ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『悪魔が来りて笛を吹く』

2018-10-30 12:00:07 | 日本映画










 
『刑事珍道中』と同じく、角川映画の異色作にして「隠れた名作」とも言われてる、1979年公開の作品です。これも斎藤光正監督がメガホンを取られ、日テレ青春ドラマ&刑事ドラマのキャストがたくさん出演されてます。

原作者=横溝正史さんが自ら顔を出して「この恐ろしい小説だけは、映画にしたくなかった……」なんて、身も蓋もない事をおっしゃるTVスポットも話題になりました。角川書店のそういった戦略センスが、時代の空気を見事に掴んだ絶頂期でしたね。

だけど、私自身は進んで怖いものを見たい観客じゃないもんで、そのCMに釣られたワケではなく、本作を劇場まで観に行ったのは『太陽にほえろ!』のボンボン刑事=宮内 淳さんが重要な役で出演されてたからです。

まだ『太陽~』出演中の時期で、本来ならば掛け持ち出演は御法度なんだけど、『太陽~』でもレギュラー監督陣の一角を担ってた斎藤監督の熱烈なラブコールにより、例外的に実現したキャスティングでした。

斎藤監督が宮内さんに白羽の矢を立てられたのは、もちろん俳優としての力量や人柄を見越しての事でありつつも、同時に角川映画らしい「仕掛け」を目論んでの事だったと、私は推理します。

説明するまでもなく、本作は名探偵・金田一耕助が活躍する横溝ミステリーの一編ですから、真犯人が意外な人物であればあるほど、クライマックスは盛り上がるワケです。

もう40年近く前の映画ですから、ネタをバラしちゃいますが……

あの当時『太陽にほえろ!』は視聴率が常時30%を超える絶頂期にあり、その中でも宮内淳さんはブロマイドの売り上げトップ1を何ヶ月も独走するほど、アイドル的な人気を集めてました。

しかも宮内さん演じる「ボン」は、劇中に登場する刑事達の中でも一番のお人好しキャラで、大袈裟に言えば「日本で最も連続殺人犯のイメージから遠い男」だったワケです。

『太陽~』が俳優デビュー作で、掛け持ち出演は基本的に許されなかった当時の宮内さんは、まだ「ボン」の純朴なイメージしか世間に認知されてない。ゆえに、それを逆手に取って……

もはや言うまでもなく、宮内さんは真犯人の役を演じられたワケです。映画の冒頭で、犯人が連続殺人へと至る発端となる出来事が描写されて、誰だか判らないようシルエットで撮られてるんだけど、ファンが見れば独特な走り方と声で、宮内さんだってすぐに判っちゃうw

それはご愛嬌としても、女性の股間から鮮血が床一面に広がり、階段へと流れ堕ちていく、この冒頭シークエンスはとても衝撃的だし、不吉な内容を予感させる素晴らしい演出だったと思います。

(ちなみに古谷一行さんが金田一に扮する連ドラ版では、宮内さんと同じ役をスコッチ刑事こと沖 雅也さんが演じておられました)

さて、この映画が良くも悪くも話題になり、横溝ミステリーファンの間じゃ賛否両論に分かれてるのは、金田一耕助を演じてるのが西田敏行さんだから。

金田一ミステリーは好きだけど、それほど金田一探偵に思い入れがあるワケじゃない私から見れば、西田さんの金田一は結構ハマってたように思います。それより、私のお目当てはボンボン刑事だったしw

それに、原作者である横溝氏が自ら「この恐ろしい小説…」って仰った通り、内容はとてつもなくドロドロした人間関係と、救いようもない愛の悲劇が描かれてますから、西田さんの明るさや人懐っこいキャラが、どれほど救いになったか分かりません。西田さんで良かったですよホントに。

簡単に書くと、戦後の混乱期に伯爵だか子爵だかがいる華族の屋敷内で、肉欲に溺れた男女が近親相姦を繰り返した挙げ句、生んじゃいけない子供を何人も生んじゃった。

で、それぞれ余所の家に引き取られた男の子と女の子が成長し、お互いそうとは知らずに愛し合ってしまう。知ってしまった時には子供を宿してて、絶望した2人は自らの手で堕胎しちゃうんですね。それが冒頭のシーン。

法律では裁きようのない罪を裁く為に、2人は復讐を誓ったワケです。もちろん、最後には自らの罪をも裁くべく……

悲劇はこの2人だけじゃないんです。金田一に調査を依頼した少女(斎藤とも子)は華族の末娘で、その汚れきった血が自分自身の身体にも流れてる事を、彼女も知る羽目になっちゃう。

そんな彼女を気遣い、犯人兄妹にも同情を寄せながら真相を暴いていく金田一。彼にとっても又、これは生涯において1、2を争うツラい事件だったかも知れません。

だから、癒しキャラの西田局長でないとこの映画はツラいんです。斎藤とも子さんの清楚な魅力も実に効いてましたね。本当に切なくて、泣けて来ちゃいます。

あと、事件の元凶とも言える、近親相姦の末に彼女らを産んだ母親役の、鰐淵晴子さん! 妖艶でありながら、無垢な幼女みたいに頼りない感じもあって、めちゃくちゃ説得力があるんですよね。一番ヤバいのはこういう女だよなあっていうw

宮内さんと禁断の恋に墜ちる妹を演じたのは、二木てるみさん。黒澤明監督の『赤ひげ』(’65)で史上最年少(当時)の助演女優賞に輝いた天才子役が、本作で宮内さん相手に濃厚な濡れ場&ヌードを演じておられます。

お馴染みの等々力警部には夏八木勲さんが扮するほか、池波志乃、梅宮辰夫、浜木綿子、中村玉緒、藤巻潤、三谷昇といった人達が脇を固め、青春シリーズから中村雅俊さんや秋野太作さんもカメオ出演されてます。もちろん角川社長も、そして横溝正史さんまで!w

山本邦山&今井裕によるサウンドトラックも素晴らしくて、この映画はホント、市川崑監督&石坂浩二主演のシリーズにも引けを取らない、まさに「隠れた名作」だと思います。

最近になってようやくDVD化されましたんで、興味がおありの方は是非!
 


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