『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  44

2012-05-04 09:47:58 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼は、一同を見回した。
 『ミコノスに向かうのに、いい条件の天候になるまで、この地にとどまらなければならないかも知れない。そのような懸念がある。夜が明けてみなければ判らないことだ。一同、判ったな。明日以降のことは、明日になって判断を下す。また、如何なることがあろうとも、大陸沿岸に沿って島づたいでミコノスを目指すことはない。以上だ。オロンテス、夕食の件をよろしく頼む。人手はすきなほど連れて行け。舟艇を使え、仕事がはかどる』
 小屋の探索に出かけた二人が戻ってきた。
 『おうっ!どうだった?』
 『二つの小屋は、誰もいません。ここ数日使われてないようです』
 『よし、そうか。ギアスにアレテス、お前ら二人は、統領、軍団長、アンキセス、ユールス、アカテスをその小屋に案内して、そこで過ごしてくれ。お前ら二人は彼ら五人の警護に当たってくれ。それから、もうひとつの小屋へは、女、子供たちを案内してくれ。そして誰か二人に申しつけて警護の任に当たらせてくれ。尚、夕食のことはオロンテスに言って手配を頼む。俺は一番船に、オキテスは二番船に添い寝で過ごす。明日のことは夜が明けてから決める。即、やってくれ』
 『判りました』
 『統領、軍団長、いま、話していた通りです。何卒よろしくお願いします』
 『おう、有難う。話は判った』
 イリオネスも統領とともにうなづいて、小屋のほうへと向かった。
 話し合っている間も風は衰えず、休むこともなく吹きつけ、波は踊りまくっていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  43

2012-05-03 07:42:40 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスはオロンテスと目を合わせた。
 『オロンテス、今日の夕食はどのようにする?焼いた堅パンに余裕はあるか、副食の方はどうか?』
 『え~え、大丈夫です。明日の昼食の分まで、充分に余裕があります。心配に及びません』
 『判った。では、次のように手配してくれればいい。それから一同、よく聞いてくれ。今日の事態は非常事態だ。夕食を全員に配る。今夜の当地における宿営について説明する。全員、自分の乗っている船に身を寄せて夜を過ごす、いいな。船中でもいい、船に身寄せて過ごしてもいい。五番船と六番船の諸君は、一番船から四番船の船中、船かげに分散して夜を過ごす。いいな、諸君そのように手配しくれ。万事うまくやるように努めてほしい』
 彼は言葉を切って一同を見回した。
 『それからだが、五番船及び六番船は、浅瀬といえども海中にある。見張りの警備員を置いて、その任に当たらせるよう手配を頼む。以上だ。このあとオキテスのほうから話がある』
 話はオキテスに引き継がれた。
 『今夜の宿営については質問はないな。俺たちの最大の懸念は明日のことだ。明朝には風がおさまっているかどうにかかっている。天候の回復のことだ。いずれにしても、この地からミコノスには一日の航海となる。そうなると一日の天候がいい状態でなければならないのだ。お前たち、今、言ったことが判るな』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  42

2012-05-02 06:35:19 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスとオキテスの二人は、揚陸した各船と碇石で浅海に係留した五番及び六番船の状態を念入りに点検した。
 オキテスの声が飛んだ。
 『四番船、もっと、上へ揚げろ!』
 パリヌルスは、五番船、六番船の海底への接地状態に気を配って点検した。二人は安堵の言葉を交わした。
 『まあ~、これでいいのではないかと思うが』
 『そうだな。まあ~、いいだろうではいけないのだが、これで『よし』としよう』
 日は暮れた。風はやまない、波は踊り踊っている。
 パリヌルスは船長と副長を集めた。アエネアスもイリオネスもその場に来た。彼は口を開いた。
 『諸君!大変ご苦労であった。それにしても大変だったな。大事に至る一歩手前で難事を辛うじて避けた。今日の航海を無事に終えたといっていい。ひとつに航路の変更が幸いしたと思っている。ご苦労であった』
 彼は難事を避けた一同の労苦をねぎらった。
 『ところでだ、今日のこれからを説明する。その前にだ。ギアス、あれを見ろ!判るか。あすこに二棟の小屋がある。アレテスを連れて見てきてくれ。今夜の宿営について考えなければならん。直ちに行け!』
 彼が浜を見回したが船団以外の船が見当たらなかった。
 『判りました』
 『お~い、こりゃっ!剣を持って行け』
 

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  41

2012-05-01 08:15:09 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスの気はビンビンにたっていた。鬼気迫るものがあった。
 『アミクス、信号だ!『俺にならえ、俺に続けっ!』だ。いや、二番船にだ。宵の口の暗さだが、まだ、目視はできる。急げ!』
 彼の怒号である、風が声を吹き飛ばす。風浪は激しく荒れるが雨のないことが幸いしていた。気がついたときは砂浜が30メートル眼前に広がっていた。
 船を押す、引く、彼らは身の危険が去ったことに安堵して、足を波にもて遊ばれながらも船を浜へと運んだ。
 オキテスに各船を視る余裕が出てきた。彼は宵の口の暗さの中に船団の各船を視た。
 全船が波の踊る中で揚陸の作業に懸命に取り組んでいた。彼は二隻の改造交易船に注意を注いだ。船の揚陸作業を終えた者たちを二隻の交易船の係留作業に向かわせた。乗員たちが降りた交易船の喫水が1.5メートルを少々超えるくらいと想定したオキテスの指示は、できるだけ浅瀬に多くの碇石を使って安定した状態で停泊させることにした。だが、水の力は強い、踊る波は二隻の交易船を翻弄した。
 これらの情景をアエネアスとイリオネスは不安な気心で眺めていた。
 『統領、不安かもしれませんが、彼ら二人に任せておきましょう。海についてよく知っている彼らです。間違うことはありません』
 オキテスの指示にパリヌルスが呼応して、全船の揚陸と係留を終えた。