醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより   1280号   白井一道

2019-12-20 11:03:57 | 随筆・小説



   徒然草第106段『高野証空上人、京へ上りけるに』



原文
 高野証空上人(かうやのしようくうしやうにん)、京へ上りけるに、細道にて、馬に乗りたる女の、行きあひたりけるが、口曳きける男、あしく曳きて、聖の馬を堀へ落してンげり。

現代語訳
 高野山金剛峰寺の証空上人(しようくうしやうにん)が京都に向かう細い道で馬に乗った女と行き会ったおり、女の乗っていた馬の口を引いていた男の引き方が悪かったため上人の乗った馬を堀に落としてしまった。

原文
 聖、いと腹悪しくとがめて、「こは希有の狼藉かな。四部の弟子はよな、比丘よりは比丘尼に劣り、比丘尼より優婆塞は劣り、優婆塞より優婆夷は劣れり。かくの如くの優婆夷などの身にて、比丘を堀へ蹴入れさする、未曾有の悪行なり」と言はれければ、口曳きの男、「いかに仰せらるゝやらん、えこそ聞き知らね」と言ふに、上人、なほいきまきて、「何と言ふぞ、非修非学の男」とあらゝかに言ひて、極まりなき放言しつと思ひける気色にて、馬ひき返して逃げられにけり。

現代語訳
 上人はかんかんに怒り非難して「これは類稀な乱暴だ。仏の弟子には㈣部の衆がいるのだ。男の僧侶より尼僧は劣り、尼僧より世俗の男の信者は劣り、世俗の男の信者より世俗の女の信者は劣っている。かくのごとき最低の身分の者が比丘という身分の上人を堀に蹴落とす前代未聞の悪事だ」と言われたので、馬の口を引いていた男は「何を言われているのか、皆目分かりません」と言っているのに、上人はなお息巻いて「何を言うか。無学文盲の男」と荒々しく言うと、とんでもないことを言ってしまったかという顔つきになり、馬を道に戻して上人は逃げるように帰られた。

原文
 尊かりけるいさかひなるべし。

原文
 尊い口論であったのであろう。


  感情が理性を失わせることがある  白井一道
 国会の委員会審理で野次を安倍総理が飛ばす。総理にあるまじき行為である。安倍総理は一国の総理である以上、自民党の議員である前に一国の総理であるという自覚があれば、野党議員の質問に聞くに耐えない野次など飛ばすことはないであろう。