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小さな<窓>からも空は見える-日本再生のケーススタディーとしての福岡県大牟田市の高田動物病院の物語

2014年04月29日 06時50分20秒 | 雑記帳


どんな家庭にも会社にも<物語>がある。そして、国家や民族という<大きな窓>ではないそんな<小さな窓>からもかなり一般的で普遍的な<風景>が見えることもある。私はそう思っています。


私達の郷里、福岡県大牟田市には現在10個の動物病院がある。人口12万足らずの街に10という数字が大きいのか小さいのか、門外漢の私にはわかりません。けれども、大牟田市役所を始めこのエリアの幾つかの行政セクターには、「10」などでは到底おさまらない多くの獣医さんが属しており、かつ、毎年毎年、こんな小さな街からも幾人かは獣医師免許資格者が出ているだろうことを考えれば、この数値はこの街のこの<商品>に関する需要と供給の均衡点なのかもしれません。

而して、本稿で取り上げる高田動物病院は間違いなくその10個の中でも最高の動物病院の一つ。うみゅ、「最高」という朝日新聞ばりの無内容な<詩的言語>を使いました。要は、--もちろん、院長の人柄とか身長とかの曖昧や非本質的な基準ではなく--白黒はっきり言えば、、ここで使った「最高」とは「最も儲かっている」ということ。


儲かることなら何でもする人々のことを世間ではヤクザと呼び、儲かることで法律に触れないことなら何でもする人々のことをビジネスマンという。そして、創業以降ある程度の年数が経過しているという条件下では、儲かっていない組織とは世間が必要としていない組織であり、社会に貢献していない組織である。


こう私は確信しています。

而して、私のこの認識から言えば、開院以来30余年ほぼ一貫してこの街で「最も儲かっている動物病院」ということは、間違いなく、この街に「最も貢献してきた動物病院」ということ。高田動物病院が30余年にわたって一貫して納税規模のみならず納税の態様においても模範的な事業者であることも--そこには、無意識的にせよ、「正当に継続的に儲け、継続的に十全に地域に貢献する」というポリシーが伏在しているでしょうから--このことの裏面と言えるのではないか。そう私は思います。ならば、高田動物病院の院長さんが福岡県南部の獣医師会の支部長を長らく務めていることも、また、偶然ではなくこの動物病院に対して地域社会から寄せられている信頼の大きさの結果なのかもしれません。





私の専門の教育ビジネスに引き付けて敷衍します。例えば、全国展開をしている大手の学習塾FCが新たに教室を開校する際にはなにを考慮しているか。普通「民力データ」と呼ばれる地域の所得水準や年齢構成はもとより、世帯の(特にお母様方の)学歴水準なり近隣の学校の学力水準等、教育ビジネス的に有意味な指標を踏まえた上でではありますが--そして、山間地と市街地ではもちろん事情は異なりますけれども、少なくとも、私が直接かかわっていた5年くらい前までは--その開校候補地点から半径1.5キロ内の有効需要を考慮しています。

実は、この「半径1.5キロ」という指標はあるコンビニFCが新規店舗出店の際に用いていた指標。それは、「顧客が店舗から15分以内で歩いて帰宅できる範囲」ということ。これ意外と重要であり--実際、その駐車場規模とあるラーメン店の集客力もこの「半径1.5キロの法則」のコロラリーと言えるし、あるいは、大概の地域では寺院の分布結果ともこれはトポロジー的によく符合するのですよ--ある程度、普遍的な指標ではないか。そう今でも私は思っています。

いずれにせよ、その「半径1.5キロ」にそれなりの有効需要が望めるケースでは、交差点の4つ角すべてをコンビニが占めるとか、逆に、狸と狐しかいないようなかなりの田舎の田畑の真ん中にポツンと大手学習塾や衛星予備校のFC教室が開校しているという光景が現出することになる。

ちなみに、前者については、その「半径1.5キロ」にかなりの有効需要が望めるケースでは--教室長自身は本音では心穏やかではないのですが--FC本部にとっては同業他社の校舎教室がその地点に密集することは悪いばかりの話ではない。なぜならば、「予備校街」や「コンビニ交差点」が現出することは一拠点あたりのマーケテイングコストの削減--特に、教育ビジネスの場合には収益に死活的に重要な、教室所在地の地域イメージを維持向上させるコストの削減--が望めるからです。

