伊藤浩之の春夏秋冬

いわき市遠野町に住む市議会議員。市政や市議会、日常の活動などを紹介していきます。

常任委員会視察2・独自の手法で再開発をすすめる高松丸亀町商店街

2014年02月09日 | 市議会
 いわき市議会経済文教常任委員会の行政視察報告、その2です。その1は1月22日の水俣市での視察の報告でしたが、今回は21日の香川県高松市、丸亀町商店街の再開発事業です。お話は丸亀市商店街振興組合の古川康造理事長に伺いました。

◆丸亀町商店街の再開発事業

 丸亀町商店街のある高松市は、香川県のほぼ中央に位置する県庁所在地。瀬戸内海に接し、古くは四国の玄関として発展してきました。隣の板出市と岡山県倉敷市が瀬戸大橋で結ばれており、約18万世帯、人口約42万人を擁する地方都市です。

 丸亀町商店街は、高松市の中心商業地の真ん中に位置しています。この商店街の再開発事業は、全長470mの商店街をAからGまで7つの街区にゾーニングして、特色を持たせて再開発をしようとするものです。

 それぞれの街区毎に地権者による再開発組合を設立して実施され、これまで2005(平成17)年に着工したA街区を皮切りに、B、C、G街区で再開発ビルが建設され、まちの賑わいが造成されてきました。私たちが訪ねた21日午後も、結構な人出でがありました。



◆100年先が再開発の動機

 丸亀町商店街で再開発事業が立ち上がったのは1988年にさかのぼります。当時、商店街は400年祭を催していましたが、次の100年を見越した時に抜本的な改革が必要ではないか、という問題意識からスタート点に立ちました。

 400年祭でにぎわう一方、通行量に減少傾向が見え始めていました。また瀬戸大橋の開通(1988年)を、県・市を上げて歓迎ムードの中、商店街では人が本州に流れていくという懸念がもたげ始めました。橋でつながり、交通の便がよくなることで、神戸など本州の大都市に人が流れ始めると危機感を高めました。

 当時は、にぎわいがなくなり、商店街が疲弊しきった状況ではなかったようです。こうした中で、次の時代を見据えた新たなまちづくりに乗り出した先見性は見事としか言えませんが、同時にまだ商店街が元気な時に事業に乗り出したからこそ、大胆な事業をすすめることができたといえるかもしれません。

 また高松市周辺をはじめ、香川県内大型店が競いあうように出店をしていました。この結果、売り場面積は拡大していくのに、販売額、従業員数、事業数が減少する状況に陥っていました。法人の税金は、本社の所在地に支払われます。大型店が出店し、地域から商店が減ったために、本来、地元に入るべき税金が「県外に流出していく」状態になっている。まちににぎわいを取り戻す意義はここにもあったわけです。

◆失敗に学んで

 事業の構築に当たって、当時の振興会理事長は「成功例に学ぶ必要はない。失敗例に学べ」と、全国のまちづくりの失敗例を次々と調査しました。学ぶ中で失敗例には共通する問題があることが分かりました。「官主導ではうまくいかない」ということです。官はそもそも前例主義で、しばりがきつい。ノウハウもありませんから、事業を大手デベロッパーに丸投げしてしまいます。大手デベロッパーはビルが完成すれば報酬を受け取って撤退。その後に責任を持つことはなく、やがて不幸にもテナントが出ていく事態になると、そのまちに必要がない公共施設を入れてお茶をにごす。およそこうした結果になってしまうというのです。

 そこで丸亀町商店街では、民間主導で身の丈にあった再開発事業をすすめることにし、次の6ポイントを確認しました。

1.中心市街地の抱える根本的な問題――土地問題と居住人口の問題を解決する
2.商店街を7つの街区に区切り、各街区に役割を持たせて全体を開発する
3.土地の所有と利用を分離した新しい開発手法を行う
4.大型店やハコモノに頼るのではく、面としての開発を行う
5.短期間に着手できる新しい開発手法――小規模連鎖型開発を行う

◆テナントミックスと定住人口拡大

 再開発前の商店街は、業態が変遷する中で約5割が服飾・ファッション関係という商店の偏在がありました。こうしたことから業種をバランス良く配置(テナントミックス)するために、7つの街区に特色を持たせました。

 A街区は高松三越に隣接するシンボル的再開発区で、グッチ、ティファニー、パパスなど有名ブランドが入る高級ブティックとイベント広場。街路の交差点にはガラスのドームがかかった広場が整備され、誰でもイベントに使えるようにしました。

