『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第11章  権謀術数  3

2008-03-19 07:42:22 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 ただ、闇雲に攻撃しても勝利はありえない。この分析によって、戦場における戦闘では勝てると判断した。濠と防衛柵による防御については、攻撃は最大の防御であるとした。トロイ攻城戦については、城壁使用戦闘力と守城戦闘力の壊滅と神託参謀に頼る敵の作戦性を利用して、敵の戦闘意欲を挫いてしまう。この三点に集中して、今後のトロイの攻略を行うことにした。
 オデッセウスは、勝利の日が遠くはないと思った。いや、勝利を確信した。この戦略をアガメムノンを通じて誘導すれば、それでいい、勝利はそこにある。彼の確信は、動かざるものとなった。
 ヘクトルの葬儀は終わった。戦闘再開の日は、明後日に迫っている。今日、明日が過ぎれば、戦闘に明け暮れる、多忙の日が続くのだ。
 このとき、トロイの炎上消滅の日まで、70日余りにとなっていたのである。

第11章  権謀術数  2

2008-03-18 07:56:15 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 オデッセウスは、勝利を模索する比較検討項目を決め、その優劣を数値化して判断することにした。この時代には、もうすでに数の加減の手順は、出来上がっていたらしい。重点的に次の8項目については、慎重に考えて、そのポイントを計算した。
 1、参謀格将帥の数    連合軍 7ポイント  トロイ軍 3ポイント
 2、将の数と戦闘技術力      7           3
 3、戦争企画力          6           4
 4、城壁使用戦闘守城力      3           7
 5、攻城力            4           6
 6、統治形態戦争遂行力      7           3
 7、情報収集力          6           4
 8、戦闘意欲           6 合計46      4 合計34
 オデッセウスは、これらの項目以外についても、丹念に比較検討した。勝利が見えた。彼は、検討結果について、開示するものと、秘すべきものに分けた上で、秘すべきものについては、これを徹底して秘密にした。

第11章  権謀術数  1

2008-03-17 08:36:39 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 オデッセウスの頭は、冷たく冴えわたった。これまでの戦いの場面を次から次と思い起こしていた。そして、作戦の展開とその結果をイメージして考えた。もたらされた情報によると、ヘクトルなきあとのトロイは、このたびの激戦の損害が大きく、兵員補充の援軍要請がままならず、兵力が激減して、開戦時の半数に及ばない状態であるらしいこと、そして、アエネアスが軍団を統率していることが判った。
とにかく、敵を分析、比較、検討、作戦計画の立案までの作業を進めた。
 連合軍が勝利する事が命題である。一に比較分析、二に戦略、三に作戦計画の実行、四に勝利か、五にそれでもトロイが破れなっかたら、六にそのときはと考えた。それには、勝利を確実にするための謀略を練ることにした。
 オデッセウスは、この時代の神託参謀システムによる戦闘では、勝利を確実にすることは出来ないと思っていた。純然たる力のバランスと集団の総合戦闘能力の優劣が、その結果を左右するということが判っていた。

第10章  アキレスとヘクトル  40

2008-03-15 07:23:06 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 春の午後の太陽が草たちの新芽の萌えを煽っている。アガメムノンの幕舎に将兵たちが続々と集まってきた。イドメニスが、皆にホメロスを紹介した。ホメロスは、トロイの戦野で目にしたことを詩のかたちで吟詠し始めた。ここは連合軍の陣内である。彼は、連合軍の将兵たちの善戦苦闘の有様を、彼の流儀で劇的に脚色して、将兵たちの心を感動させた。さまざまの英雄たちが、戦友が登場し、勝利に歓喜し、ある者は、善戦むなしく倒れ行く、戦況は押しては退き、退いては押し返して行く、戦争の様を語った。
 馴染みの戦友の、英雄たちの活躍の話に胸を躍らせて、『それ行け!』 『倒せ!』 『負けるな!』 『押せ!』 と、我が事のように叫び興奮した。
 一夜が過ぎて、次の日の会場は将兵たちでごった返した。ホメロスの語り口による戦争談義、英雄物語に、興奮でざわめき、春の宵は更けていった。

