『ヘクトル!貴様の死もすぐそこだ!』
パトロクロスの身体は、刀槍の鋭刃に裂かれて息絶えた。
ヘクトルの口を就いて出た言葉は、
『何っ!俺が死ぬ。馬鹿な、そんなことあってたまるか!』
彼は言って捨て、パトロクロスの着ていた精巧無比のアキレスの鎧をはぎとり、身にまとった。一国を統べる将としてやるべきことではなかった。
メネラオスの率いる一隊が闘いの場に着いたが、ときすでに遅かった。ヘクトルに鎧を剥ぎ取られ、無惨に裂けた屍が陽光と戦場の砂嵐にさらされていた。
敵が群がってくる。メネラオスは、丸い大楯をかざして屍体を奪われまいとする。その周りで干戈が交わる。パトロクロスを背後から槍で刺し貫いたエボルボスが来る。メネラオスが剣合数合で、これを切って捨てた。
メネラオスに敵が群がる。アイアースが駆けつけた。戦いの流れを変えたパトロクロスであったが、ここに到っては、元の追い詰められた連合軍になろうとしている。
メネラオスは、この悲報をアキレスに、いっときも早く伝えねばと、戦場の中に、アンチロコスを捜し求めた。