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「山の郵便配達」

 

 先日NHK・BSで放映された「山の郵便配達」を録画しておいたものを見た。あらすじはこうだ。

 中国・湖南省西部の山間地帯。車も容易に通れないこの地域にて、徒歩で郵便配達の仕事を続けてきた初老の男(トン・ルゥジュン)が足を患い、息子(リィウ・イェ)が仕事を引き継ぐことに。しかし父は息子の初仕事に同行し、それを自分の最後の務めとしようとする…。

 話はこれだけのことだ。淡々と進んでいく。一緒に見始めた妻が、「だるい」と言って早送りし始めた。その気持ち分からないでもないから黙っていたが、それでも我慢しきれなくなった妻は30分ほどしたら、自分の部屋に行ってしまった。私は、引き続き一人で見ていたが、その辺りからちょっとずつ話が動き出した。山の中で一人暮らしをしている、目の見えない老婆に都会に住む孫から為替が送ってくると、書かれてもいない文面を読んでやる父と子、山中の部族の娘に心を奪われる息子の姿、冷たい川を父を背負って渡る息子ーーなど、見ている内についつい引き込まれていった。妻が一緒にいなかったのが幸いだったのかもしれない、父親でもあり息子でもある現在の私には、父と子の両方の気持ちが理解できて、思わず胸が熱くなった。見終って、妻に「いい映画だったぞ。まあ、女子供には理解できないかもしれないけどね」などと、嫌味を言ってやったが、父親と息子が初めて心が通じ合えた喜びは、男にしか分からないのではないだろうか。
 あとで、この映画のことを調べてみたら、

 中国第6世代のフォ・ジェンチイ監督による、素朴で奥深い人間ドラマ。今の日本映画界が忘れてしまった詩情に満ちあふれた傑作である。父から息子へと受け継がれていく、仕事の技術と誇りと信念。夕映えの中、息子が飛ばす紙ヒコーキが、これからの世代の旅立ちを見事に象徴してくれている。美しさと同時に、その厳しさまで醸し出す自然描写も素晴らしい。
中国のアカデミー賞ともいえる金鶏賞最優秀作品賞および最優秀主演男優賞を受賞。

だそうだが、そんなことは全く知らずに見たのがよかったのかもしれない。何も先入観なしに素直な気持ちでみるのが、一番いい映画の見方ではないだろうか。画面に映し出される中国山間部の自然の美しさには、心を洗われるようだった。どことなく、日本の風景に似たところも多く、自然にあふれたよき時代の日本の姿を髣髴とさせてくれたりもした。山間に暮らす素朴な人々の表情もよかった。
 そうした山間地域に暮らす人々に郵便を配達する人がいなくてはならない。2泊3日の過酷な行程も、郵便を受け取る人たちの喜びで報われるものだというのも実感できた。日本でも、これほどの辺境とまでは言わないまでも、人里はなれた場所に住む人たちはいる。そうした人々に郵便を配達するシステムは完備されているのだろうが、郵政民営化になった折には、今までどおりのことがきちんと行われるだろうか。
 そんなことがふと心配になってしまった。




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