『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1034

2017-05-18 08:06:08 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、オキテス、戦闘艇の件に関しては納入航海を終えてから話し合う。それでいいな』
 『おう、心得た』
 二人は建造の場へと歩を進める。
 『今度の納入航海の件は、明日の打ち合わせでいいな』
 『おう、それでいい』
 『オキテス、考えなければならんことがある』
 『何だ?』
 『軍船に乗る者らのことだ。彼らは軍装で行くか、どうするかだ』
 『そのことについてはもう決めている。軍装でいく!』
 『そうか、そのように決めているのなら、それで行け!』
 二人は建造の場に着く、ドックスを呼び寄せる。
 オキテスは納入する新艇の準備の整い具合を確かめた。
 『はい、新艇は引き渡し出来るように、万端、整っています。添付納入物品についても、すべて調製を終えています』
 『おう、そうか。安心していていいな』
 『そうです』
 『オキテス、納入新艇の操船はどのようにするか決めているのか?』
 『納入艇には俺が乗ってテムパキオに向かう。操船はゴッカスに任せていいと考えている』
 『そうか。ギアスは、今度の納入航海には参加しないということだな。解った。明日にでも人事について打ち合わせる』
 『おう、解った。俺の方もそのように段取りする』
 『おう、朝からやる』
 『了解した』
 二人は、ドックスとの打ち合わせを終えてオキテスの席の場に来る、ギアスが待っていた。
 『おう、ギアス、待ったのか』
 ギアスと目を合わせる。
 『このたびの航海ご苦労であった。世話をかけたな。ありがとう、礼を言うぞ』
 『いえいえ、そのようなことはありません。そのように言われると痛み入ります。オキテス隊長こそ、ご苦労でした』
 『艇はどのようにした?』
 『はい、もう、ほどなく連絡が来ると思います。建造の浜にドックス棟梁の指示を受けて揚陸するように指示してあります』
 『おう、そうか、それでいい。ドックスの厳密チエックを予定している。航海中の事由について、ドックスから質問があったらできるだけ詳しく返答するようにしてくれ』
 『解りました』
 『パリヌルス、先ほど話した件、いま、ギアスに伝えておこうか』
 『それでいいと思う』
 『ギアス、テムパキオへの納入航海の件だが、新艇の操船にはゴッカスを責任担当としてレテムノンに向かったメンバーで向かおうと考えている。改めてゴッカスにそのように用命してくれ』
 『解りました』
 『テムパキオ行きの新艇への乗り組みは俺を含めて総員23名、操船担当のゴッカス、操舵のホスタル、漕ぎかた20名でメンバーの構成をしてほしい』
 『了解いたしました』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1033

2017-05-17 07:30:12 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『ほう、そうか。それはよかったな』
 『レテムノンで一夜を過ごし、朝を迎えました。私らが帰途の準備をしているときにテムノス頭領からの呼び出しがあり、私だけですが朝食に招かれました。その席でテムノス頭領が話を進め、試作艇の話になり、当方の建造計画などについて聞かれた次第です。もう、その時すでにテムノス頭領の腹が決まっていたようです』
 オキテスが一同と目を合わせ、息を整える。
 『戦闘艇一艇の受注をしたわけです。また、スダヌス浜頭も一艇買うといっています』
 『おい、オキテス、そのように注文を受けてもいいのか?まあ~、急ぐことでもないと考えられる。パリヌルスと話し合ってみろ』
 『解りました』
 イリオネスがオキテスに話しかける。
 『とにかく、全員無事に帰ってきてくれた。何よりそれがうれしい!次の納入航海の件だが、パリヌルスと話は済んでいるのか?』
