雲のたまてばこ~ゆうすげびとに捧げる詩とひとりごと

窓の雨つぶのような、高原のヒグラシの声のような、青春の日々の大切な箱の中の詩を、ゆうすげびとに捧げます

2011年07月01日 | ポエム
 川

川はいつも流れている
山から湧いた清流を
大雨のあとは泥水を

それは決して絶えること無く
それは決して留まること無く
みにくいものも
美しいものも
ぼくの目の前から
流し去ってゆく

かなしい過去を
楽しい思い出を
ぼくの心の中から
流し去ってゆく

川を見ると心が清まるのは
きっと川には過去が無いからだろう
ぼくの目の前にある川は
いつも「今」である

川は静かに流れていた
青い空という大きな川を
白く美しい雲という水が
自由に流れているのが
その水面に映っていた
(1973)


 故郷の
 同じ高校を卒業し、芸大を目指して一緒に浪人した仲良し3人組の私とK君とTちゃん。一番ハンサムだったTちゃんは、男兄弟で育ち、女性に対しては奥手で、口もまともに聞けない位だった。私は、3人の女兄弟が。K君も2人の姉がいる。女兄弟がいるということは、小さい頃から兄弟の女友達とも触れ合う機会が多く、自然に女性とフランクに対応出来るようになる。Tちゃんは、その点、滑稽な程、ダメであった。
 ある日、仲良し3人組は鎌倉を訪ねた。
 その日は、やはり同じ高校の同級生で、東京の私大に進学していた石やんの4人連れだった。
 この石やんが、女性に対して、Tちゃんと勝るとも劣らない奥手だった。石やんは、女性の前で、緊張のあまり話すらまともに出来ないTちゃんとは違い、話は出来るのであるが、女心が全くわかっておらず、ずけずけと他人の心に踏み込むような発言をして、女性が離れていってしまうのだ。私とK君は、常に気になる存在の女性がいながら、浪人という立場上も決まった関係には踏み込めないでいた。つまりその日鎌倉を訪ねた4人には、決まった彼女はいなかったのだ。しかし、お年頃。すれ違う若い女性達がいちいち気になる。8つの目がらんらんと光っている。そこで、とうとうナンパしようという話になった。女だけのグループに声をかけることになった。
 場所は、恐れ多くも鎌倉・鶴が岡八幡宮の参道。
 当然、アタック隊は私とK君。Tちゃんと石やんは、サポート隊に回った。
 客感的に見て、アタック隊よりサポート隊の方が、あきらかにハンサムであった。アタック隊が、ターゲットに近づき、口説き、脈があった場合、サポート隊に合図を出す。サポート隊は、アタック隊の合図とともに、黙ってターゲットに顔を見せてくれたらよいこととなった。
 私とK君、二人のアタッフ隊は、初のナンパにチャレンジを開始した。そしてあうんの呼吸で、目についた若い女性に近づき、声をかけた。
 ターゲットは、おとなしそうな真面目な感じの二人連れで、あきらかに片方が美人だった。我々アタッフ隊は、初チャレンジながらも、こんな場合、美人ではない方に声をかけるという知識くらいは持ち合わせていた。それはアタック隊も驚く程、上手く話が進み、ターゲットも「お茶の飲むくらいならいいわよ」という感じになった。
 そこで、兼ねて打ち合わせ通り、植え込みの影から、アタック隊を見守っていたサポート隊を紹介すべく、二人を呼んだ。
 サポート隊の仕事は、アタック隊の呼びかけに応じ、己の顔を見せてくれることだけで良かった。さわやかな笑顔をしてとか、自己紹介をしてくれという高望みもない。ところが、十中八九うまく行きかけていた初登頂じゃなくて初ナンパは、サポート隊によって不成功に終わるのであった。Tちゃん、石やんの女性に対する複雑な心理を、僕もK君もまだ甘く見ていたのだ。
 あろうことか、呼びかけられた二人は、その場から脱兎のごとく走り去ってしまったのだ。
 夕暮れ近く七里ケ浜の海岸にたどり着いた。あれから男4人で神社仏閣を巡り、俳句をひねり批評し合いながら半日過ごした。休日の夕暮れ。道路沿いの岸壁には、男女の二人連れが何十組も連なって、海に向かって腰掛け、語り合っている。
 我々4人は、そんな恋人達の群れの目の前で、誰からともなく砂遊びを始める。
 砂で作ったのは、故郷の山並み。山好きのTちゃん指導のもと、一の岳から三の岳まで。絵描き志望のクリエーターが作る砂山は、あまりにもリアルだった。おりからの夕日をバックにその砂山を見た4人は、鎌倉の海岸にいることを忘れ、刹那、故郷に帰っている様な気分になってしまった。
 その後、我々4人は、誰からともなく、砂浜で相撲をとった。交替で、貴ノ花になり、輪島になり、北の湖が登場し。望郷の思いと、ナンパの失敗と、その結果今日もまた休日を男だけで過ごしたさみしさをまぎらすように、大いに盛り上がった。
 気がつくと、岸壁で海を眺めて座っていた男女二人連れのほぼ全員が、我々のいる海に背を向けるように、座り直していた。
(2011.7.1)
 
 

 
 
 


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