教育ビジネス、就中、教室ビジネスのオペレーションコストは、--会計単位期間内に教材費を顧客側にすべて負担していただけるという本当はあり得ない想定下ですけれども--言うまでもなく、①講師人件費、②広告宣伝費、③家賃がその大部分を占める。だからこそ、--「今でしょう!」の林先生の国語の授業や安河内先生の英文法の授業等々、そのコンテンツそのものが魅力的なだけでなく--ビジュアルな授業コンテンツ自体をFC本部から提供を受けることで、①②のコストを個々のFCオーナーがある程度、可視化というか覚悟化できる衛星予備校のビジネスモデルは極めて合理的なのだと思います。もっとも、そのシステムが合理的だからといってすべてのフランチャイジー教室が成功するとは限らないことはこれまた言うまでもありませんけれども。閑話休題。





さて、高田動物病院。私が「高田動物病院」に興味をもったのは、実は、高田動物病院は半径1.5キロの法則を超越している、少なくとも、ある組織が半径1.5キロの法則を超越するためのプチアイデアを具現しているように感じたからです。簡単な話です。書いてしまえばマーケティングのイロハに属すること。それは、カリスマ講師が出演している映像教材の持つビジネス的な意味とパラレルに、

(Ⅰ)商品競争力の向上
(Ⅱ)恒常的な技術開発
(Ⅲ)経営者夫妻の人柄


門外漢の私が高田動物病院の「商品≒外科手術」の内容について触れるのは滑稽でしょう。ですから、素人らしくここでも白黒はっきり言えば、高田動物病院では他の動物病院では治らないとされた事例、あるいは、この近隣では獣医学では定評のある山口大学や鹿児島大学にでも行かなければ治らないとされた事例をほとんど瞬時に治してきたらしい(←1ダース近いクライアントさんから直接聞きました)。

畢竟、ある動物病院がその有効需要が確実に見込める商品領域で商品差別化に成功したとすれば、人は徒歩15分圏内の最寄りの動物病院を素通りして2時間歩いてでもその動物病院の門前に市をなす。そんなこともそう不思議ではなかろうということです。

もちろん、「ほとんど瞬時」というのも<詩的言語>の類かもしれません。けれど、結局のところ「おクスリ出しておきますね」と言うだけの内科的サービスとは違い、高田先生の言葉によれば「右手一本の一発勝負!」の外科の世界では満更誇張でもないでしょう。実際、列車に轢かれて脳挫傷したワンちゃんも「右手一本の一発勝負!」の直後には自分で歩いて帰宅しようとしたとか(!)。


重要なことは、「右手一本の一発勝負!」は別に高田先生の<適性>や<天才>だけが理由ではないらしいということ。「右手一本の一発勝負!」の背景には30年以上にわたり学界の動向をフォローしてきた<努力>の継続がある。畢竟、(Ⅱ)恒常的な技術開発を欠いたところには(Ⅰ)商品競争力の向上の持続もありえないということです。

そんな、その時々においては退屈かつ出費だけがかさむ作業を--常時8タイトル以上の専門誌に目を通し、専門学会にもほぼ皆勤するという努力を--開業以来継続してきたからこその「右手一本の一発勝負!」なのではないか。素人の私にはなおさらそう思えるのです。そして、これら、(Ⅰ)(Ⅱ)のさらに基底には--社会と世間から与えられた場でベストを尽くす--という高田先生と奥様の潔さ(Ⅲ)経営者夫妻の人柄が横たわっているのではないか。と、(Ⅲ)は私の印象にすぎませんけれどもね。

でも、なぜそういう印象を抱いたのか。
はい、それはお二人の経歴にある。


大牟田出身の高田先生が--大学に残る研究者の道ではなく「街の獣医さん」になるべく--東京から帰郷した理由はただ一つ、大牟田ならば開業資金の目処がなんとかついたからとか。そして、岩手県釜石出身の奥様が--魔女の宅急便のキキちゃんよろしく--大牟田に来られた理由はこれまたただ一つ、東京で知り合った高田先生とその時にはもう婚約してたから。