 『はい、それは打ち合わせ済みです』
 オキテスがパリヌルスと目を合わせる。パリヌルスが口を開く。
 『はい、その件については、オキテス隊長と納入航海に出航する前に打ち合わせを終えています。軍船の整備点検もすでに終えています。ドックスのほうでも納入艇の整備及び納入品の整備調製を終えています。なお、納入航海の出入り四日間の食糧等の準備もオロンテスのほうで整えられています。以上、この場において報告いたします。また、スダヌス浜頭が案内役として同行予定となっています』
 『解った。オキテス、パムテキオへは海路で行くとなれば遠い、充分に気を配って航海の上、業務を遂行してくれ』
 『解りました』
 『出航日は、アエネアス暦で7月19日だな』
 『はい、そうです。7月20日には引き渡しを終えたいと考えています』
 『スダヌス浜頭はいつこちらへ来ることになっている?』
 『はい、それは7月18日午後にはこちらへ来ると考えています』
 『解った。聞いたところ、手配に抜かりがないと思われる。いかなる時も安全航海を忘れるでないぞ!』
 7月19日に出航するオキテスの納入航海に関する打ち合わせは終わった。
 『統領、昼食、馳走になりました。ありがとうございました。浜のほうへ行きます』
 パリヌルスとオキテスは、統領の宿舎をあとにした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1032

2017-05-16 08:02:16 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ギアスが立ちあがる、一同に伝えるべく口を開く。
 『一同に伝えておく。食事を終えたら、寸時、身体を休める。いいな。そのあと、艇を建造の場の浜につける、揚陸して今日を終えてくれ。作業はゴッカスの指示に従うこと、以上』
 『ゴッカス、建造の場の浜で揚陸するときの注意事項を伝えておく。ドックス棟梁に航海の経緯を簡単に伝えて礼を言うこと。揚陸場所の指示を求めて作業に取り掛かる。いいな。揚陸を終えたら、艇の整頓をする。そして、艇に礼を尽くす事を忘れるな。艇に神宿るだ。以上だ』
 『解りました』
 『ゴッカス、俺は、建造の場のオキテス隊長のところにいる、作業を終えたら連絡をしてくれ』
 用件を終えたギアスは、場をあとにした。

 『おう、オキテス、お前、昼飯を終えたのか?』
 『いえ、まだです』
 『俺の宿舎でとれ。昼食の予備がある』
 アエネアスら統領の宿舎へと足を運ぶ、宿舎に着いた四人はテーブルを囲んで席につく、イリオネスがオキテスに話しかける。
 『オキテス、三日間に及ぶ航海、ご苦労であった。疲れもあるだろうが、一っ時も早く状況を聞きたい。昼食を食べながらでいい、話してくれ』
 『解りました。私にも一っ時も早く伝えたい成果があります』
 『お~お、そうか。それを聞きたい』
 オキテスの昼食の準備ができる。
 『お~お、これは旨そうだ。統領、いただきます』
 オキテスがパンに手をのばす、口へと運ぶ、ぶどう酒をのどに通す。
 『俺だけがおいしいものを食べている。ちょっと、気が引けます』
 オキテスは、またたくまに昼食を終えて改まった。
 『報告いたします。レテムノンのテムノス頭領の浜に着いて、早速、新艇の引き渡しを行い、テムノス頭領の指示があり、進水の儀式を行いました。このとき、スダヌス浜頭が子羊一頭を準備してきてくれていました。進水の儀式を終え、テムノス方の水夫連に操船説明の航走を行いました』
 『スダヌス浜頭が子羊を準備してきてくれたとはな』とアエネアスがうなずく。
 『操船説明の航走から浜に帰り着いたところで、テムノス頭領の目が試作艇に移り、『ちょっと乗せろ』ということになり、試作艇に乗り沖に出ました。第一日目はそのような次第でした』
 オキテスはここで話をきる、一同と目を合わせる、話を継いでいく。
 『そのあと、テムノス頭領が私らの労をねぎらっての夕食会となり、その日を終えた次第です』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1031

