じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

垣根亮介「午前三時のルースター」

2023-10-30 15:31:09 | Weblog

★ 垣根亮介さんの「午前三時のルースター」(文春文庫)を読み終えた。

★ 旅行代理店に勤める長瀬という男が、得意先の社長から仕事の依頼を受ける。その仕事とは16歳の社長の孫にして会社の跡取りとともにベトナムを旅するということだった。

★ なぜベトナムなのか。社長には内密で少年に事情を聞くと、数年前に失踪した父親をあるビデオで見かけたので、捜しに行くとのこと。母親の再婚話とそれに伴う会社の合併話が浮上し、少年の心は揺れているらしい。

★ 気乗りしない依頼ではあったが、長瀬は少年とベトナムに行き、現地での協力者も得て少年の父親捜しを始める。

★ ところが彼らの行動は誰かに監視され、邪魔をされる。果たして少年は父親を見つけられるのか。

★ 発展途上にあるベトナムを舞台に、ハードボイルドタッチで物語が進む。

★ 父親と少年との関係は、ドラマ「VIVANT」のようだった。

☆ さて10月も残りわずか。期末テストまであと3週間余り。また忙しくなりそうだ。

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小泉綾子「無敵の犬の夜」

2023-10-29 01:28:28 | Weblog

★ 仕事を終えて心地よい疲労感にひたる。

★ 先日、朝日新聞で渡邊英理さんが紹介されていた文藝賞受賞作、小泉綾子さんの「無敵の犬の夜」(「文藝」2023年冬号所収)を読んだ。

★ ある事故で手の指の一部を失った中学生が主人公。欠けた指が原罪のように彼に付きまとう。いつしか不良グループと付き合うようになるが、そんな時、工業高校に通う「橘さん」と出会い、彼の舎弟のようになる。

★ 主人公と「橘さん」との九州地方の方言を交えた会話が心地よい。

★ 中盤まではとても面白かった。モノローグで主人公が内面を吐露する終盤は、着地点を模索してさまよっている感じ。欠損した指の記述や「橘さん」とのやり取りが減って残念だった。

☆ さて、明日も中学3年生の土日特訓に頑張ろう。高校入試まであと110日余り。

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吉村昭「海馬」

2023-10-26 17:47:35 | Weblog

★ 昨日から今日にかけて塾生が2人増えた。高3と中3。受験が迫ってきての駆け込み入塾。うちの塾は最後の頼みということか(笑)。それはそれで、何とか志望校に入れるように頑張りたい。

★ さて今日は、吉村昭さんの「海馬」(新潮文庫)から表題作を読んだ。「海馬」はトドと読む。

★ どんな過酷な環境の中でも、人が生きるところに物語が生まれる。この作品は北海道、極北の地で海馬を撃って暮らしている人々の話。

★ この地では流氷と共に海馬の群れがやってくる。そして漁師が仕掛けた定置網や刺し網を破り、獲物をごっそりと食っていく。この被害を防ぐため、海馬が駆除される。海馬の方も簡単には仕留められない。人と海獣との知恵比べである。

★ 物語はあるハンターの生い立ちや家族や恋愛などを描いていく。

★ 先日の朝日新聞、渡邊英理さんの「いま、文学の場所へ」を読んだ。そこで紹介されたいた、小泉綾子さんの文藝賞受賞作「無敵の犬の夜」が面白そうなので、「文藝 冬号」を買い、読み始めた。

★ 今回は特別な年ということで短篇部門も設けられていた。受賞作は西野冬器さんの「子宮の夢」。女子高校生らしい。年寄りにとって読みやすい文章ではないが、最近の子の子宮感覚と言うところか。

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堀江敏幸「砂売りが通る」

2023-10-24 15:35:59 | Weblog

★ 昨日接種したインフルエンザワクチンの跡が痛む。インフルエンザなど何十年も罹ったことはないが、一種のお守りのようなものだ。普段は閑散としている医院もこの時ばかりはと、高齢者が列をなしていた。

★ さて今日は、堀江敏幸さんの「熊の敷石」(講談社文庫)から「砂売りが通る」を読んだ。水彩画を鑑賞するような美しい作品だった。

★ 男は浜辺を歩いている。傍には姪ほど年の離れた友人の妹と彼女の幼い娘がいる。友人が亡くなり、その3回忌に集まったのだ。

★ 男はその女性を、彼女が幼いころから知っている。6歳の彼女は浜辺で砂遊びに熱中していた。15歳の彼女は「雪まつり」のように「砂まつり」があればなぁと相変わらず砂いじりを楽しんでいた。