第10章  アキレスとヘクトル  39

2008-03-14 08:20:03 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 アキレスの陣営をプリアモスが去った日、陽が昇りきらない間にアキレスは、アガメムノンの幕舎を訪ね、昨晩、プリアモスにヘクトルの遺体を引き渡した顛末を伝え、ヘクトルの葬儀が終わるまで、休戦を約束したことを告げた。この件については、アガメムノンは不快感を示した。アキレスの戦線復帰とその戦果を天秤にかけ、事情を勘案して、まあ~、いいではないかと了解した。それは、アガメムノンの功利的な判断であった。連合軍としてはアキレスに好意的であった。特に参謀的立場のオデッセウスにとっては、うれしいことであった。彼は、この葬礼休戦を利用して、両軍を比較検討して、これからの戦争展開をどのように進めるかを考えていた。そんな時、オデッセウスがトロイ城市に潜入させておいたスパイが戻ってきたのである。彼の持って帰った情報は、ヘクトルなきあとのトロイの状況であった。オデッセウスは、その者からの報告をうなずきながら詳しく聞き取った。彼は、両軍の分析を終えたあとに、自分自身がトロイへ情報収集に潜入する必要があることを悟った。

第10章  アキレスとヘクトル  38

2008-03-13 07:58:52 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 トロイの英雄を送る炎は、二昼夜にわたり燃え、おさまるときを迎えた。人々は、止めても止めても止まらぬ涙を流しながら、ヘクトルの白い骨を拾い集めた。彼の遺骨は、黄金で出来た壷に入れられていった。その壷を紫色の布でくるみ、更に黄金の箱に納めた。地を掘り、石で囲んだ小部屋を作り、その小部屋に遺骨の入った箱を安置した。石の小部屋に蓋をして土をかけ、更に土を盛り塚に仕上げた。プリアモスが、ヘカベが、そして、アンドロマケが幼子アステアナクスを抱いて、逝ったヘクトルと涙で別れた。ヘクトルは葬られた。鎮魂の夕陽は、海をこがね色に輝くオレンジ色に染めて沈んでいった。人々は城市に戻り、ヘクトルを偲ぶ宴を盛大に催した。
 プリアモスには、ヘクトルなきあとの総大将アエネアスから、近日の間に、援軍が到着する旨が伝えられていた。

第10章  アキレスとヘクトル  37

2008-03-12 08:27:11 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 ヘクトルを焼いている炎は、夜は天をこがして燃えた。
 この天をこがす炎は、連合軍の各陣営からも眺められた。アキレスが見ている、アガメムノンをはじめ、他の諸将も見ていた。この炎をふるえる感慨を胸に抱いて見ていた者がいた。誰あろうイドメニスの陣営に寄宿しているホメロスであった。ホメロスが、このトロイの戦野を訪れて、今日で60日ちかくとなった。そのホメロスが、この戦野を去る日が数日後に迫っていた。
 翌朝、ホメロスは、アガメムノン統領を訪ねて、長きにわたり滞在した礼を丁重に述べた。そして、今日の午後から、明日の二日間にわたり、『トロイ戦争の50日』 としてまとめた叙事詩の吟詠会を催したい旨を伝えた。イドメニスも言葉を添えた。
 『う~ん。それはいい!』 この申し入れをアガメムノンは、ことのほか喜んだ。吟詠会は、アガメムノンの幕舎で開催されることが決まった。

