hinajiro なんちゃって Critic

本や映画について好きなように書いています。映画についてはネタばれ大いにありですのでご注意。本は洋書が中心です。

Hotel on the Corner of Bitter and Sweet

2017年06月24日 | 洋書
1986年シアトル。病の妻を亡くしたばかりのヘンリーの元に、戦時中収容所に移送されることになった日系人の遺留品が長い間閉鎖されていたパナマホテル地下から40年ぶりに発見されたニュースが飛び込む。公開された品々を目にしたヘンリーは、かつて離ればなれになった親友であり初恋相手の日系少女のことを思い出す。

 「思い出す」というのはちょっと違って、封印していた想いが溢れ出てきてしまったという感じでしょうか。

 中国人二世のヘンリーは父親の強い信念の下、白人だらけの学校に通っていた。
 ほかのチャイナタウンの子供たちは中華学校に通っているのに、自分だけは「中国語ではなくいつでも英語話せ」と言われ、そのわりには「お前は中国人だ。中国人としての誇りを持て」と。I am Chinese. のボタンを常につけながら白人の学校に通うヘンリー。
 父の意向が全く伝わってこず、そのために人種差別たっぷりのいじめに合うことに納得がいかず悶々としている。とにかく何も感じず考えず時間が過ぎていくのをひたすら待っているような子供時代を過ごしている。
 ある日日本人のケイコと出会う。

 I am American.

 ケイコはいつでもはっきりそう言う。
 戦争で日本人に対する風当たりが強いからそう言っているわけではない。
 私はこの国で生まれてこの国で育っている。この国の言語を話しているの。だからアメリカ人なのよ。

 ヘンリーはアメリカで外国人の、しかも同じ東洋人家庭で育っているということ、同じように差別に遭いいじめに遇う、似たような境遇の者同士、このご時世日本人のケイコの方が弱い立場だし守ってあげたいと最初は思うのだが、なにかが違う。しっくりこない。
 進歩的でリベラルで教養あり、流暢に英語を話すケイコの家族と付き合うことによってそのしっくりこなかった理由がわかり、それと同時にますます自分の父親の気持ちが分からなくなり、距離ができてしまう。 

 真珠湾攻撃をさかいに、ニッポン人町から強制収容所へとケイコの家族は移送される。
 日本軍に家屋と家族を奪われ、祖国の中国からシアトルへとのがれてきた経験から日本人への憎しみを生涯の生きる糧にしているヘンリーの父親の目を盗みながら、ヘンリーとケイコは手紙を送りあい、心を通わし続ける。
 それもやがて・・・・

 戦時下に外国で過ごす子供たちの様子、外国で子供を育てる親の思い(どちらも自分たちなりに子供の未来を守ろうとしているんですよね)、などが作者があくまで中立な立場を崩さずに描写する社会状況とともに綴られています(アメリカ国籍を持っているのも関わらず、日本人であるというだけで迫害されているシアトル在住日本人の様子はなかなか身につまされますが・・・・)
 そんな作品です。

 8 out of 10

 別の人種だから、別の信仰をしているから、そんなことで程度の大小はあれど、人を傷つけることがあまりにも多発している今だからこそ、この作品は響いてくるでしょう。
 本当に続きが気になって本を置くことができませんでした。目で追えない時は、とっても素敵な朗読をする動画があるのでそれで聴いて、時間のある限りこの作品に没頭しました。
 お勧めします。

 
 さて、余談ですが、ケイコと出会うまで友達のいなかったヘンリーが唯一心を通わせていたのが、路上でサックスを演奏するシェルダンという男性なのですが、この彼を通じてヘンリーはジャズに魅せられていき、ジャズを聴くこともケイコとヘンリーの間のスペシャルなひと時となっています。
 そしてこのタイミングでわが家ではそれまで微妙な音楽を愛好していた息子が急にジャズにハマり始めて、読書中家の中にジャズミュージックが流れていました。雰囲気出る!
 その上、息子のジャズバンドが演奏する夜もありまして、作品の内容に思いを馳せながらうっとりする気満々で生演奏を観に行ってきました。こういう偶然っていいよなぁ。
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The Lowland

