すごいトシヨリ散歩
池内紀・川本三郎 編
毎日新聞出版 発行
2021年11月5日 発行
ドイツ文学者、エッセイストの池内紀さん(2019年8月逝去)と、評論家の川本三郎さんによる対談集です。もとは月刊誌『望星』で2016年9月号から2019年9月号に連載されていたものです。
普通、ヨーロッパの都市の真ん中は「旧市街」といわれるいちばん古い地域で、王宮や官庁など由緒ある建物が集まっている。ところが東京の中心は、巨大な空間に一家族だけが住んでいる。中世や近世ならそれもわかるんですけど、21世紀の神話みたい。これにも外国人は驚きます。p22
一つ目小町
有名な町の、一つ隣にいいところがあるという見方。
忠臣蔵で有名な播州赤穂の隣に坂越(さごし)という町がある。赤穂は昔から塩の産地だが、その塩の積み出しを行っていた港町。p32
山形は井上ひさし、丸谷才一、藤沢周平などたくさんの文学者を輩出している。ところが隣の秋田県からはほとんど出ていない。山形の人に言わせると、理由は簡単で、戊辰戦争のときに山形を含めて奥羽越列藩同盟が負けたから。東北では秋田の佐竹氏のところ(久保田藩)は官軍側で、維新後は立身出世の道が開けた。かたや山形の庄内藩は負けた方だから、出世の道が閉ざされたため文学の方へ行った。p35
日本を大きく分けると、国の動向を察知し、それに即して動くところと、それはそれとして、自分たちはこうだからと、国の意向にはすぐには従わないところがある。ぼく(池内)のふるさとは、わりと前者の方で、版籍奉還の第一号が姫路藩。時代を見る目が早かったのかと思いきや、そうではなくて、潮目を見て、さっと舵を切り換えたらしい。p36
龍野がいいと思ったのは、姫新線の本竜野駅を降りると、駅の周辺はスーパーや市役所が集まる新しい町で、揖保川を渡ると旧市街になっていること。新しいものと古いものの住み分けがちゃんとできている。p37
菅江真澄の旅は仕事ではなく、目的は特になし。自分では、神社・仏閣、珍しいものを見て回りたいとだけ述べている。旅費などお金のことは、いちばんわからない。p170
菅江真澄は18世紀の半ばから19世紀の人ですけど、ゲーテと生没年がほぼ同じで、ゲーテのイタリア紀行と同じように小さな町町を旅している。p172
菅江真澄は和歌の技能者であり、薬草に詳しかったよう。新しい町に来ると、必ず医者を訪ねている。おそらく、それを生業としていたのではないか。p173-174
高峰秀子曰く
「大スターなんて、なるもんじゃない。女優でいちばんいいのは、脇役。いまいちばん幸福な女優は誰かっていうと、沢村貞子さん。あの方はたくさんの映画に出ているから、出演料はいっぱいもらっているし、大スターじゃないから出費も少ない。ああいう人が、実はお金を持っているのよ」p184
最近は、自分(川本)よりも若くして世を去っている作家には興味がなくなってしまった。芥川や太宰は70代を経験していない。その点、荷風や谷崎は、70代を経験している。p269
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます