『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第2章  トラキアへ  21

2009-08-17 08:37:09 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは唸った。
 『ううっう~む、そうであったか。詳しい事情は、あとから聞く。トリタス判った。ありがとう。』
 彼は、隊長たちを急ぎ集めた。
 『皆、聞いてくれ。事情が変わった。いま、こっちに向かっている船団の者たちは、オキテスの船団だ。我が軍団だ。布陣を直ぐ解いて、彼らを迎えてやろう。浜頭の連中も加えて、事情を聴いた上で、統領の指示を仰ぎ、次の段取りをしよう。宵闇も迫ってきている、ぐずぐずしてはおれない。イリオネス、アレテスそれでいいか。』
 『おうっ、それでいい!』 『では、ことにあたろう!急ぐぞ!』
 パリヌルスは言葉をついだ。
 『あ~あ、布陣を解くときに兵らに伝えてくれ。このあと、勝ち戦さの慰労を簡単にやる。そのことを皆に伝えてくれ。』
 『それはいい。皆も元気を出す。急ごう。』

第2章  トラキアへ  20

2009-08-14 18:07:32 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 その時、浜頭のトリタスが血相を変えて走って来て、布陣している兵に声をかけた。
 『パリヌルス隊長は、どこですか。急いで伝えなければなりません。』
 兵は、トリタスと一緒になってパリヌルスを探した。一列200人の散兵線は、長さ200メートルに及んでいる。パリヌルスを呼ぶ声は、兵から兵に伝わっていく、声がパリヌルスに到達した。
 『何だ!』
 『誰か、隊長を探しています。』
 トリタスが走って近づいてくる。
 『おおっ!パリヌルス、あれは敵ではありません。昨日、この浜に着かれたオキテス隊長の軍勢です。解かりますか。先着の貴方の軍団の方たちです。』
 パリヌルスは、大波にゆれている船団に目をやった。彼らの船は、100メートル近くまでに来ていた。軍船3隻と交易船3隻の船団であった。

第2章  トラキアへ  19

2009-08-13 16:48:20 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは、大声をあげた。
 『皆の者っ!作業を急げ!船を早く浜に引き上げろ。』
 戦いの終わった浜に、再び、緊張の空気がみなぎった。パリヌルスが隊長連に話しかけた。
 『アレテス、イリオネス、今度は、どう闘う。軍船は3隻、敵数は約200とみた。当方の兵数はどれだけだ。』
 『370ぐらいだ。』
 『パリヌルス、奴らは、どの浜を目指すと思う。我々は、2列重陣で波打ち際に布陣したらどうだろう。奴らを浜にはあげない。奴らの出方が見当つかないが、波にてこずる奴らを一網打尽にしてやっつける。それでどうだ。』
 『よし!その作戦で行こう。布陣の時間はある。待ち構えて、一気にやっつけてしまう。いいな。』
 『敵は、作戦能力が余りないと思う。乱戦になる。我々が勝利する。』
 『兵に対する指示と叱咤をぬかるな!』
 その頃すでに、船の引き揚げ作業は終わっていた。
 各隊は布陣した。布陣の前列は、海に身を沈めて、首から上だけを出している。波打ち際では、一列のみに見えるようにまばら散兵で布陣した。

第2章  トラキアへ  18

2009-08-12 12:59:28 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 トリタスは、肩を抱かれながら顔をしかめた。
 『パリヌルス、お前は、無事だったのか、良かった。それにしても、お前は、血なまぐさい。この十日間、大変だったのだぞ。軍団長のこと、どう呼べばいいのかのう。パリヌルス、話をつないでくれ。積もる話がある、宜しく頼む。』
 『おう。判った。』
 『統領。この者たちは、このエノスの浜を取り締まっている浜頭です。この十日間でのこの地の変わりようについて、話したいそうです、聞いてやってくださいませんか。それはそうと、話し合いに入る前に、皆に海で身体を洗わせてください。統領も一緒にどうぞ。あ~あ、それから、浜頭三人が言っているのですが、祝勝の宴を催したいと言っています。以上です。』
 パリヌルスの、この一言で軍団の者たちが、こぞって波の荒い海で身体を洗った。パリヌルスには、しなければならないことが山ほどある。各隊長、兵らに声をかけて、各船を浜に引き上げる作業に取り掛かった。
 兵のひとりが大声をあげた。
 『あれを、見ろっ!』
 兵の指差す、暮れ行く薄闇の彼方に目を向けた。