2017年06月18日 | 洋書
 あまりにも胸をしめつけられるような苦しい読書体験だったので感想はあまり書けそうもないです。
 私はあらすじに書いてあるような内容として読んだのではなく、子供の頃から愛されることを求め、自分の存在意義を模索し続けた一人の男性の物語として読んだので、ほぼ最後までその孤独感に押しつぶされそうになりました。
 愛情を求め、認められることを期待して生きていると、自然と自由奔放な人や自己中心的な人を引き寄せてしまうことって多いと思うんですよね。
 自分は一生真似はできないし枠からはみ出ることはできないから憧れるし、それと同時に嫉妬や憎しみのようなものも心の奥底にどうしても宿ってしまう。
 そんな気持ちを持つ自分が嫌で起こす行動は、結局は勝手な人たちに振り回されることになり、でもいつかは理解してもらえるかも、伝わるかもと期待して傷ついて、最後はシャットダウンすることでしか自分を守れないし救えない。
 本書には主な登場人物が数人いるけれど、私が個人的に主人公ととらえて読んだ人物は上に書いたインド人の兄弟の兄で、残りの全員が自分の気持ちが一番大切、自分の選ぶ生き方をしたい、でも孤独は嫌なので他人を巻き込むたいという人々。
 一つの家族の物語ではあるけれど、世の中の縮図のような人間模様を描いた作品です。

 7 out of 10
 
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Food Whore

2017年06月11日 | 洋書
 食べることが大好き。
 時々まったくもって身の丈に合っていないレストランでご馳走を食べて偉そうに感想を述べる、これが映画鑑賞、読書に続く私の趣味です。
 食事だけではなく、インテリア、サービス、シェフ、全体に興味があります。
 それにレビューを読むのも大好き。
 そんなわけで、ニューヨークの一流レストランとレストラン評論家の話なんて面白そうだと思い読みました

大学院生のティアの夢はレシピ本を書くこと。
尊敬する料理家ヘレンの元で修行をして夢を叶えるためニューヨークへ来た。
ところが偶然にニューヨークで一番力のある評論家と出会い、味覚を失った彼のゴーストライターとしてレビューを書くことになる。
報酬はなによりも自分の言葉が一流紙に載ること。それまで足を踏み入れるチャンスのなかった一流レストランでの食事、その上一生袖を通すことのなかったであろう超高級ブランドの洋服、バッグ、靴、アクセサリーを定期的に大量に購入してもらえる。そして評論家が手術により味覚を取り戻した暁には、憧れのヘレンに紹介してくれるという。
野心家のティアは自分の言葉がニューヨークのレストラン業界をコントロールしている様子に酔いしれるが、、、、

 読み始めてしばらくすると、主人公の女の子があまりにもおバカだし、次から次へといい男が登場するので、「こ、これは、まさかの、、、、」と思ったらやっぱり(涙)、チックリットでした!
レビューの中のチックリットという文字を完全に見落としていました。

 レストラン側の様子、評論家業界の様子なんかも物々しくなく軽いタッチで分かりやすく描かれているのは読みやすい。そこがチックリットの良いところですね。
 そして期待通り、数々の魅力的なメニューとそのdescriptionが面白い。想像できるものもあれば、まったくチンプンカンプンなものも。ほんと予想できない料理ってたくさんありますもんね、実際。
 私は食に関しては冒険家なので失敗は数え切れない。タイ風すき焼きというメニューを頼んだらほぼ山盛りのしらたきだけだったこともあるし、ジャガイモと卵とあったのでトルティーヤだと思って頼んだものが、1日放置したチップス(フライドポテト)の上にただの目玉焼きが乗っかっている様なものだったり、、、、でもワクワクがたまらなく、想像もできないものを頼むのを止められない。

