醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより   1383号   白井一道

2020-04-17 12:57:36 | 随筆・小説



    徒然草第209段 人の田を論ずる者


原文
 人の田を論ずる者、訴へに負けて、ねたさに、「その田を刈りて取れ」とて、人を遣しけるに、先づ、道すがらの田をさへ刈りもて行くを、「これは論じ給ふ所にあらず。いかにかくは」と言ひければ、刈る者ども、「その所とても刈るべき理なけれども、僻事せんとて罷る者なれば、いづくをか刈らざらん」とぞ言ひける。
理、いとをかしかりけり。

現代語訳 
 他人の田を訴訟して取り上げようとする者が訴訟に負けて、悔しさのあまり「あの田の稲を刈り取って来い」と、人を遣わしたところ、まず、途中の田の稲をさえも刈り取っていくのを「これはあなた方のご主人が争っておられる田ではない。なぜそのような事をするのか」と言うので、刈り取っている者どもが「あの訴訟で争った所の田の稲も刈り取ってよい道理はないけれども、私たちはどうせ道にはずれたことをしようと出かけるのであるから、どこの田の稲であっても刈り取らないことがあろうか」と言われた。
 その理屈、とても面白かった。

 「森友問題の本質」とは    白井一道
 9億円以上もする土地を8憶円も値引きして売り払ったという極単純な事件が森友事件の本質である。なぜこのようなことができたのかといえば、その土地が国有地であったからである。売り払った人間がもし自分の土地であったなら決してこのようなことをするはずがない。国有地の売買を担当する権限を持った人間であるが故に9憶円もする土地を8憶円も値引きして売り払うことができた。
 国有地を売り払う権限を持った人間がいくらなら支払うことができるのかと土地購入希望者に尋ね、その価格で国有地購入希望者に売り払う契約をした。問題はなぜこのようなことが起きたのかということである。平常なことであるなら、絶対に起きるはずのない出来事がなぜ起きたのかと、いうことに問題の本質がある。その前にこのような異常事態が起き得る可能性がなければ「森友問題」は起きなかった。その可能性とは、国有地であるならいくらで売っても心が痛むことがないという公務員がいるということである。公務員としての倫理観を失った公務員がいるということである。国民から負託された倫理観を持たない公務員がいるということである。その最たる人間がどうも最高権力者としての公務員、総理大臣のようだ。
 財務省の高級官僚と云われる役人たちは内閣に仕える公務員だと自覚しているようだ。総理大臣に仕えるために財務省の高級官僚たちが9憶円する国有地を8憶円値引きして売り払う契約をした。これが総理大臣に仕える高級官僚がしたことである。高級官僚たちは総理大臣には仕えてはいたが、国民に対して仕えることはなかった。国民からの信頼に応えることはなかった。国民からの信頼を裏切っても心が痛むことがなかった。国民の富を私的に流用してしまったことが明かるに出ても、その事に対して心が痛むことがない。その最たる人間が総理大臣であった。それどころか、総理のためと思ってしたことを処分したことによって問題は解決したと涼しい顔をしている総理がいる。「森友問題の本質」とは、国民の富を総理が私的に流用してしまったという事であるにもかかわらずにそのような自覚が総理には一切ないどころか、自分に仕えた高級官僚たる財務官僚を処分したと胸を張る。
 国民の信頼を裏切っても心が痛まないのが内閣を作る政治家たる公務員と高級官僚たちのようだ。このよう政治家と官僚に対して国民からの負託に応え、国民からの信頼に応えようと必死にもがき苦しんだのがノンキャリと言われる下級役人であったようだ。国有地をタダ同然の値段で売り払うことに抵抗を覚え、売り払った文書を都合が悪くなると改ざんするようキャリア官僚と云われる人々から強制され、国民からの信頼を失うことをすることに絶望した下級役人がいる。真っ当な公務員はノンキャリと言われる下級公務員に多く。政権与党の政治家やキャリア官僚と云われる高級官僚たちには国民の負託に応え、国民に奉仕する気持ちなどひとかけらほどもない。それに対して下級公務員の中には少しでも国民のために尽くそうとしている役人たちがいる。圧倒的に下級公務員によって日本国民の生活は守られているのかもしれないと感じさせる事件が「森友問題」であったように思う。