つれづれなるままに弁護士(ネクスト法律事務所)

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としまえん問題についての一応のまとめ~誰がとしまえんを殺したか〜前編

2021-07-24 07:48:00 | としまえん問題

も。

おっさんライダー弁護士、ひらいわです。

 

さて。

昨年来、東京都練馬区にあった「としまえん遊園地」の閉園と、それにまつわる「ハリー・ポッター・スタジオツアー東京」(以下「スタジオツアー東京」)の建設についてこのブログでつらつら書いてきたのだが、先日の東京都議会議員選挙(7月4日投開票)では、としまえん閉園に至る経緯を一貫して批判してこられた池尻成二候補が僅差で当選を逃し、他方で、(としまえん閉園とスタジオツアー東京の誘致は)「私が間に入り動かした」と認めておられたおじま紘平候補が当選を果たされた。

池尻候補、おじま候補ともに選挙区は練馬区だったから、すくなくとも「練馬区の有権者はおじま候補の考え方・行動に信任を与えた」と考えるのが多数決民主主義の原則だ。

ちなみに、池尻候補と同じく一貫してスタジオツアー東京に反対しておられたとや候補はおじま候補以上の票を獲得して当選された。ただ、「としまえん問題」を正面から争点にしていたのはどちらかというと池尻候補の方だったし、おじま候補と池尻候補にはラジオ番組で「としまえん問題」についての意見を開陳してもらったりもしていたので、「としまえん問題」については、やはり「おじまvs池尻」という視点から判断すべきかと思う。

なので私も「としまえん問題」についての私の活動にはひとまず幕を引くことにした。

・・・・と、Twitterで告知したところ、

「えーっ?今、やってる東京都建築審査会と練馬区長に対する審査請求からも外れちゃうんですか?」

と心配するお問い合わせを何件か頂いた。

この2つの審査請求はいずれも「としまえん跡地にスタジオツアー東京を建設するのは法律上、問題があるのではないか?」と問うものだ。

審査請求書を提出してから1週間程度は、無料のストレージサービスからデータをダウンロードできるようにしておいたので読まれた方もいらっしゃるかもしれない。

(※現在はデータ保存期間が経過してしまっているのでダウンロードはできません。ご希望が多ければまたストレージサービスを使った公開も検討します。なお、枚数・データ量が膨大な量になるのでコピーやメールでの提供には応じていません。すいません。)。

 

言うまでもないことだけど、私(ともう一人の弁護士)が代理人になって進めているこの審査請求の主体は、あくまでも審査請求人の皆さんであって私ではない。

私は代理人としてして審査請求人の皆さんのお手伝いをさせて頂いているだけだし、そもそも審査請求人の皆さんとは委任契約書も取り交わしていて、そこには、

「あのね、私が辞めよっかなって思ったらいつでも辞任するからね。それでいいよねっ?」

とは書いてない。

痩せても(太ってきたが)枯れても(老いてなお全開バリバリだ。今日も不要不急のソロツーリングに行ってきた)プロの弁護士だから、依頼を受けた以上、仕事は依頼者から解任されない限り最後までやる。

御心配には及びません。

 

とはいえ、それが正しいかどうかは別として東京都議会議員選挙で一応の結論というか、練馬区の有権者の判断は出されたわけだから、これまでちょこちょこと調べてきた「としまえん問題」について私なりの中間まとめをここらで出しておこうと思う。東京都の公園審議会だって「中間のまとめ」を出したりするわけだから。

あくまでも「私なり」のまとめなので、

以下に書かれていることは全部が真実だ、などと盲信しないように。

 

まず、「としまえん問題」の概略というか主な出来事の時系列を把握しておいてもらったほうがこの先の話がわかりやすいので、先にこのブログの2020年9月8日の記事をお読みいただきたい↓(リンク貼り付けの仕方がわからないので適当に貼り付けたが、たぶんリンクになってるはず。)

「としまえん問題」のブログ記事一覧(6ページ目)-つれづれなるままに弁護士(ネクスト法律事務所) (goo.ne.jp)

 

そのうえで。

1年間かけて色んな人からお話を伺い、私なりに一生懸命調べても、とうとう最後までわからなかった疑問点は以下の2つ。

1つ目の疑問:広域防災拠点機能等を備えた練馬城址公園としてとしまえん跡地を整備するために、10年前、としまえん全域が優先整備区域に指定されたのに、どうして、としまえん閉園直前になって、跡地のほぼ半分にスタジオツアー東京が建設されることになって、しかも、30年間もスタジオツアー東京がそこで営業することが認められたんだろう?

