『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1024

2017-05-04 08:19:16 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 レテムノンの港の朝が明ける。
 夏の一夜を他郷の浜で過ごした一同は、水平線を破って昇る太陽を見ようと飛び起きる、波打ち際へと駆ける、ところ変わっても彼らは朝行事を欠かすことはない。
 彼らは身を海に浸す、水平線を破って昇る大日輪を待つ、東の水平線が黄金色に輝く、待ちかねた日輪が水平線を破って顔を見せる、一同が歓声をあげる、彼らは身を沈める、顔だけを海上に出している、瞑目して何かを祈りあげている、そのような光景がレテムノンの港の一隅で展開されている。
 彼らが朝行事を終えて浜にあがってくる、そこにはギアスが待っていた。
 一同がギアスの周りに円陣を組む。
 『ギアス艇長、おはようございます。いい朝です』
 『おう、おはよう!いい朝だ』
 朝の挨拶が交わされる。
 『おう、一同、聞いてくれ!』
 ここで言葉を切って一同と目を合わせる。
 『今日のアサイチの業務は、テムノス方の水夫連を試作艇に乗せて航走する。それを終えて、帰途に就く。以上だ、解ったな。朝の航走には昨日のようないい風が期待できない、朝凪の頃合いである、往きも帰りも漕走である。よろしく頼む』
 『おうっ!』と返事が返る。
 『では、朝めしにする。ゴッカス、支度を頼む』
 『はい!解りました』
 ゴッカスが二人に声ををかけて手伝わせ朝食の場をつくる、オキテスを呼びにスダヌスが来る。
 『ギアス、俺、ちょっと行ってくる』とギアスに声をかけて場を離れていく。
 彼らは、朝めしを終える、ほどなく、昨夕、食事会を共にした水夫らが姿を見せる、総員は20名である。
 ギアスは思案する、試作艇の乗員数は37名くらいとしている、ギアスは自分らの人員を削減して人員調整をする、彼らにも漕ぎ座について櫂操作をしてもらうことにした。
 ギアスと水夫長が打ち合わせを終える。
 『では、早速、海に出ます。よろしいですね』
 彼ら一同が艇上の人となる、ギアスが風を読む、クレタ島の中央にあるイデー山(クレタ三山の最高峰、標高2456メートル)がレテムノンから南東30キロの内陸方向地点にあり、吹きおろしてくる陸風が艇を押すいい風とは言えない、朝凪の頃合いが迫っているのである。
 ギアスは水夫長に話しかける。
 『水夫長、朝凪の頃合いとなります。艇を押すいい風が期待できません。漕ぎ座についていただく水夫の方にも櫂操作をお願いしたい』
 『その件、了解です。解りました』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1023

2017-05-03 08:09:41 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ギアスが操舵棒を握って操作する。
 『ほっほう、そのようにやるのか、解った。俺にやらせてみろ』
 『どうぞ!』
 スダヌスが操舵棒を握る、艇尾を左右に振る。
 『おうっ!納得!』
 満足げに言って、笑みを浮かべる。
 『テムノス殿、どうぞ!』と座を変わる。
 テムノスが代わって操舵棒を操作する。彼からは言葉はない。水夫長と代わる。次は操舵手に代わる、操舵手が操舵棒を握って操作効果を確かめる。
 ギアスが声をかける。テムノスが答える。
 『おう、これは櫂舵とは操作の感じが違う。いい具合に船尾を振ることができるという構造だな。だが、しかしだ』
 テムノスが水夫長と操舵手に声をかける。
 『船が帆張りして航走する、船速が速くなる、その時の舵の操作効果だ。その感じをつかんでおいてくれ』
 『解りました』
 『この船が違って感じるのは、航跡だ。どことなく走行時の航跡が違う。どう違うと聞かれても答えられないが、水夫長、よくチエックしておいてくれ』
