じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

黒井千次「石の話」

2023-09-30 15:50:10 | Weblog

☆ 大学時代の恩師が亡くなって早くも3年。コロナ禍も落ち着いてきたので11月3日に「偲ぶ会」を開くという。祝日とはいえ、私は夜の授業があるので出欠を迷ったが、この機会に会わなければ一生会えない友もいると思い、出席することにした。

★ 師の話ということで、黒井千次さんの「石の話」(「日本文学100年の名作 第7巻」新潮文庫所収)を読んだ。

★ 主人公の大学時代の教授の出版記念パーティーが開かれる。高齢ゆえ、先生にお目にかかる機会はこれが最後かもと、主人公は出席する。教授は、相変わらず頭は明晰ながら、奥さんに支えられ、足元はおぼつかない。

★ 教授の話はそこまでで、主人公は奥さんの指にはめられた石に目が行く。そういえばと彼は妻との約束を思い出す。

★ 彼は20代前半に結婚した。当時は誕生石をあしらった婚約指輪が流行っていたが、薄給の彼には手の届かないものだった。

★ 将来、経済的にゆとりができれば贈ると約束して23年。約束は果たされないままだった。これを機会にと彼は「石」を求めてデパートや宝飾店を歩く。

★ そして良いものに出会えたのだが、今度はこのことを、どうやって妻に打ち明けるかで悩む。映画のようにサプライズという場面を想像するのだが・・・。

★ いろいろと考えた末、意を決して彼は妻に打ち明けるが、反応は今一つ。そして妻が望んだのは、「石」は「石」でも墓石だった。

★ なかなかユーモアがあって面白い作品だった(主人公はシビアーな現実に直面しているのかも知れないが)。夫婦であっても男と女のすれ違いが面白い。

コメント

高野和明「ジェノサイド(上)」

2023-09-29 20:54:47 | Weblog

★ 人類はどのように滅ぶか。自分が生きている間には起こらないとは思うが、いつかは訪れる日。それにはいくつかのシナリオが考えられている。

★ 地球外の小惑星が地球に激突し環境を一気に変えてしまうのか。地殻変動による巨大噴火や磁場の変化で環境が変わってしまうのか。

★ 核戦争や原発事故による放射能汚染や未知のウイルスのパンデミックはありそうだ。

★ 高野和明さん「ジェノサイド(上)」(角川文庫)を読んだ。地球規模のスケールの大きな物語だった。この作品の中で人類が直面する危機は、遺伝子の突然変異による「超人類」の出現だ。

★ 「超人類」が現生人類を駆逐することを恐れたアメリカ政府は、民間の軍事会社を利用して、「超人類」とその証拠を葬り去ろうとする。一方、日本では一人の大学院生がこの大きな陰謀に巻き込まれてしまう。

★ 彼らは、そして人類はどのような運命に直面するのか。というところで上巻は終わる。

★ 進化に関してあるいは軍事に関して詳細なデータが織り込まれ、真実味を感じる。それは一方で詳細すぎる気もするが、面白い作品だ。下巻も楽しみだ。

コメント

堀江敏幸「傾斜面」

2023-09-28 19:54:04 | Weblog

★ 毎日のルーティーンワークをこなして1日が終わる。変化はないが平穏な日々。案外こんなことが幸福なのかも知れない。

★ 今日は堀江敏幸さんの「雪沼とその周辺」(新潮文庫)から「傾斜面」を読んだ。

★ 主人公の中年男性、香月は、赤く焼けた夕空に見とれて、ふと車窓越しに目に入った青い物体に驚かされる。それから話は、過去へとさかのぼる。

★ 香月は会社が倒産し失業していたところ、友人の紹介で仕事を得る。消火器の営業と点検を主とした会社だ。今までとは全く畑違いの営業職、給料も想像以上に低い。とはいえ文句を言える状況ではない。男性はその会社に勤めることにした。

★ それからしばらくして、就職を世話してくれた友人が亡くなった。墓参りを兼ねて故人の家を訪れ、かつて二人でつくった凧を見せてもらう。

★ ところで車窓に見た青い物体は果たして何だったのか、という話。「雪沼」という架空の街に息づく人々。優しい庶民の暮らしが伝わってくる。

☆ 中間テストの範囲表を見て、対策ブリントの作戦を立てる。結構な範囲。「ゆとり教育」が懐かしい。

コメント

絲山秋子「袋小路の男」

2023-09-27 15:27:43 | Weblog

★ 9月ももうすぐ終わるというのに、今の気温は31℃。今週末は近隣の小学校の運動会。無事に終わりますように。

★ さて今日は、絲山秋子さんの「袋小路の男」(講談社文庫)から表題作を読んだ。2004年「川端康成文学賞」受賞作。

★ 主人公の女性の12年間に渡る片思いの記録。彼女がその男と出会ったのは高校生の時。悪友とバーでビールを飲んでいる時。男は高校の先輩で、出会った瞬間、惹かれてしまった。