2つ目の疑問:そもそもとしまえん跡地は第2種住居地域に指定されていて10000㎡を超えるテーマパークとかアミューズメント施設といった「遊技場」は建設できないはず。スタジオツアー東京はどう見てもハリーポッターのテーマパークでありアミューズメント施設との印象を受ける。それなのに何故、としまえん跡地に建設できることになったんだろう?

今回の「中間まとめ」では、この2つの疑問について、現時点での私なりの答を自戒と反省を込めた「私見」として述べておこうと思う。

 

以下、私見。

【1つ目の疑問について】

たしかに、としまえん跡地を広域防災拠点機能を備えた練馬城址公園として整備しようという計画のもと、としまえん一帯は優先整備区域として指定されていた。

ただ、「優先整備区域の指定」というのは、早い話、お役所内での仕事の優先順位、タスクリストみたいなもの。その指定がなされたからといって「土地の所有者の権利に何らかの制限がかかる」といったものではない。おそらく、土地所有者に「あなたの土地は優先整備区域に指定されました」と東京都から通知が行くことすらない。

しかし、これだけ大規模な土地の再開発(都市公園整備計画)である。

東京都が土地所有者の西武鉄道(以下「西武」)にまったく説明もせず、秘密裡に公園計画を立てたなどということはちょっと考え難い。

そもそも練馬城址公園の整備計画は、(今でもそうだが)東京都のHPで公園審議会の資料が公開されているから、西武はおろか誰でも知り得る状態にあった。

これから自分の土地を事業用定期借地として貸し出そうという西武が、その土地に対する行政の計画を調べもしなかった、などということも常識的に考えてあり得ない。

自身の所有するとしまえん跡地を東京都が練馬城址公園として整備しようとしていること、その公園には震災時に都民・区民の生命と身体の安全を守る広域防災拠点機能が備えられようとしていること、10年前に優先的に公園整備を進める対象地として指定されたことを西武が知っていたことは間違いない。

だから、本来であれば、としまえん閉園→東京都が公園用地として西武からとしまえん跡地を取得→公園整備→練馬城址公園開園と手続きが進んでいったはずだった。

 

ところが、西武は土壇場になって、としまえん跡地の約半分(としまえんのほぼ中心を東西に流れている石神井川の北側)にスタジオツアー東京を作る、営業期間は約30年間だ、と突如発表した。

発表には西武だけでなくワーナー・ブラザース(以下「ワーナー」)、伊藤忠商事(以下「伊藤忠」)、東京都知事も名を連ねていた。

スタジオツアー東京のための土地の利用契約は事業用定期借地契約。

契約書が公開されていないので詳細な契約条件は分からないけれど、定期借地契約なので契約期間途中の解除は賃貸人からも賃借人からも原則としてできない(期間途中で解除する場合は、違約金を相手方に支払って解除に応じてもらうという形を取るのが普通だ。)。

契約の当事者あるいは利害関係人にはアメリカに本社を置くワーナーがいる(少なくともスタジオツアー東京を開業・運営していくにあたってワーナーの関与・協力が0などということはあり得ないので。)。

先ほど述べたとおり、「優先整備区域の指定」に土地所有者の権利を制限する効果はない。「優先整備区域」に指定されている以上、他の公園整備予定地に「優先」して公園整備計画が進められることになるから、その土地を買ったり借りたりした者が土地の提供を拒めば、「予想外に早く」土地収用法に基づく強制収用対象になってしまうかもしれないという可能性があるだけだ。

ただし、何度も同じ話をして申し訳ないが、自分の土地が「優先整備区域」に指定されても、土地所有者としてはその土地を誰に売ろうが誰に貸そうが自由。

(スタジオツアー東京賛成派の議員からは、それこそ耳が腐るほどこの言葉を聞かされた。)

 

西武(と伊藤忠とワーナー)はここを突いた。

自分の土地を誰かに貸すのは自由だ。

もちろん、優先整備区域に指定されているから、理屈上は公園計画が進めば思っていた以上に早く土地が強制収用されてしまう可能性もある。

でも、巨大外資企業あるいはその子会社がその土地の事業用定期借地契約の当事者あるいは利害関係人だったら?

