の許可を得て、ヘリコプターをチャーターしたドック&ブルースは、上空から菊の花(のように見えるもの)を必死に探します。そして……

「ドック、あれ!」

小学校の校庭に、黄色く塗ったタイヤをピラミッド状に積み上げた、巨大な遊具がある。そのすぐ横のウィークリーマンション上層階から小学校を見下ろせば、菊の花みたいに見える!



間一髪、ドック&ブルースによって老夫婦は救出され、犯人も逮捕されます。愛の超能力が、見ず知らずの夫婦の生命を見事に救ったのでした。

後日、それを報告しに来たブルースに、愛は心からの笑顔を見せます。ドックに「自分をさらけ出してみろ」と言われて、急に気がラクになったと彼女は言います。

「結局、頑張ってた自分がホントの自分だってことが、やっと分かったの」

「うん。自分で自分を嫌ったって、意味が無いってこっちゃ」



ドックみたいな説得力は皆無だけどw、元気に生きていって欲しいというブルースの気持ちは、彼女に伝わったみたいです。

「澤村さんって怖そうに見えるけど、ホントは凄く優しい人なんですね!」

そう言って元気に学校へと駈けていく愛の後ろ姿に、ブルースはしみじみと呟きます。

「幸せになって欲しいよなあ……」

今回の結果を受けて、西谷愛を七曲署専属のアドバイザーとして迎えよう!なんて言って盛り上がる同僚たちを、ブルースは「彼女はもう、エスパーじゃないんだよ」と一蹴します。

「えっ、どういうこと?」

「つまり彼女は、もう絶対に自殺なんかしないって事だな」

「そうです、警部」

「良かったな、ブルース」

「いやぁ、今回は楽しかったです!」



じゃあ普段は楽しくないのかよ?っていう疑問も残しながらw、一件落着。やっぱり『太陽にほえろ!』は、希望のドラマなんですよね。こういう爽快な後味を残してくれる刑事ドラマが、現在はなかなか見られません。

今回、銃撃戦やカーチェイスなど派手な見せ場は一切なし。にも関わらず、2時間の長尺を全く退屈させずにラストまで引っ張るクオリティー。

特に、超能力という言わば非現実的なテーマを「理想と現実とのギャップ」という思春期に誰もが味わう普遍的テーマと融合させることで、とても身近なものに感じさせた脚本が本当に素晴らしいと思います。

この『エスパー少女・愛』は本来、DJ刑事の主演エピソードとして用意されてたんだそうです。ところが西山浩司さんが体調を崩して入院する羽目になり、急遽ブルースが代役を務めたんだとか。

確かに、超能力を盲信しちゃう刑事としてはDJの方がキャラ的に自然だし、西山さんならまた違った面白さで笑わせてくれたと思うけど、ブルースだからこそ良かった部分も多々あるんですよね。

あの武骨な顔で愛=エスパー説を力説し、後輩のDJやマイコンwに笑われちゃう描写はブルースだからこそ可笑しいし、女子高生との不器用な交流もブルースだからこそ心温まるものがありました。

DJが相手だと、ちょっと恋愛感情みたいなのも絡みそうで、それはそれで楽しいかも知れないけど、結果的にはブルース主役で良かったように私は思います。コミカルな役どころを自然にこなして見せた又野誠治さんの演技、それを巧みに受けた神田正輝さんの助演もまた素晴らしい!

そしてエスパー少女=西谷愛を演じた工藤夕貴さん、当時15歳(!)。ヒラタオフィス所属、つまり多部未華子さんの大先輩にあたる女優さんです。

デビューは小堺一機さんのバラエティー番組で、最初に注目されたのは「お湯をかける少女」のキャッチフレーズが話題になった、即席ラーメンのCM。そして石井聡互監督『逆噴射家族』や相米慎二監督『台風クラブ』等の映画で高い評価を受け、演技派の若手女優として広く認知された上での『太陽にほえろ!』ゲスト出演でした。

確かに本エピソードは、工藤さんの演技力に支えられてる部分も多々あり、通常レベルの若手ゲストだと陳腐な印象に終わった可能性もあります。特に、泣きじゃくりながら初めて本音を吐露するシーンの演技は圧巻でした。

ちょうどこの時期から工藤さんはハリウッドへの挑戦を始め、まさに今回の役柄さながらにコツコツ努力を続け、ついに'89年、ジム・ジャームッシュ監督の『ミステリー・トレイン』で永瀬正敏さんと一緒にアメリカ映画デビューを果たされます。

以降、『ヒマラヤ杉に降る雪』や『ピクチャーブライド』『ラッシュアワー3』等、ハリウッドを拠点に現在も活躍中。工藤さんにとって『太陽にほえろ!』は、日本における数少ないゲスト出演作にして、唯一の刑事ドラマだった筈。そういう意味でも、まさにスペシャルな作品です。


 


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