★ 離れては近づき、近づいては離れ、直接触れることもせず、男の握った10円玉で男の体温を感じるような関係だった。「友達」と言っては陳腐すぎる。もちろん「恋人」ではない。女性は男との切れない関係を悩む。しかし、離れられない。「恋人未満家族以上」だという。

★ 男は袋小路に住んでいるのでそれがタイトルになっている。どうやら二人の関係も袋小路に行き詰ってしまったようだ。

★ 関西弁では「ドンツキ」というなぁ。

☆ 早くも中間テスト2週間前。今週末は中学3年生の校内実力テスト、日曜日は五ツ木の京都模試、10月7日は英検だ。行事満載の秋だね。

コメント

江國香織「ラブ・ミー・テンダー」

2023-09-26 21:40:06 | Weblog

★ 塾生がまた増えそうで、うれしい悲鳴を上げたい日々。ありがたいことなのだが。

★ さて、忙しくてまとまった本が読めない。今日は江國香織さんの「ぬるい眠り」(新潮文庫)から「ラブ・ミ・テンダー」を読んだ。

★ 70歳を超えた母親から「離婚する」と電話があった。よくあることなので気にもしなかったが、最近は話すことが少々おかしくなってきた。

★ 母親はエルヴィス・プレスリーの大ファンだ。それも30歳を超えてからのファンで、墓参りと称して一人で渡米するほどに。

★ そんな母親、最近夢枕にエルヴィスが立つらしい。さらには毎夜、12時になると「ラブ・ミー・テンダー」をBGMにして、エルヴィスから電話がかかってくるという。

★ 認知症と言うこともある。医者に診てもらった方が良いかもしれない。娘は慌てて両親を訪ねたのだが・・・。

★ 何かほのぼのとしたエンディングで良かった。

コメント

星新一「最後の地球人」

2023-09-25 21:37:24 | Weblog

★ 寒暖の差が大きく、身体にこたえる。

★ さて今日は、星新一さんの「ボッコちゃん」(新潮文庫)から「最後の地球人」を読んだ。

★ 科学の進歩により爆発的に増える人類。他の動物や昆虫まで駆逐し、砂漠や山地を開発しても、もはや地球に住む所はなく、中には宇宙空間へと旅立つものも。

★ もはや人類はあらゆる労働からも解放され、地球の完全なる支配者となったが、そうなればなるほど人口は増加を続けた。

★ しかしある日、この流れが止まる。夫婦から1人の子どもしか生まれなくなったのだ。原因は不明。瞬く間に人口は減少に転じ、かつて宇宙へと旅立った人々も地球に帰ってきた。それでも人口は減り続け、遂に1組の夫婦を残すだけになった。彼らは地球の王であり后であった。とはいえもはや彼らに仕える人類は存在しないが。

★ やがて、二人に子どもが生まれる。喜びもつかの間、母親は産後の衰弱で亡くなり、父親も不慮の事故で死ぬ。子どもだけは人工的な保育器で育てられ、成長を続けていた。そしてある日、保育器の蓋が開いた。果たして彼(あるいは彼女)は新たな人類を創造していくのだろうか。

★ 手塚治虫さんの「火の鳥」のような作品だった。SFだけれど、ありえないとも言えない。この作品から学ぶべきことは何だろうか。

☆ 先日、映画「大怪獣のあとしまつ」を観た。松竹と東映が協力してつくったそうだが、評価はさんざんだとか。原発をイメージさせる大怪獣。その後始末に奔走する人々。コミカルな閣僚たちのやりとり。舞台劇なら良かったのかな。

☆ 「ジョン・ウィック」第3作目「パラベラム」を観てると、「VIVANT」の冒頭シーンを思い出した。

コメント

村上春樹「風の歌を聴け」

2023-09-24 20:41:51 | Weblog

★ 1978年から1980年にかけて読んだ本。

★ この中から今日は、村上春樹さんの「風の歌を聴け」(講談社)を読んだ。何十年ぶりかの再読。散文詩のような軽快な文体で、村上作品の長編第1作目にして、1番好きな作品だ。

★ 「この話は1970年の8月8日に始まり、18日後、つまり同じ年の8月26日に終る」という。

★ 東京の大学に通う学生。夏休みで帰省している。高校時代から行きつけの「ジェイズ・バー」で「鼠」という名の知人とビールを飲んで時間をつぶしている。

★ 今まで付き合った彼女の話やら、新たに出会った女性の話やら、街の様子やらが淡々と語られる。

★ 「あらゆるものは通りすぎる。誰にもそれを捉えることはできない。僕たちはそんな風にして生きている。」

★ 大事件が起こるわけではないが、スタイリッシュな文章が心地よい。

コメント

篠田節子「家鳴り」

2023-09-23 16:40:10 | Weblog

★ 一雨ごとに季節が移る。酷暑に慣れた体に朝夕の冷え込みは寒ささえ感じる。暑さ寒さも彼岸までとはよく言ったものだ。

★ さて今日は、篠田節子さんの「家鳴り(やなり)」(新潮文庫)から表題作を読んだ。夫婦愛の物語かと思いきやちょっとホラー感が漂っている。

★ ある夫婦。夫の精子が少なく子どもができないとわかった。その寂しさを紛らすように飼ったゴールデンレトリバーも4年で死んでしまった。

★ 折しも、夫の会社が倒産し、入れ替わるように妻がつくる刺繍が芸術品として評価され、収入も家事分担も逆転する。ペットロスの食欲不振に陥った妻。夫は料理本を片手にせっせと料理を作り出す。

