じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

澤田瞳子「火定」

2021-10-31 18:36:00 | Weblog
★ 土曜、日曜日は中学3年生の特訓が続く。ふと隣家からリコーダーの音が聞こえてきた。小学5年生の子が練習をしているのだろう。教科書に載っている「星笛」という曲。哀愁漂う美しい曲だ。

★ さて、澤田瞳子さんの「火定」(PHP文芸文庫)を読み終えた。737年、天平9年。奈良の都を天然痘が襲う。当時の日本の人口の25%から35%に及ぶ100万人から150万人がこのパンデミックで死んだという。政権を握っていた藤原4兄弟も相次いで感染し死亡。政権の無策が被害を拡大させる。

★ 主人公は2人。一人は20歳を超えたばかりの名代(なしろ)という名の下級役人。出世コースから外れた施薬院に配属され、その境遇に不満をもっている。もう一人は優れた医師で天皇の脈をとる侍医まで務めながら陰謀により失脚。無実の罪で獄につながれた諸男(もろお)という人物。

★ もし平時であれば出会うことのなかった二人。名代はパンデミック、医療崩壊に遭遇し、非業の死を遂げる人々、とりわけ子どもたちの屍を前にして、医術への志を強めていく。一方の諸男は恩赦で獄から出るものの、自らを陥れた人々への復讐を胸に秘めつつ、日々の糧を得るためにイカサマ宗教に加担する。

★ この作品が新型コロナウイルスが蔓延する前、2017年に刊行されたというから驚く。私たちがコロナ禍で体験している出来事が既に予見されている。

★ 中盤までは奈良時代の役所名の難しさなど親しみのない状況になかなか読みが進まなかったが、後半は一気にその世界に入ってしまった。時代考証といい、この作家はすごい。

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村上春樹「カンガルー日和」

2021-10-29 10:30:03 | Weblog
★ 底が抜けたような青空。今日は絶好のお洗濯日和だ。ということで、村上春樹さんの「カンガルー日和」(講談社文庫)から表題作を読んだ。数ページの短い作品。

★ カンガルーに赤ちゃんができたというので、あるカップルがカンガルーを見に行く話。たったそれだけ。読み終わって少し時間がたつと、「あれ、どんな話だったっけ」と思うような作品。でもその中に日常が込められている。人々の何気ない日常があり、カンガルーたち(1匹の雄カンガルーと2匹の雌カンガルー、そして生まれて1か月の赤ちゃんカンガルー)の日常がある。

★ ドラマ「新参者」を観終わった。東京・日本橋小伝馬町で起こった女性の殺人事件。所轄の「新参者」刑事。加賀恭一郎たちが事件の真相に迫るというもの。疑わしき人々が次々登場し、それぞれに重い人生を背負っている。加賀は犯人を追及するとともに、過去の鎖に縛られた人々の心をほぐしていく。

★ 「人は誰もウソをつく」というテーマがいい。そして、ウソにも3種類あるという。

★ エンディング、山下達郎さんの「街物語」が流れる。独特の節回しからポセイドン・石川さんを思い浮かべてしまった。

★ さて、フェイスブックが社名を「メタ」に変えるという。「メタ」と聞くと「形而上学」を思い浮かべる。もともとはギリシャ語の接頭語らしい。これからのフェイスブックは現実の感覚を超えた、よりバーチャルな世界を目指すのか。ところで「GAFA」「GAFAM」と呼ばれる略称はどうなるのかな。「GAMA」「GAMAM」というのはどうもねぇ。
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陳舜臣「長い話」

2021-10-27 19:09:48 | Weblog
★ 映画007シリーズを観終わったので、次にドラマ「新参者」(2010年)を観ている。東京の下町を舞台に日本橋署に異動した加賀恭一郎が入り組んだ事件を解決していくというもの。加賀役の阿部寛さんがいい感じだ。ちょっととぼけた感じで、人の心のすき間にスッと入っていく。何よりも観察眼が鋭い。東野圭吾さんの作品だが原作も読んでみよう。個人的な好みでは、たい焼き屋の沢木ルカさん(「プリンセス・トヨトミ」も良かった)も良い感じだ。

★ 最近作家が亡くなられたというので、アニメ「ゴルゴ13」(さいとう・たかをさん原作)とアニメ「カムイ外伝」を観ている。

★ 「ゴルゴ13」は2008年版。あるスナイパー、デューク東郷を描いている。作品の存在は知っていたが、今まで観る機会がなかった。何が正義で何が悪か。暗殺という手段で都合よく問題を解決するというのはどうかと思うが、デューク東郷の渋さには魅かれる。