借りた土地を明け渡さなければならなくなったワーナー(あるいはその子会社か伊藤忠か)が西武に巨額の違約金や営業補償を請求してきたら?

その違約金や営業補償は、収用に際して東京都から西武に支払われる補償金の額に反映されるだろう。

国際問題になりかねない。

巨額の出捐を伴いかねない。

そんな収用を東京都がするだろうか?

わざわざバカ高い金を払ってそんなゴタゴタに巻き込まれるくらいなら、30年間の事業用定期借地を東京都としても認めたほうが波風立たなくていい。

そのうえで、

「そのかわり30年後にはちゃんと土地を公園にさせてくださいよ」

「いちおう、公園としての整備を優先的に進める区域に指定してたんだから、せめてスタジオツアー東京ができても練馬城址公園の機能(水と緑、広域防災拠点、にぎわい)を実現できるように協力します、くらいの一筆は入れてくださいよ」

「でないと都民にも区民にも説明できないですよ」

と申し入れて(あるいは泣きついて)、それで作られたのがおそらくこの5者覚書だ↓

https://www.ikejiriseiji.jp/news188/

 

5者覚書には意味がない、という人もいるが、そんなことはない。

意味はある。

「東京都としては練馬城址公園にする予定だったとしまえん跡地の北側半分をスタジオツアー東京とすることを認める」

「スタジオツアー東京が30年間、営業することも東京都は認める」

「そのかわり西武やワーナーや伊藤忠は、練馬城址公園の機能(水と緑、広域防災拠点、にぎわい)の『実現の一翼を担うことに配慮』だけすればいい。それ以外は特に義務はない」

ということを、東京都と練馬区と西武とワーナーと伊藤忠がみんなで確認した、という意味が。

 

この5者覚書で誰がどんな利益を手にできるのか考えてみよう。

西武は、平成バブルの崩壊以来30年以上も赤字すれすれでやってきたとしまえんの経営から解放され、今後はノーリスクで30年にわたって地代収入を手にすることができる(実際、数年前にはプールで女の子が死亡するという痛ましい事故まで起きている。)。土地の面積や立地条件を考えれば、としまえん跡地の借地料はとしまえん遊園地時代の営業収益を優にしのぐ額だろう。おまけに30年後には東京都が土地をちゃんと適正価格で買い取ってくれる。つまり東京都からとしまえん跡地の代金を受け取るうえに、30年間は地代収入でも稼げる、ということだ。

ワーナー(その日本法人を含む。)は空港からも地方からもアクセスのいい23区内の一等地をスタジオツアー東京の敷地として手に入れられる。しかも、予期に反してスタジオツアー東京がコケても違約金さえ払えば契約期間途中でもさっさと撤退することも可能だ。バカ高い東京の土地を購入したり、アクセスの悪い、手放すに手放せない地方の土地を購入するよりはるかに低リスクだ。

伊藤忠はスタジオツアー東京を誘致できれば相応の手数料が受け取れるだろう。

東京都は?

東京都は、一応、30年後には土地を円満に引き渡してもらえるという目途が立つ。その頃には、この問題に関わった都庁の役人や議員のほとんどは定年退職あるいは引退しているだろう。最悪、30年後に土地の引き渡しで西武やワーナーとの間で問題が発生したとしても、自分たちにはなんの関係もない。責任も問われない。しかも、その間、万一、スタジオツアー東京が大成功を収めて多くの海外旅行客を集客できれば、「インバウンド収入で東京都の経済振興に貢献した」として政治家には票が集まる。

要するに、面倒くさい仕事は30年先送りにして後任者に丸投げできるうえに、万一おいしい果実が実ればそれは自分が食べられる、ということだ。

では、としまえんを愛していたとしまえんファンは?

としまえんを災害時の避難場所として指定されていた近隣6万3000人の住民は?

練馬城址公園が広域防災拠点になると信じていた都民や区民は?

この人たちの利益はどこに消えた?