レビューが書かれているところでは、なるほどなるほどこういう表現の仕方があるのか、など興味深い表現がたくさん。
 でも主人公の書くレビューは「NYの一流紙のレストランレビューは本当にこんな風な書かれ方なの?」と笑っちゃうくらいなんて言うのかなぁ、恥ずかしい文言がいっぱい。主人公は自信満々だし作中のプロも認めてるわけだし、作者も実際その道でやっていっているのだから良いのかも知れないけれど、あまりにも飾り立てた言葉の羅列はいかがなものか。こういうのをいいレヴューというのかな?もう少しストレートフォワードの方がいいと思うんだけど、、、

それにしてもクリエイティブな世界にいると、例えどんな形にせよ、自分の作品が世に出ることがなによりも嬉しいと思ってしまう瞬間があるのだろうか。例え他の人の作品としてでも、、、?
 ゴーストをやるならなぜ条件に、自分の名前を使ったレビューを他の雑誌に書かせてもらえるように手配してもらうなり、ヘレンとの関係を確実なものにしてからにしないのか。口約束を信じてしまうなんて、、、、これ、愛人契約もしくは援助交際と変わらないし。Food Whore どころかただの Whoreじゃないのよ。
若い時ってこういうことあるよね、失敗を重ねながら成長するんだもんね、そもそもまだまだ子供のような彼女の野心を利用し騙そうとする大人が悪い。
 そうは思っていてもどうにも主人公が好きになれず「全然ハッピーエンドにならなくっていいわ」と思いながら読む本ってね、なんだか微妙。
どっちも痛い目にあって欲しい!とどんな結末が待っているのか先が気になり一気読み、ってさ。
あー、いたいけな若者を応援できずにいる歪んだ大人の私、、、、、そんな私のratingは、

 二つ星 (四つ星が最高)

 最後主人公はしっかり罰を受けるのだけれど、周りのサポートがあってセカンドチャンスが与えらえた終わり方をしているのは良かったですね。さすがの私もそこに不満はないです(笑)
 自分の勘違いだったのだけれど、もうちょっとシリアスな感じのレストランビジネスの内側が書いてある本が読みたかったかな。
 
 ちなみにうちの14歳の娘の小学1年生の頃から変わらない夢は作家になること。バックアッププランはジャーナリスト。とにかく物書きになりたいらしい。特にフードクリティックとかに興味があると言っていましたよ(笑)
 うちの子はティアのように悪い大人に振り回されませんように。
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Flora & Ulysses

2017年06月07日 | 洋書
みなさんは欲しい本が見つかった時はどうしてますか?
私は他の方のレビューを読んで「これ読みたい」と思った時は、その足で(?)amazonへ行き、wish list に入れておきます。外で見かけた時は表紙の写真を撮って帰ってきたら wish list という調子です。
中でも絶対読もうと思ったものが£4以下の場合は直接バスケット行き。
ずっと一冊でも無料配送だったのが、一時期£20以上買い物をしないと送料をとられる様になってしまったので、なかなか買えない、もしくはそれほど欲しくない他のものも購入し、よく考えると送料を払った方が節約になるという悪循環が続いたのですが、最近書籍は£10に下がったので、またまた買いまくって積読本が増えている次第です。すっごくイヤだけど、本棚の中で本を縦に並べられていません。
それでも昨今は本が本当に高い!私のwish list は何ページにも渡っています。

そして今回紹介するこの本も長年私のwish list で待機していた作品です。
他の方のレビューを読んで欲しいと思ったのはずいぶん前の事で、うちの子供たちも小学生で、まだまだ読書が大好きだった頃のこと、、、、、、児童書なんです、これ。もう私しか読まない。
amazonで全然安くなることがないまま数年が経ったのですが、先日イギリスの田舎町に旅行に行ってふらっと立ち寄ったチャリティブックショップの投げ売りで発見!
カゴに乱雑に入っていて、なんとお値段50p!なんという奇跡!

