『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第10章  アキレスとヘクトル  29

2008-03-03 07:58:46 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 アキレスは、パトロクロスへの嘆きと思いを振り切れぬまま、8日目の未明の暗闇の中をヘクトルの遺体を引きずりまわり、ヘクトルを辱かしめた。
 アキレスは、心にうがかれた小さな穴から己の心の中をのぞき見た。アキレスにとってヘクトルは、不足のある相手ではなかったはずである。勝者となれば、名誉ある相手である。ヘクトルは、一国の運命を、アキレスは、失うことの出来ない友の仇を、命を懸けて、互いに崇高と言える使命を背にして、闘い、果たし合ったのである。意識、知覚の失せた遺体を引きづりまわり辱かしめる、自分のやっていることが、将の将たる者のすることか、思慮分別はどうだ、人間としての情愛、憐憫の感情があるのか、人間として、忌み嫌う自分の心の様を、そこに見た。
 この日、アキレスは、悶々と考えながら、そこいらを歩き、海を眺め、トロイの城壁を見やり、小競り合いのやっている戦野を、そして、山々を見て、太陽を仰ぎ、風を肌に感じ、今をさかりと咲くアーモンドの花群に目をやって一日を過ごした。
 彼は、目をそむけたい心のありようを振り切りたかった。そして、将として軍団を率いて、戦野を駆け、群がる敵と干戈を交え、勝利に歓喜する自分の姿を脳裏に描いた。
 そんなときであった。忍びこむように訪れた老人の姿がそこにあった。