2017-05-15 07:07:43 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 新艇納入の航海から帰還した一行を盛大に迎えた彼らは、その無事を心から喜んだ。
 彼ら一群の真ん中には、アエネアス、イリオネス、パリヌルスの三人がいる、傍らにはドックスが立っている。
 オキテスが艇から降りる、波打ち際に立つ、アエネアスと目を合わせる、歩み寄る、口を開いた。
 『統領、ただいま帰りました。全員無事の帰着です。新艇の引き渡しは滞りなく終えました。以上報告いたします』
 『おっ!そうか。全員無事の帰着が何よりうれしい!そのうえ業務の完遂、重畳!オキテス、ご苦労であった』
 アエネアスが目を潤ませる、腕を伸ばす、オキテスの肩を力を込めて抱いた。浜の一同から拍手と歓声が起きる。
 イリオネスがオキテスのつま先から頭まで五体を見て、彼の肩をガシッと抱く、言葉短く労をねぎらう。
 パリヌルスもオキテスの肩を抱く、二人に交わす言葉はない、目を合わせる、うなずき合った。
 艇上では、ギアスが漕ぎかた一同の労をねぎらう。ギアスが漕ぎかた一同とともに艇から降りる、波打ち際に整列する、棟梁と軍団帳に無事の帰着を報告する。
 イリオネスが声をかける。
 『おう、ギアス艇長、そして、漕ぎかた一同。長途の航海、大変にご苦労であった。お前らの無事の帰着、何よりと喜んでいる。そのうえ、業務の完遂、重畳であった』
 イリオネスが彼ら全員と握手を交わし、その労をねぎらった。
 浜において彼らを迎えた一同から盛大に拍手と歓声が沸きあがった。
 長途の航海から帰った一同の出迎えの次第が終わる。
 ギアスは漕ぎかた連一同を浜の一隅に休ませ、昼食の調達にパン工房に足を運ぶ、セレストスに航海より帰ったことを伝える。
 『おう、セレストス、無事に帰ったぞ!航海中の食事の件いろいろとありがとう。心から礼を言う。ところで昼食にしたい。パンはあるかな?』
 『ギアス艇長、長途の航海ご苦労でした。全員の無事何よりでした。昼食の件ですね、解りました。人数は何人ですかな?』
 『おう、37人だ』
 『少々お待ちください。すぐ整えて一緒に行きます』
 ほどなく準備が整う、セレストスが工房の者にパンを持たせ、ギアスとともに浜へと向かう。
 『艇長、いま、工房の者に魚を焼かせています。じきに焼けると思います。焼きあがったら浜へ持ってくるように言ってあります』
 『おう、手数かけるな。ありがとう』
 ギアスとセレストスが浜で待つ漕ぎかたらのところに来る、セレストスが声をかける。
 『皆さん!ご苦労でした。昼食のパンです。ほどなく、ぶどう酒と焼いた魚が届きます。少々待ってください』
 『おう、ありがとう』
 ギアスが声をかける。
 『おう、一同、少々遅くなったが、昼食にしよう。魚を焼いてくれている。すぐに届くと思う。パンを食べながら待つとする。昼を始めてくれ』
 彼らは、焼きあがって時間のたっていない、温もりのあるパンをほおばった。
 ぶどう酒が届く、焼けた魚も届く、彼らは満面に笑みをたたえる、航海中の話に花を咲かせる、昼食の場をぎわせて食した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1030

2017-05-12 08:22:44 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 二日間にわたり地中海を航走した試作艇がわずかばかりの風格をにじませている。
 スダヌスらの船が浜を出ていく、オキテスら一同がこれを見送る。
 『おう、ギアス、俺らも出るか』
 『はい、解りました』
 一同の目線がギアスに集まる、指示を発する。
 『一同、乗艇!座につけ!ゴッカス、着座の指示をせよ!』
 『はい、了解!』
 浜一帯に凛とした気が漂う。
 『ギアス艇長、一同、着座完了!』