帰りの電車の中で早速読み始めました。
一見字も大きく所々挿絵や漫画もあって読みやすいのですが、案外と語彙がタフです。
ストーリーは、リスが掃除機に吸い込まれたショックで不思議な力を身につけるところから始まります。
主人公フローラはスーパーヒーロー系のコミックブックや犯罪ハンドブックの様なちょっとクセのある本が好きな女の子。趣味がそんな感じなこともあって友達も特にいなく、両親も離婚したばかり、仕事の忙しいネグレクト気味の母親と暮らしている。
自分に「こんなのへっちゃら」と思わせる唯一の方法は、シニカルでいること。
何かがあって傷つきそうになったり、動揺したりしかけたら、「 私は cynic なんだから、こんなの別に」と心の中でつぶやく。「期待はしない。冷静に観察することに集中」これも彼女のモットー。
そんな彼女が、力持ちで空を飛べて、なんといっても詩をタイプすることのできるリスと出会い、我慢すること、殻にこもっていることに決別するお話。
酷い大人もいるけれど、子供の話に耳を傾けることのでき、起こった物事をどんな不思議なことでも肯定的に受け止めることのできる魅力的な大人もたくさん登場。
心暖まるストーリー。
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All the Light We cannot see

2017年06月04日 | 洋書
 第二次世界大戦中のヨーロッパ。
 パリに住む少女Marie-Lureは幼い時に視力を失いました。
 父親が彼女のために住んでいる街の模型を作り、少女は毎日それを指でなぞりながら街のつくりを確認し、いつか一人で街を歩けるようにと準備をしていました。
 ところが戦火が激しくなった頃、Marie-Lure と父親はパリを離れ、フランス北西部のサン・マロにいる親戚の家に身を寄せることになります。それは実は単なる疎開ではなく、自然史博物館の職員である父が博物館の貴重な宝石を敵軍の搾取から守る使命を受けているからでした。
 父はサン・マロの地でも街の模型を作り、Marie-Lure にパリの時と同様に覚えるように伝えた後姿を消します。
 一方、ドイツの炭鉱町で、両親を亡くした兄妹が孤児院で暮らしていました。
 兄のWernerは科学に興味があり、手先が器用なこともあって、町で拾ってきた壊れたラジオを修理して、夜にこっそり妹とラジオの科学番組を聴いて、科学への関心を一層強めていきます。
 Wernerのエンジニアとしての才能を噂で聞きつけた軍人がある日孤児院に現れたのをきっかけに、Wernerはナチスの養成学校への入学を決意します。
 妹の反対にも耳を貸さずただ一心エンジニアリングへの情熱と探求心で入学したWernerはすぐに戦争という現実を突きつけられて苦悩します。

 少女と少年のストーリーが交互に語られていく構成になっています。
 残酷な戦争下の切なくやるせない物語ではあるけれど、愛と勇気に満ち溢れていて、同時にロマンティックでもあると思いました。
 ここでいうロマンというのは恋愛とは関係なく、人とのつながりは実際知っていることとは関係なかったり距離ではなかったりとか、どんなことに興味を持つか、何をきっかけに自己の道を拓いていくのかとか、身につけた能力の使う方向、そんな感じのことです。
 そしてこの物語の中心に据えてあるのは「通信」であるのですが、戦後の通信技術の移り変わりなんかに思いを馳せるととても感慨深いと思いました。作家がインタビューの中で Magical と言っているのですが、本当にそうだよなぁと。

 7 out of 10

 高評価の人気作品でしたが、私は作品に入り込むのにものすごく時間がかかりました。
 正直何十回も同じところを繰り返して聴いたくらいストーリーが頭に入ってこなくて苦労しました。英語も私には難しくてよく状況が把握できていない箇所もありました。
 それでも後半に進むにつれて色々と繋がっていき、とても印象に残る作品となりました。読み終わって一週間以上たちますが、頭の中に読書中自分で創り上げた映像がふとした瞬間に何度も浮かび上がってきます。
 そんな作品です。
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