不遜な言い方を許してもらえば、読書をするなら入院するに限ると思っていた。ところが周りに病院と仲良しの人が多くなって、まぁここらが年齢なのだろう、実際の病室ではそうではないというのがぼくにも分かってきた。アキレス腱を切っただとか、交通事故で…だとか、それはそれで深刻だろうが、さらに重くとんでもない症状で病院送りになるというのが実際の話だ。とても読書どころではなさそう。唯一救われたのはA嬢の
「落語のCD、貸して」
ぐらいか。
もう一世代若い頃には、書物をお見舞いにすることが多かった。若かったのだと思う。外科的な患者ばかりだったから。
さて、その見舞いの品というのが、ローレンス・ブロックの「八百万の死にざま」であり、レイモンド・チャンドラーの「長いお別れ」であった。当の患者はシャレと受け取ってくれたし、読後感は好評で、大いに感謝されたものだ。でも、家族の方たちには顰蹙(ひんしゅく)ものだったと聞く。見舞いにもっとも不向きなタイトルだ。
書名のイメージこそ悪いが、
(ニューヨーク市の人口にあたる)八百万の死にざまがあれば、八百万の生きざまもあるんだというそれぞれの人生を前向きにとらえたものだし、「さよならを言うことは少しの間死ぬことだ」というカッコいいレトリックなのだが…。
普段忙しく、本読む暇もない人には絶好の暇つぶしになると断言しておく。
チャンドラーは、病床でなくたって若い人は読んでおくべきだ。ぼくの知り合いに、好きになった女性には必ず読んで欲しいと「長いお別れ」をせっせとプレゼントしていたのがいるほどだ。ぼく同様、ハードボイルドには似つかわしくない男で、でも、理想だけは高かった。読み終えた彼女を射止めたかどうかは、また別の話になるが、これこそ
こうありたい男と
こんな男
との激しい落差
というものかも知れない。
さて、ぼくにとって今日は特別の日になった。というのも、その「長いお別れ」を作家の村上春樹氏が新たに翻訳し直して、「ロング・グッドバイ」として発売された日だからだ。男女を問わず、生涯に一度は読んでおくべき本の一冊だと思う。文体が素晴らしく、名文が散りばめられている。本の中の有名な台詞が今日のタイトルだ。
ロング・グッドバイ 価格:¥ 2,000(税込) 発売日:2007-03-08 |
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