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懐かしい英語教材(10)『TOEIC 公式ガイド&問題集』

2005年08月05日 14時19分03秒 | 英語教材の話題
◆TOEIC 公式ガイド&問題集
(国際ビジネスコミュニケーション協会・2000年2月)<第2版とともに販売中


TOEICの実際の過去問題を始めてリリースした<Official Guide>です:本試験2回分の計400問が本書には収録されています。本書は私にとって思い出深い一冊。ちょうど本書の出版時に、私はTOEIC模擬問題の制作に取り掛かっていたからです。出版の前月2000年1月下旬に、「ある大手予備校が e-learning のプラットフォームを立ち上げようとしており、それに搭載する最初のコンテンツとして大学生・社会人を対象としたTOEIC対策講座を考えている。ついては力を貸してくれないか」という知人からの紹介を受けて2000年3月にその予備校にジョイントしたばかりだったからです。

本書が出版されるという情報は1年くらい前には、日本におけるTOEICの実施団体:国際ビジネスコミュニケーション協会・TOEIC運営委員会自体がリリースしており業界の常識でした。けれども、本書『TOEIC 公式ガイド&問題集』を実際に手にしたときに受けた衝撃を私はクッキリ覚えています。当時、市販のTOEIC問題集に収録されていた問題と本物の過去問が余りにも違っていた、という衝撃でした。

TOEICを制作・実施しているETS(Educational Testing Service:TOEFLやSAT、GREやGMAT等々の試験を制作している米国の公益法人)はTOEICの過去問題をそれまで公開しておらず、よって、問題を分析するにはTOEIC本試験を受験するしか手がありませんでした。そして、出版社各社とも腕っこきの教材企画担当者が本試験を何度か受けて情報収集した後に<TOEIC模擬問題集>を世に送り出していたはずですが、やはり an examinee として試験場で確認できることには限界があったということでしょう。特に、団体特別受験制度(IP受験:Institutional Program)を使った受験の場合には(数年前の公開試験問題がIPテスト問題として流用されることもあり)、IPテストで入手した情報をもとに作成された<TOEIC模擬問題集>は、最新のTOEIC傾向とはかなりのズレが生じていたと思います。

それでは、『TOEIC 公式ガイド&問題集』でどんな情報が確認できたのか? あるいは、2000年2月当時、<本物らしい問題>とそうでない問題とでは何が違ったのでしょうか? 例えば、(a)仮定法現在が使えるケースではイギリス英語の”should+動詞の原形”は用いないとか、(b)人を先行詞とする目的格の関係代名詞として”who”は使えない、(c)” help+人格+動詞の原形”で「人が~するのを助ける」の場合、これまたイギリス英語の” help+人格+to不定詞”は用いられない、等々の<文法事項&語法事項>は本書出版前の段階でもTOEIC模擬問題制作者にとっては常識でした(★)。

★註:TOEICの英文の特徴例
(a)仮定法現在と”should+動詞の原形”
The publishers suggested that the letters be sent
 to them by airmail.(○)
The publishers suggested that the letters should be sent
 to them by airmail.(×)

(b)人を先行詞とする目的格の関係代名詞
Ms. Nakajima Miyuki is a singer-song-writer
 whom I respect very much.(○)
Ms. Nakajima Miyuki is a singer-song-writer
 who I respect very much.(×)

(c)”help+人格+動詞の原形”
The congressperson helps the NGO raise funds.(○)
The congressperson helps the NGO to raise funds.(×)



本書出版前の段階でも<文法事項&語法事項>は既知だった;よって、『TOEIC 公式ガイド&問題集』によって始めて確認できた情報はむしろ次のようなものだったと私は思っています。これらの情報は(本書出版から5年が経過した現在では信じられないことでしょうが)、<TOEIC模擬問題集>を出版していた各社とも本書が出るまでは手探り状態だったと思います。

▼リスニングセクション
・音声と音声の間隔の長さ
・スクリプトの長さと音声のスピード
・パート1~2での動詞の時制と態変化の頻度
・パート2~4での設問(質問)のパターンと種類
・パート4について設問(質問)が配置される順序と朗読されるスクリプトの中の意味の流れの順序との対応関係

▼リーディングセクション
・単語・イデオムの難易度と範囲
・パート7のパッセージの長さ
・パート5における文法問題と語法問題の比率
・パート5~6での文法問題のパターンと種類
・パート7について設問(質問)が配置される順序とスクリプトの中の意味の流れの順序との対応関係


さて、本物らしい問題とはどんな問題なのでしょうか? もちろん、TOEICらしい問題とらしくない問題には明確な差はあります;例えば、パート4や7で1500ワードのスクリプトが課題文として出題されるとか、パート3で男女の会話が4往復おこなわれるとかであれば、それは「限度を超えた差異」でしょう。しかし、ある問題がこれらの大枠の条件を満たしているのならば(実は、TOEIC対策講座で教えておられる先生方の中にもいまだに誤解されておられる方もおられるのですが)、ある1問の問題を取り上げてそれがTOEICらしいともらしくないとも言えない場合が多いのです。

では、本物らしい問題とそうでない問題とでは何が違うのでしょうか? TOEICやTOEFLのような偏差値表示をテスト結果とする試験の場合、一言でいえばそれは、問題の難易度の分布です。TOEICのリスニングセクション100問、リーディングセクション100問の中で、各々何割が普通の中学生にも正答できる簡単な問題であり、何割の問題が英語のネーティブスピーカーでも結構間違ってしまうくらいのものであるかという問題の難易度の分布こそが<本物らしさ>の正体なのです。そして、上で箇条書きにした情報が、TOEICを実際に受験する方にとってテストの難易度を左右する決定的な要因であることは説明の必要もないでしょう。

