作家渡辺京二の訃報が伝えられた。名著「逝きし世の面影」の著者であり、また渡辺と同じ熊本出身の石牟礼道子のたぐいまれなる才能に気づき売り出した人物でもある。二人については、本ブログ「石牟礼道子と渡辺京二」(21.3.30)で紹介した。渡辺が書いた本はかなり読んだが、「評伝宮崎滔天」「北一輝」などはまだ読んでいないので、読んでいきたい。
新聞紙上では各界の知識人が今年読んだ本で最も感銘を受けた本三冊を選んでいる。この中(中日新聞)で読んだ本は、わずか一冊でこのあと紹介する「プリズンサークル」(心理学の専門家が選んでいた)。今年も相変わらず、ノンフィクションの本が多く、あまり学術的ではなく、一般向けに書かれた本(例えば新書など)を読んできた。日本は課題先進国であり、そうした本を読んでいると時に落ち込む。なかなか年寄りの気分を明るくしてくれる本に出会うことが難しくなっている。気分を変えるため、徐々に小説を読むことが多くなりつつある。去年は柳美里、今年はリービ英雄、村上春樹などの小説や随筆などを読んだ。ただ読むのは比較的短いものに限られている。
今年最後の本の紹介は坂上香著「プリズン・サークル」。プリズンは刑務所、サークルは円ということだが、これだけでは何のことかわからないだろう。
本の表紙だが、これで何となく意味がわかる 囲んでいるのは受刑者でなにやら話し合いをしている
確か薬物依存症からの回復を目指す団体(ダルク)などではお互いの依存歴を話し合うプログラムがあり、これもこのように円形に座っていた
舞台は、島根県旭市にある「島根あさひ社会復帰促進センター」、最大収容者数2000人のれっきとした刑務所で犯罪傾向の進んでいない、初犯で刑期8年までの男性が収容されている。この刑務所は、全国に4箇所あるPFI(民間の資金や経験を活用し、公共施設の建設、維持管理、運営までを行う。公立図書館など多くの例がある。)の一つで、公務員である刑務官と民間企業の職員が働いている。ここの最大の特徴が、刑務所というのは「懲らしめて反省を促す」という点に重点を置いているのに対し、「更正の場」として矯正教育、職業訓練の実施、就労支援などを積極的に行っていることである。さらにここには「TCユニット」という更正に特化したプログラムが組み込まれている。参加者(40人)は応募と審査で決められ、彼らは生活や刑務作業を共にする。TCの授業は毎週12時間行われ、ここには民間の社会復帰支援員4名が配置され、参加者がそれぞれ抱える問題を自ら対話という方法によって解決しようと努力するのを支援する。彼らが抱える問題は様々であるが、共通するのは乳幼児期あるいはその後の虐待、ネグレクトがあるということである。また、彼らは罪の意識に自覚的でないことが多い。自分は虐待等の被害者であり、加害者という意識が薄いということである。こうした問題を支援員から出される課題を各自考え、それを発表する過程を通じて解決しようとする。
著者は20代の受刑者5人を2年間にわたり観察したり、インタビューしたりして10年かけて(編集、部分的な試写をlり返す)映画化した(刑務所にカメラが入るということ自体が日本の場合難しい。認められても、顔出しはできないし、制約が多い。)。この映画では、語り合うこと(聞くこと/語ること)の可能性、沈黙を破ることの意味やその方法を考えるための映画となっている。日本の刑務所の最も顕著な特徴は「沈黙」だ。強要された沈黙、個性、主体性を奪われ、問題が包み隠されている。刑期を終えて出所しても、社会復帰することが難しい。日本の刑務所の閉鎖性や人権無視は国連や人権機関からその問題点をたびたび指摘されている。日本はリスク回避型で自由を剥奪し、懲らしめることに力点を置く。世界(北欧、ドイツ)では開放型刑務所というのもできており、社会から隔離することに非常に慎重で刑務所の環境をより社会に近づける努力を行い社会復帰に力点を置いている。
日本の死刑制度も問題が多い。これについては本ブログ「映画ダンサー・イン・ザ・ダークの場面が今でも」(19.6.15)で書いた。さらに作家の平野啓一郎が書いた「死刑について」が非常に参考になる。彼自身が死刑やむを得ない派だったが、反対に転ずるようになった訳が書いてあり、講演会で話した内容のため短い。日本にしかない留置場での不審死、刑務所での暴行事件、出入国在留管理局の外国人収容者に対する職員による暴行や不審死などが起きている。原因として収容施設における過剰な規律や管理が蔓延していることがある。そして理由の一つとして国民が安全に対し過敏過ぎ、余裕を失っていることも影響していると思われる。
