『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  54

2012-05-18 14:32:04 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『パリヌルス、何か気にかかることでもあるのか』
 イリオネスは彼に問うた。
 『気にかけたら、きりのないことだが、懸念は懸念です。何時、如何なる事態が発生しようとも、その事態に対処できる態勢と覚悟を決めておく必要があります』
 『そうだ、お前の言うとおりだ。我々は情況が全くわからない海域に入っていくわけだ』
 『私のこれまでの経験では、ミコノス、デユロスの海域は、海賊の心配はありませんが、ギリシアの属国の哨戒船の往来が頻繁な海域です。海賊が跋扈、跳梁する海域は、もっと、南のナクソス、パロス、イオス、シキノスの多島の海域です。明日の航海ではミコノス、デユロスの海域の対策です』
 話し合いの方向は四人に緊張を強いた。
 『オキテス、この件について、お前の考えはどうだ』
 『パリヌルス、俺もそのような危機感を持っている。ここはお前の構想の一部始終を聞かせてほしい。事態を予想して態勢を整えねばならない。軍団長、そして、お前と俺の覚悟は出来ている。そのことについての配慮は無用だ』
 『おう、オキテス有難う。では、態勢についてだ。態勢は、船団の編成に始まり、それに関する人員配置、危機に遭遇したときの対処方法、ミコノス、デユロスにおける停泊地の問題等あげればあれもこれもとなる。大要を決めて実施の方向にもっていこう』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  53

2012-05-17 08:25:39 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『諸君、いま、聞いての通りだ。では、詳しく話す。明早朝、空に星のある間に出航する、いいな。この打ち合わせが終わり次第、出航準備に取り掛かってほしい。明日一日は天候のくずれはない。朝は大陸からの陸風が北寄りの東風であろうと考えている。かぜに船を押す力があるか、ないか。それは夜が明けてみないと判らない。海上に出れば北からの風になると期待している。だがだ。期待はあくまでも期待であって、外れることが多い、だが、これだけは約束する。南からの風だけは決して吹かないことを約束する。日中の大半は漕がなければならないかもしれない。これは何んとしても一同に頼みたい件である。よろしく頼む。尚、明日一日分の糧食はオロンテスが各船に配る。出港準備が終わったら、今日は時間的に少々早めだが夕食とする。いいな。以上だ』
 今日、明日の予定を伝えたパリヌルスは、一同を見回した。
 『質問はあるか。ないようであれば打ち合わせはこれで終わる。出航準備は抜かりなくやってくれ』
 船長、副長が船に戻っていく。打ち合わせを終えた場には、統領、軍団長、パリヌルス、オキテスの四人が残った。四人は浜に立って海を眺めた。パリヌルスが話し始めた。
 『統領、軍団長それにオキテス隊長、ここだけの話です、実は、キオス島へ行って来ようと考えていたのです。ところが天候の回復が早いじゃないですか、キオスへ出かけているヒマがなくなって取りやめた次第です。明日は、ミコノス近辺の事情が全く判らないまま、船団は南下します』
 パリヌルスは言葉を切った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  52

2012-05-16 08:32:35 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは、浜にたたずみ空と海を眺めながら話し合っている二人の姿を見とめて歩み寄った。
 『統領と軍団長、こちらにおいででしたか。いま、これから打ち合わせをやります。臨席をお願いします。見られたとおり、天候の回復は確実です。明早朝、出航します』
 『そうか、よしっ!判った。一緒に行こう』
 三人は歩をそろえて、打ち合わせの場に向かった。
 船長、副長ら一同は、オキテスを円座の真ん中に据えて話し合っている。彼らは打ち合わせの場では話にならない些細なことを話し合っていた。
 ギアスが俺たち三人に気がついたらしい。
 『統領と軍団長が見えた』
 そのひと言で俺たちを迎える円陣の場を作った。
 『おっ、諸君、ご苦労』
 アエネアスはひと言、言って彼らを浜に座らせた。
 パリヌルスは、一同を見て話し始めた。
 『諸君、ご苦労。天候の回復は確実である。明早朝、星が空にある間に『荷車』(星座の大熊、小熊座)を背にミコノスに向けて出航する、いいな。懸念は風向きと風の強さだけである。それもほぼ期待通りに吹いてくれると信じている』
 彼は、内心の心配を忘れたかのように力強く断言した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  51

