じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

奥田英朗「オリンピックの身代金 下」

2025-01-06 23:43:49 | Weblog

★ 昭和39年(1964年)、東京ではアジア初のオリンピックが目前に迫っていた。戦後の復興から20年。オリンピックは老若男女、学生運動をしている左翼学生までが期待する国を挙げての大祭事となっっていた。

★ そんな中、一人の大学院生がオリンピックを人質にして警察に身代金を要求する。要求が受け入れなければ世界中の多くの聴衆が見ている中で、オリンピックを爆破すると予告して。

★ 警察は彼を確保すべく動くが、公安と刑事の対立、所轄警察官との連携の悪さなどから、2度、3度と逃がしてしまう。そして遂に10月10日。オリンピックの開会式がまさに始まろうとしていた・・・という話。

★ 国家の威信をかけてオリンピックを成功させようとする意気込みが伝わってきた。同時に、実際にオリンピックに伴う東京大改造を行っていたのは、東北などから出稼ぎに来ている日雇い労働者であったという現実を知る。

★ 主人公は、貧しい家庭に育ち、進学の手助けをしてくれた長兄を出稼ぎ先で失った。自ら肉体労働を体験し、繁栄の陰に生きている労働者の姿を目の当たりにする。そして、国を脅迫するという行動に出た。

★ 実行犯と彼らを取り巻く人々、彼らを捕まえようとする警察。その攻防が面白かった。

★ 構成上、時系列が前後する場合があり少々とまどった。

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小池真理子「飼育箱」

2025-01-05 20:22:21 | Weblog

★ まもなく新学期。校長先生が先生の確保に苦慮している姿が目に浮かぶ。教員が足りないという。

★ マスメディアが「教員の多忙さ」を喧伝した影響もあるが、教員の多忙さは今に始まったことではない。1人当たりの児童・生徒数の推移を見れば、大幅に改善されているし、かつては45人以上の1学級の生徒数も、30人の時代だ。

★ 一定数の教員志望者はいるものの、教員需要が増えているから、定数に対する教採受験者が減っているという側面もある。

★ 確かに、価値観が多様化する中で教員の仕事は難しくなっている。政治や行政はあれもこれもと教育現場に要求し、そのしわ寄せは個々の学校、個々の教員に押し寄せている。英語教育、情報教育、いじめ対応などなど。1人ひとりの児童生徒にきめ細かな対応をしようと思えば、40人はおろか30人学級でも大変だ。それに家庭との対応。格差が拡大する中、学校は福祉面での窓口にもなっている。

★ ネグレクト、ヤングケアラー。それに様々な困難を抱える個々の児童への対応。教員の強圧的な指導(時には体罰を含む)はもはやご法度だ。教員構成のアンバランスによる若手教員の力量不足。今までの学級経営が通用せず、子どもたちに対応できないベテラン教員の消耗。深刻なのは、量よりも質なのかも知れない。

★ 従来型の公教育、「学校」という組織が崩壊過程にあるのかも知れない。創造のための崩壊であればよいのだが。佐久間亜紀さんの「教員不足ー誰が子どもを支えるのか」(岩波新書)を買ったので、読んでみたい。

★ さて今日は、小池真理子さんの「玉虫と十一の掌篇小説」(新潮文庫)から「飼育箱」を読んだ。家庭に問題を抱える少年と少女が友人となる。少女の両親は離婚し、今は母と暮らしている。少年の母親は父の再婚相手で、母親は心身の病からか薄暗い部屋に閉じこもり、そのため身体が巨大化している。

★ 少年は傷ついた鳩を飼育している。傷が癒えるまで世話をしているという。またこの少年は今でいうヤングケアラーだ。義母の世話をしている。少年の父親は妻と不仲になり、今は海外で仕事をしているという。

★ 少年の家にはグランドピアノがある。今は巨大化した義母はかつてオペラ歌手だったという。少女の家にも昔ピアノがあったが、両親の離婚、別居の過程で処分されていた。ある日、少女はピアノで連弾をしようと少年の家を訪れる。

★ 最後は、何か微妙な感覚が残る作品だった。少年にとってハトは何だったのだろうか。

 