本物らしい問題(authentic questions)が収録されたTOEIC模擬問題集を制作するうえで本書『TOEIC 公式ガイド&問題集』が提供した情報は決定的であった。これが、私が2000年2月に本書を始めて手にしたときに覚えた衝撃の源泉です。けれども、本書はTOEIC模擬問題集の制作サイドやTOEIC対策講座の運営サイドという、玄人筋ではあるでしょうがいささかマニアックな人々以外にも、地味ではあるが多大の影響を与えたと思います。

それは、本書の登場以後、諸々の市販のTOEIC対策本の位置づけや使用目的がTOEIC学習者にとってハッキリしたということです。例えば、この市販問題集は基礎固めに使おうとか:この教材は難易度の高いボキャブラリーの習得用に3ヵ月後から使おう、というような判断の枠組みを本書は多くのTOEIC受験者・TOEIC学習者に提供したのだと思います。何を言いたいのか?

それは(どのような試験の準備においても、また、総ての受験者にとって)、過去の試験問題が必ずしも最高の教材とは限らないということです。例えば、京都大学への進学を希望しているからといって『京都大学の赤本:過去問題』を解くだけで合格に値する実力を獲得できる受験者は極めて少数です。まして、京都大学の入学試験に比べても(試験で測定される分野の能力:TOEICの場合は英語力に)凄まじい差のある受験者が(TOEIC Bridgeを除外すれば)同一の問題に取り組むTOEICの場合には、
「本試験問題がそのすべての準備時期にわたって最適な教材」
という受験者は極少数だと思います。

要は、なだらかに/効率的に学力を向上させるためには、その受験準備スケジュールの各々の時期毎に、実際の問題よりも簡単な問題を丁寧に解いて基礎固めを行うとか:合否を左右するような難問を確実にクリアできるようになるべく実際の問題よりも遥かに高度な問題にタックルするとかの、異なる目的の設定と異なる教材の選定が必要とされるのです(★)。

★註:GREの過去問集『Big Book』の紹介記事との齟齬
ここで述べました「過去問集必ずしも最高の教材にあらず」という主張は、GREの『Big Book』の紹介記事での私の説明と矛盾するものではありません。GREの場合には、その問題が英語的にも内容的にもVerbalのセクションを除けばそれほど難しくないから(しかも、本試験27回分というある程度の学習問題数が確保されているという『Big Book』の特殊な条件下でのみ)、「過去問集は最高の教材である」という帰結になっただけですから。



しかし、本物の問題の実際のレヴェルがわかっていなければ合理的な学習の計画などは到底立てられない。「自分はいつまでに、その本物の問題で何割の正解率を達成しようとしているのか」がわかっていなければ、自分にとっての現在の最適な教材など誰も確定できない。それらの情報がはっきりしていてなかった本書の出版前は、本物とは違っているけれども現在の自分の実力から見て:現在の準備の工程からみて何が最適な教材であるかというような判断は<闇夜の鳴かぬカラスの声を頼りにした判断=ほとんど、博打の営為>でしかなかったと思います。

本物の問題の正体がわかっていなければ合理的な学習の計画は立てようがなく、市販教材の優劣も評価できない。よって、本書が出版されて始めて、『TOEICテストシステム攻略3 模試編』(東進ブックス・1997年11月)、『TOEICテスト完全模擬問題集』(The Japan Times・1998年11月)というもともと評判のよかったTOEIC対策本が、やはりTOEICスコアを上げるためにも英語力を向上させるためにも優れた書籍であり、現在多くの読者の支持を集めておられる中村澄子『1日1分レッスン! TOEIC Test』(祥伝社黄金文庫・2005年1月)が優れもののTOEIC対策教材ということが、始めてそれなりの根拠を持っていえるようになったと思います。

TOEIC対策の市販教材の紹介は別の機会に行いたいと思っていますが、本書『TOEIC 公式ガイド&問題集』が出版されなければそのような紹介記事も、記事紹介者の主観のみに依拠したものでしかなかったでしょう。本書は最早、TOEIC受験者の必読本というわけではないけれども年間受験者数が150万人に迫るようになり、2006年5月からは大はばなテスト形式の変更を控えたTOEICの歴史の中では、正に、エポックメーキングな一冊だと思います。逆に言えば、本書が「最早、TOEIC受験者の必読本ではなくなった」のは本書がリリースした情報によって市販教材のクオリティーが全体的に向上したからかもしれない。私はそう思っています。そんな観点を持ちながら本書に取り組まれれば一層興味も湧くのではないでしょうか。ご一読をお薦めします。


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
久しぶりに訪問です。 (kimkimchanjp)
2005-08-05 17:26:53
ブログのデザインが劇的に変わりましたね。読みやすくなりました。
返信する
デザインは難しいです (KABU)
2005-08-10 10:42:47
gooのテンプレートは結構種類が豊富なのですが、それでも美的に好きなものは読みにくいものが多いし、その逆もあり難しいです。



それとこのブログでは、追加サーヴィスも申し込んでいてカスタマイズもできるのですが、プロの方が作ったテンプレートがやっぱスッキリしています。それに、私のブログはヒット数狙いのものではないし、文字が多くなるので、シンプルな方がいいみたいです。
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