1月17日(火) 晴
葉室麟さんの「潮鳴り」(祥伝社文庫)を一気に読み終えた。「蜩の記」に続く羽根藩を舞台にした時代劇の物語だが、自分はこのような小説が好きなのかもしれない。落ちた花を再び咲かせてみたいと懸命に生きる櫂蔵とお芳に心が惹かれる。そして犬猿の仲の継母染子の恰好良さに憧れる。
羽根藩の俊才だった伊吹櫂蔵が短慮のため失態を犯し、お役御免となり、義弟市五郎に家督を譲り隠居の身となり、襤褸蔵と呼ばれるほど身を持ち崩してしまう。そんなある日義弟市五郎が兄に家宝を売却したお金の一部を渡し、翌日切腹してしまう。実は義弟は罠にはめられて切腹することになるのだが、弟の無念を晴らすために櫂蔵は周りから蔑まれながらも再度出仕し、藩の不正を正して行く。
そんな中で櫂蔵は同じように身を持ち崩した居酒屋のお芳にも花を咲かせてあげたいと願うが、罠にはめられ自害して伊吹家を守る。最初はお芳を蔑んでいた継母の染子もお芳を認め、お芳の死に涙するとともに櫂蔵が成し遂げようとする息子の想いを知り、影で助力していくのである。
この物語は櫂蔵と言う一度落ちぶれた武士が亡き弟の汚名を晴らすといったストーリーの中で同じように落ちぶれたお芳や俳諧師咲庵の生き様と厳しいけど武家の奥方としての品格を備えた染子の生き様をみごとに描いている。落ちた花は二度と咲かないと思うのが世の常であるが、落ちた花を咲かせたいと懸命に生きることが結果はともかく人には必要なのではないでしょうか。