新型肺炎で飲食店のキャンセル急増!知られざる「窮状と対策」事情
銀座を歩く人は、半分に減った。こんな銀座、見たことがない」
こう語るのは、銀座2丁目にある高級日本料理店「銀座 瀬里奈」の田坂信介支配人。一変した街に驚きを隠せない様子だ。もちろん、このように新型コロナウイルス(新型肺炎)の影響を受けているのは、銀座だけではない。さまざまな街の多くの飲食店が、大きな打撃を受けている。
【飲食店が行っている「新型肺炎対策」の様子はこちら】
飲食・フード産業に特化した求人サイト「クックビズ」を運営するクックビズは、飲食企業を対象に、新型コロナウイルスの影響についての調査を実施。「新型コロナウイルス感染者が発生後、店舗の売り上げに影響はありましたか?」という質問をしたところ、「大きな影響が出ている」31.0%、「多少の影響が出ている」20.0%と、半数以上が「影響が出ている」と回答。
さらに、「今は影響が出ていないが、今後、多少は影響が出そうだ」(20.0%)という回答を含めれば、7割以上の飲食店に影響が出る可能性があることがわかる。しかも同調査は、2月6日~13日に実施されたもの。半月以上たった現在は、さらに影響が出ている飲食店が増えている可能性も高い。
飲食店向けの予約・顧客管理サービスを展開するTableCheckの仁木有花氏も、現状をこう語る。
「(同社クライアント飲食店での)2020年2月の飲食店向けの予約数は、昨年比で約2割の減少となる見込みです(27日時点での実績を基に試算)。原因はすべて明らかにはなっていませんが、弊社でも新型コロナウイルスによるキャンセルなどが大きな割合を占めると考えています」
政府がイベントの中止やリモートワーク、公立学校の休校など「自粛」を要請したことで外出を控える人が増えた中、飲食店の状況と対策は、どうなっているのか。
● 中国人と高齢者が相次ぎキャンセル 「従業員のマスク着用」に悩みも
「1月下旬以降にキャンセルが相次ぎ、2月3日頃から急激にお客様が減少した。昨年の同じ時期より、(客は)2割ほど減っている」(銀座 瀬里奈・田坂支配人)
銀座 瀬里奈は、しゃぶしゃぶや炭火焼きステーキなどを食せる日本料理店。しかも銀座の中央通りに面している場所柄、多くの外国人が訪れる。今回の騒動が起こるまでは、海外からの顧客が30%を占めており、そのうち80%が中国人だったという。しかも中国人の観光客は、神戸牛を求めて来店する人も多く、客単価も高いそうだ。
しかし、中国人をはじめとした外国人観光客の減少に伴い、現在では海外からの顧客の割合は10%程度にまで減少している。
減ったのは海外からの顧客だけではない。田坂支配人が「70歳以上のお客様やそのご家族からのキャンセルも相次いでいる」というように、高齢者の顧客まで減少しており、“ダブルパンチ”の状態だ。
「20年以上この仕事をしているが、こうした状態に陥ったのはリーマンショックや狂牛病のとき以来かもしれない」(田坂支配人)
現在、来店する顧客に安心してもらうための対策として、従業員へは手洗い・うがいの徹底と、接客を一度するごとにアルコールなどの消毒剤で消毒を行うように指導している。さらに、店の入り口やトイレにも消毒剤を見えやすい場所に置くことで、消毒を促しているという。
しかし、田坂さんが対応に悩んでいるのが「従業員のマスク着用」だ。会社からは「マスクを着用しての接客」への許可が出ているものの、まだ実際には行っていないという。
「私たちのお店では、海外からのお客様も多く、着物を着て接客するのも一つの“おもてなし”になっている。その姿にマスクをすることで、非日常を味わいたいと来店するお客様をがっかりさせる印象になったり、お客様への敬意が欠けたりしないかと考えて、まだマスクをすることに踏み込めていない」(田坂支配人)
● 「海外客はオールキャンセル」 ミシュラン名店は1日3組限定営業へ
このように対策に悩む飲食店が少なくない一方、大きな決断を2月中旬に下した飲食店がある。
麻布十番にある3年連続でミシュランの星を獲得している「石垣吉田」。大きな鉄板のあるカウンター席で、鉄板焼きなどの革新的な料理を楽しめる高級店だ。
実は同店、2月17日から新型コロナウイルス終息宣言が出るまで「1日3組限定の貸し切り営業」を行う決断をした。昼12時~15時、17時~18時、19時半~21時の間でスタートできる3部制にして、他の顧客と同席することなく食事ができるようにしたのだ。1日3組限定の貸し切り営業を決断した理由を、石垣吉田の吉田七奈子さんはこう語る。
新型コロナウイルスの影響で、1月後半から2月、3月の海外からの予約はオールキャンセルになった。
さらに1月下旬、香港人のお客様の隣に座っていた日本人のお客様から(中国人と思い込んで)『大丈夫?』と聞かれたことがあった。確かに100%大丈夫とは言い切れない部分はあるが、中国人の方もとても大事なお客様。鉄板焼きでお出しするというスタイルで、カウンターにほかのお客様同士が並んで座られるため、このままではお客様同士のストレスになると思った」
同店では海外からの顧客と日本人客の割合がほぼ半々。そのうち、中国人が2~3割を占めており、リピーターが多く、新たな顧客の紹介も多いという。現在は日本人同士の感染も懸念される状態になっているため、「中国人、日本人のどちらのお客様も安心して過ごせるように、ストレスのない環境をつくりたい」(吉田さん)と、貸し切り営業だけでなく、対策を徹底させている。
まず、店のある3階にエレベーターで到着すると、上着やマフラーをクロークに預け、アルコール消毒をしてもらう。また、消毒液が用意されており、手指だけでなく、マスクもアルコール消毒をしてから入店する。
そのほか、トイレは顧客が使用するごとにスタッフが清掃を行う。トイレの扉、ボトル、タップパネルとペーパーホルダー、便座、床などのアルコール消毒を行うため、「お化粧室は余裕をもってご利用ください、と伝えている」(吉田さん)という。
懸念されるのは、1日3組限定にしてしまうことでの売り上げへの影響だ。
「私たちのお店は1人でいらっしゃるお客様も少なくなく、今回ももちろんお1人のお客様もOKにしています。通常であれば、貸し切り料金を最小でも40万円いただいているものの今回はこうした事態ですので、もちろんいただきません。売り上げへの影響は大きいですが、無理をしても次につながらないと思っています」(吉田さん)
政府がスポーツ・イベントなどの自粛や、企業へのテレワーク実施の呼びかけ、全国の公立小・中・高校の休校を要請するなど、世の中全体が外出を避けなければならない雰囲気になっている。今はまだ耐えられる体力のある飲食店でも、この状況が長期化すれば、影響は大きなものになり、閉店、倒産に追い込まれる店が続々と出てくるだろう。
飲食店は「おもてなし」を大事にしなければならないと同時に、「顧客の安心・安全」をどう守るか。そのはざまで揺れているのが現状のようだ。