自転車漕ぎも定番となると、無理なく距離を稼げるようになって来た。1日最低10キロ、時間にゆとりがあると、興に乗って20キロ近く走ったりと、順調である。自転車だからこそ通れる道があり、子どもの頃以来という懐かしい小道に出逢ったりして、いつも新鮮な気持ちでサドルに跨がっている。当然、お気に入りのコースができる訳だが、そのことについて今日は特筆すべき出来事があった。
賢島を通って磯部方面に向かうことにしたのだが、ゴルフ場のフェンスに沿って走っていると後ろから、
「ハーイ!」
と、声がかかった。女性の声である。振り返ると、自転車に乗った、笑顔の金髪の女性がすぐ後ろを走っている。思わず、「ハーイ!」と生返事で返したのだが、我ながら間が抜けた感じ。
ブレーキを踏んで、彼女を待った。
「一緒に走っていいか?」
と、彼女は英語で訊いたので、ぼくは、
「イイトモ!」
と日本語で返した。彼女が、
「Thank You.」
と礼を言ったことを考えると、
「イイトモ!」
は、どうやら世界共通語のようだ。
シゲシゲと女性を見つめるのは失礼に思えたし、もとより人見知りをする質なので、よく観察はできなかったが、それでも美人だと分かる。年齢は二十歳以上三十歳未満といったところか。身長は170センチ弱、細身だけどしっかりと出るところは出て、しかも柔らかそう。長い髪を後ろでひっつめ、タンクトップから見せる二の腕には金色の産毛が光る。簡単な自己紹介で、アドレア海の東側の、とても紛争の多いどっか国から来てるようだったが、残念なことによく聞き取れなかった。で、名前を尋ねると、エレナと名乗った。「ニュー・シネマ・パラダイス」で、主人公トトの恋人と同じ名前だ。そう言えば、クール・ビューティなところは、そうそう、あんな感じだ。
彼女は英語でぼくに訪ねた。
「どこかファンタスティックな場所を知らないか?」
確かに、ファンタスティックと言った。ぼくは自信はなかったけど、
「カモン、フォロー・ミー」
といってペダルを漕ぎだした。
彼女がどんな人だか知らないが、エキゾチックなというか、日本的な風景を見せれば、納得してくれるのではと考えた。そして、ぼくにはある確信めいたものがあり、とにかくその場所に行ってみることにした。
鵜方の方なら知っているだろうと思う。でも、若い人には果たして
「オクノノ」
と言って通じるかどうか。
磯部に向かって国道を走り、病院の坂を越え、いったん可燃物処理場へと向かう。おそらく町じゅうの噂になるとしたら、このあたりを目撃されたものと思う。やがて右に坂を上ると処理場という三叉路があり、そこをそのまま真っ直ぐ進むとほのぼのとした田園が広がって来る。涼しげな川沿いの道は舗装され、カッタルク思えるほど緩い昇り坂なので走りやすい。また、今の時期、田植えを間近にして田んぼに水を張りかけた個所もあってそれが陽光にキラリと反射してとても美しい。2級河川「奥の野川」をはさんだこの地域を「奥の野」と呼んでいる。
この世界は、そう、あれだ。ぼくは彼女にあることを英語で質問した。
「My neighbor TOTOROを知ってるかい?」
彼女は眼を輝かせ、
「オフコース」
と即答するや、もどかしげに自転車を降りて辺りの景色に見入っている。
「ファンタスティック!」
彼女は何度も繰り返した。アニメのトトロの世界が目の前にある。
やがて、右手の棚田になっている山側に、1本の満開の桜の木を見つけて、そこに行きたがった。トトロのおかげ、いや宮崎さんのおかげで、エレナとぼくの距離は縮まり、ぼくはウエストポーチにいれてあった「あられ」を、彼女はペットボトルの紅茶をお互いに振る舞いあった。
何でも彼女はお父さん子だったと言う。しかも最近亡くされたばかりだそうで、ぼくに対しぼくの娘がしてくれる以上の親密さで接してくれる。肩を揉んでくれるのには恐縮したが、余りに上手で、ツボを心得ているので、そのまま甘えてしまった。ぼくが「風のとおり道」を日本語で歌ってあげたらことのほか歓んでくれた。
彼女は研究のために訪日しており、しばらく志摩に滞在するらしい。明日も逢いたいし、海が見たいと言ってくれたが、果たしてどうしたものか。
確かに彼女は魅力的で、拙くて、もどかしい会話を通しても奥深い人柄がほの見えるし、父親以上の何かを求められているフシを感じる。だが、ぼくは節度のある家庭人で、これ以上人生を複雑にするには年齢的に限界のような気がする。しかし、男のハシクレである以上、遠い日の花火を追いかけてもいいじゃないかとけしかける自分もいる。大いに戸惑い、心はあてどもなくが彷徨うが、一年に一度の4月1日だ。これぐらいのことは書いとこう。
いっしょに歌おう!大きな声で となりのトトロ ソング&カラオケ 価格:¥ 2,500(税込) 発売日:1999-12-01 |
嘘をホントらしくするのは、デテールにリアリティを、持たせるんだって、さ。無理があったかなぁ。
ドキドキして損した・・・w
ってか この 嘘・・ってのが ウソなのでは?と勘ぐってしまいそうだわ。
もしホントに起こったことなら、ブログには書かんと、胸にしまってニンマリしてるのでは…。
つられないように。
強い否定は逆に勘ぐられるのでこの辺で。
先生天才。
ステキなオヤジと思った・・・。
騙された・・・。
天才ではないと断言するが、
ステキなオヤジ・・・ってのは強調しときたい。
>ステキなオヤジと思った・・・。
>騙された・・・。
ステキなオヤジと思ったけど、騙された…、ではナイよね。
あはは…。