第2章  トラキアへ  17

2009-08-11 07:08:28 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 浜の真ん中にいるアエネアスの許に、隊長を先頭に兵たちが集まってくる。彼らは、敵との死闘を制した喜びを素直に表していた。また、その喜びを形にした。彼らが雄叫ぶ勝利の歓声は薄暮の浜に響いた。
 『諸君っ!ご苦労であった。この戦いにおける勝利と終結を宣言する。期せずして傷つきし者は、直ぐに手当てをするのだ。そして、戦場にて倒れし者たちの冥福を祈ってくれ。諸君たちの奮闘に心から礼を言う。本当にありがとう。』 
 アエネアスは、これだけ告げたあと、各隊長と幹部たちを招き寄せた。彼らと打ち合わせをしようとしたときである。5人の兵に囲まれて、3人の浜の住人と思われる者が引き立てられてきた。
 この情景を見ていたパリヌルスが声をかけた。彼らは、エノスの広い浜を取り締まっている浜頭の3人である。そのうちのひとりは、パリヌルスが懇意にしている浜頭であり、顔見知りの間柄であった。
 『おおっ!トリタス、元気であったか。変わりはなかったか。』 と言うと力いっぱい、彼の肩を抱きしめた。

第2章  トラキアへ  16

2009-08-10 07:54:13 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 敵は、しぶとく抵抗してくる。少なくなった兵を集めて戦列を敷いて、攻めてくる。叫喚のるつぼが展開する。敵は力が尽きようとしている。各隊長がそれを読み取った。敵の兵数が三分の一以下に減っている。兵らの猛々しく激した心情を制御することは、誰にもできそうになかった。少なくなった敵兵の退路をふさぐ、圧し包む、一斉に討ちかかり、一気に斬殺におよんで彼らの生命を奪った。
 鮮血のしぶきは風に舞い、流れる血潮は大地に吸い込まれていった。斬り離された腕や手、肢体の一部が戦場一帯に散らばり、目をそむける惨状を呈していた。
 闘い終えた兵たちは、血のりのついた槍、抜き身の剣を手にして、残心をただよわせて、隊長の許に寄ってくる。彼らは、戦場を離脱して逃げた兵のあとは追わなかった。
 アエネアスは、浜の真ん中にいる、戦いの始終を見ていた。圧し包んでの斬殺については、心は痛めはしたが、止められなかったことについては、悔悟の念は持たなかった。

第2章  トラキアへ  15

2009-08-07 08:38:30 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは、敵将の目を見つめた。殺意を含んで爛々と燃えている。アエネアスは、構えの中に隙を見せて相手を誘った。来た!敵は撃ち込んできた。彼は一歩引いて、撃ちこみを槍で受け流し、槍を捨て、右手の剣を両手で握り、夕陽をはねて敵将の左胴を深々と裂いて、右へ走り抜け、間をおかず、かかってきた兵の一人の腹に鍔元まで突き刺し、これを倒した。瞬時に勝負を決した。
 アエネアスは、息が絶えようとしている敵将に駆け寄りポリュドロスのことを問い詰めた。
 『おいっ!ポリュドロスは、どこにいる?』 この時、彼は思い出した、ポリメストルの一の部下のトッカスであることを思い出した。
 『何っ!ポリュドロス、、、そいつは、この手で冥土へ送ってやったわ。』
 『もう用はない、俺はアエネアスだ。逝けっ!』 彼は、敵将の止めを突き刺し、その命を絶った。トッカスは、こぶしを突き上げ訪れた闇に沈んでいった。
 アエネアスは、ポリュドロスが、もうこの世に存命していないことを、ここで知った。
 戦いは、残照が消えようとしている薄暮のときになっても続いていた。