避難場所を(少なくともスタジオツアー東京が完成するまでの間は、場合によっては完成後も)喪失し、期待していた広域防災拠点機能は大きく減殺され、大好きだったとしまえんを失っただけだ。

審査請求書で詳しく論じているから興味のある向きはお読みいただければと思うが、スタジオツアー東京にやってくる旅行者を乗せた大型バスで豊島園通りは慢性的に渋滞するだろう。

事故も増えるかもしれない。

少なくとも周辺の交通環境は激変する。悪い方向に。あるかないかもよくわからない、新型コロナに代わる新しい感染症でも広がれば一発で消えてなくなる「インバウンド収入」とやらと引き換えに。

 

こんな歪(いびつ)な計画を誰が持ち出したのだろう?

一部の人たちは冒頭のおじま議員の軽率なツィートを根拠に、

「おじまがとしまえんを潰した。スタジオツアー東京を持ってきた。」

という。

違うと思う。

おじま議員本人からも何度かお話を伺ったが、わざわざ練馬城址公園の当初計画を歪曲してまで自ら率先してスタジオツアー東京を誘致して一発当ててやろうなどという(少なくとも地元有権者の何割かを敵に回しかねない)下策を思いつくような人とは思えない。

何故か?

んなことをしても彼にたいしたメリットはないからだ。

当たるか当たらないかもわからないスタジオツアー東京を、わざわざとしまえん跡地に誘致してきて、10年前から進められていた練馬城址公園の計画をメチャメチャに書き替え、もしかしたら自分の家族の命を守ってくれるかもしれない防災都市東京という目標までズタボロにして、それでも彼が手にしたかったメリット、というものが見当たらない。

 

極めて一部の例外を除けば、ほとんどの企業は「いくら儲かるか」で、多くの議員は「それは票に結びつくか」という単純な利益計算・票勘定で動く。

「社会的貢献」とか「持続可能性」とか「地元との共存」とか耳障りのいい言葉を彼らが並べ立てるのは、「現代はそういう視点で活動したほうが企業には永続的な利益をもたらしやすいし、議員にとっては票に結びつきやすいから」に過ぎない。

「社会的貢献」とか「持続可能性」とか「地元との共存」なんかより、より合法的でより確実に利益を得られる途、票に結びつく手段があれば企業も議員も躊躇(ちゅうちょ)なくそちらを選ぶだろう。

それが悪いと言っているのではない。

企業というのはそういう存在だし、議員というのもそういうものだ。

そういうものだと思って企業や議員の言動を見ていれば、感情に走って誰かを罵倒する必要もないし、無駄に誰かを憎悪する必要もない。

憎悪するのは「単なる利益計算を超えて、僕らの大切な場所に土足で踏み入って来て、僕らの権利を蹂躙(じゅうりん)しようとする相手」だけで充分だ。

エネルギーは有効に使おう。

 

確かにとしまえんの閉園直後におじま議員が投稿したツィートは、としまえんファンの感情を逆なでする、あまりに無礼で稚拙で軽率な内容だった。

それは議員という公職にある者とは思えない、逆ギレした中学生のような文章だった。

多くの人は彼のツィートを読んで怒り狂ったが、私はむしろその内容のあまりの稚拙さに吹き出してしまった。まるで小さな子どもが親や先生に褒めてもらおうと必死に自慢話をしているようにしか見えなかったからだ。

だから、そんな彼のツィートを額面通りに受け取って「おじまがぜんぶ悪い」と騒ぐのはあまりに純真すぎると私はずっと思っている。

直接会った「アンチおじま」「おじまヘイター」の方には「もう少し冷静になった方がいい」「本当におじまさんだけが悪いのか?そんな単純な話ではない」と言い続けてきた。

「池尻さんはおじまさんに対してさえリスペクトする態度を取ってきた」とTwitterでも注意喚起した。

一連のとしまえん問題でおじま議員一人がヒール(悪役)となり、SNS上でスケープゴートになっている状況を一番喜んでいたのは、西武とワーナーではなかったか。

 