 B・C街区は、美と健康、ファッションをコンセプトに、B街区には飲食店を中心に導入し、C街区にはクリニックも整備しました。G街区はお祭り広場と地産地消をコンセプトにしています。

 さらにこれからすすめる予定のD街区はアートカルチャー、E・F街区はファミリーカジュアルをコンセプトにしています。

 加えて定住人口の確保も事業の中に組み込みました。再開発事業が行われる前は、亀山町商店街には住民基本台帳上は約670名の住民が住んでいることになっていました。実際に調査すると75名のお年寄りしかいませんでした。近年は安全を求めて中心市街地のマンションに人が戻るという逆流入もありますが、商店街から住民が消えていくということはどこでも問題になってきました。

 丸亀町商店街は再開発に合わせて高齢者向けのマンションを整備するなど、400戸1,500人の定住をめざしています。これまでに完了した再開発事業で、200戸のマンションが整備されています。

 高齢者人口が増加すれば医療施設も必要になり、C街区にはクリニックを導入しました。町中こそ医療過疎がすすんでいる現実がありました。検査機器は全てそろえ、医師は、自治医大を退官した同市出身者に白羽の矢をたて、これまで3名を招聘し、医療にあたってもらっているといいます。「人材を取り戻した」。理事長はこう話しました。

 クリニックの導入には住民の健康管理以外にもメリットがあります。マンションの住民には、互いの情報共有が難しい状況があります。隣がどんな家族構成で、どんな暮らしをしているかを住民が把握することが難しいのです。一方、クリニックにはこれらの情報が集中しますので、災害などの際に役立てることができると考えているのです。

 また、広場の整備は、にぎわいづくりに重要な役割を果たします。 商店街が主催するイベントは一時的なにぎわいを作りますが、継続は難しい。そこで、広く市民に開放して誰もが使える広場にしたのです。広場では年間206件(2009年度)のイベントが催され、にぎわっているといいます。


まちづくりの説明をする丸亀町商店街振興組合の古川康造理事長

◆特色あるまちづくりをすすめた開発手法

 さてこうした再開発事業を進めることがなぜできたのか。丸亀商店街再開発の最大の特徴でした。

 丸亀商店街で再開発を主導しているのはまちづくり会社です。正式の名前は「高松丸亀町まちづくり株式会社」。高松丸亀町商店街振興組合と高松市、他に地権者共同出資会社が出資する第三セクターですが、市の出資比率は5%にとどめ、そのほとんどを振興組合が出資しています。

 業務は、再開発事業の立ち上げや竣工後の運営支援、販売促進の企画、不動産業務や駐車場の管理などで、まちづくりや広告などの専門とする職員を雇用しています。商店街を歩いているとちりとりとほうきを持ったユニフォーム姿の作業員とスレ違いました。確認はしなかったのですが、このまちづくり会社が商店街に配置している清掃スタッフだったのでしょう。

 このまちづくり会社が、土地を自由に利用できるようにするため丸亀町商店街では、地権者全員の同意により土地の所有権と利用権を分離する方法をとりました。地権者は「まちづくり会社」と60年間(鉄筋コンクリート製の建物の耐用年数)の定期借地権を設定し、貸し付けます。こうすることで地権者の権利を保持しながら、土地の利用については「白紙」の状態が作られ、まちづくり会社が地権者の利害調整に手をわずらわせることなく、自由なまちづくりをすすめる土台を作ることが出来たわけです。

 地権者の全員同意としたのにはわけがあります。
 再開発には全員同意型と原則同意型があります。原則型をとった場合、全員の同意は必要がないので比較的容易に再開発ビルを建てることができます。しかし、それまでの地域コミュニティは崩壊してしまいます。こうなると、次の一手が打てなくなると考えました。そこで町中が一蓮托生となる仕組みとして全員同意型をとったというのです。またこういう手法を取ることが出来るコミュニティが、丸亀町商店街に存在していたということもできるでしょう。

 こうした手法をとることによって、丸亀町商店街では商業者目線のまちづくりから、生活者目線のまちづくりに方向を転換することができました。

 一方この手法は、地権者にとっては厳しく見える側面もあります。地権者は再開発ビルに入っても何ら優遇されることはありません。他のテナントと同様に扱われ、テナントに求められる売り上げ水準を達成しないと撤退せざるをえないのです。実際、A街区に整備された一番街に入居した地権者の半数は6年でリタイアしてしまったというのです。

 でもこうすることで、再開発ビルの収益を向上することができます。地権者は再開発ビルから発生する配当を受け取りますので、収益が上がることは配当の増額に結びつくことになります。この仕組みによって、より売上が大きいテナントの確保に、地権者が一生懸命取り組むという好循環を生むことができるのだといいます。