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坂東眞砂子「紙の町」

2025-01-04 22:27:14 | Weblog

★ YouTubeで野本麻紀さんの「のもと物理愛」を見る。野本さんと物理学者でカリフォルニア大学バークレー校教授の野村泰紀さんが、野村さんの「マルチバース 宇宙論入門」について語る4回シリーズが面白かった。

★ 相対性理論や量子力学から導かれる宇宙の話。インフレーション、ビッグバン、マルチバース、泡宇宙など、興味深かった。数式を使わず、グラフや概念図で説明するのは、物理学者にとっては難しかったであろうが、素人にもなんとかわかるように説明されているのがありがたかった。(「ぼやっ」とわかっただけだけれど)

★ 現代物理学は仏教的宇宙観に近づいているように感じた。数式で理論的に解を求める物理学と救いを使命とする宗教では立ち位置が根本的に違っているが、でも全く対立するようには思えなかった。仏教の「空」などまさに「時空」ではなかろうか。

★ さて今日は、坂東眞砂子さんの「神祭」(角川文庫)から「紙の町」を読んだ。知的能力が遅れている女性が主人公。子ども時代、周りの子から浮いてしまう彼女はいじめの対象だった。彼女が癇癪を起して暴れると、被害を受けた人々は彼女の母親に苦情を言い、母親は詫びて涙を流した。

★ そんな彼女も成長し、和紙工場で働くようになった。仕事は順調で、工場の娘とも仲良くやっていたのだが、ここで事件が起こる。

★ 月日は流れ、彼女は中年の域に入っている。偏見と好意の眼差しを受けながら、彼女は町中を歩いている。かつて勤めた工場も今は廃墟になっている。彼女は人間の心には表と裏があることを発見する。文章が美しく、何か切ない作品だった。

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映画「風が強く吹いている」

2025-01-03 21:44:02 | Weblog

明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。

★ 正月三が日はあっという間に終わり。今年は土日が続くので、多くの企業は仕事始めは6日からか。

★ 郵便料金の値上げが決定打となり、年賀状が激減した。今年で賀状納めという案内も多く頂いた。準備の手間が省けたので楽な気もするが、昭和の風物詩が一つ消える寂しさもある。これもご時勢か。

★ レコード大賞は、もはやレコードは死語化だし、紅白はほとんど出場者も曲名もわからない。これもご時勢か。

★ 日本テレビの箱根駅伝の放映だけは健在だ。第101回目、伝統のイベントだけあって、人気が衰えない。結局は学生たちが走っている姿を見るだけだが、ついつい見続けてしまう。

★ この機会にと、三浦しをんさんの「風が強く吹いている」(新潮文庫)を読み始めた。寛政大学という架空の大学。その4年生の清瀬灰二(ハイジ)は、ある学生がコンビニから逃げる場面に偶然遭遇し、その走る姿に魅せられる。学生は寛政大学の新入生で、蔵原走(カケル)と名乗った。仕送りを使い込んでしまって大学構内で野宿をしているという。

★ ハイジはカケルに家賃が超破格な学生アパートを紹介する。背に腹は代えられず、アパートを訪れたカケル。そこに住む個性的な住人を紹介される。

★ カケルの歓迎会の夜、集まった住人を前にハイジは一つの計画を発表する。ここに住むメンバーで箱根駅伝を目指すというのだ。そのアパート、実は寛政大学陸上部の錬成所であったのだ。

★ 90ページ辺りまで読んで、どうも我慢ができなくなって、映画「風が強く吹いている」を観た。

★ 原作通り、無名の素人集団が、無謀にも箱根駅伝に挑むというストーリー。できすぎとは思いながら、ハイジ役の小出恵介さんとカケル役の林遣都さんの熱演にグイグイ引き込まれた。林さんの走り姿が美しい。

★ 箱根路を走るランナー1人ひとりに想いやエピソードがあるんだなぁと胸が熱くなった。

☆ さて、明日からまた受験に向かって授業が始まる。大学入試の共通テストまではあと1週間だ。頑張れ受験生たち!

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