 『オキテス隊長、乗艇してください』
 乗艇する二人、部署に就くギアス、浜に目をやる、スダヌス方の者ら数人の姿が浜にある、オキテスとギアスが手を上げる、軽く低頭する、彼らが礼を返してくる。
 ギアスが指示を出す。
 『漕ぎかた、櫂をとれ!漕ぎかた開始!』
 艇が航跡を残して浜を離れ始める、ギアスらが再び浜に目を移す、手を振る、浜の彼らも手を振る、惜別の情が流れた。
 艇が進む、時を経る、四半刻、入り江口にさしかかる、入り江の海からクレタ海に出る。
 『ゴッカス、次の転進地点まで進路は北へだ。沿岸に沿って北上せよ、いいな』
 『了解しました』
 陽射しは薄陽、海はさざ波、緩やかなうねり、わたってくる風は東からの微風、凪の状態である。
 艇が北へと進んでいる、スダヌスの浜を離れて、一刻余り、西への転進地点に到った。
 『ゴッカス、進路を西へだ!ホたスルに舵操作を指示してくれ』
 『了解!』
 『あ~あ、それから、10人くらい、漕ぎかたの交替がどうかと考えているのだが』
 『いいですね!やりましょう』
 『このあと一刻半くらいで我々の浜に着く。半刻くらい進んだら、艇を西南に転進させるのだ。いいな』
 ギアスが言葉を継ぐ。
 『なお、西南に転進して半刻、小島が見えてくる。小島が見えたらその方向にまっしぐらに艇を走らせろ。それでいい、帰るべき浜が見えてくる』
 『了解しました!』
 ゴッカスは、ギアスからの指示通りに艇を航走させる。西に転進してから向かい風にあらがって艇を走らせる。
 わずかばかり細めにできている艇体、衝角構造の波割り、艇尾船底の流線形態等、艇の走りに効果的に働いている感がする。ゴッカスはヘルメス艇の漕走感と違いについて考えた。
 ギアスに言った時間経過と航走における到達地点に大きな隔たりがない、ゴッカスの目に小島が見えてきる。三日間の航海の終着点に近づいている。
 浜が見えてくる、大勢の者が浜に押しかけている光景が見えてくる。
 瞬く間に指呼の距離となる、大勢の者たちが手を振っている。
 艇上の者らも手を振ってこたえる。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1029

2017-05-11 06:35:27 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 スダヌスが一同と目を合わせる。
 『おう、一同!このたびの新艇納入の航海、辛苦奮闘ご苦労であった。あと少しばかりの航海行程が残ってはいるが、安全航海でここまで来た。杯の酒を飲み干してくれ!乾杯!』
 『おうっ!乾杯!』
 一同が呼応して、一同が杯を満たしている酒を飲み干す、浜小屋を揺るがす歓声があがる。
 干した酒杯に酒を注ぐ、誰かが声を上げる。
 『スダヌス浜頭に乾杯!』
 杯を干す、酒を満たす、彼らは続ける。
 『オキテス隊長に乾杯!』
 彼らの乾杯の声がけが続く。
 『ギアス艇長に乾杯!』
 乾杯を続けて、肴に舌鼓を打つ、場がにぎわう。
 感慨がオキテスの胸を打つ、『この者らがいたからこそ、業務完遂ができた』喜びをかみしめる、心が潤んだ。

 スオダの浜に朝が来る。オキテスら一同はスダヌスの浜で朝を迎える。ギアスは朝行事をしつつ空を見上げる。『今日の空模様は?』である。
 曇り空である、雲は薄い、風はない、薄い雲を通す日射し、彼は心中で叫ぶ。
 『我らが浜に着くまで荒れないでくれ!』とささやかで不器用な祈りであった。
 朝行事を終えた者らが集まってくる、オキテスを中央にして円陣を組む。
 『おう、一同、おはよう!』
 『おはようございます』
 彼らから、朝の挨拶返事が返る、オキテスの言葉が続く。
 『いい朝だ。今日が航海の最終日だ。この航海を無事に終えたい、一同よろしく頼む。ギアス、今日の航海について説明をしてくれ』
 ギアスが口を開く。
 『一同、おはよう。このあと、朝食を終えて、浜を離れる。空はうすく曇っている、風はない。航海は、この入り江を出て、半島岬を廻り、我らが浜へ向かう。浜に帰り着く予定の頃合いは昼過ぎといったところだ。順風は期待できない、艇は漕走で航走する。一同よろしく頼む。以上だ。ゴッカス、朝食の準備を頼む』