第2章  トラキアへ  14

2009-08-06 07:26:34 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 風に吹き散らされる兵たちの鬨の声、槍の穂先が、剣先が、夕陽を照り返して、戦闘のどよめきが沸きあがった。兵らは上陸して行く、果敢に攻める、彼らは、怖じることなく敵を押し下げた。広い海浜は戦いの場と化した。砂地は硬くしまっていた。
 槍を突き合う懸かり声、撃剣の響き、横一尖の鋭い斬撃、首が飛ぶ、噴きあがる鮮血は風に舞う。波打ち際の剣合、倒れし者の血は、海の水を紅に染めていく、吹きさらされて散る勝者の雄叫び、光を失って倒れいく者の断末魔の声、闘争の地獄模様が展開された。
 アエネアスは、楯を背中に廻し、左手に槍、右手に愛用の剛剣を握り、数名の兵を従えて、戦場の真ん中に起っていた。敵中から一人の将が3人の兵を引き連れ、槍と剣をきらめかせて、アエネアスに迫ってくる。双方が斬撃の間合いをとって対峙した。見たことがあるような、ないような敵の将である。ニ,三言何かを言ったようであるが、アエネアスは聞いてはおらず、間をおかず、剣合におよんだ。

第2章  トラキアへ  13

2009-08-05 07:53:38 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 兵たちは、武器と楯をとを携えて海中に降り立った。水深は腰までである。背中に打ち寄せる波は、身体をゆする、槍の石突きを海底に突き立てて身を支える。
 この時、見渡す浜辺には、敵が横一線に兵列を敷いている。その数、約300、前後2列で布陣していた。敵は、我々が弓の射程距離内に入ってくるのを待っている。
 アエネアスの軍団は、船の処理班を残し、隊を戦闘隊形に整えた。敵の兵線に対して、中間に間をとり、3重列の独特の集合隊形で兵線を敵より長めにした布陣で対峙した。
 アエネアスが檄を飛ばす、『敵を残らず打ち倒せ!容赦するな!』
 『敵は弓で来るぞ、隊形をとれっ!』『ひるむな!』
 間断なく叱咤、命令が飛ぶ。軍団は、じりっ、じりっと押し進んだ。
 敵からの弓攻撃で戦いの幕が切って落とされた。飛矢が風に流される、各隊長の檄が飛ぶ。『突っこめっ!』『押せっ!』『押すのだ!』
 双方の陣に怒号が飛び交った。
 寄せ来る大波が兵たちの背中を思いっきりの力で押した。
 

第2章  トラキアへ  12

2009-08-04 13:44:43 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 全船、波に翻弄されながらも、浜を目指して漕走した。大波の寄せる浜には、軍船が5隻、交易船が4隻あとは漁船が12~13隻、浜に引き上げられている。その船影に10人余りの人影を認めた。戦闘員の姿は見えない、察するに戦闘員は、浜奥の藪影に潜んでいる気配が感じられた。
 パリヌルスは、浜の状態から、遠浅の海の具合を推し測った。
 船首衝角で波を割っていた船団が、荒波を背後からかぶる情況に様変わりしていた。浜は迫ってくる、目前に迫った。船底が海底をすった。浜が指呼の距離に迫っていた。パリヌルスが命令を発する。
 『漕ぎ方やめっ!全員武器を持って海に飛び込めっ!』
 各隊長からも檄が飛ぶ。
 『隊列を組め!』『集合隊形を組みやすい隊列だ。ぬかるな、始めは弓で来るぞ。気を抜くな!』
 兵を叱咤する指示には抜けがなかった。