またまた暗いことを沢山書いてしまった。来年は少しでも明るい、希望のあることを書いてみたいと思う次第である。
新聞紙上では各界の知識人が今年読んだ本で最も感銘を受けた本三冊を選んでいる。この中(中日新聞)で読んだ本は、わずか一冊でこのあと紹介する「プリズンサークル」(心理学の専門家が選んでいた)。今年も相変わらず、ノンフィクションの本が多く、あまり学術的ではなく、一般向けに書かれた本(例えば新書など)を読んできた。日本は課題先進国であり、そうした本を読んでいると時に落ち込む。なかなか年寄りの気分を明るくしてくれる本に出会うことが難しくなっている。気分を変えるため、徐々に小説を読むことが多くなりつつある。去年は柳美里、今年はリービ英雄、村上春樹などの小説や随筆などを読んだ。ただ読むのは比較的短いものに限られている。
今年最後の本の紹介は坂上香著「プリズン・サークル」。プリズンは刑務所、サークルは円ということだが、これだけでは何のことかわからないだろう。
本の表紙だが、これで何となく意味がわかる 囲んでいるのは受刑者でなにやら話し合いをしている
確か薬物依存症からの回復を目指す団体(ダルク)などではお互いの依存歴を話し合うプログラムがあり、これもこのように円形に座っていた
舞台は、島根県旭市にある「島根あさひ社会復帰促進センター」、最大収容者数2000人のれっきとした刑務所で犯罪傾向の進んでいない、初犯で刑期8年までの男性が収容されている。この刑務所は、全国に4箇所あるPFI(民間の資金や経験を活用し、公共施設の建設、維持管理、運営までを行う。公立図書館など多くの例がある。)の一つで、公務員である刑務官と民間企業の職員が働いている。ここの最大の特徴が、刑務所というのは「懲らしめて反省を促す」という点に重点を置いているのに対し、「更正の場」として矯正教育、職業訓練の実施、就労支援などを積極的に行っていることである。さらにここには「TCユニット」という更正に特化したプログラムが組み込まれている。参加者(40人)は応募と審査で決められ、彼らは生活や刑務作業を共にする。TCの授業は毎週12時間行われ、ここには民間の社会復帰支援員4名が配置され、参加者がそれぞれ抱える問題を自ら対話という方法によって解決しようと努力するのを支援する。彼らが抱える問題は様々であるが、共通するのは乳幼児期あるいはその後の虐待、ネグレクトがあるということである。また、彼らは罪の意識に自覚的でないことが多い。自分は虐待等の被害者であり、加害者という意識が薄いということである。こうした問題を支援員から出される課題を各自考え、それを発表する過程を通じて解決しようとする。
著者は20代の受刑者5人を2年間にわたり観察したり、インタビューしたりして10年かけて(編集、部分的な試写をlり返す)映画化した(刑務所にカメラが入るということ自体が日本の場合難しい。認められても、顔出しはできないし、制約が多い。)。この映画では、語り合うこと(聞くこと/語ること)の可能性、沈黙を破ることの意味やその方法を考えるための映画となっている。日本の刑務所の最も顕著な特徴は「沈黙」だ。強要された沈黙、個性、主体性を奪われ、問題が包み隠されている。刑期を終えて出所しても、社会復帰することが難しい。日本の刑務所の閉鎖性や人権無視は国連や人権機関からその問題点をたびたび指摘されている。日本はリスク回避型で自由を剥奪し、懲らしめることに力点を置く。世界(北欧、ドイツ)では開放型刑務所というのもできており、社会から隔離することに非常に慎重で刑務所の環境をより社会に近づける努力を行い社会復帰に力点を置いている。
日本の死刑制度も問題が多い。これについては本ブログ「映画ダンサー・イン・ザ・ダークの場面が今でも」(19.6.15)で書いた。さらに作家の平野啓一郎が書いた「死刑について」が非常に参考になる。彼自身が死刑やむを得ない派だったが、反対に転ずるようになった訳が書いてあり、講演会で話した内容のため短い。日本にしかない留置場での不審死、刑務所での暴行事件、出入国在留管理局の外国人収容者に対する職員による暴行や不審死などが起きている。原因として収容施設における過剰な規律や管理が蔓延していることがある。そして理由の一つとして国民が安全に対し過敏過ぎ、余裕を失っていることも影響していると思われる。
またまた暗いことを沢山書いてしまった。来年は少しでも明るい、希望のあることを書いてみたいと思う次第である。
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