 水夫長と操舵手は彼の言葉にうなずき、船尾の引く航跡に目を移した。
 試作艇は方向転換地点に到達する、進行方向を反転させる、帆張りする、オキテスもギアスも未体感のスピード感を感じながら浜に帰り着いた。
 テムノスは、納入された新艇の乗感を計る物差しに設定して試作艇の試乗感を評価した。彼が船に求めたものがそこに存在していることを感じ取っていた。
 テムノスが話しかける。
 『オキテス殿、ありがとう。いい体験をさせてくれた。礼を言う。試乗感に満足といったところだ。そこでだが、明朝、ウチの水夫らを乗せてやってくれないか?』
 『解りました。航走する条件が今日のような条件といえるかどうかはわかりませんが了解いたしました』
 オキテスが承諾の返事を返す。
 『ギアス、そういうことだ。明朝、その準備よろしく頼む』
 『了解いたしました』
 浜では、水夫らが総出で夕食会の場造りをやっている。テムノス、スダヌス、オキテスの三人が打ち合わせている、オキテスとスダヌスの二人が深く低頭して礼を述べている。
 夕食会の支度万端が出来あがる、オキテスら一同が水夫長に案内されて夕食会の座につく、テムノス方の水夫らの拍手に迎えられた。
 テムノス方の一同、そして、当方の一同がそろって、浜焼きスタイルの夕食会が催される。
 テムノス頭領の乾杯で始まる、夕映えに照る顔を浜焼きの火にあぶり、和やかに交歓の宴である、場は盛りあがる。
 ギアスが水夫長にスペッシャルパンを手渡す。
 『水夫長殿、今日は夕食に招かれて、私らはとてもうれしい!存分に馳走になります。ありがとうござ尾ます。このパンは私らのかまどで焼かれたパンです。味わってみてください』
 『おう、そうですか!遠慮なく頂戴します』
 パンは、水夫ら全員に手渡される、彼らは手に取って眺める、『味見だ!』と言って、即、噛みつく、ほおばる、『これは旨いっ!』一人が声をあげる、
 彼らは一斉にパンを口に運ぶ、左手にパンを持ち、右手に酒杯、焼けた肴の串を持ち返しながら夕食を楽しんでいる、ギアスらも心底から遠慮を忘れて夕食を楽しんだ。
 テムノス、スダヌス、オキテスの三人も夕食を楽しんでいる、三人の話題の軸は船である、三人は目を輝かせながら船についての話を躍らせた。
 和やかな夕食の場を宵のとばりが包み始めていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1022

2017-05-02 08:20:09 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『全帆を下ろせ!』
 水夫長の指示が飛ぶ、帆おろし作業をやってのけるギアスの部下の二人、水夫らはその作業のしぐさをじい~っと見つめている。
 『水夫長、以上が帆張り、帆下ろしの作業です。指示を発してやってみてください』
 『了解です』
 水夫長が、即、指示を発する、水夫らが帆張り作業を実行する、続けて、帆下ろし作業も行う、彼らは、そつなく帆張り、帆下ろしをやってのける。ギアスは感心するとともに安堵した。
 再度、帆張りして、艇を帆走状態に移行した。
 北東からの順風がいい感じである、艇が快走する。
 艇上の者らが航走を体感する、艇は折からの風を帆にはらみ、ブレのない安定した走りで、レテムノンの浜を目指して波を割り航走した。
 『オキテス殿、水夫ら一同が操船について、納得したようです。あとは慣れることです。ご苦労でした。ありがとう。ところで、今日、君らが乗ってきた船はなんなのだ?』
 『あ~あ、あの船、あの艇ですか。あれは試作艇です。お客様からの要望で試作した船です。ただいま試し乗りの真っ最中といったところです』
 『船体がやや細めで長い。まだこの頃合いだ、ちょっと乗ってみたい。スダヌス、どうだ乗ってみたいと思わんか?』
 『オキテス、テムノス殿が言っておられる、走ってみようではないか。俺も大いに興味がある』
 『解りました。すぐ準備を整えます。少々、お待ちください』
