英語圏のESLで勉強し始めたり、英語の教育業界で働き始めた日本人が体験する典型的カルチャーショックの一つが、アメリカ人の先生や同僚が「5文型」を知らないことです(笑)。知らないどころではない、「何それ」と「そんなん聞いたこともない」というのがむしろ一般的。
5文型そのものは Made in Japan ではなく、英国の英語学者 Charles Talbut Onions(1873年 - 1965年)が、"An Advanced English Syntax"(1904)の中で考案したものですが、現在、この5文型の考え方を広く英語教育に採用しているのは世界中で日本だけ(少し前は、韓国と台湾と日本だけ)と言っても過言ではないと思います。それは、今では stapler (ホッチキス)のことを「ホッチキス」と呼ぶのは日本だけなのと似ています。ちなみに、「ホッチキス」はstaplerの考案者Hotchkiss氏に由来し明治の頃は、日本に滞在しているアメリカ人も stapler のことをそう呼んでいたといいます(「人工調味料=artificial flavor」と「味の素」の関係に同じ)。あーややこしい。
勝見 務「英語教師のための英文法再整理―7文型のすすめ」
(研究社・2001年7月)
宮脇正孝(2012).「5文型の源流を辿る:C. T. Onions, An Advanced English Syntax (1904) を超えて」.『専修人文論集』,90,437-465.
文型論(sentence patterns)は Onions の昔から実は「動詞の作る文のパターン」(patterns of verb)でしたが、現在は必ず副詞(句)を伴なうような二つのパターンにそれぞれ一家を立てさせた「7文型論」が英文法研究者の間では多くの支持を集めているようですし、生成文法論とコンピューターの虎の威を借りた「25文型論」とか「64文型論」とかの精緻でマニアックな文型論も珍しくはありません(現状のアウトラインは下記の参考URLを参照してください)。しかし、5文型を含めこれら総ての「文型論」をあわせても、英米のESLやTESLで「文型」はそうメジャーなものとして取り上げられてはいないのが実情だと思います。
◆参照URL:http://hb8.seikyou.ne.jp/home/amtrs/chuugoku1.htm
さてしかし、たとえそれがいかにマイナーでローカルな考え方であっても、5文型の考え方は、大部分の英文の成り立ちを平明簡潔かつ整合的に説明できるアイデアであることも事実です。特に、日本人にはそれは相性のよいアイデアなのかもしれません。何故か?
これは想像の域を出ないのですが、日本人以外の多くの英語学習者にとって英文法の知識は:つまり、アメリカのESLで教えられる英文法やTESLで教え方を教わる英文法の知識は、英語を使うための「マニュアル」であればいいのに対して、日本人にとってそれは英語の「設計図」ともいうべきものだからではないか? 私は常日頃そう思っています。
「英語は使えればいいのですよ」と考えられるESLの先生方から見れば、これは日本の悪しき因習や伝統文化遺産:受験英語&英文和訳道の核心であり、蛇蝎のごとく嫌われる邪悪な考えなのかもしれませんが、TOEFLやTOEICの中級以上のクラス(ここではTOEICで800点以上の方のクラスとしましょう。)やGMATやGREのクラスでは、「英語は使えればいいのですよ/確実に正解できるのならそれ以上の理屈は覚える必要ないではないですか」という<実践的&合理的講師>は日本では極めて評判が悪い場合が多いのです。
英会話もそこそこできる中級以上の日本人の受講者の本音は「なぜAが正解でBが不正解なのかなんか、その理由なんかは授業受けなくともわかっているんです。私が知りたいのは(そのために高い授業料を払い仕事を積み残してまでここに通っているのは、)理屈がトータルにコンシステントに知りたいからです。何ですと? 大学院留学してもそんな知識なんか何の役にも立ちませんよ、ですって! 先生、そんなんは余計なお世話です。文法がきちんとわからなければ気持ちが悪いんですよ」というものではないでしょうか。そう私は想像しています。
思いますに、この日本人特有の「気持ち悪さ」の感覚は単純にマニュアル万能論から嘲笑され切り捨てられるものでもないのではないのかもしれない。そして、そんな日本人の英文法のニーズに対して、(「省略」と「倒置」という便法を使えば)ほとんど全ての英文の仕組みを統一的に説明することができる文型論は(特に、5文型論は)実に魅力的なのだと思います。次回は、中級以上の方に文型についていつも私が話していることを紹介します。
・文型談義・再論 「英文法にこだわる日本人の美意識の光と陰」
https://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/30cb12047292ad385757542bc378a736
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ご訪問ありがとうございました。私は、巷の英会話スクールとか「コミュニケーション能力開発に特化した」とやらをセールスポイントにしておられる大学の英語教育とかが、英文法や受験英語流の英文和訳をあしざまになじる傾向には反感さえ覚えています。受験英語否定論と英会話帝国主義にはとても賛成できません。
しかし、オーラルコミュニケーションの能力開発のためにはもちろん現行の受験英語は失格ですが、その売りの読み書きに限定しても受験英語では厳しい;英語でビジネスを遂行できる英語力の養成には受験英語では厳しい(誤解を恐れずに言えば、受験英語程度では手ぬるい!)と思っています。
英語を解剖実験とか顕微鏡の被写体とかの感覚でとらえるようではもう駄目なんではないか。英語でビジネスを遂行できる英語力の養成には、やっぱ首までどっぷり英語に浸からないと難しいのじゃないか、使う中で英語を身につけないと使える英語力は、読み書きに限定しても身につかないのじゃないか、と。
では、どうする? 子供たちにどうする? 初級のビジネスマンにどうする? 私は、その意味内容にも興味が持てるような英文、しかし、自分の現在の力よりほんの少し上くらいの簡単な英文を選んで、毎日5センテンスでも呪文のように唱え写経することと、TOEICでも英検でもよいのでゲーム感覚で問題にアプローチすることから始めましょうよ、と薦めています(忙しい社会人の方にはこれに幾つか工夫が必要ですが)。
もちろん、話すためにも聞き取るためにも文法は大切ですよね。だから、文法に興味のある方に「文法をやるな」とまでは言わないが(笑)。体系的に文法を理解する必要は(研究者になるのでもなければ)マストではない。
現実的には、最初に英文法の入門書を読むのは良いとして、その後しばらくは、TOEICの問題を解いたり、自分の言いたいことをピッタリの英語表現で言うために調べたりして少しづつ気になった英文法とか語法のパーツを身につければいいと思います。まあ、どこかでは「体系的におさらい」した方が、記憶を確実にできるでしょうけどね。と、中級レヴェル以下の方に推奨する、私の英文法学習のイメージはこんな感じです。今後とも宜しくお願い
子供にとっては、二重三重の手間です。格や品詞の概念が十分に確立してないから、分類に手間取る。かつ、文型を頭に浮かべながら語を操作しようとするから、当然、言語操作が遅くなる。マシントランスレーションの専門家にもでなろうという生徒以外には、まったく無用の長物です。ちなみに、英語の教師と折り合いが悪かったせいもありますが、通信簿に2なんか付けられたことすらあります。今でもそんなことやってるとは、ちょっと信じられないです。そんなことやってるから、英語の習得に何年もかかるんですよ。時間の無駄だと思います。