★ 「カムイ外伝」(原作は白土三平さん)は1969年に放映されたもの。時代は第4代徳川将軍の頃。下層の身分出身のカムイが忍者組織に入り天才的な才能を発揮するが、自由を求めて組織を抜ける。掟を破って「抜忍」となったカムイ。命を狙う追手と、やるかやられるかの死闘を繰り返す。放映当時、私はまだ小学生だったので、深い意味は解らなかったが、今観るとなかなか深い。

★ さて、読書の方は、日本推理作家協会編「謎005 伊坂幸太郎選」(講談社文庫)から陳舜臣さんの「長い話」を読んだ。

★ ある人が知人の話を聞く形で物語が進む。たまにこういう構成の作品に出合う。その知人の「長い話」と言うのは婚約者の父親に関するもの。この父親は先ごろ亡くなったが、秘密を自分にだけ打ち明けていたという。その秘密というのは、人嫌いの父親が懇意にしていた住職の寺にある国宝級の美術品のこと。

★ 父親は渡米中、何者かに襲われて瀕死の重傷を負う。一方、住職も何者かに殺されてしまう。おおよその真相を知った知人が自分の心の中だけでは抱えきれず、うちあけたという形になっている。

★ 昨日の「酷い天罰」では神職が、そして「長い話」では僧侶が犯罪に関わっている。聖職者の道も簡単ではなさそうだ。

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夏樹静子「酷い天罰」

2021-10-26 19:53:15 | Weblog
★ 新聞は総選挙の情勢分析に忙しいようだ。アナウンス効果を危惧するせいか(あるいは浮動層の動きが読めないせいか)、獲得議席数の上限値と下限値の振れ幅が大きく、これぐらいの読みなら素人でもできそうだなどと思った。

★ 今日の新聞で注目したのは朝日新聞の「科学」欄。フェルマーの最終定理、四色問題、ゴールドバッハ予想、コラッツ予想など数学の難問が紹介されていた。コラッツ予想など一見中学レベルの数学で証明できそうだけれど、やろうとするとなかなか難しい。単純な問題ほど難しいのかも知れない。

★ 京都新聞では「感染増減 2カ月周期説」(ニューヨーク、ロサンゼルス共同)の記事。急拡大したかと思えば、びっくりするほど急に収束したコロナ感染。アメリカでの過去の「波」を調べてみると2月に拡大が始まり、4月に減り始め、6月に増え始め、8月に減り始めるといった傾向が見られたという。このペースだと11月に再び感染拡大に向かうというが、果たしてどうか。専門家もなぜこのような推移となるのか今のところ分からないそうだ。ウイルスに聞いてみるより仕方がないか。

★ さて、読書は日本推理作家協会編「謎002 宮部みゆき選」(講談社文庫)の最後に収められている夏樹静子さんの「酷い天罰」を読んだ。昨日の「歩道橋の男」と同様に、どうしようもない少年が出てくる。家族も手を焼くほどだが、その少年が「撲殺」死体で見つかった。それも自宅の前に放置されていたという。彼は誰によって殺されたのか。

★ テレビのサスペンス劇場のような仕上がりになっている。長編を思わせる始まり方だが、案外あっさりと終わる。よく言えばうまくまとまっているということか。「天罰」というのがヒントだね。

★ なぜ反社会的な人間が生まれるのか。遺伝的なものか、環境的なものか。性善説か、性悪説か。考えさせられるなぁ。
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原尞「歩道橋の男」

2021-10-25 21:17:22 | Weblog
★ 久しぶりに1日中の雨。仕事、そして合間にドラマ「日本沈没」の第3話を観た。いよいよ関東沈没のカウントダウンが始まる。「日本沈没」というタイトルだが、関東沈没で物語は進むようだ。関西に住んでいるとあまり切迫感はないがね。

★ 関東沈没の事実をどう公表するかで、経産省の官僚・松山ケンイチさんと環境省の官僚・小栗旬さんが対立。段階的に公表すべきという松山さんの方が正論のように思えるが、それではドラマとして面白くないか。さて、どうなりますやら。次週は総選挙特番で休止。残念だ。

★ 日本推理作家協会編「謎002 宮部みゆき選」(講談社文庫)から原尞さんの「歩道橋の男」を読んだ。西新宿に事務所を構える私立探偵・沢崎が物語を進める。

★ ふいと同業者の女性探偵が沢崎の事務所を訪れる。今来た女性の依頼を受けないでほしい。いや依頼を受けた上で嘘の調査報告をしてほしいという。奇妙な申し出が沢崎の気を引いた。そして、次々と深みにはまっていく。