 彼らは朝のミーテングを終える。航海最終日の朝食タイムを過ごし、出航準備にとり掛かった。
 ギアスが艇の点検に向かう、艇の舵部分を念入りに点検する。
 オキテスの言う、『艇の両舷の櫂舵はいただけない』の一言で考え、創出造作した構造の舵である。その合理性にうなずきながら点検する、ドックスの確かな造作には不具合がなかった。
 キドニアの集散所に向かうスダヌスらの一行が浜に出てくる、ギアスと顔が合う、おのずと口を突いて出てくる朝の挨拶の言葉がけで互いの元気を確かめる。今日一日のグッドラックをとうなずき合う。
 『ギアス、道中の無事を祈っているぞ!』
 スダヌスが親指を立てて拳を突き出す、ギアスもそれに倣って親指を立てて拳を突き出す、目を合わせる、うなずき合う、情にあふれた挨拶を終える。
 ギアスが大声をあげて漕ぎかた一同を招集する。 
 『おう、ゴッカス、艇を海へだ!』
 全員が艇に取りつく、オキテスも加わる、艇を浜から海におろし浮かべた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1028

2017-05-10 07:55:48 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『浜頭に似せない言いまわしだな。まあ~、いいだろう。ギアス、艇を揚陸しておいてくれ。点検を忘れるな、いいな』
 『解りました』
 ギアスが一同に声をかける。
 『艇を浜にあげる。要領は、艇首から陸にあげていく、艇尾には受台を施して定置する、いいな!』
 一同が艇に取りつく、
 『艇をいたわる気持ちでやるのだ!』
 揚陸作業が終わる、ギアスが点検にとり掛かる。
 衝角構造体と追加造作を施した艇体補強の箇所を念入りに点検する。
 パリヌルスの大胆にして巧緻にたけた構造形成に感動し、ドックスのずば抜けた造作工作に感服した。
 『よし!一同ご苦労であった』と彼らの作業をねぎらう。ギアスがゴッカスに小声で指示する。
 『ゴッカス、一同の体の状態をそれとなく把握しておいてくれ。気にかかることがあれば俺に一報してくれ』
 『ところで一同に伝えておく。今日のことだが、俺らが浜へ帰ろうと思えば帰れないことはないが、オキテス隊長の気遣いとスダヌス浜頭の厚意によって、今夜はこの浜で一泊して、明朝、帰途に就く。ニューキドニアの浜への到着は昼過ぎと予定している。以上だ。スダヌス浜頭の浜小屋において、これから昼食とする。お前ら腹が減っただろう。行くぞ!』
 彼ら一同はスダヌスの浜小屋へと歩を向ける。スダヌスが戸口に立って一同を迎えてくれる。
 小屋の中は、肉、魚の焼けるにおいと煙が充満している、食材を焼く炉のヘリの所々に塩を盛った皿が配置されている。
 彼ら38人が席をつめて炉端に座をとる、スダヌスが声をかける。
 『おう、お前ら、そこはもっと、つめて座をとれ!肴は各自が焼いて勝手に口に運ぶ、振りかける塩は手元にあるだろう。さあ~、一同!今日は、早朝からご苦労であった。酒は隣同士で注ぎ合って飲んでくれ』
 オキテスがギアスに声をかける。
 『ギアス、ゴッカスに言って、艇に積んでいるパンを取りに行かせろ』
 『はいっ!』
 『ゴッカス、二人くらい連れて、艇に積んであるパンを持ってきてくれ』
 『解りました』
 オキテスが一同に声をかける。
 『おう、一同!昨日今日と大変ご苦労であった。新艇の納入はうまくいった。そのうえ、試作艇の完成艇も受注した。君ら一同が力を尽くしてくれた結果であると喜んでいる。このオキテスから一同に心から礼を言う。今日はこれで艇を動かすことはない、ゆっくり酒を飲み、肴を食べて、身体を休めてくれ』
 オキテスは一同と目を合わせ、うなずき合う。
 オキテスは改めてスダヌスに目を移す。
 『スダヌス浜頭、浜頭の適切な案内で安全な航海ができた。ここに厚く礼を言う。ありがとう』