◆逆風も

 さてこうして聞いてみると、再開発事業の進捗はいいとこづくしのようです。住民の同意の取得も比較的容易にすすみ、2年程度で終了したといいます。

 しかし、苦労したこともあった。それは様々な法規制を調整することに16年間も費やすことになったということでした。

◆自分が住みたいまちを

 丸亀町商店街が取り組みをすすめる理由を、 理事長は「自分たちが老後も住むまちだから」という趣旨で答えました。納得です。住むまちをより良くしたいと願うのは当然です。人任せにせず、自分たちの頭で考え、自分たちが住み良いまちをつくろう。丸亀商店街の挑戦は、ここにこそ動機があったのだとつくづく思いました。ここには住民のまちへの愛着と、住民のまちづくり参加への意欲が示されていると思いました。


 また、商店街に人を戻すし、人が戻れば商店街は再生する。そのめざすところは、車を持たなくても、歩いて移動できる範囲で事足りるまちづくりをすすめることです。

 テナントミックスは、生活に必要な物を商店街で手に入れることを目的としています。こうすることで、車の維持と駐車場の確保などに使われるコストを生活から排除することができるようになります。商店街は物を売るだけではダメで、新たな公共性に目覚めなければならない。こう話されていたことが印象的でした。

◆まちづくりの精神に学ぶ

 丸亀町商店街の取り組みは、これまで本市で行われた再開発事業とは、そもそも違うということに気づきました。

 行政は再開発事業の目的を「まちづくりの起爆剤」といいます。再開発ビルに人を集めることで、まちに人の流れを誘導しようというのです。いわば再開発ビルのおこぼれで商店街を潤そうというのです。

 一方、地権者は、ビルの中に複合的な商店を配置することによって魅力を高め、収益の増加につなげる、あるいはフロアをレンタルすることで賃料を受け取るということになります。

 丸亀町はそうではないようです。商店街全体の魅力を高めるためのツールが再開発事業です。そして人が住めるまちとして商店街全体を設計し直し、まちそのものを再生しようとしているように見えるのです。いわき市で言えば平の商店街を丸ごと作りなおすという感じです。丸亀町ではその取り組みが着実に前進していました。

 丸亀町商店街は、失敗例に学んで、新たなまちづくりを歩みだしました。そういう意味では成功例である丸亀町商店街のやり方を導入しようと考えるのは、間違いなのかもしれません。なぜなら、コミュニティーのあり方をはじめ、丸亀町商店街ならではの条件があって、現在のまちづくりが前進しているからだと考えられるからです。

 従って学ぶべきはその精神なのでしょう。まちを愛し、住民の参加でまちづくりをすすめる。人まねでなく、自分たちの創意工夫で。

 また、まちづくりをすすめる力として理事長は、コミュニティを強調していたように思いました。確かにそれは大切でしょう。
 ただ思うのは究極には、やはりまちづくりの担い手となる人づくりという課題がどうしても浮かんでくるということです。まちづくりに歩みだした時、まちづくりの仕組みを紡ぎだした時、あらゆる段階で、それをリードしたのはやはり人だったと思うのです。

 この視察とは別に、かつて日本共産党市議団が訪ねた徳島県上勝町の葉っぱビジネス「彩り」も、その事業を支えるのはやはり人でした。葉っぱがビジネスとなることを発見し、それを商品として磨き上げ必要性を発見したのもやはり人でした。

 成功のかげには人あり。行政に求められるのは、この人を活かす、人を育てる取り組みということなのかもしれない。今回の視察はこのことを示唆していたと思えてなりません。

◆参考

高松丸亀町商店街・開発に至る経過⇒
http://kame3.jp/redevelopment/index.php

中小企業庁「がんばる商店街77選」⇒
http://www.chusho.meti.go.jp/shogyo/shogyo/shoutengai77sen/nigiwai/7shikoku/1_shikoku_25.html

国土交通省・代表的な鳥有効活用自営「高松丸亀町商店街A街区第一種市街地再開発事業」⇒
http://tochi.mlit.go.jp/chiiki/land/ex20/1602.html

いよぎん地域経済研究センター・西日本レポート「人が住み、人が集う商店街をめざす」⇒
http://irc.iyobank.co.jp/topics/n-report/0702.htm

高松丸亀町商店街の再生・柏二番街⇒
www.kashiwa-nibangai.com/k1/pdf/furukawa.pdf?

高松丸亀町 これからの街づくり戦略 高松丸亀町 これからの街づくり⇒
www.city.niigata.lg.jp/shisei/gyoseiunei/fuzokukikan/.../kouen.pdf?


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