第10章  アキレスとヘクトル  36

2008-03-11 07:59:41 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 プリアモスは、城市の広場に集まった側近や重臣、将兵たち、そして、市民たちに向けて、沈みきった声で告げた。
 『このトロイの皆に告げる!ヘクトルは、私たちの大切なこの国、トロイの為に心と命を懸けて戦い、今、変わり果てた姿で帰って来た。皆、よう迎えてくれた。もう、かっての勇姿を見ることが出来ない。そのヘクトルに哀悼を尽くしてくれ。今日から10日ののち、彼の葬儀を執り行う。私は、アキレスと約束をして帰って来た。ヘクトルの葬儀を終えるまで休戦とする。全市民の皆に頼みたいことは、葬儀と火葬の準備を整えて欲しいことだ。宜しく頼む。この通りだ。』
 プリアモスは、集まっている市民に、深く頭を下げた。
 城市の北、ヘレスポントス海峡を望む小高い丘の上に、火葬の薪が高く積み上げられた。薪の山の周りは100メートルにも及ぼうというものであった。ヘクトルの遺体は、薪の山の頂に横たえられた。プリアモス、ヘカベ、アンドロマケ、パリス、兄弟姉妹、そして、側近、重臣、将兵、市民等は、松明を手にして薪の山を囲んだ。プリアモスが燃え盛る松明を投げ入れた。火は燃え始めた。薪の山を取り囲んでいる皆が、哀悼の叫びをあげて次々に松明を投げ入れた。
 荼毘の火は燃えた。トロイの運命を一身に背負って戦った英雄を焼く炎と煙は、蒼天に高く渦を巻いて昇っていく。集った者たちの目には、見送る涙が光っていた。

第10章  アキレスとヘクトル  35

2008-03-10 08:05:43 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 トロイ城市の市民たちは、ヘクトルを迎えた。変わり果てた姿になって帰って来た。人々は涙で彼を迎えた。遺体を載せた車が入ってくる。妻アンドロマケは駆け寄る。夫ヘクトルの頭をかき抱いて、突きあげてくる慟哭に叫び声をあげて泣いた。
 『あ~、ヘクトル!貴方は、私たちと城市を守り、市民と子供たちを守り、トロイの敵と戦い、そして、倒れた。貴方は逝ってしまった。私とアステアナクスを残して、私に手をのばさず、言葉もかけずに逝ってしまった。私は悲しい!とても悲しい!もう一度生きて、私を抱いて、ね~、私を抱きしめて!』
 彼女は、泣き伏した。もう立ってはいられなかった、その場にくずおれた。周りの女たちも悲しみに声をあげて泣いた。母へカベも悲しみに打ちひしがれて激しく嗚咽した。
 『私の最も愛したヘクトル!母はここにいますよ。今、一度、微笑んで、、、。私を見て、、、。』
 へカベの言葉は、果てしない悲しみを引き起こした。ヘレンも駆け寄ってきた。
 『ヘクトル!貴方は誰よりも優しかった。私、どうしたらいいの!皆が私を忌み嫌うの、ほんとにどうしよう。死なないで!死なないでっでたら、死なないで!』
 ヘレンは、絶叫してあらん限りの大声で号泣した。

第10章  アキレスとヘクトル  34

2008-03-08 07:47:17 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 プリアモスは、老いを忘れて跳ね起きた。従者をも他人に知られること無く起こした。静かに気付かれることなく、アキレスの陣営を離れることが出来た。うまくいった。プリアモスは安堵の胸をなでおろした。
 ヘクトルの遺体をを引き取ったプリアモスの姿が、戦野の中をトロイ目指して歩を運んでいた。
 暁の光が地を照らし始めた。プリアモスの娘カッサンドラが城壁の櫓の上から、戦野を見つめていた。父と従者の二人がヘクトルを乗せた車を引いて来るのを見つけた。彼女は大声をあげた、出せるだけの大声をあげて叫んだ。声は良く通った。
 『皆っ!出て来て!ヘクトルが帰ってきたのよ。』
 城中から皆が出て来て、門のところに集まった。ヘクトルを乗せた車が門をくぐり、城壁の中に入った。ヘクトルが帰って来た。皆が駆け寄り、ヘクトルとプリアモスを取り囲んだ。トロイ城市内に哀切の気が満ちた。