第３章 踏み出す ３６

　季節は夏を迎えようとしている。シロッコといわれる南風の吹く季節であった。
　ナウプリオスは、船を仕立ててトロイに向かった。エボイアから北東に位置するトロイへ最短航路を南風に押されて波を蹴って渡った。
　トロイに着いた彼は、オイアクスから事の詳細を聞き取った。心はメラメラと怒りに燃え上がったが、これを辛うじて抑えた。アガメムノンとオデッセウスに弁明した。弁明が受け入れられない、無視された。
　彼の心に悔しさがつのった。悔しさは心をゆすった。いても立ってもいられない、としたところで『いま、ここで、この俺に奴らを倒す手段も力もない』　彼は唇を噛んで耐えた。心の中に誓いを立てた。『復讐せずにおくものか』　強い一念を胸中に想起させた。
　『あいつら何のつもりだ。俺たちがありったけのものを差し出して、力を貸しているのになんという仕打ちだ。許さんっ！この仕返しをせずにおくものか。覚悟しておけ！』
　彼は捨てぜりふを叩きつけて、トロイを後にした。
　『トロイの仇きは、必ず果たす！覚悟して帰ってくることだ』
　彼はしっかりと誓った。