★ 男は外国で暮らし、「砂の城」をつくる大会があることを知り、病床の友人に手紙を送った。その手紙を彼の妹も読んだ。

★ 彼女は結婚し子どもを得るが、夫と波長が合わなくなり別れたという。

★ 浜辺を歩き疲れて、男は眠りに落ちる。フランス語では眠くなることを「砂売りが通る」と言うらしい。男が一眠りしている内に、女性と彼女の娘は「砂の城」づくりに励んでいた。

★ 潮が満ちれば消えていく砂の城。消えゆくゆえの美しさが感じられた。

★ 浜辺の風景に幼い少女や浜辺を散歩し海水の塩辛さに驚いた犬などを配し、磯の香りと波の音を感じる作品だった。

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田中慎弥「不意の償い」

2023-10-23 16:01:54 | Weblog

★ 土日が忙しくなったので、月曜日、特に塾生たちが学校に通っている時間帯が束の間の休息。今週は近隣の小学校が林間学習に行ってくれるので、少しは楽かな。

★ さて今日は、田中慎弥さんの「切れた鎖」(新潮文庫)から「不意の償い」を読んだ。田中さんの文体は独特だ。

★ 妻を産婦人科に運ぶ夫。妻は破水し、すぐにも生まれそうだ。その時にして、夫は果たして生まれる子が自分の子なのかと疑っている。

★ 話は過去にさかのぼる。二人は団地で育ち、幼いころから結ばれることが暗黙の了解のようであった。二人の両親は近くのスーパーで働き、彼らが共に仕事に出た日、二人は初めて性交する。しかし同時に、スーパーが火災に遭い、両親が死んでしまう。

★ 親に隠れた性交と親の死には何の因果もないが、男はこの偶然を気に病んでいる。

★ 二人は結婚し、それなりに平穏な結婚生活を営んでいたが、ある日、男は半ば強引に妻と交わり、それが妊娠に結びついたと妻は言う。

★ このあたりから、男の被害妄想が激しくなる。物語は冒頭の場面に立ち戻るが、この先どうなるやと心配になってくる。

★ よくわからない作品だったが、まぁいいか。

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三浦しをん「炎」

2023-10-22 19:59:08 | Weblog

★ 土日特訓第2週目。3時間45分の授業に塾生たちも少しずつ慣れてきた様子。慣れすぎてだらけないようにしなければ。来週からは「放課後ゼミ」(中学3年生が放課後に自学自習する)も始まる。

★ さて今日は、三浦しをんさんの「天国旅行」(新潮文庫)から「炎」を読んだ。最初は学園モノかと思ったが、とんでもなかった。

★ 主人公の高校生、亜利沙は地味な女性で、自らもそれを自認していた。通学で毎朝同じバスに乗り合わせるあこがれの先輩とも声をかけるどころか、目を合わせることさえしない。

★ 先輩には彼女がいて、それは亜利沙の同級生で初音といった。彼女は群れることをしなかったが、その美貌から周りの同級生の頭目と目されていた。

★ そして先輩が学校で焼身自殺をする。あまりの衝撃に作品に緊張感が走る。

★ 先輩はなぜ死を選んだのか。心無い噂ばかりが飛び交い、結局理由がわからない。そんな折、初音は亜利沙と死の理由を探そうと言い出す。二人は遺書を見つけだすのだが。

★ 亜利沙は彼女なりに出来事を受け止めようとしているのだが、結局真相はわからない。それが薄気味悪さを残す。

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森村誠一「人間の証明」

2023-10-21 18:27:37 | Weblog

★ 連日、新しい塾生が入ってきたり、入塾に向けての相談を受けたりで、うれしい悲鳴。読書の時間がほとんどとれなかった。

★ 今日、ようやく森村誠一さんの「人間の証明」(角川文庫)を読み終えた。

★ 映画を何度か観て、おおよその筋はわかっていた。刑事役の松田優作さん、風に舞う麦わら帽子、そして西條八十の詩が印象的な映画だった。1970年代後半、角川書店が仕掛けたメディアミックスが成功を収めた作品だった。

★ 「読んでから見るか、見てから読むか」がキャッチコピーだったが、映画を見てから数十年してやっと読むことができた。活字で読むと、映画では端折られている作者の時代認識が読み取れて面白かった。

★ ナイフが刺さったっまで息絶えた黒人青年。彼は「キスミ」と言って、荒廃するニューヨークのスラムから日本へとやってきていた。彼の来日の目的は、彼はなぜ殺されねばならなかったのか。

