☆ 大学時代の恩師が亡くなって早くも3年。コロナ禍も落ち着いてきたので11月3日に「偲ぶ会」を開くという。祝日とはいえ、私は夜の授業があるので出欠を迷ったが、この機会に会わなければ一生会えない友もいると思い、出席することにした。
★ 師の話ということで、黒井千次さんの「石の話」(「日本文学100年の名作 第7巻」新潮文庫所収)を読んだ。
★ 主人公の大学時代の教授の出版記念パーティーが開かれる。高齢ゆえ、先生にお目にかかる機会はこれが最後かもと、主人公は出席する。教授は、相変わらず頭は明晰ながら、奥さんに支えられ、足元はおぼつかない。
★ 教授の話はそこまでで、主人公は奥さんの指にはめられた石に目が行く。そういえばと彼は妻との約束を思い出す。
★ 彼は20代前半に結婚した。当時は誕生石をあしらった婚約指輪が流行っていたが、薄給の彼には手の届かないものだった。
★ 将来、経済的にゆとりができれば贈ると約束して23年。約束は果たされないままだった。これを機会にと彼は「石」を求めてデパートや宝飾店を歩く。
★ そして良いものに出会えたのだが、今度はこのことを、どうやって妻に打ち明けるかで悩む。映画のようにサプライズという場面を想像するのだが・・・。
★ いろいろと考えた末、意を決して彼は妻に打ち明けるが、反応は今一つ。そして妻が望んだのは、「石」は「石」でも墓石だった。
★ なかなかユーモアがあって面白い作品だった(主人公はシビアーな現実に直面しているのかも知れないが)。夫婦であっても男と女のすれ違いが面白い。