2012-05-15 08:26:15 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスは各船を見て廻った。担当者から報告を受け、入念にチエックを入れた。船に詳しい己の観点から不具合がないかを慎重に確かめた。小さな不具合も見逃さないように念を入れた。不具合と思われる点に付いては、再度の点検と修復を指示した。また、そのよう場合には、修復技術等の指導も行った。パリヌルス、オキテスの二人にとって出航までの時間は貴重であった。二人は我を忘れて立ち回った。
 二人の心境は、少ないといえども一国の民であり、彼ら全員の命の安全と目標の達成を言葉にこそしていないが約束しているという自負であった。
 午後には、雲の切れ間から太陽が望めるようになってきていた。陽の姿が見えれば時間の推移が身体に感じられる。パリヌルスは空を見上げた。
 『うっう~ん、この調子なら進捗が予定した時間通りにうまくいく。よかろう』
 オキテスの各船の点検が終わろうとしていた。
 『おっ、オキテス、作業の進み具合はどうかな。船長、副長らを集めて打ち合わせをやりたい、もう、いいか』
 『おっ、パリヌルス、ご苦労。もういい、みんなを集めよう。お前、統領と軍団長、呼びに行ってくれるか』
 『判った。俺は、統領と軍団長を呼んでくる。場所はここでやろう』
 天候は確実に回復に向かっていた。目を射る陽の光はまぶしかった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  50

2012-05-14 08:38:56 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『そうと決まったら、即、打ち合わせにかかろう。オキテス、全船の点検作業を見てくれないか。俺はオロンテスの作業の進み具合を見て、夕めしのことについて打ち合わせてくる。今日の夕めしは少々早めにと考えている。明日は、早朝出航の準備を整えるように指示を出してほしい』
 『判った。打ち合わせのことはお前に任せた』
 『判った』
 二人はそれぞれの場に向かった。
 『おっ、オロンテス、作業の進み具合はどうだ。ちょっと打ち合わせだ。いいか。堅パンと副菜のことだが焼きあげ何食ぐらい見込んでいる?』
 『それについては、4500食から5000食ぐらいを見込んで作業を進めています』
 『それはそれでいいだろう。ところで今日のことだが夕食は少々早めに整えてほしいが、いけるかどうかだ。そしてだが、出きれば一杯づつでいい、酒の準備も頼みたい。明日の天候の具合は航海に最適と読んでいる。明日は早朝、星を仰いで出航すると決めている。早朝の大陸からの陸風を期待している。夕めし前に明日一日分の糧食の堅パンと副菜を各船に配って、あとはお前の五番船、六番船に積んで出航の準備を整えてくれ。今、言ったこと、作業は大丈夫か?』
 『え~え、大丈夫です。沢山の人員をいただいて作業に当たっていますから』
 『よしっ!頼む。今、言ったことを船長や副長らとこれから打ち合わせる、お前は席をはずしていてもかまわん。以上だ』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  49

2012-05-11 08:41:26 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『俺の予測か、答えはアカテスの言い分とそっくりだ。明日の風向きだ。我々にとって条件のいい風向きであってほしい。我々が『うちわ』で風を起こしてどうにかなるものではない。また、それを望んで祈って、そのようになるものでもない。判っていながら、そうせずにはいられない。まあ~、運の領域だ』
 『お前の言うとおりだ。南からの風だけはごめんだ』
 アカテスが口を挟んだ。
 『お前ら、どう考えている、それではちっとも理詰めではないな。この小島の立地だ、早朝は東からの風が期待できる。この風は、海上では北からの風にかわる確率が高い、我々の総意が、風を有利な条件に必ず変える。まあ~、そのように信じて疑わないことだ。必ず、何かが我々に味方すると考えることだ。そうは思わんか』
 『老アカテス、あなたの考えはなかなか理詰めだ。恐れ入った。アカテスお前の言うとおりだ。俺としたことがちょっと考えが浅かった。ひと言を祈っても、その集中が違う。実現の確率が高くなる。よく言ってくれた、有難う』
 『そうするより、仕方あるまい』
 『パリヌルス、明早朝、ミコノスに向けて出航だ。そのように意志を決めよう』
 『判った。意志は決まった。今日、これからの段取りをする』
 ユールスは、傍らに立って、怪訝な表情で海を眺めていた。彼の瞳からは希望の耀きが出ていた。
 『オキテス、いいか。迷わずそれでいく、いいな』
 『おうっ、パリヌルス、それでいい』
 二人は心を決めた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  48

2012-05-10 08:22:08 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 天候と言う大自然の営みと使命を持った一国の民との運の勝負であった。この時代の人間には、不明であるばかりに思い上がりな考えのところがあったであろうか。それとも大自然の営みの変化、天変地異に畏怖しながら対処していたのであろうか。
 時は過ぎていった。垂れこめていた雲が次第に高くなっていく、風もおさまりつつあった。風浪も踊りつかれたのであろうか小康に向かっていた。
 パリヌルスとオキテス、その傍らにユールスを連れたアカテスが立って西の空を見上げていた。簡素な非常食の昼めしを終えて、彼らは浜辺に立っていた。一方、オロンテスの指示のもとで作業についている者たちは、堅パン作りに忙しそうに立ち回っていた。
 オキテスはアカテスに話しかけた。
 『西の空が明るくなってきている。青空も雲のまにまに見えている。アカテス、あんたは、俺より長く生きてきている。この空模様、天気の具合をどう思うかね』
 『う~ん、風は西からの風に変わってきている。この調子だと、なんだな、天候は快方に向かうはずである。トロイの地も陸と海の関係が、この小島の地勢に似ている。明日は晴れる。俺のこれまでの経験から考えて、海における天候は明日一日は大丈夫と考えていい。風向きはどうかだが、期待の風が吹いてくれるよう、これは祈りの領域だ。それからあと、ミコノスから以南の海域は多島の海域だ。ここでミコノス以南の天候予測は無理というものだ。判ってもらえるかな』
 『う~ん、そうか、判った。パリヌルス、お前の考えている予測はどうだ』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  47