 ゴッカスがパンを持って戻る。
 『おう、ゴッカス、ご苦労!』
 オキテスが話し続ける。
 『一同、酒杯を手にしてくれ!乾杯をやる!スダヌス浜頭、乾杯の声がけをやってくれ!』
 『おう、引き受けた!』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1027

2017-05-09 08:34:36 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『ギアス艇長、やや北寄りですが東から海風が来るようです』
 『おう!』
 ゴッカスの声がけを聞く、ギアスが風を読む、北寄りの東風が来ている、風の方向と風力の適性をチエックする。
 『この風では、帆張りはまだだ。ゴッカス、状況待機だ』
 『解りました』
 ギアスがスダヌスに声をかける。
 『スダヌス浜頭、洋上の到達点と時間経過は順調ですか?』
 『おう、現時点では順調だ。いい航走をしている。あと半刻で目標地点に到達する』
 艇の走りは順調である。
 『おう、ゴッカス、いい風がき始めたな。帆張りする!漕ぎは続行!いいな。直ちに取り掛かってくれ』
 『了解しました』
 艇は帆張りする、風をはらむ、加速を感じる、船足にスピードが出てくる、波をはじきとばす、しぶきが舞う。
 『ゴッカス、いい走りだ!漕ぎかたを休ませてくれ』
 『はいっ!』
 艇は帆走する、時が過ぎる、入り江口の岬の突端が視野に入る。
 『ゴッカス、目指すは、見えてきた、あの岬の突端だ』
 『解りました』
 天候は晴朗にして順風が艇を押す、航海日和の洋上を艇は快走した。
 スダヌスがオキテスに声をかける。
 『オキテス隊長、この分なら、俺らが浜に到着するのが早くなります。日和に恵まれて、いい船に乗っての航海は全く快適ですな』
 『浜頭、お前、忘れては困る。それにいい友をつけ加えるのをだ』
 『全く、言われるとおりだ!これはこれは、失敬、俺としたことが』
 『それにしても、この船はいい船だ。気に入りました』
 『そのように思うか?とすると、完成すれば、もっといい船になる。期待していいぞ!』
 艇は入り江に入っていく、まっすぐスダヌスの浜を目指して快調に波を割る。
 走る人影がギアスの目にとまる、浜小屋から数人の人影が飛び出してくる。
 『スダヌス浜頭、到着です』
 『おう、そうか。ギアス艇長、ご苦労であったな』
 スダヌスが艇上の一同に声をかける。
 『艇上のご一同!遠路ご苦労でした。俺が浜に無事、着きました。航海する者の第一義は安全航海です。さあ~、一同、陸にあがって身体を休めてください。すぐに昼食の支度を整えます』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1026

2017-05-08 08:21:18 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『はい、帰りは懸命の漕ぎです』
 『そうか、漕ぎかたに苦労を駆けるということか』
 『隊長、そうとも言えない地理的条件があります。期待はできませんが、いい風が来るやもしれません』
 『ほう、そうか』
 二人は艇を目の前にする波打ち際に来たことに気がついた。
 二人は艇に目をやる、スダヌスは、新方式の舵を見ている、一同がすでに乗艇している、艇が二人を待っている、出航前の緊張感が漂っていた。
 『オキテス隊長、行きましょう』
 『おう!』
 二人は海に身を浸して艇にたどり着く。ギアスがオキテスとスダヌスに声をかける。
 『オキテス隊長、スダヌス浜頭、一番前の座についてください。直ちに出航します』
 ギアスが艇上に目を走らせ、状態をチエックする、オキテスに万事に遺漏のないことを報告する。
 『了解!ギアス、出航だ!』
 浜が騒々しい、艇上の者らが浜に目をやる、水夫長を先頭に水夫らの一群の姿が見える、艇上の者らと目線を合わせる、漕ぎかたの一同が彼らに向けて手を振る、心が通じ合う、彼らも手を振る、互いに別れを惜しむ風景がそこにある。
