臨床医から研究医になったiPS細胞の山中教授に学ぶ転職
山中伸弥という研究医がいます。京都大学の教授で、2012年にiPS細胞に関する発見でノーベル医学生理学賞を受賞した人物です。 山中教授はもともと整形外科医として働いてましたが、数年で研究医に転向しています。いわゆる転職ですが、その決断には恩師の影響がありました。
5/11/2020
研究医を志した時に山中教授が入り直したのが、大阪市立大学大学院の薬理学教室です。その時に指導教官になった三浦克之教授は「いまおまえのしている研究を行なっている人は、世界でもごく僅かかもしれない。でも取り組んでいる内容は世界最先端のことだ。研究医は常に世界を相手にしているんだ」と彼を激励します。
この時のことを、山中教授は『夢を実現する発想法』(致知出版社)で、「自分の世界が大きく広がっていくように感じたことを覚えています」と記しています。また大学院修了後は、実際にカリフォルニア大学サンフランシスコ校グラッドストーン研究所へ博士研究員として留学します。ノーベル賞の受賞理由になるiPS細胞の研究を始めたのもこの時です。
山中教授は「世界を相手にする」というフレーズを様々なインタビューや対談で繰り返し使っています。彼が恩師から影響を受けているのは明らかです。このように決断には「人物の影響」が関わっています。誰かの言動が喜びや怒りになって決断を促す。その影響が原動力です。山中教授にとって、恩師の言葉は研修医になる決断をする原動力になったのです。
人物の影響は、決断を促す原動力だけに限りません。誰かの言動が悲しみや常識になって、現状について悩ませることもあります。その影響が呪縛です。 山中教授は整形外科で研修医をしていた時に、指導医から「ジャマナカ」と呼ばれていました。他の人が15分でできる手術が、1時間経っても終わらないでいたからです。そうした状況で、自分は外科医に向いていないのではないかと悩み、臨床医から研究医という別の道を模索し始めています。
同じ人物が臨床医の世界では「ジャマナカ」とけなされ、研究医の世界では「お前は世界を相手にしているんだ」と激励される。こうしたことは珍しくありません。たとえば一般の会社でも、同じ行動に対する評価が営業畑と技術畑では全く異なることがあります。
転職で大切なこと
転職で大切なのは、自分の価値観と職場の価値観が同じ会社を選ぶことです。自分が営業畑なのに、技術畑ばかりの会社に入ると苦労します。同様に自分が技術畑なのに、営業畑ばかりの会社に入るとやはり苦労します。自分が良かれと思ってやることが、「なんでそんなことをしているんだ!」とことごとく裏目に出るからです。
転職する前から、会社の中身を完璧に把握するのは難しいかもしれません。しかしネットや雑誌にある社長の言葉や、社員のインタビューなどを調べれば、どんな社風なのかをある程度知ることができます。こうした下調べをしておくと、ただ給料や休日数といった労働条件だけで選ぶよりも、後悔する可能性を減らせます。
自分の評価が不当に低いと感じているのなら、自分が良いと思うことと、会社や職場が良いと思うことが、ズレていないかを確認しましょう。山中教授のように低評価ではなく高評価を与えてくれる場所に身を置く方が、自分のためにも周囲のためにも社会のためにもなります。