インターネットなどない時代。<東京>とのあまりの情報差に愕然としながら--高田動物病院開業時、わが郷里の大牟田には「ペットの犬を洗う」という習慣もなかったらしい--、その焦燥感を埋めるべく毎月送られてくる学界誌を黙々と読んだとか。蓋し、しかし、この経験が現在完了進行形の「右手一本の一発勝負!」の源泉となったのかもしれません。

そして、奥様も--高田動物病院を一貫して納税態様においても模範的な納税事業者にしてきたキキちゃんはそのアカデミックとキャリアのバッググラウンド的には会計経理が専門らしいのですけれど--大牟田エリアで最初にトリミングのビジネス化に成功した方のお一人。ならば、キキちゃんの存在、そして、「右手一本の一発勝負!」という<魔法>の存在、なにより、与えられた<場>でベストを尽くし地域に貢献する潔い姿勢。と、高田動物病院の物語は真面目に<魔女の宅急便の物語>なの、鴨です。




【教師の暴言が炸裂する三者面談】



ちなみに、高田先生が獣医を志望した理由は、高校2年生の最後の三者面談の直前に当時の彼女と見たあるアメリカ映画に獣医さんが出ていたからとか。ならば、その進路選択はまったくの偶然、完全な泥縄。

と、さて、その三者面談。当時、福岡県立三池高校でも学年650人中の630番辺りを徘徊する劣等生だった高田少年の志望を聞いた当時の担任教師は--古き良き時代の話と言えばそれまでですけれど--文字通り鼻で笑いながら、母上に概略こう言ったらしい「なに、獣医。というか、いまさら大学に進学したいですと。高田君は一人息子さんだしおたくは大牟田でも裕福な米屋さんなんだから店を継がせればいいじゃないですか。だいたい、一人息子というのは協調性もないし根性もない。獣医学部進学など夢のまた夢です」、と。

黒人の英会話講師応募者にあなたは黒人だから不採用ですとか。そういう発言は綺麗ごとではなく許されないでしょう。その資質を獲得したについては本人に責任もなく、また、その本人の努力によっては挽回不可能な--かつ、採用者に望まれる資質とはとりあえず無関係な--指標でもって応募者を不利に扱うことは許されないから。だから、逆に、AKB48のオーディションでは「可愛さ」は合理的な採用指標であり、40数年前のこの教師の「一人息子というのは協調性もないし根性もない」発言はほとんどレッドカードものの暴言。

而して、教師の暴言に火をつけられたお母様、そして、規制に守られているタイプのビジネスの将来に不安を感じていたらしい米穀商のお父様と、ご両親の理解も得た高田少年は猛勉強、日本大学獣医学部に現役合格、そいでもって、高田青年は獣医師国家試験もまた最速最短で合格したらしい。現在、福岡県大牟田市の手鎌地区に高田動物病院が存在するには、そんな高校の暴言教師も介在しているということです。

ちなみに、「獣医を志望した本当の理由はなんですか」と高田先生に私は一度聞いたことがある。その答えは、「いや、本当に、偶然、三者面談の前日に見た映画に獣医が出てたから・・・。それに、俺、動物好きだったから」、と。潔し。これ素敵で見事な進路選択理由ではないでしょうか。



ある街で「最も儲かっている動物病院」ということは、
間違いなく、その街に「最も貢献してきた動物病院」である。

そして、福岡県大牟田市において高田動物病院は、
そんな動物病院の一つ。而して、その<高田動物病院>の
<物語>には日本再生のヒントが埋蔵されているの、鴨。

そう私は思います。




尚、「大牟田市」については下記拙稿も
ご一読いただければ嬉しいです。


・書評:西村健「地の底のヤマ」<書評編><画像編>
 http://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/439275b45c3a02732a517a58a9c02699

・小さな<窓>からも空は見える-日本再生のケーススタディー
 としての福岡県大牟田市の菓子舗だいふく物語
 http://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/2dcd3dfb908582c9cd5581881d5a6187

・福岡県大牟田市:松屋デパート「洋風かつ丼」復活が孕む思想的意味  
 http://ameblo.jp/kabu2kaiba/entry-11956811089.html

・地方再生と日本再生を郷里・大牟田で思う(上)~(下)
 http://ameblo.jp/kabu2kaiba/entry-11148540450.html








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