★ 深みにはまるといえば、女性探偵に嘘の報告を依頼した男たち。それぞれに思惑があるようだ。結局、女性の言いなりでカネを出す羽目に。

★ この作品で面白いのはエンディングだ。「えっ」て感じで終わる。再び相関図を考えないと何が何だか・・・。文章は読みやすかった。
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小松左京「闇の中の子供」

2021-10-24 13:16:04 | Weblog
★ 日本推理作家協会編「謎002 宮部みゆき選」講談社文庫から、小松左京さんの「闇の中の子供」を読んだ。

★ SF作家の男の所に小さな子がやって来る。「自分は殺されるから、助けてくれ」という。現実離れした古風な姿の子。かくまったは良いが作家の子ども共々姿を消してしまった。

★ 男は友人に相談。友人は近くで歌舞伎の公演をしていることを教えてくれる。演目は「菅原伝授手習鑑」。どうやら昨夜やってきた子はこの舞台に出ている子らしい。作家は子どもを追って、異次元のような闇の世界へと誘われる。そこで目にしたものは、「人類の長い歴史の中でおとなたちの手にかかってむごたらしく殺された何億という嬰児、幼児たちの魂」、飢饉や戦火の中で死んでいった子ども。親の折檻に「ごめんなさい」と叫びながら死んでいった子(こうした子どもたちのむごたらしい情景が続く)。

★ 読むに堪えられないが、現実から目を背けるわけにはいかない。今の日本でも児童虐待は後を絶たない。

★ さて、「菅原伝授手習鑑」。歌舞伎に詳しくないので、題名ぐらいは知っていたが内容は知らなかった。菅原道真が藤原時平の陰謀で大宰府に流された時代の話。道真(作品では菅丞相)の7歳の子・菅秀才にも刺客の手が伸びる。彼をかくまったのはかつて菅丞相の弟子で今は寺子屋を開いている源蔵という男。秀才の身代わりに同年齢の子どもの首をはね、追手に渡す。その後で首をはねた子どもの母親がやってくる。さて、どうする源蔵・・・。物語はその後、忠義を礼賛するようなエンディングを迎えるが、今の価値観で見ると何ともグロテスクで大人の身勝手な話だ。

★ この作品は長年人気の演目だという。人気の理由は何だろう。身代わりとなった忠義の子への礼賛か。子をほめつつも悲しむ親への同情か。子が死なねばならない時代への絶望感か。それとも怒りか。私によくわからない。
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森村誠一「企業特訓殺人事件」

2021-10-22 21:30:38 | Weblog
★ ドラマ「日本沈没―希望のひと―」を第2話まで観た。エリート官僚が何かそれらしくないが、小栗旬さん、松山ケンイチさんのコンビは不思議な空気があって面白い。副総理(石橋蓮司さん)の帽子姿は、どこかの政治家で見たような。杏さん、比嘉愛未さん、どちらもとてもチャーミングで好きだ。そんなこんなで熱中して観た。第3話も楽しみだ。

★ 何はともあれ「首都機能分散」は真剣に考えるべき課題かもしれない。京都に文化庁が移転するが、これも第1歩か。

★ さて、読書の方は、70年代の作品から森村誠一さんの「企業特訓殺人事件」(日本推理作家協会編「謎002 宮部みゆき選」講談社文庫)を読んだ。ある化粧品メーカー、二流から一流企業に大躍進。その秘訣は徹底したサラリーマン教育だという。軍隊式の過酷な研修で、新入社員はモーレツ社員に変貌を遂げる。しかし、中には犠牲者も。

★ この「特訓」で兄を失った弟は、真相を知るためにこの企業に入社。そして自ら「特訓」を体験するのだが・・・。

★ 一時期、「猛烈研修」がもてはやされた。企業の自衛隊体験入隊はまだあるのかな。本作品の主人公はサラリーマンに否定的だ。「自分の能力をためすとか、己の研鑽を社会のために役立てるなどといったところで(中略)自分の能力を他人に捧げて、『他人の金儲けの手伝い』をするだけではないか」と。

★ 確かにその面はあるなと思った。では、どうする。起業するか。若いうちは理想に酔っていても、現実は厳しい。

★ ずっと昔、勤めていた企業のオーナーは、人には、(組織の中で人を)使う人、使われる人、そして組織になじまない人の3種類あると言っていた。これもまた適性なのだろうか。私は組織になじまないと自覚し、早々に退社させてもらったなぁ。

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筒井康隆「日本以外全部沈没」

2021-10-21 15:07:41 | Weblog
★ 映画007シリーズを観終えたので、録画してあったドラマ「日本沈没―希望のひと―」を観始めた。小松左京さんの「日本沈没」をベースに2020年代的なアレンジがしてある。

