伊藤浩之の春夏秋冬

いわき市遠野町に住む市議会議員。市政や市議会、日常の活動などを紹介していきます。

学校給食の放射性物質検査について聞きました

2014年01月10日 | 原発
 昨年の暮れ、学校給食の食材放射性物質の測定をゲルマニウム半導体検出器できないかと要望を頂いていました。市教委の担当から説明を受けていたので、備忘録的にまとめておきたいと思います。




 学校給食の食材検査は、全ての給食センターと自校式給食の学校に検査機器を設置し実施されています。例外的に桶売小学校の給食分(自校式)は、所在地の温度変化等の影響のためか誤差が大きくでる傾向があり、測定機器を平北部の給食センターに設置し、食材を同所まで運んで検査をしています。使用されている検査機器と検出限界は、いわき市ホームページ(http://www.city.iwaki.fukushima.jp/kyoiku/somu/hokentaiiku/013318.html)によると次の通り。




1 牛乳(ゲルマニウム半導体検出器)
 ・検査機関名 いわき市保健所 放射線健康管理センター
 ・測定器名   セイコー・イージーアンドジー社製 GEM30P4-70(60分間測定)
 ・測定下限値 各核種 1Bq/kg未満


2 主食及び食材(簡易型放射能測定器)
 ・検査場所 各給食調理施設
 ・測定器名 テクノエーピー社製 TS150Bベクレルモニター (40分間以上測定)
        テクノエーピー社製 TN300Bベクレルモニター (15分間以上測定)
 ・測定下限値  各核種 10Bq/kg以下





 牛乳はゲルマニウム半導体検出器(以下、ゲルマ)の検査ですので、主食及び食材の測定方法の説明を受けました。

 説明によると、測定は「食品中の放射性セシウムスクリーニング法」に基づき実施しているといいます。

 信頼性のおける結果を出すために、測定における誤差等が生じる可能性を踏まえた考え方をとっています。その内容は、まず測定機器には基準値の4分の1以下の測定下限値の性能が要求されます。この機器を用いて測定し、基準値の2分の1以下の値ならば、測定誤差を踏まえても基準値を超えることがないという考えで、食材が使用可能かどうかを判断するといいます。

 いわき市の場合、「セシウム合算値が20Bqkgを超えた場合は、その食材を使用しない」としているので、測定下限値は4分の1の5Bq(合算値)となります。実際、測定では5?が下限値になるよう、食材によって時間を変えて測定しています。

 その測定の結果、いわき市として使用するか、しないかの判断をする値は20?の2分の1すなわち10?(合算値)となります。10?を超えなければその食材は使用します。一方、10?を超えた食材はゲルマによる測定に回され、精度の高い測定結果を得て提供できるかどうかを判断します。測定時間は食材によって異なります。場合によって夜7時とか、8時とか、そういう時間になることもあるといいます。いずれにしてもその結果を受けてから、翌日の配送の手配をすることになります。

 ただ、こうした手配ができるのは前日にサンプルが届く食品で、当日しか入荷しない食材もあります。これについてはベクレルモニターの測定結果で判断せざるを得ず、10?を超えた場合、その食材を利用せずに給食を提供するようにしていると言います。

 このような食材検査に合わせて、提供した給食の陰膳検査も実施しています。一食分の給食すべてを混ぜ合わせてゲルマを使ってセシウムを測定する方法ですが、その測定結果を見てもこれまで基準値を超えた食材はなかったということでした。

 これらの測定結果は、先に貼り付けたアドレスで公開されています。ご覧になってください。

 こうして説明を聞いてみると、学校給食の提供にあたってかなり慎重な対応をしているように思えます。食材一品一品をゲルマで測定することは、食品サンプルの入手の時期や機器の整備状況から考えても難しいでしょう。しかし、簡易な検査機器になるとはいえ、セシウムによる被ばくを避けるという立場で学校給食が運営されているといって差支えないと思います。