 『ギアス、もういいだろう。艇を出せ!』
 ギアスが指示を叫ぶ。
 『一同!いいな』『おうっ!』
 『櫂をとれ!こぎかたはじめ!』
 艇が陽の光を照り返す静かな海面を割り始める、浜が遠ざかっていく、手を振り見送ってくれている水夫らの姿が小さくなっていく、淡い交わりの情念が胸をよぎった。
 西へ西へと艇は進む、レテムノンの浜を遠くへは離れず艇上の者らに岸の風景を楽しませながら艇は進み行く。
 ギアスは、頃合いを見て、一同に今日の航海行程と考えられる航海条件を説明する。一同はうなずく。
 オキテスとスダヌスは、ギアスを手招きして呼びよせる、スオダの浜への入り江口までの航路を打ち合わせる。
 テムノスの浜を離れて四半刻(約30分)、スダヌスは案内役として岸の風景をチエックする、もう頃合いと判断する。
 『ギアス艇長!』と声をかける。
 『このあたりで進路変更だ!艇首を北西へ向けてくれ』
 『了解しました』
 ギアスの指示が飛ぶ。
 『操舵担当、ホタスル!方向転進!北西へだ!』
 ギアスは語気厳しく、進路方向を手で示し、転進を指示した。
 ゴッカスがギアスに声をかけてくる。
 『ギアス艇長、方向とする風景は?』
 『まだしっかり見えていない、見えてきたら指示する。半刻後だな』
 『解りました』
 次いで、ゴッカスが声をかけてくる。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1025

2017-05-05 08:19:20 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ギアスが指示を出す、海面を泡立てる、艇が波を割り始める、浜をあとにする。
 『水夫長殿、この陸風なら、少々だが航走の頼りになります。帆張りしてみます』
 ギアスの指示が飛ぶ。
 『全帆!帆張れ!』
 即、帆が風をはらむ、漕ぎが少しばかり軽くなる、漕ぎのピッチが速くなる、艇は加速する、朝凪前のたゆとう波を割って艇は進む。
 乗り組んだ水夫たちが目にとめているのは新方式の艇尾の舵操作である。彼らはその構造と操作に気を取られている。
 艇は方向転換地点に到達する、ためらわず艇首を来た方向に反転させる、帆をおろし、漕走で浜に帰り着いた。
 水夫長がギアスに礼を述べる。
 『艇長、当方の水夫ら一同を試乗させていただきありがとう』
 彼らは何事かを話し合いながら浜をあとにして去っていく、ギアスらは彼らを見送った。
 オキテスがまだ帰ってきていない、彼の帰りを待った。
 ほどなく、スダヌスと話し合いながら歩いてくる二人の姿を目にする。
 スダヌスがオキテスの肩をたたく。
 『オキテス、やったな!上首尾だな』
 『まあ~、うれしいことは間違いない。半年も先の引き渡しだ』
 『俺も買う!』スダヌスが言う。
 『何っ!浜頭も買う?!本当にか』
 『あの船は完成すると、もっといい船に仕上る。おう、あの船はいい!気に入った。船足の速さが気に入った』
 『帰りは、あの艇に乗っての船旅だぞ。気が変わるかもな』
 『一度決めたら変えない、それが俺の主義だ。オキテス、前へだ!』
 二人は気づく、艇を目の前にする波打ち際に立っていた。
 『おう、ギアス、水夫らの試乗を終えたのか?』
 『はい、終わりました』
 『では、帰るとするか。帰途に就く準備は?』
 『すでに万事できています』
 『よし!テムノス殿に挨拶に行く、一緒に来い』
 出航の最終点検をゴッカスにたくす、二人は挨拶に出向いた。
 オキテスは丁寧に新艇の引き渡しの礼を述べる。
 『オキテス殿、遠路ご苦労でした。例の件、よろしく頼みます』
 『承知いたしました。その件についての進捗は時折、報告いたします。今後、何卒よろしくお願いいたします』
 『おう、こちらこそだ。統領によろしく伝えてくれ。道中の安全を祈る。いい航海であるようにな』
 『ありがとうございます。では、これにて』
 二人はテムノスの屋敷をあとにする。
 『ギアス、風の具合は、どんな具合だ?』