すべてをおじま議員のせいにして、彼をTwitter上で悪様(あしざま)に罵ることをやめた方がいい理由はもうひとつある。

おじま議員を支持する人たちの団結心を固め、第三者として静観していた多数の人の中の何割かの票をおじま議員に向かわせてしまうからだ。

文字数の限られた、きちんと議論のできないTwitterで特定の候補者を口汚く攻撃していれば、当然、それを見てウンザリし、

「この人たちが支持している候補に投票するのだけはよそう」

という人を一定数、生み出してしまう。

極めつけは選挙戦の最終日。

「小池さんは病身をおして都民ファーストの会の応援に駆けつけた。こりゃ、小池さんの心意気に応えなきゃ」

選挙における浮動票なんてその程度の理由で簡単に動く。

事実、池尻候補は僅差で当選できなかった。

選挙戦最終日の(お決まりの)小池パフォーマンスで一気に同情票・感情票が都民ファーストの会の候補者に流れたが、その下地を作ったのは他でもない。議論ではなく感情だけでおじま議員を攻撃していた人たちだ。

 

話を戻そう。

スタジオツアー東京の誘致話を東京都に持ち掛けた(相談した)のは西武だろう。

西武とワーナーの仲を取り持ったのは伊藤忠だ。

ワーナーがスタジオツアー東京の用地を都内で探していたのは事実だが、「スタジオツアー東京をとしまえんの跡地に作ってはどうか」と話を持ち掛けたのが西武からだったのか、ワーナーからだったのか、あるいは仲介者の伊藤忠の発案だったのか、そこまでは分からない。

しかし、何を決めるにも時間のかかる東京都の役人と、練馬城址公園の整備についてこれまで深く考えもしてこなかった議員連中を尻目に、さっさと事業用定期借地契約の話を進め、建設計画を立て、

「この計画に賛成しないならしないで構わない。ただ、自分の所有する土地を誰に、どのような条件で、何年貸そうと自由のはずだ。」

と計画を進めたのは西武(と伊藤忠とワーナー)以外ありえない。

おそらく、役人と議員が慌てふためいているうちに、スタジオツアー東京計画は発表され(たしか読売新聞がすっぱ抜いたと記憶している。)、事業用定期借地契約の内容も固められ、土地収用法に基づく土地収用に踏み切れば想定していた額を遥かにしのぐ補償金の支払い義務を課されかねない、おまけにアメリカの巨大企業を巻き込んだ国際問題にもなりかねない、というところまで東京都は追い詰められてしまった。

インバウンド収入とか、30年後に円満に土地を取得できるとか、1957年以来半世紀以上にわたって動かなかった練馬城址公園計画が動かせるといった理由はすべて後付けだろう。

後付けではあるが一応の大義名分にはなるから、この大義名分を引っ提(さ)げて小池都知事なり、その愛弟子のおじま議員は懸命に関係各所の調整に動いたのかもしれない。

それが「ずっと動かなかった計画を私が間に入って動かした」という、あのツィートにつながって行ったのではないか。

 

では、東京都には何の罪もなかったか?

東京都もまた被害者の一員なのか?

そうは思わない。

西武やワーナーの計画を止めるチャンスはいくらでもあった。

「西武とワーナーはこういう計画を立てている。しかし東京都としてはこれを受け入れることには躊躇を覚える」と議会に諮るなり、議員を通じて記者会見するなりして民意を問うこともできた。

2つ目の疑問で触れるが、スタジオツアー東京の建設に絡んで「このようなテーマパーク、アミューズメント施設の建設は認められない」とNOを出すこともできた。

腹をくくって土地収用法を使い、任意の土地譲渡を拒む西武鉄道から土地を収用することもできた。

なるほど、ワーナーに支払う違約金を加算した補償金は巨額なものになったかもしれない。

しかし、そもそも「としまえん跡地が練馬城址公園として優先的に整備されること」は西武もワーナーも伊藤忠も知っていた。

知ったうえで、事業用定期借地契約を締結した。

契約の締結自体は違法ではない。

しかし、それにかこつけて公園整備を先送りさせ、あるいは補償金の額を吊り上げるのは信義則違反、権利濫用だろう。

そう主張して正々堂々と裁判で争う道もあった。

時間がかかる?

