伊藤浩之の春夏秋冬

いわき市遠野町に住む元市議会議員。1960年生まれ。最近は遠野和紙に関わる話題が多し。気ままに更新中。

被災地の声を踏みにじって処理水放出決定とは

2021年04月13日 | 原発
 それにしても午前8時過ぎには速報で、第一原発事故の関係閣僚会議が処理水放出を決定したと流された。閣議はいったい何時に開かれたのだろう。13日に閣僚会議で決定する方針と伝えられていたことから、人々が反対の行動を始める前に決めてしまえと早朝に開いたのだろうか。実際には、決定を同日中に関係者に伝える関係で、早い時間に会議を開いたということなのだろう。しかし、勘ぐりたくなるタイミングだ。

 テロップだけでは詳細に分からないので、ネットでニュースを検索すると、共同通信の記事がヒットした。8時8分に配信された記事だ。

 記事は、「処理水の海洋放出を正式決定 福島第1原発で政府、漁業者反対」とタイトルを付け、「東京電力福島第1原発で増え続ける処理水の処分に関し、政府は13日、関係閣僚会議を官邸で開き海洋放出の方針を正式決定した。2年後を目途に第1原発敷地内から放出に着手。残留する放射性物質トリチウムは濃度が国の基準の40分の1未満になるよう薄める。2041~51年ごろの廃炉完了目標までに放出を終える予定。」としていた。

 13日の関係閣僚会議での決定は既に報道されていたことではあるが、首相が放出方針を固めたと公表されてからも、被災地である福島県内からは、放出に反対の声とともに、処理水の安全性も含めて政府が処理水放出に問題が無いことを国民と世界に向けて情報発信すること、風評被害対策を明確にすることなどを求める声が次々と上がっていた。この被災地の声は、政府小委員会が海洋放出等の報告書を公表してから、上がり続けていたものだ。

 4月8日のブログにも書いているが、こうした被災地の声に、政府が応えてきたとは思えない。安全性に関する国民への説明が本格的に取り組まれたとは全く思えないし、風評被害対策も明確になってはいない。風評被害には、東電が補償するという。ただし、ここでも場合によっては原子力損害賠償紛争解決(ADR)センターに持ち込んでも、補償されなかったというケースがあると聞くと、どこまで補償するのかには疑問符が付く。

 もともと、例えば海洋放出で大きな被害を受けると考えられる漁業者は、そもそも補償によって生き延びていくことを臨んでいるのだろうか。

 原発事故後の10年間、彼らがしてきたことは、事故原発で問題が発生するたびに深刻化する風評被害と闘いながら、安全な旨い魚を漁獲して、正当な評価のもとに市場に提供して収益を得ることが出来る、つまり、原発事故前に業として成り立っていた当たり前の漁業を取り戻そうとしてきたのではないだろうか。試験操業で漁獲を制限しながら漁獲物の放射性物質の検査を続けてきたこの10年間の努力の積み重ねは、そこに目的があったものと思う。

 そして、今回の放出決定は、3月に試験操業を終え、本格的な操業への準備を開始したタイミングだった。放出の決定の消費者への心理的影響は間違いなく出てくるだろう。しばらく福島県産を控えようという動向が懸念される。こう考えれば、現状での政府の放出決定には絶対反対というのは当然だ。

 政府がすべきことは、風評被害に対する補償の十分な確保はだが、まず、この風評被害が発生しにくい環境を整えることだろう。処理水に残留する放射性核種を基準値よりはるかに小さくすることを前提に、除去が困難なトリチウムの科学的性質を国民の共通理解とするために、原発稼働の歴史的経過も含めて国民・世界に十分説明することは大前提になるだろう。報道等で、稼働原発から放出されてきた程度の説明がされる機会が増えているとは思うが、全く説明が不足した状態だと思う。

 報道等では、トリチウムの年間放出量を、事故前の第一原発の年間の管理基準であった22兆ベクレル(大気と海洋合わせた数値)未満としていたが、とんでもなく大きな数値だ。事故前の第一原発が年間に放出していたのは、大気と海洋あわせて4兆ベクレルだったという。ならば、最大でもこの数値より少なくすることが、安心を確保するために必要と思う。

 福島県産の農水産物等を拒否する消費者は、数年前で10数%程度だったと記憶している。アンケート結果を見たときに、だいぶ不安感は払拭されてきたものの、それでも拒否の声はあるのかと思ったことを思い出す。福島産の拒否は固定化してきており、ここに理解を広げるよう、そもそも旨いということをアピールして福島県産を選択してもらうことが必要だという指摘もあり、その通りだと思う。こお指摘の方向に動き出したのが、漁業の本格操業への転換だったはずだが、政府の決定はこれに水を差す。

 あわせて、福島県産を断固拒否する層は仕方ないとしても、国や東電への信頼の醸成という観点からも、何らかの意思決定をする前に、政府が,処理水対応の関連でどんな取り組みをしたかが重要になる。何もせずに、一方的い決定をする者に、信頼が醸成されるはずはない。信頼がなければ、国・東電が被災地が力を合わせて廃炉を進めることはできないのではないだろうか。

 また、東電の情報公開の姿勢を改善させることも必要だ。事故直後から、問題事象等の情報公開が遅れ、そのたびに改善を約束してきた東京電力だが、最近でも、壊れた地震計の放置や、2月13日の地震によるタンクのズレの公表遅れなど、情報の公開のあり方には、引き続き問題を残している。というか、全く変わっていないと言わざるをえない。

 こうしたあり方を本格的に改善させていくことが必要だろう。

 しかし政府は、国民への説明と理解醸成など、事前にやるべきことはやらず、一方的に放出方針の決定をしてしまった。決定を受けて、タンクが満杯になるとされる2年後を目処に放出の準備をすすめるという。

 昨年来、政府小委員会の報告書を受けて、被災自治体の漁業や農業等の産業関係者、関係自治体をはじめとした意見聴取が進められてきた。ここで出された意見はどこに活かされたのだろう。今回の政府決定には大いに疑問が残る。ガス抜きと手続きの正当性確保のために関係者を利用したとのそしりを免れないのではないだろうか。

 また、この間、処理水放出の遅れに伴い、不足する陸上保管用のタンクを増設するという報道も見られた。そもそも、タンク増設の限界があり、2年後には満杯になり、廃炉作業を進めるためには処理水の処分に関する何らかの対応が必要というのが、議論の出発点だったと思う。タンク増設ができるなら、急いで対応方針を決定する必要があるのだろうか。

 等々、被災地を踏みにじる今回の一方的な排出方針決定には問題が大きい。総選挙を控えて、できるだけその時期から離れた時期に決定しておきたいというのが本音かもしれない。今回の決定を撤回させるための結果を選挙で出す。そのことが大事なのだろう。


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