 間をおかずギアスがオキテスに伝えてくる。
 『オキテス隊長、準備ができました。皆さんの試乗ですが、先ほどのコースでよろしいでしょうか?』
 『おう、あのコースでいい!』
 『了解しました』
 テムノスとスダヌスの二人をギアスが試作艇の艇上に案内する。
 『テムノス殿、どうぞ。テムノス殿とスダヌス浜頭は一番前の席に座をとってください。そのように座が作られているのです。二番目より漕ぎ座になっています。漕ぎ座が24座、艇は衝角構造体を具備しています。また、操船する舵構造が試験的な構造になっています』
 『そうか、解った。うちの水夫長と操舵手も乗ってかまわないな』
 『え~え、どうぞ!』
 一同が試作艇に乗る。
 『おう、ギアス、艇を出してくれ』
 オキテスが声をかける、艇が波を割り始める。
 『おう、オキテスにギアス、ちょっと乗り心地が違って感じる』
 『あ~あ、それは艇構造の影響であると考えられます。艇の重さが少々重くできています』
 『そのあたらしい、試験的な舵構造とはどんな構造なんだ?操舵させてみろ!』
 『どうぞ!』
 『お~お、これは?!』と言って、スダヌスが唖然としている。
 『ギアス、ちょっと、操舵してみろ!俺がやるのはそれからだ』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1021

2017-05-01 06:47:17 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『水夫長殿、私は艇長役を務めているギアスと言います。これより、新艇をクレタのの海に出し、操船に関する説明をいたします。一同、乗艇ください』
 『分かりました。ギアス殿、漕ぎ座の数はどれだけですか?』
 『はい、漕ぎ座の数は、20座です』
 『乗船の定員はいかほどですかな?』
 『35人です』
 『解りました』
 彼らは、テムノス以下水夫長を含めて25人が新艇に乗り組んだ。
 ギアスは、ゴッカスに声をかける、操舵担当を含めて、3人が乗り操船の説明にあたる。
 テムノスとオキテスはすでに艇上にあり、話し合っている。
 関係者全員が新艇に乗り組む、水夫らは漕ぎ座に就く、ギアスが水夫長に声をかける。
 『とりあえず、櫂操作で沖に出ます。目指す方向はこの方角です』
 ギアスは手でもって北東の方角を指し示した。
 『解りました。出船指示は私でよろしいですね』
 『もちろんです。よろしく願います』
 『おう!一同!聞いてくれ!これから、この船の操船に関する説明の航走をする。櫂操作によって沖に出る。いいな』
 『おうっ!』
 気合が入る。
 『一同!櫂をとれっ!漕ぎかたはじめ!操舵手、進行方向は北東へだ!』
 『了解!』と操舵手より返事が返る。
 櫂が海面を泡立てる、艇が波を割り始める、折から吹きつける風にあらがって北東へと進む、漕ぎ座の水夫らは船速が目標速度になるまでの櫂操作の水の抵抗感がこれまで使用していた櫂に比較して少々の違いを感じているらしいことがギアスに見て取れた。
 船が浜を離れて四半刻(30分)25スタジオン余り(約5キロ)ギアスが予定した地点に到達する、彼が風を読む、浜に向かっていい風が来ている。
 『水夫長、方向を転じて、帆張りして浜に向かいます。私に同行している二人が帆張り作業ををやります、続けて、帆を下ろす作業もやります。見ていてください。それを終えて水夫の誰かに帆張り作業をやってもらいます。いいですね』
 『解りました』
 『頃合いはよろしいです。方向を転じてください。反対方向に船首を転じてください』
 水夫長が操舵手に指示を発する。
 『進行方向転換!船首、反転、船首南西方向!帆張りせよ!全帆!』
 『了解!』
 乗り組んでいるギアスの部下二人が帆張り作業にとりかかる、作業を見つめる水夫ら、帆張り作業を手際よくこなしていく、その作業ぶりに目を凝らす、そして、うなずく、彼らは納得したようである。
 ギアスが水夫長に帆おろしの指示を出すようにとうながした。