時間がかかっても、都民や区民のための避難場所が維持できて、広域防災拠点も整備できるなら都民も区民も文句など言わなかったろう。

時間がかかって困るのは、あるいは問題が顕在化することを嫌ったのは、もめ事を嫌う役人と、自分の任期中に何らかの成果を出しておきたい議員と知事と、せっかくのスタジオツアー東京の船出にミソを付けたくなかった伊藤忠とワーナー、そして手間と費用ばかりかかるとしまえん遊園地をさっさと閉園してノーリスクの地代収入が欲しい西武だけだ。


しかし東京都も練馬区も、時間をかけて、正論を掲げて、闘おうとはしなかった。

そして、5者覚書がほとんどの人が知らないところで、議会にも委員会にも諮られることなく秘密裡に締結された。

 

闘う理は東京都の側にあった。

しかし、東京都は自らにあった理を捨て、波風を立てないという利に走った。

情けない。

 

加えて、としまえん閉園後、プール存続を求める署名運動と樹木保護を求める活動が広がった。

プール存続や樹木保護のためには西武の協力が必要だ、だから西武の機嫌を損ねてはならない、と誰もが思い(実際、私の事務所にやって来て、「西武さんが呆れるようなことをするな!」と大騒ぎをした方もいた)、誰もが腫物にでも触るように西武に接した。

プール存続を求める署名は最終的に2万余人分が集まったと記憶している。

しかし、今から思えば、どんなに署名が集まろうと、議会に陳情書を出されようと、

西武も東京都も、ハナからプールを存続させる気などなかった。

プールの閉鎖・解体は当初から動かない既定路線だった。

何故か?

プールを存続させるということは、

「としまえん跡地の北側半分にスタジオツアー東京、南側半分を(名目ばかりの)練馬城址公園。それで30年やりすごして西武もワーナーも伊藤忠も東京都の役人も議員もみんながハッピー。すべての担当者が入れ替わった30年後に改めて公園整備」

というプランとそれを前提とした5者覚書を根底からひっくり返してしまうからだ。

樹木の保護については私も少しだけお手伝いをさせて頂いたが(それはある方のクロガネモチに寄せる想いに心を打たれたからだった。)、「伐採する樹木を、あるいはその枝だけでも希望者に譲渡」という、そんな簡単なことに対してすら西武は木で鼻を括った対応に終始した。

口では「地元の皆様とともに歩んでいきたい。自然保護は当社の活動の一つでもある」云々と言ってはいたが。

 

としまえん閉園からもうすぐ1年。

西武も東京都も絶対に応じることのないプール存続という夢。

西武が対応する気などなかった樹木保存。

そしてSNS上で自ら進んでスケープゴートになってくれたおじま議員。

この3点セットに西武もワーナーも守られてここまで来た。

スタジオツアー東京建設に反対する人たちの目や批判の声は西武やワーナーに向くことはなかった。


残念だったのは、頼みの議員においてすら、西武やワーナーの非をはっきりと指摘して追及する人がいなかったことだ。

政治的な駆け引きなのか、損得勘定か、あるいは本当に真の敵がわからなかったのか。

公職にある議員が民間企業を表立って批判することには勇気がいる。場合によってはその企業に関係する多くの票を失うことにもなりかねない。

だから西武やワーナーに追及の矛先を向けなかった議員の気持ちもわからないではない。

そもそも議員の議論の相手は民間企業ではなく政敵である相手の議員であり、監視の対象は官僚・役人だ、ということも理解している。

しかし、スタジオツアー東京に反対する議員の批判の矛先はいつも東京都であり(刺身のツマのように一応、練馬区も)、東京都と練馬区の与党議員であり、まともにとしまえん問題を考えもしない、議論もできない他党議員だった。

西武の、ワーナーの、伊藤忠の、彼らの信義に反する行動を厳しく指摘した上で、それに対する東京都の対応の不甲斐なさ、卑しさを議論の俎上に乗せた議員はどれほどいたか。

そうした議論や追及が、区議会や都議会でなされていれば、感傷から生まれ、怒りだけで成長し、やがて霧のように消えていったプール存続活動や樹木保存活動のエネルギーを違った方向に向けられたかもしれない。

残念としか言えない。

 

長くなったので今回はここまで。

(ここまでちゃんと読んでくれた人、いるのかな? SNS慣れしてる人は長文読解「体力」(能力ではなく)がないからなぁ・・・)。

2つ目の疑問に対する私見はまた来週。

 

酷暑が続くけど、みんな元気で。