元ヤンキーだったのに東大に入った」「お笑い芸人なのに東大に入った」…このような珍しい話に惹かれる人は少なくないでしょう。中には、その成功体験を自分自身で再現するために詳しく知りたがる人もいるはずです。
しかし、これらの話は一体どこまで参考になるのでしょうか? ※本連載は、公益社団法人子どもの発達科学研究所・主席研究員の和久田学氏の著書『科学的に考える子育て エビデンスに基づく10の真実』(緑書房)より一部を抜粋・再編集したものです。
8・31・2022
同じ「エビデンス」でも、「信頼度」の格付けがある
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研究の世界でも、経験談や経験則のようなものが存在する(※写真はイメージです/PIXTA)
【図表】科学的根拠(エビデンス)に関するランク
前回の記事 『子育ての決まり文句「お母さんが子どものころは…」の危うさ』 では、経験則や経験談を無暗にむやみに一般化し、自分にも当てはまると考えることは相当危険であることを解説しました(関連記事参照)。 じつは研究の世界でも、経験談や経験則のようなものが存在します。
簡単に説明してみたいと思いますが、その前に研究の手法には「科学的根拠(エビデンス)に関するランク」があることをご存じでしょうか。代表的な研究手法を、科学的根拠(エビデンス)レベルが高い順に挙げてみます(【図表】参照)。細かく言うともっとさまざまなものがありますが、ここでは単純化して紹介しましょう。最もエビデンスが高い(科学的事実として間違いがない)とされるのが、「システマティックレビュー」です。これは、ある分野で行われた科学的研究をごっそり集めてきて、それをさらに分析するという手法です。
経験談、経験則のエビデンスレベルは低い
仮に喫煙とがんの関係を調べたいとしましょう(すでに証明済ですが)。そのときシステマティックレビューでは、研究者自身が新たに何らかの調査を行うことはなく、すでに発表されている研究論文を集めるのです。何しろがんの研究は世界中でなされています。喫煙とがんの関係を調べた研究だって、世の中にはたくさん存在しているのです。中には年齢別に調べたもの、人種や性別による差を検討したものなど、いろいろあります
。 システマティックレビューでは、そうした研究論文を世界中から集めてきて、さらにそれらを分析していきます。そうしたたくさんの研究結果を概観して、結局何がわかったのかを総括します。 この研究手法を頂点に、さまざまなエビデンスレベルの研究が存在します。研究と言いつつ、単に個人の意見を表明しただけのものもあれば、非常に偏ったデータしか提示できていないものがあるのです。この辺の見きわめは、研究者であるならば必ずできるようにならなければなりません。
さて、研究手法の中に「ケースシリーズ」「ケーススタディー」というものがあります。スタディー=研究なので、これらを直訳するとケーススタディーは「事例研究」、ケースシリーズは「事例群研究」となりますが、これらこそがここで話題にしている経験談と経験則なのです。 ケーススタディーとは、ひとつの事例を詳しく取り上げるもの。
「Aさんががんになりました。その発見から治療までの流れを取り上げましょう」という感じです。ケースシリーズは、そうした事例を複数集めたもので、「B病院を受診したがん患者15人について調べてみたところ、xxといった傾向が見いだされました」といった研究がこれにあたります。
ケーススタディーは研究者による経験談であり、ケースシリーズは研究者が複数の経験から見いだした経験則を提示したものということになるでしょう。さて、ケーススタディーとケースシリーズのエビデンスレベルですが、どう思いますか? 科学的根拠(エビデンス)があるとして良いでしょうか? もちろん、そんなわけにはいきません。何しろひとつや2つ程度のケースでは、それ固有の影響が大きいものです。
喫煙によってがんのリスクが高まることは、誰でも知っていますよね? でも、喫煙者全員ががんになるわけではありません。かなりのヘビースモーカーであるにもかかわらず、健康で長生きをする人も出てきます。長生きをしたあるおじいさんが、「わしの長寿の秘訣はタバコだ。タバコをやめてストレスにさらされるより、好きなだけ吸って楽しく生きたほうがいいに決まってる」と言ったとして、その意見をあなたは採用しますか? たぶんそのおじいさんは、喫煙の悪い影響を受けにくい特別な体質だったか、ものすごくラッキーだったか、のどちらかです。
この例は極端かもしれませんが、ケーススタディーの場合、こうした偏ったケースが混じる可能性がつきものなのです。つまり、ひとつの事例以上でも以下でもないということになります。だから研究においては、ケーススタディー、ケースシリーズともにエビデンスレベルは低いとされるわけです。参考になる場合も多いのですが、注意が必要と考えるべきでしょう
