’80年代アイドル特集、第3弾は倉田まり子さん! 『Gメン’82』第2話にそのまんま「アイドル歌手」の役でゲスト出演されてました。
しかし基本は悲劇の『Gメン』シリーズですから、元気きゃぴきゃぴ!ってな役どころには当然ならず、ちょっと陰影のある倉田さんの持ち味が存分以上に活かされた内容になってます。
倉田さんはこれより3年後、投資ジャーナル(株式不正売買)事件で逮捕された大物投資家の「愛人」スキャンダルで芸能界から引退を余儀なくされちゃいます。(現在は坪田まり子の名でキャリア・カウンセラーとしてご活躍中)
そんな未来をちょっと予言したかのようなストーリーでもあるし、約5年間の芸能活動において刑事ドラマへのご出演はこれ1本のみらしく、いろんな意味で貴重なフィルムと言えそうです。
☆第2話『アイドル歌手トリック殺人』
(1982.10.24.OA/脚本・監督=小松範任)
『Gメン’82』は1982年10月から’83年3月まで、TBS系列の日曜夜8時枠で全17話が放映された、TBS&近藤照男プロダクションの制作による東映系の刑事ドラマ。
言わずと知れた大ヒット作『Gメン’75』の続編だけど、NHKの大河ドラマやテレ朝の『西部警察 PART II 』を敵に回したチョー激戦区であえなく敗退。
だけど放映枠はたぶん関係なく、無表情でハードボイルドを気取りながらウェット極まりない悲劇を演じる、暗い暗い作風が’80年代の空気と著しく合わなかっただけ、の事だろうと私は思います。実際、初回はリアルタイムで観たけど「つ、つまらん!」と冒頭数分ですぐ『西部警察〜』に切り替えた思い出があります。
時代の流れに迎合しない創り手の姿勢を今でこそリスペクトするけど、当時ガキンチョだった私には何をどう楽しめば良いやらサッパリ分からず……いや、今あらためて観てもビミョーですw
そんな無表情なGメンたちの筆頭はもちろん、セリフも棒読み一辺倒な大霊界のBIG BOSS=黒木警視正(丹波哲郎)!
そして無表情さと冷酷さにおいて丹波ボスにも負けてない、鬼夜叉でマダムキラーな立花警部(若林 豪)!
Wヒロインの1人、津村警部補(江波杏子)は今回なぜか欠場で、結果的に紅一点となった賀川刑事(范 文雀)と、新メンバーの早坂警部補(篠田三郎)、沢田刑事(清水健太郎)、島刑事(三浦浩一)。
そして倉田まり子さんが演じたのは、人気絶頂のアイドル歌手で警察の交通安全キャンペーンガールも務める、中里ユキ。
彼女は、沢田刑事が沖縄県警でお世話になった大先輩=中里警部補の一人娘で、沢田とは旧知の仲。
もちろん、そこは『Gメン』ですから、かつて中里警部補が銃撃戦で沢田を庇って撃たれ、殉職しちゃったという暗い背景もあったりします。
で、国際麻薬シンジケートの運び屋=ロペスが来日し、そいつをマークしてた早坂警部補が撃たれちゃう。
仲間の弔い合戦(死んでないけど)に燃えるGメンたちのアクティブな活躍が見られる!かと思いきや、そうはならないのも『Gメン』って番組の天邪鬼さ。ストーリーは意外な方向へと進んで行きます。
その夜、ロペスが車で轢き逃げされて死んじゃうんだけど、Gメンが捜査を進めていくと、彼を轢いたのはどうやら中里ユキの自家用車であることが判明!
実はテレビ番組の収録を終えたユキが、ステージママの母親=治子(水野久美)を助手席に乗せて帰宅中、暴走する対向車をよけてハンドルを切った際に、通りがかりの(?)ロペスを轢いてしまった!
で、ユキはすぐ救急車を呼ぼうとしたのに、母親の治子が全力で阻止したのでした。
「あなた、死んだお父さんの顔に泥を塗るつもりなのっ!?」
ユキがいま絶好調の人気歌手で、しかも交通安全のキャンペーンガールまでやっちゃってること以上に、治子は名誉の殉職を遂げた夫=中里警部補の名を汚すことを何より恐れ、残りの人生すべてを賭けて事故を隠蔽しようとしていた!