 問題は、こうした測定結果をどう考えるかです。
以前ネット上で立命館大学名誉教授の安斎育郎さんが環境大臣の私的諮問機関で行った講演を読みました。全文は次のアドレスです。( http://www.jrias.or.jp/books/201306_TRACER_ANZAI.pdf )

 安斎教授は原発に反対して長年活動されてきた専門家です。その安斎教授の論文から読み取れるのは、原発に反対することと、食品をどうみるかということは別の問題として、データを冷静に判断することを求める姿勢でした。

 論文は、コープふくしまの一般家庭の陰膳調査の結果をひいて、県産の農産物にどう向き合うかを説きました。調査ではその多くが福島県産の食材を使った食事100検体でも、1Kgあたり1Bqの検出限界を超えた検体は2検体に過ぎず、その年間被ばく線量は、放射性物質であるカリウム40(K40)の変動幅にすっぽり収まる程度のものだと論じました。そして、「"福島県産=忌避すべき汚染食品"という決めつけは"がんばろう福島"という共助精神とは相容れないのではないか」としています。

 この「K40の変動幅に収まる」という考え方を読んで、自分自身も確信を得た思いがありました。
 陰膳調査から話がずれますが、食品には必ずカリウムが含まれ、そのカリウムの一定割合はK40だということ、また含まれるカリウム量は食品によって異なることは知っていました。そして自然であろうと人工であろうと、放射性物質から発生するガンマ線に違いはないということも繰り返し読んできました。

 そこで、食品に含まれるK40の値を次のアドレスから引っ張り出して見ました。( Http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/09/09010404/01.gif )



 生のアサリのK40は69?で生のシジミが36?です。その差は33?。ベクレルモニターの検出限界のレベルは、この差にすっぽり収まってしまっています。味噌汁の食材として、シジミではなくアサリを選べば、検出限界レベル(いわき市の給食検査で5Bq)を超える被ばくをすることになってしまいます。低レベルに含まれるセシウムの持つ意味は、どの食材を選択するかの意味合いとほぼ同じということです。

 もちろん余計な被ばくを避けた方が良いことは間違いありません。セシウムが多く含まれる食品は避けた方が良いでしょう。一方で測定して低レベルと確認をできるなら、これを過度に避けるということまでしなくては良いのではないか。こう思えてくるわけです。

 安斎教授はこう書きます。
 「"避けられる被ばくは避けるに越したことはない"という放射線防護学の考え方からすれば、汚染の程度に関して何も情報がない場合に"被災地産はとりあえず避ける"という消費行動を取ることは意味があろうが、汚染実態が把握され、ましてや被災生産者の主体的努力によってK40の摂取量の変動の範囲内にもすっぽりと収まる程度に抑え込まれていることが明らかになっている状況の下で、この"放射性防護原則"に過度に固執することは、"被災者と心寄り添って生きる"という生き方の問題として妥当ではない筆者は考えている」

 被災地で収穫された作物・食材を考える原則はここにあると思います。測定して汚染の状況を確認して、あるいは測定された汚染の少ないものを食する。被災地に住む者として、こうした考えで対応していくことが大切だと、あらためて思います。

 ただ一方で、それでも不安を持つ方々にどう対応するかという問題が残ります。基本は、"食べない自由を認める"ということなのだろう。こう思います。

 原発事故がもたらしたセシウム等の放射性物質による汚染は、健康被害につながるような肉体への直接的なダメージばかりでなく、食することへの不安という精神的なダメージを与えています。ここに食することを強制するようなことがあれば、精神的ダメージを拡大し、また、食する人と食しない人という形で被災者間の対立を生じさせかねません。

 食する人、食しない人、互いが互いの立場を理解しあい、時間がかかるかもしれませんが放射性物質の問題を正しく見る目を、互いが学びあっていく。こうした取り組みが、いっそう大切になってくるのだろう。学校給食に関する要望をいただいて、あらためてそんなことを思いっています。

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