2012-05-09 08:44:08 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『パリヌルス隊長、ちょっと』
 『おう、オロンテス、何だ』
 『見渡したところこの島では、大きな樹木が見当たりません。これでは燃料集めが難しいのではないかと思われます。100人くらい人を増やしてほしいのですが』
 『判った。いいだろう。一番船から四番船、各船当たり20人くらいづつ、オロンテスのほうへ人員の割り当てを増やしてくれ。いいな。半数プラス20人だ。よろしく頼む』
 『判りました』
 『オロンテス、風がおさまるまでは、もう少し時間がかかるぞ。作業の段取りはうまくいくか』
 『え~え、大丈夫です、心配に及びません。この航海のために50基のかまどの骨組みを金属棒で作ってきています。この島は砂地です。穴を掘るだけで、直ぐかまどを作ることができます。安心していてください。では、私はこれで。現場で指示をしなければならないので』
 『頼むぞ、昼が過ぎれば打ち合わせをやるからな』
 『判りました』
 オロンテスは、その場を後にして現場の指揮に当たった。
 パン生地の練り場ができる、パンの原料、副菜の具材が運ばれてくる、かまどが作られていく、パンの荷作り場も作られていった。燃料の薪が運ばれて来る、彼らは薪集めにかなりの苦労を強いられていた。
 浜にいる彼らは、空と海を眺めながら、ただひたすらに、風のおさまりを待った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  46

2012-05-08 08:17:40 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ギアスとアレテスが姿を見せた。
 『おはようございます』
 『おう、おはよう。オキテスは』
 『オキテス隊長は統領、軍団長と打ち合わせです』
 『判った。彼がいないか。まあ~、いいだろう、差しさわりのないことから打ち合わせを始める。一同揃っているな』
 パリヌルスは彼らとの目線を合わせながら一同を見回した。
 『諸君っ、おはよう。異国の小島の朝だ。気を抜くな。異変はお前らの命を奪うぞ、油断は禁物だ』
 言いながら、オロンテスのほうへ身体を向けた。
 『朝いちの用件は朝食の件だ。オロンテスよろしく頼む。ところでだが、今日の夕食、そして、明日一日の食事計画を作ってほしい。オキテスも加えて検討しなければならない。そういうことだ』
 オキテスが戻ってきた。
 『おう、パリヌルス、そして、居並ぶ諸君、おはよう。統領と軍団長には、天候の推移とそれに伴う行動、その他の情況を説明した。返ってきた答えは『任せる』のひと言であった』
 彼は言いながら空に目を移した。
 『雨粒を落とそうとしているこの曇天は、全くいかん。全天薄墨色の雲ではないか、どこにも明日が見えない。パリヌルス、どうする』
 『昼過ぎまで様子を見ようではないか』
 『君たち、今の話を耳にしていたな、昼過ぎまで様子を確かめた上で明日の事を決める。いいな。夕めし前に打ち合わせをやる。判ったか。では、今日の作業の指示をする。まず、船の点検だ。船は昨日の荒い波にもまれている、目に見えないところを念入りに点検してほしい。それから、明日からの糧食のことだ。これはオロンテスの指示で作業を行う。人員の配分はオロンテスのところへ半数をさいてくれ。以上だ。質問はあるか』
 『判りました』
 エノスから、この小島まで南下すると大気が肌にあたたかく感じられた。
 風浪の小躍りはおさまる気配がなかった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  45

2012-05-07 07:14:17 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 この小島は、小笠原諸島の母島の2倍余りの大きさの島である。まだ呼び名はなかった。
 小島の夜は明けようとしている。空には雲が低く垂れ込めている、晴れ渡る日の朝のさわやかさがなかった。目覚めた者たちが波打ち際にたむろして、朝行事を行っている。明るくなってきつつある、彼らは改めて浜の全容を見た。空に目をやり、浜の風景を確かめた。
 彼らがたどり着いた浜は大きな樹木は見当たらない、目に映ったのは遠くに背の低い潅木の茂みを見る程度であった。昨夕からの風はおさまってはいない、海の風浪は小躍りしてざわついていた。
 オキテスは2名の交替要員を引き連れて統領たちの小屋へと出向いた。
 パリヌルスは船長、副長たちを招集した。彼は空を見上げた。
 雲の低く垂れ込めた空には一縷の望みを抱かせるような徴候が全く見当たらなかった。
 『今日は、この小島にとどまるより他に方法がない』 と判断した。