★ 敗戦直後の日本と1970年代の日本。そして日本とニューヨーク。出会うはずのなかった人々が、この事件を契機に集まってくる。因縁なのか業なのか。

★ 敗戦後から30年、高度経済成長を経てこの国が得たものと失ったものは何なのか。ニューヨークの格差社会は将来の日本を予見なのか。

★ 面白い作品だった。

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小池真理子「玉虫」

2023-10-17 21:32:56 | Weblog

★ 谷村新司さんがお亡くなりになったという。中学生の頃、近畿放送(KBS京都)の「丸物ワイワイカーニバル」という番組に、まだ売れる前のアリスが何度かゲスト出演されていた(と記憶している)。

★ 「遠くで汽笛を聞きながら」など繰り返して聞いたなぁ。1970年代が懐かしい。御冥福をお祈り申し上げます。 

★ さて読書の方はミイラ話が続いたので、今日は艶っぽい話。小池真理子さんの「玉虫と十一の掌篇小説」(新潮文庫)から「玉虫」を読んだ。

★ 30代後半の女性が主人公。彼女が「ジジイ」と呼ぶ町長の愛人となった。20代から男でいろいろと苦労を重ねてきたようだ。

★ 町長の愛人となり、そのお手当で生活費に困ることもなく、それなりに安定した生活を送っていた彼女だったが、そんなとき、また新たな男が現れる。

★ 傍から見るとこの先、老いてからが心配になるのだが、本人はむしろあっけらかんと今を楽しんでいる様子だ。

★ 内容はともかく、小池さんの筆が巧い。

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角田光代「おみちゆき」

2023-10-16 15:45:06 | Weblog

★ 中学3年生の「土・日特訓」がスタートし、いよいよ高校受験に向けた戦いが本格化する。中学3年生16人、高校3年生10人。今年も全員志望校合格を目指して頑張ろう!

★ さて今日は、角田光代さんの「かなたの子」(文春文庫)から「おみちゆき」を読んだ。「遠野物語」のような土俗的な作品だった。

★ その集落では極秘裏にあるプロジェクトが進んでいた。寺の住職が即身仏をめざして、土中に埋もれるというのだ。

★ 土に埋もれた住職。地表には竹の空気穴だけが出ている。集落のメンバーが毎夜交代で巡回し、住職が放つ鈴の音が聞こえれば、まだ生きているということ。それが途絶えると入滅ということになる。

★ 100日を経て土は掘り起こされ、ミイラとなった住職が姿を現した。

★ 住職の姿態は何を意味するのか。住職はなぜ即身仏を目指したのか。薄暗い余韻を残して物語は終わる。

★ ちょっと怖い話だった。話は一転するが、子どもたちは怖い話が好きだ。折を見ては「何か怖い話をしてくれ」とせがまれる。仕方なく、ちょっと聞きかじった「悪魔の人形」や「死者も食う人」「青い血の話」などを連発する羽目に。最後は「面白い話」ということで、「白い犬、手が白く、足が白く、尾も白い」といって締める。お粗末。

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吉本ばなな「ミイラ」

2023-10-14 18:53:25 | Weblog

★ 高校の中間テスト、国語で吉本ばななさんの「バブーシュカ」が範囲ということで、読んでみようと思ったが、収録された本が手元にない。

★ 高校生にあらすじを聞いた。彼氏の母親が亡くなった。母親は一人で彼を育てたから、彼の喪失感は半端ではない。主人公の女性は彼をなぐさめよう、励まそうと声をかけたり振舞ったりするが、どうやらそれは逆効果。ある日、風邪をひいて声が出にくくなり、表情や身振りで彼とのコミュニケーションをとっていると、それが彼の心に響いたという話。(伝聞なので、本当にそうなのかは自信がない)

★ 「バブーシュカ」は後日に譲るとして、今日は吉本ばななさんの「体は全部知っている」(文藝春秋)から「ミイラ」を読んだ。

★ 夜の公園、主人公の女性は若い男性から声をかけられ、彼の住居に向かう。折しも近隣では殺人事件が起こっており、危険を感じてはいたが、「発情」に抗しきれず、数日彼と性交三昧の時を過ごす。

★ エジプトで発掘をしているという彼は、長年、愛した猫をミイラにして保存していた。彼女もミイラにされてしまうのか。そんなスリルも味わいながら、物語は進んでいく。

☆ 恋愛、性欲。「種」を残すためのホルモンの為せるわざだろうが、燃えるような恋心、嫉妬、そしてその裏返しのような憎悪。不可思議なものだ。

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