以下はリンクで
富士山でビニール合羽「絶対NGです!」 汗かけば体冷え、さらに...環境省に聞いた本当の恐ろしさ
富士山でビニール合羽「絶対NGです!」 汗かけば体冷え、さらに...環境省に聞いた本当の恐ろしさ
スタッフに注意される男性ら(写真は、富士登山オフィシャルサイトのツイッターから)
富士山に雨の中、ビニール合羽姿で登ろうとした人たちがいたとして、環境省などが運営する富士登山オフィシャルサイトの公式ツイッター(現X)が、危険だと注意を呼びかけている。
【写真】雨の後は合羽の残骸が見られるという
五合目のインフォメーションセンターのスタッフが、合羽姿の男性らを説得する様子の写真も投稿された。どんな危険があるのか、環境省の担当者に詳しく聞いた。
■低体温症患者が続出し、八合目の救護所も受け入れできず
山梨県の吉田ルートにある県富士山五合目インフォメーションセンターの建物前で、女性スタッフがビニールの雨合羽を上下に着た男性2人に何か説明している。その奥では、別の男性スタッフが同じ装いの女性2人に向き合っていた。
この写真は、2023年8月9日夕に公式ツイッターで投稿された。
投稿では、「五合目はかなりの雨ですが、この時間から登ろうとする人がちらほらいます。そういう登山者ほど装備が、、、」と切り出し、スタッフが危険性を伝えたとしたうえで、「富士山でこんなビニール合羽、絶対NGです!富士山ナメたらいけません!」と訴えた。
投稿は、2万件以上の「いいね」が押されており、写真が拡散されて大きな話題になっている。
公式ツイッターによると、9日は、富士山で天候の悪化が予測され、前日には雷注意報が出ていた。当日は、麓からも雷鳴が聞こえていたという。富士山関連の他のツイッターでも、山頂は朝9時で気温が8度しかなく、平均で14メートルもの風が吹いていたとし、霧が出て視界が悪いとの報告もあり、公式ツイッターがリツイートしていた。
実際、八合目の救護所からは同日夕、低体温症患者が続出して受け入れできないと環境省などに連絡が入ったという。1日には、真夏にもかかわらず、九合目以上で一面うっすらと雪が積もったと報告されており、天候が悪化すれば、真冬の寒さになるようだ。
蒸れて汗をかくと体が冷え、岩でビニールが破れてしまう
写真を投稿した環境省の富士五湖管理官事務所の担当者は8月10日、J-CASTニュースの取材に対し、9日は天気が悪かったため、午後から五合目の現地へ見に行ったと明かした。
「登山者は多くなかったものの、ビニール合羽姿の人たちは、数十人単位でいましたね。富士山では、珍しい光景ではないです。しかし、登山用ではない簡易的なもので、ビニールの素材はNGです。中が蒸れて汗をかくと、体が冷えてしまいます。耐久性もなく、岩に当たってビニールが破れたり、風で煽られてボタンが取れたりします。雨の後、富士山の登山道に残骸が落ちているのをよく見かけますね」
体が濡れて、風に当たり続けると、低体温症になって、命にも関わるようだ。
これに対し、登山用のレインウェアやレインジャケットは、ゴアテックスなど汗を逃がす透湿性の素材で作られており、手首や足首の部分は、ベロクロやボタンで閉められるため風を通さないという。
スタッフが声をかけた男性2人は、20代ぐらいの日本人だったといい、奥の女性2人はフランス人だった。
9日の18時15分ごろのことで、男性らが夜中に富士山に登ることについて、こんな見方をした。
富士山でビニール合羽「絶対NGです!」 汗かけば体冷え、さらに...環境省に聞いた本当の恐ろしさ
寒さの中4、5時間もご来光を待つことになれば「ものすごくリスク」
「山小屋を予約している方もおられますが、多くの方がご来光を目指す弾丸登山だと思います。ゆっくり行く考えかもしれませんが、宿泊しなければ、山小屋では外でしか休憩できません。山頂までは、平均で6、7時間かかりますので、結局、夜中の0時や1時に早く山頂に着いてしまいます。そうしますと、一番寒い中で4、5時間もご来光を待つことになります。真冬の世界で、体感は氷点下になりますので、ものすごくリスクがありますね」
低体温症になる人が続出して、もう登らないように伝えられていたため、スタッフらは、男性らに行かないように勧めた。それでも行くなら、出発を遅らせるようにお願いしたという。
男性2人は、いったんインフォメーションセンターに戻ったが、フランス人の女性2人は、そのまま行った可能性があるとした。
「外国の方は、富士山の情報があまり得られておらず、旅行中のため日程を変えられずに登ってしまうことがあるのだと思います。ビニール合羽などで登る人も、外国の方が多い印象ですね。今回のことは、英語のツイッターで先に伝えました。もっとも、自分で判断して、途中から降りてこられた方もいらっしゃいます」
(J-CASTニュース編集部 野口博之)