雲のたまてばこ~ゆうすげびとに捧げる詩とひとりごと

窓の雨つぶのような、高原のヒグラシの声のような、青春の日々の大切な箱の中の詩を、ゆうすげびとに捧げます

密造ワインとヌーボー

2011年11月16日 | ポエム


 密造ワインとヌーボー

 11月の第3木曜日は、フランス・ボジョレ地区のワインの新酒、ボジョレ・ヌーボーの解禁日だ。
 幸せなことに、毎年僕の誕生日の前後が解禁日となる。
 本格的に熟成した他のワインとは違い、葡萄のフレッシュな香りと味わいがうれしい。ジュースともワインとも違う独特の味わいもさることながら、世界同時にお祝いする収穫の喜びがまたうれしい。
 幼い頃、我が家では葡萄を使ってワインを密造していた。と、言っても大量に作って密かに販売するわけではなく、せいぜい一升瓶に1、2本くらいの家庭消費用の赤ワインを母がこっそり作っていたのだ。別に葡萄の木が家にあった訳ではない。誰が言い出したのか、また作るきっかけも知らない。買って来た葡萄を皮ごとすり鉢に入れて、スリコギで実を砕き、漉したものをホーローのボールや瓶に移して発酵を待つ。まだアルコール発酵が進まない葡萄ジュースを飲んだ記憶があるが、かなり甘かったので、発酵のためにも砂糖を加えていたかもしれない。出来たワインも甘いはずで、たぶん僕もこっそり飲んでいたと思うが味の記憶は無い。そう言えば梅酒も小さな頃から飲んでいたけど、考えたらしっかりお酒だったよなあ。ビールの泡も好きだったし‥‥。
 昨夜は、ビーフシチューやフランスパンとともに、早速買って来たボジョレ・ヌーボーを開けた。
 円高のせいか、昨年よりさらに安くなっていることもうれしい。あの値段で、飛行機に乗って来られているのだから、フランスではミネラルウォーターより安いかもしれない。それに僕が知らなかっただけかもしれないが、僕がパリに住んでいた2年ちょっとの間に、ボジョレ・ヌーボーで騒いだ記憶も飲んだ記憶もない。ボルドーなどの高級ワインの産地に較べて、ボジョレ地区は、格下の産地で混ぜ物(ブレンドしたワイン)用のワインだと言われていた、よーな気がする。
 でも我が家の住人は、ヌーボーのフルーティーさが好きだし、今や年中行事のひとつとして単純に楽しんでいる。
 去年もそうだったが、今年のボジョレ・ヌーボーもフルーティーさをさほど感じず、しっかりワインになっているような気がして、世間の評価は高いようだが、我が家では少しがっかり。ヌーボーと言っても、いろんな銘柄があるそうだから、僕が買った安物と他の高級なものではまた違うのかもしれない。
 日本でボジョレ・ヌーボーが騒がれるようになったのは、バブルの頃で、旬や四季の移ろいを愛でる日本人の気質に合ったのか、年々ひろまり、僕のいる田舎の酒屋やコンビニでも売られるようになって驚く。最初の頃は、身の回りに「ワインは熟成した方がいいと聞いているので」と、前年のヌーボーを大切にとっているという人が結構いて、ヌーボーは新鮮さを楽しむワインだという説明をしたものだ。僕が成人した昭和50年頃は、ワイン自体が一般的な日本人には馴染みが薄く、料理店で赤ワインを注文して「このワインは甘くないですね」という話をよく聞いた。ワインと言えば、赤玉ポートワインというのが、一般の認識だった。メルシャンなどが作る日本産の甘くないワインが、普及を始めた頃だ。
 笑いながら「見つかったら、タイホされる」という親の話を真に受けて、一家で秘密を共有していると思っていた小さい頃のワインの密造。
 ドキドキした秘密の味も、その美味しさに加わっていたのかもしれない。
(2011.11.18)
 
 

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