★ 「日本沈没」は映画版(1973年。主演は藤岡弘さん)、テレビドラマ版(1974年。主演は村野武範さん)をリアルタイムで観た。当時は映画が先で、ドラマが後だったんだね。その後も2006年に映画がリメイクされているが、それは観ていない。

★ 高度経済成長を遂げた70年代の日本。「日本沈没」や「ノストラダムスの大予言」がブームになった背景には、先行きに不安が広がりつつあったからかも知れない。

★ 日本沈没を予言した学会の異端児・田所博士役は先の映画やドラマで演じた小林桂樹さんのイメージが強く残っている。今回は香川照之さんが演じられている。どうも口調が歌舞伎のようだが、それが持ち味か。

★ 「日本沈没」ということで今日は筒井康隆さんの「日本以外全部沈没」(角川)を読んだ。国家元首から著名タレントまで1970年ごろの世界の有名人が総出演。出演料だけでも大変な額になりそうだが、そこは小説の世界。今の時代だと名誉棄損だとか場合によっては政治問題に発展しそうな内容もあるが、当時は本当に表現が自由だったんだね。検閲以前に自主規制が横行する今では考えられない大らかさだ。

★ 何かの地殻変動で日本以外が全部海底に沈んでしまうという設定。世界中の人々が日本に押し寄せ、日本の人口はもはや5億人。日本に定住するには日本人にならねばならないという。世界的な政治家たちもこぞって日本語を学び、媚びて何とか定住を図ろうとする。もはや宗教の違いや体制の違いなど言っていられない。

★ そんな日本にもやがて悲劇が・・・。こうしたパロディを許した小松左京さんの懐の深さに敬服する。
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生島治郎「男一匹」

2021-10-20 18:53:29 | Weblog
★ 映画007シリーズは「スカイフォール」(2012年)と「スペクター」(2015年)を観る。「スカイフォール」は2度目か、3度目だが何度観ても面白い。私の中では007の最高傑作だと思う。単独の映画としても楽しめる。「スペクター」はどうやら今上映中の「ノー・タイムートゥ・ダイ」に続くようだ。ダニエル・クレイグはボンドを15年演じて今や50代。アクションは大変だろうね。

★ さて、読書は「謎001」から、日本推理作家協会編「謎002 宮部みゆき選」(講談社文庫)に進む。生島治郎さんの「男一匹」を読んだ。

★ 母親と二人暮らしの18歳の青年。父親は一花咲かすとヤクザの世界に入ったきり音信不通。青年もまた貧困の生活から抜け出すために、裏社会に入ろうとしている。まず青年に課されたのは邪魔な男を消すこと。彼には荷が重いが折からの根性を見込まれて(上から見れば都合の良い鉄砲玉だろうが)実行役に選ばれた。

★ 首尾よく使命は果たしたのだが。切ない気持ちが残る。途中からだいたい結末は読めたが、それでも物語は楽しめた。

★ 「謎002」は時代別に作品が選ばれている。「男一匹」は1970年代の作品として選ばれている。
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小杉健治「手話法廷」

2021-10-19 11:18:24 | Weblog
★ 急に寒くなり、受験期の到来を知る。高校3年生の何人かは学校推薦で大学合格の内定をもらった。次は公募制推薦、そして一般入試と続く。中学3年生は受験まであと4か月。あっという間だろう。ラストスパートに入らねば。

★ 映画007シリーズ、「慰めの報酬」(2008年)を観る。今回は南米・ボリビアが主な舞台。前作の続編という感じ。空中戦が見ものだった。主人公はどんな危機に陥っても絶対に死なない。このマンネリはわかっているが楽しませてくれる。特に最新の特撮技術とクレイグのボンドが良い。ボンドの暗い面が良い味付けになっている。それにジュディ・デンチの「M」が良い感じだ。

★ 読書は小杉健治さんの「手話法廷」(日本推理作家協会編「謎001 東野圭吾選」講談社文庫所収)を読んだ。耳と言葉が不自由な男性・高島。勤務している工場で事故に遭遇する。自らは九死に一生を得たが、面倒を見てくれていた労働組合の委員長が半身不随に。会社は高島に退職を迫り、高島は弁護士の水木邦夫を訪れる。

★ 紙面の多くが法廷の場面に割かれている。障がいのある人が法廷で証言することの難しが感じられた。

★ そして地位保全の民事訴訟は予想外の刑事裁判に進む。最後は一応ハッピーエンドだが、何か割り切れないものを感じる。

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