★ その腕前はなかなかで、妻の食欲も旺盛に。そしていつしか妻の肥大化が始まる。そしてついに家からも出られないほどに。

★ 心の不調がもたらした悲劇だが、不調なのは妻だけだったのか。

 

☆ 早くも指定校入試で大学に合格したという嬉しい報告を受ける。最近は指定校入試やAO入試(今は総合型選抜と呼ぶらしい)で、9月から10月に早々と合格を決める生徒が目につく。11月から12月にかけては公募制推薦入試。年が明ければ共通テスト、一般入試と続く。

☆ 暇に任せて、久々に大学入試共通テストの問題を解いてみる。英語はなんとかこなせるが、数学が難しい。化学や生物はまったく歯が立たない。日本史や政治経済も想像以上に難しい。入試時期が早まり、高校での学習は実質2年半。後期中等教育の形骸化が進んでいる。しかし一方で、10代後半の彼らの知性には感心する。

コメント

志賀直哉「赤西蠣太」

2023-09-22 14:41:23 | Weblog

★ 吉田修一さんの「横道世之介」はなかなかの好人物だったが、志賀直哉が描く「赤西蠣太」も印象的な人物だ。

★ 志賀直哉「小僧の神様・城の崎にて」(新潮文庫)から、「赤西蠣太」を読んだ。江戸時代初期の仙台藩。赤西蠣太は伊達兵部の家臣となる。彼は主命を受け、密かに重臣の不正を暴くために送り込まれたのだ。

★ 容貌は優れず、野暮な「田舎侍らしい侍」だったという。才は乏しく、家中の若侍からも体よくこき使われる存在だった。楽しみと言えば将棋。同じく将棋を愛好する銀鮫鱒次郎という男がいた。彼は蠣太とは対照的な美男子。まったく容姿の異なる二人だが、鱒次郎もまた密命を帯び、重臣・原田甲斐の家に仕えていた。

★ 機は熟した。蠣太はいよいよ重臣の悪行をしたためた報告書を国許へ届けることになった。問題はどうやって暇を得るか。そこで蠣太と鱒次郎は一計を案じた。家中でも美貌で知られる女性・小江(さざえ)に蠣太が恋文をしたため、その恥ずかしさのあまり夜逃げするというものだ。

★ ところが予想に反し、蠣太の想いが小江に受け入れられてしまう。

★ さてこの先はというところで、藩はお家騒動で、恋バナどころではなくなる。その後の物語は読者の想像に委ねられている。

コメント

開高健「掌のなかの海」

2023-09-21 18:08:28 | Weblog

★ 月に一度の医者通い。高血圧やら糖尿病やら高脂血症やら、ひと月分の溢れんばかりの薬をもらって帰る。ヘモグロビンA1cが6.5まで下がった。悪いときには9台だったから、だいぶ良くなったとか。ダイエットの成果か。

★ さて今日は、開高健さんの「珠玉」(文春文庫)から「掌のなかの海」を読んだ。イギリスで印象に残っていることの描写から始まる。それはフィッシュンチップと酒場の床のおが屑だという。

★ 話は30年前にさかのぼる。作者が小説家として駆け出しの頃、何ともいわれぬ焦燥にかられて、よく通ったバーの話。その店の床にもおが屑がまかれていたという。松の香りが森の中で飲んでいるような気分にさせるという。

★ わりと閑散としたバーだが、作者はそこがお気に入り。定番のマティーニを飲んで、心を静める。バーで知り合った男性。その男、もともとは九州でそこそこ大きな病院を経営していたというが、息子がスキューバダイビング中に行方不明になったのを機に、故郷を引き払って、今は船医をしているという。息子への思いを込めて。

★ ある日、作者はその船医に招かれて彼のアパートを訪れる。みすぼらしい居住まいだったが、船医が袋から石をテーブルに広げた。大きさや形はばらばらのアクアマリンだった。青い光を放つその石は、船乗りのお守りだという。

★ 電気の消えた暗い部屋で、ろうそくの炎に揺れる青い石の輝きは幻想的だ。

★ 作品の中で李白の漢詩が引用されれてる。「一盃一盃復た一盃」。「山中にて幽人と対酌す」の一節だが、この詩を絵にかいたような雰囲気が伝ってくる。

コメント