
会津の旅館『原瀧』にて
ここの朝飯はゴーカです
旅館で食べる朝飯は美味い。
塩鮭。あじの開き。味付き海苔。生卵。お新香。
あるいはロースハムが二枚畳んであって、ミニトマトが添えてあったりする。ロースハムには、なぜかマヨネーズがしぼってあったりする。
素朴と申しますか、清貧とも言えるような品々なのだけれど、これがどういうわけか食欲をそそるのであります。
「いただきます!」の挨拶ももどかしく、完爾と飯をかっこむ。一膳目はあっという間に平らげる。少し慌てた様子で(何故?)女中さんに声を掛け、二膳目をつけていただく。
親戚一同の集まりなどでも、だいぶご高齢の叔父さんが、二膳三膳と、ご飯をお代わりする。
「ちょっと、もうやめておきなさい」
と奥さんに注意されているのだが、叔父さんは言うことをきかない。
「朝飯は出陣のエネルギーだっ!」とおっしゃる。それを眺めている親戚一同、内心ハラハラしている。
「ぽっくり逝かないでよ」
と、いかにも身内らしい心配をしている人もいる。

こんなところで朝飯食ってみたい
これに対して、ホテルの朝食はだいぶ様子が違う。
バイキングなどと称して、大皿にベーコンだのサラダだのを盛りつけ、あらかじめ配置しているところが多い。客人たちは大人しく行列して、各々料理を取り分けていく。
前を進む人の足取りが重い。
所在なげに首すじをかいている方もいらっしゃる。
全体に、「飯なんかどうでもいいしぃ」という雰囲気がある。
自分も何となくアンニュイな気分になって着席すると、お隣には何らかの事情がありそうな中年のカップルがおいでになる。不味そうに、かつけだるそうにコーヒーをすすっている。
そうなのだ。ホテルの朝飯は、けだるいのであります。少しヤル気がないんであります。
かちかちに冷えて固まったベーコンをつつきながら、
「美味い朝飯はどこだ...」
と、朝飯の疑問は果てしなく続いていくのでありました。