「証拠は何も無い。しかし、容疑は極めて濃い」
黒木警視正は、恩師への想いと職務との狭間で苦悩する沢田に、無表情かつ棒読みで言い聞かせます。
「沢田。どんな人間にも魔が差す時はある。俺たちもいつどんな犯罪に足を掬われるとも限らんだろう。中里ユキとて例外じゃあるまい」
「…………」
「問題はその先だ。口を拭って罪を隠すか、潔く罪を償うか……お前の気持ちは解るけどな」
勿論、たとえ隠し通せたとしてもユキの胸から罪の意識は消えず、決して幸せに生きて行けないのは眼に見えてます。
「……警視正。殺人容疑で、中里ユキの逮捕状を取って下さい!」
えっ? さっき「証拠は何も無い」って言ってなかった!? なんてツッコみ始めたら『Gメン』はキリがありませんw そもそもこの事件、トリック殺人でも何でもない!
「あんた、忘れたの? 死んだ中里があんたを助けた……命の恩人の娘に、どんなつもりで手錠を掛けに来たのよっ!?」
的確に痛いところを突いてくる治子に、沢田も負けずに核心を突きます。
「……自分は、中里警部補を信じてます」
「!!」
つまり、愛する娘が罪を隠したまま生きていくことを、あんたの旦那が望んでると思うのか?って事でしょう。
「……私、行きます」
「ユキ!?」
かくして、任意同行に応じたユキは、あの夜にあった出来事を洗いざらい刑事たちに打ち明けるのでした。当然、アイドル歌手としての復帰は絶望的……かと思いきや!
科捜研に行ってた賀川刑事が、どえらい土産話を持ち帰って来ます。なんとロペスの死因は、大量のヘロイン摂取によるショック死だった!
「それじゃロペスは、ユキちゃんに轢かれる前に死んでたかも知れないんですか!?」
そう、ロペスは麻薬シンジケートに口封じで殺され、路上に捨てられた直後に、ユキの車に轢かれた可能性がある。だとしたら当然、ユキが殺した事にはならない!
だけどユキ自身はあの時、暴走車を避けるのに夢中で周りの状況を何も見てなかった。今、彼女を救えるのは、唯一の目撃者である治子しかいない!
慌てて治子を探しに行った沢田は、あわや電車に飛び込む寸前の彼女を見つけ、命懸けで阻止します。
「もう何もかも終わったのよ! 主人に何と言って詫びたらいいの!?」
「死にたければ死ぬがいいさ! だがその前に、真実を突き止めるんだ! ユキちゃんがもう一度、胸を張って堂々と唄えるまで、俺はあんたを死なせたりはしない!」
かくして、治子の記憶により割り出された暴走車から真犯人が判明し、Gメンたちが逮捕に向かうんだけど、そこで急にあの人が帰って来ます。
「俺を撃ったヤツを逮捕させて下さい!」
そう言えば早坂警部補、撃たれてましたねw 何のために撃たれたんだかよく分かんないw(たぶん篠田三郎さんが忙しかったんでしょう)
もちろん真犯人は逮捕され、晴れてユキは無罪放免! いやいやいや、交通事故の隠蔽もリッパな犯罪じゃないの?って話だけど、前述のとおり『Gメン』にツッコみだしたらキリが無いんです。(たぶん黒木警視正が力ずくで揉み消したんでしょう)
ユキは当初の予定通りアメリカ公演へと旅立ちますが、同行する筈だった治子は飛行機をキャンセルしました。
「この子が生きていく上で、私の役目はもう終わりました。名誉や華やかな生活よりも、もっと大事にしなければならないものを私は忘れていました」
「沢田さん。今度のことで私、何だかやっと本当の歌を見つけたような気がします。ありがとうございました」
「精一杯、胸張って唄って来いよな」
初期の『Gメン』ならもっと悲惨な話になっただろうと思うけど、さすがに’80年代。明るく終わって良かったです。
ちなみに本エピソードは『Gメン’75』第44話のリメイクで、さらに前身の『アイフル大作戦』にも似た話があったとか。こういった使い回しも昭和ドラマの「あるある」ですよね。
オリジナルでは現役警察幹部の妻が犯した罪が描かれ、娘は登場しなかった模様。道理で今回も、真の主役はユキじゃなく、母親の治子だと私は感じました。だからこそ水野久美さんがキャスティングされたんでしょう。
シミケンさんにも色々ありましたねえ。芸能界とヤクザはほんと紙一重です。
たまにはうちのブログも見に来てください…というのはともかく。
この話はDVDで見ましたが、確かに言うほどトリック使ってなかった気が。
それ以前に、沢田刑事の中の人が後々ああなるとは…。
おそらく香港ロケでの某共演者のせい…というのはまた別の機会にでも。
ところで、証拠隠滅のためスクラップにされる車が型落ちの赤いスカイラインなんですが、裏番組の覆面車は赤黒カラーの派手な最新型スカイライン…狙ってませんよね?